りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

case140:1カ月続く発熱と背部痛を訴える89歳女性 (JACEP Open. 2021;2:e12458.)

上記題名だけでもなんとなく想像がつくでしょうか?
しかし、今回はその中でもさらに珍しい原因のようです。
 

病歴/身体所見

・89歳女性
未治療の糖尿病が指摘されている
4か月前に抜歯
1か月前から発熱と背部痛を自覚していた
・BT38.5℃, BP108/56mmHg, HR114bpm, SpO2 92%
胸椎の叩打痛を認めた
 

検査

・血液検査…WBC上昇, CRP51.4mg/dL, Glu392mg/dL, HbA1c11.6%
・CT…骨髄内と胸椎周囲に気腫性病変を認めた

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MRI…Th11病変(右:T1WI, 左T2WI)

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診断

気腫性化膿性脊椎炎
 
・広域抗菌薬が投与された
・血液/尿培養よりStreptococcus intermediusが検出 
・最終的に感染コントロールがつかず死亡した
 
 
気腫性化膿性脊椎炎はまれではあるが、ガス産生菌による骨内ガスを特徴とする致命的な感染症
(Intern Med. 2018 Jul 15;57(14):2081-2087.)
 
リスク因子として以下
 ◦糖尿病
 ◦悪性腫瘍 
 
Streptococcus intermediusは口腔/消化管の正常な細菌叢であるが、全身感染症/膿瘍/壊死性筋膜炎/ガス壊疽などの原因ともなる
(J Am Acad Dermatol. 1999 Feb;40(2 Pt 2):347-9.)
 
この菌による上記診断は2例目だそうです。 
 
 
ガス産生されている脊椎炎には遭遇したことがありませんでした。
病歴からは明らかに脊椎炎が疑われるのに、どうしても確定診断がつかないことがあります。
 
以下のようなパターンは難しいです…。
・腰痛はあるけど発熱がないパターン(もともと腰痛もあって解熱鎮痛薬内服)
・脊椎の叩打痛がない(初期には20%程度にしか所見がでない)
・血液培養が陽性にならない(陽性率は30-78%程度とばらつき)
MRIも早期には確定的な所見が出ないこともある
 
以下の症状には要注意!です。
・新規または悪化する腰痛/頚部痛とCRP/ESRの上昇
・新規または悪化する腰痛/頚部痛と発熱or菌血症or感染性心内膜炎
・発熱+神経学的異常所見(背部痛はあってもなくてもよい)
黄色ブドウ球菌菌血症フォロー中の新規局在性の背部痛

 

まとめ

・リスク因子を持つ患者の持続する発熱+背部痛では脊椎炎を鑑別にあげる

・ガス産生菌による気腫性化膿性脊椎炎という疾患もある

・脊椎炎の診断は困難であることも多い