りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

指ブロック、使い分けできてますか?

研修医の頃に上級医から伝授される「指ブロック」。

 

頻用される手技ではありますが、

意外としっかり勉強することは少ないと思います。

 

概ね3種類の手技があり、

「どの指」の「どの部位」に効果を出したいかを考えて使い分けます。

 

「えっ、使い分けなんてあるん…?」と思ったそこのアナタ!

 

これを読んで、是非明日からのアクションを変えてください!

 

Twitterにはやり方の動画も載せていますので、そちらも是非!

(後輩に実際にやってもらいました~)

 

 

まとめ➀

今回はまとめから行きます。
 
・掌側の損傷に対してはvolar subcutaneous block
・背側の損傷に対しては transthecal block or dorsal web space block(+背側への追加注射)
・足指の損傷にはdorsal web space block
・母指または母趾の損傷にはthree-sided ring block追加
 
意味不明だと思った場合には読み進めてくださいね。
 

dorsal web space block

やり方

・web(水かき)部分に指背外側から骨に当てるように刺入、0.5-1ml注入
・針を抜かずに、骨に沿うように掌側へ針を進め、0.5-1ml注入
 ※手掌側に貫かないように
・上記を反対側でも行う

 

https://twitter.com/MasayukiToc/status/1572514146557775872

 

特徴

研修医になると、まず伝授される方法ではないでしょうか。
 
 
 
主なメリット➀:どの指にも使うことができる
 
web blockの最大の特徴は、
「2回刺すけど、汎用性が高い方法」と言えます。
 
指近位部の橈側と尺側に2回の穿刺が必要になります。
 
その分、汎用性が高いです。つまり、母指や足趾にも使用可能です。
どの指にも使うことができます。
 
他のブロックは母指や足趾への効果はあまり検討されていません。
 
 
 
主なメリット②:指背側や爪床への麻酔効果が高い
 
他のブロック(特にvolar subcutaneous block)と比較して、
指の背側(遠位部)や爪床への麻酔効果が高いことも特徴です。
 
専門家によっては、爪床やDIP関節以遠の処置の際には指背側に3回目のブロックをオプションで行うことを推奨しています。
 
three-sided ring blockとして後述します)
 
 
 
主な欠点…複数回の注射を要する、不完全な麻酔になる割合が高い
 
欠点として挙げましたが、それほど大きな欠点ではないように思います。
 
2回刺すことになるにもかかわらず、
患者の疼痛スコアは他の方法と大差ありません。
 
 
自分もやられてみてわかりましたが、そこまで痛くないです。
感覚的な問題として、手は掌側からの穿刺に比較して背側から刺した方が痛みを感じづらいとされています。
だからあんま痛みは感じませんでした~。
 

transthecal block

やり方

 
・掌側屈曲ヒダ中央から90度の角度で刺入し、骨にあたるまで進める
・2-3mmほど引き抜き、45度に傾けてから3ml程度の麻酔薬を注入する

 

https://twitter.com/MasayukiToc/status/1572514809584979970

 

指のしわ部分ではなく、近位部(基節骨部)から刺入することも可能です。

 

指の近位部から穿刺するメリットとして、以下が挙げられます。

・不注意な麻酔手技による関節内注射を避けることができる

・特に母指では疼痛が軽減される

 

特徴

「1回でめっちゃ効く」指ブロックです。
 
 
 
主なメリット➀:麻酔の成功率が高い
 
他のブロック方法に比較して、最も成功率が高いとされています。
 
ちゃんと指の背側遠位部や爪床にも効果が発現します。
 
 
 
主なメリット②:神経血管束の損傷リスクを下げられる
 
dorsal web space blockとの比較では、神経血管束の損傷リスクが下げられるとされています。
 
ただし、永続的な神経損傷はほぼなく、一過性のものではあります。
 
 
 
主なメリット③:1回で効果が出る
主な欠点:痛みが強い(処置+処置後)
 
1回の穿刺で効果はバツグンなので、特に小児例では使いやすいです。
 
ただし、他の方法よりも穿刺の際の疼痛は強めです。
また、腱鞘への麻酔薬注入は注射部位の疼痛が残存することがあります。
 
この方法は、3種類の中で最も痛かったです(個人差があります)。
 
 

volar subcutaneous block

やり方

・掌側屈曲ヒダまたは基節骨近位部付近を中央部に向かって盛り上げるようにつまむ
・45度の角度で刺入し、皮下に3ml程度の麻酔薬を注入する

 

https://twitter.com/MasayukiToc/status/1572514969832525824

 

必須ではありませんが、麻酔薬の分布が良くなるように患部をマッサージすることが推奨されてはいます。

 

この方法もtransthecal blockと同様に、指近位部(基節骨部)から刺入することも可能です。

 

 

特徴

「背側には効きが悪いけど、お手軽簡単1回穿刺」が特徴です。

 

 

transthecal blockの改良版として開発された経緯があります。
メリットはおおよそtransthecal blockと同様であり、より簡単に行える単回注入法とされています。
 
これもよく救急外来でよく使われている手技ですね。
 
 
 
主なメリット➀:麻酔の成功率が高い
主なメリット②:神経血管束の損傷リスクを下げられる
 
transthecal blockの改良版なので、ここは同じ特徴が継承されています。
 
 
 
主なメリット③:効果発現がちょっと早い
 
3種類のブロック方法の効果発現までの時間は以下のように報告されています。
・dorsal web space block:平均3.9-4.5分
・transthecal block…平均7.2分
・volar subcutaneous block…平均3.3分
 
ちょっとだけ効果発現が早いですね。
 
 
でも実臨床では別にどうでもいいくらいでしょうか。
 
 
ある患者に指ブロックしたら、少し時間を置くことは重要です。
他の患者を診察したり、食事をしちゃったりしてから処置を始めるくらいでちょうどいいことが多いです。
 
十分に効果が出るくらいの時間が経過してから処置を始めてください。
 
 
 
主な欠点:指の背側面への効果が不足する可能性がある
 
dorsal web space blockに比較して、背側部の麻酔効果が低いと報告されています。
・基節骨部(48% vs 88%)
・中節骨部(75% vs 96%)
・末節骨部(82% vs 93%)
 
なのでvolar subcutaneous blockが強いのは、掌側のケガと覚えておきましょう。
 

three-sided ring block

母指と母趾へのブロックには、独特の難しさがあります。
 
指の背側神経がより多様な位置関係にあることに由来するようです。
 
そこで、three-sided ring blockの出番です。
 
 
three-sided ring blockは、dorsal web space blockと同様の処置を行う過程で麻酔を行います。
 
 
2回目の穿刺で背側神経を麻酔するときと同じ高さで、指の背側に沿って1-2mlの局所麻酔薬注入を行う方法です。
 
通常のdorsal web space block終了時に針を表面近くまで引き戻し、指の背側に沿って針を進めればよいです。
 
 
これにより母指と母趾への麻酔効果がぐんと上がるので、
dorsal web space blockに追加してやってみてください。
 
 
 
上記をまとめると、以下のようになります。
 
 

まとめ②

 

参考文献

https://www.jem-journal.com/article/S0736-4679(22)00428-0/fulltext