りんごの街の救急医

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Real ER Round No.18:アニオンギャップがマイナス!? なんじゃこりゃ~!!!

血液ガス評価の基本ステップは、よく教科書に記載がある通りです。

 

いつでもお作法通りに評価することで見逃しを最小限にすることができます。

 

なかでもアニオンギャップ(AG)を見ておくことは超重要であり、これによって鑑別が大きく変わります。

 

さて、AGが正常~増加しているのにはよく遭遇すると思いますが、

マイナスに触れていることもたま~にあります。

 

救急医としては特定の中毒を疑いたくなりますが、

AGがマイナスの場合にどのような疾患を考えるか見ておきましょう!

 

 

アニオンギャップのなりたちを理解する

アニオンギャップってなんでしょうか?

 

「体内の陽イオンと陰イオンの総量は等しい」

という前提のもとに成り立つ考え方です。

 

これを式で表すと、

Na + 測定困難な陽イオン = Cl + HCO3 + 測定困難な陰イオン

となります。

 

※測定困難な陽イオンのなかには、K, Mg, Caなどが含まれ、

現代では容易に測定可能ですが、ここでは省略されています。

※測定困難な陰イオンとしてアルブミン、乳酸、ケトン、リン酸などの不揮発性酸が一般的に含まれます。

 

上記の式を変形させると、

Na – (Cl + HCO3) = (測定困難な陰イオン)-(測定困難な陽イオン

となり、まさにこれがアニオンギャップ(AG)を示します。

 

アニオンギャップのPitfallを知る

主なPitfallは2つあります。

 

Pitfall① アルブミンによる補正が必要

アルブミンが1g/dL低下すると、AGは2.5mmol/L低下することが知られています。

 

たとえば、Albが2.2g/dLの場合、、、AGは(測定値+4.5)mmol/Lとなります。

測定値が12と(一般的な)基準値であったとしても、

低Alb血症がある場合には真のAG = 16.5mmol/Lとなり、

アニオンギャップ開大代謝性アシドーシスの存在が示唆されます。

 

アルブミン補正によりだいぶ補正値が変化するので、

これを知っておくことは重要です。

 

Pitfall② 中央検査室のCl補正が必要なことがある

血液ガスに表示される血清Cl値の解釈も要注意です。

 

血液ガスで測ったClは、

中央検査室の値より平均4mmol/Lほど高いと報告されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37056479/

 

このような理由から血液ガスだけをみていると、

AGが過小評価されてしまうことがあります。

 

正確に判断するには中央検査室の結果を待つ必要があります。

 

基本的にはアニオンギャップ開大代謝性アシドーシス(AGMA)は、

アニオンギャップ非開大代謝性アシドーシス(NAGMA)に比較して

重篤な病態であることが多いと思います。

 

よって、個人的には

検査室の結果が出そろうまでは

代謝性アシドーシス = アニオンギャップ開大の疑い

として対応をするようにしています。

 

 

さらに、病態によっては血清Cl値がウソをつくことがあります。

 

たとえば、、、

サリチル酸中毒では、血液ガス分析装置の電極がサリチル酸イオンを塩化物イオンとして誤認することがあります。

 

その結果、偽性高Cl血症 が生じ、

AGが開大しない(なんならマイナスになる!)なんてことがありえます。

 

アニオンギャップがマイナス!? なんじゃこりゃ~!!!

 

さて、AGの成り立ちとPitfallを理解してもらったうえで、

アニオンギャップがマイナスになったらどんなことを考えればよいか見ておきましょう!

 

前述のとおり、

AG = (測定困難な陰イオン)-(測定困難な陽イオン

と表現できます。

 

よって、

①測定不能な陰イオンが減る

②測定不能陽イオンが増える

という状況があれば、AGはマイナスになり得ます。

 

救急外来でマイナスのアニオンギャップに遭遇したとき、
中毒じゃないかな?と疑うことが重要です!

 

特に、偽性高Cl血症(血液ガスでCl上昇、検査室では正常範囲内)の場合には、

ブロム中毒、サリチル酸中毒 を強く疑うきっかけになります。

 

ブロム中毒は最近なぜかあまり見なくなったように思いますが、

以下の市販薬に含有されているブロモバレリル尿素が原因になります。

「ブロモバレリル尿素」に関する薬一覧[市販薬](17件)【QLifeお薬検索】

 

サリチル酸中毒は、敗血症と類似した徴候を呈しますので、

「敗血症かな?」と思ったときに頭の片隅に置くようにしている病態の1つです。

 

アスピリンサリチル酸)が原因となります。

敗血症に類似した徴候に加えて、耳鳴りが特徴的な症状とされています。

 

特に慢性アスピリン中毒は遭遇しやすいかも。

アスピリンを常用している患者で腎機能障害が現れたり、

自己管理していたつもりが知らぬ間に過量内服になっていたりするケースがあります。

「敗血症かもしれない」と思ったときには、ほんの少しだけでもアスピリン中毒の可能性を考えるようにすると、見逃しを防ぐことができます。

 

ここで、サリチル酸中毒のPitfall!

基本的にはAGMA(アニオンギャップ開大代謝性アシドーシス)となりますが、

上記のように偽性高Cl血症を呈することからAGが上がらないこともよくあります。

 

AGMAの原因として、

1) 乳酸アシドーシス

2) ケトアシドーシス

3) 腎不全

4) 中毒の4つを考えようなんてよく指導しています。

 

そして、中毒の場合には、

AAA (toxic Alcohol, Aspirin→サリチル酸, Acetaminophen→ピログルタミン酸)を考えるようにしていますが、

偽性高Cl血症がある場合にはAGMAとならないことがあるので、

都度検査室の検体でも確かめる必要はあるかもしれませんね。

 

 

話がだいぶ逸れたような気がしますので、

また話を戻します。

 

 

中毒関連であればリチウム中毒(測定不可能な陽イオン増加)も見逃せませんよ!

 

ほかにも、γグロブリンの増加とか低Alb血症とかあまり急がない系の疾患もひっかけられるかもしれません。

 

 

真の電解質

酸塩基平衡異常

低Na血症、高Cl血症、高HCO3血症

測定困難な陰イオン低下

低Alb血症

測定困難な陽イオン増加

高Ca血症、高Mg血症、高K血症、γグロブリン増加(主にIgG, IgM)、リチウム中毒、ポリミキシンB

偽性低Na血症

高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高タンパク血症、高血糖

偽性高HCO3血症

ケトアシドーシス

偽性高Cl血症

ブロム中毒、サリチル酸中毒、ヨウ素、チオ硫酸塩

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26363848/