りんごの街の救急医

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review:低ナトリウム血症の治療

日常的にはよく遭遇する疾患である「低ナトリウム血症」。

 

多くの場合には原疾患の治療のみで緊急補正を要しませんが、

神経学的異常が出てくるような場合には緊急補正の適応があります。

 

緊急補正が必要な場合にどのように動けばよいのか、

ガイドラインを基に私見を交えつつ再検討します。

 

Hyponatraemia Guideline Development Group. Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of hyponatraemia.

Eur J Endocrinol. 2014 Feb 25;170(3):G1-47.

PMID: 24569125.

 

 

低ナトリウム血症の治療戦略自体はそう難しくありません。

 

原因はさておき、「高張食塩水を投与するか否か」が最初のステップです。

以下に示すような神経学的異常がある場合には投与する選択になります。
 
また、急性発症か慢性発症かも重要なポイントになります。
よく見る慢性的に低Na血症があって全く無症状であるような病棟の高齢者には高張食塩水投与は不要ですし、比較的若年者の急性低Na血症+頭痛なんかは治療対象になります。

 

下記のようなアルゴリズムに従って治療をします。

 

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それぞれのsectionについて抜粋したものを以下に記載します。

 

※重症度については以下のような症状を呈する場合と定義されます

・中等症嘔気/頭痛/傾眠/脱力/全身倦怠感など
・重症嘔吐/昏迷/昏睡(GCS≦8)/痙攣

 

 

■7.1:重度の症状を呈する低ナトリウム血症
●最初の1時間でやること(急性/慢性にかかわらず)
3%食塩水150mlを20分かけて投与
・20分後に血清Na値を再検
上記を2回または5mEq/L上昇するまで繰り返す
 
●血清Na 5mEq/L上昇により症状が改善した場合
・高張食塩水の投与を中止する
・原因に応じた治療が開始されるまで、可能な限り少量の生理食塩水を点滴しておく
・血清Na 130mEq/Lに達するまで、最初の24時間は10mEq/L/その後24時間で8mEq/Lずつ上昇に抑えることを目指す
・6時間後/12時間後/その後は連日検査する
 
●血清Na 5mEq/L上昇しても症状が改善しない場合
・1mEq/L/hr上昇を目標に3%食塩水投与を継続する
 ◦4時間ごとに確認すること
・合計10mEq/L上昇またはNa 130mEq/Lに達した場合には3%食塩水投与を中止
 
■7.2:中等度の症状を呈する低ナトリウム血症
・3%食塩水150mlを20分かけて単回投与
・24時間あたりNa 5mEq/L上昇を目標にする
・血清Na 130mEq/Lに達するまで、最初の24時間は10mEq/L/その後24時間で8mEq/Lずつ上昇に抑えることを目指す
・1時間/6時間/12時間後に再検する
 
■7.3:中等度~重度の症状を伴わない低ナトリウム血症
・血清Na濃度低下が10mEq/Lを超える場合には3%食塩水150mlを20分かけて単回投与
・4時間後に再検
 
■7.4.2:細胞外液量が多い患者
・さらなる体液過剰を防ぐために水分制限を行う
バソプレシン受容体拮抗薬使用は避ける
 
■7.4.3:SIADH患者
水分制限を第一選択とする
・中等度~重度の低Na血症であれば、第二選択として0.25-0.5g/kg/dayの尿素または低用量ループ利尿薬+NaCl経口摂取を考慮
バソプレシン受容体拮抗薬は使用しない
 
■7.4.4:循環血液量減少の患者
生理食塩水またはリンゲル液を0.5-1.0ml/kg/hrで点滴
・血行動態が不安定な場合、血清Na濃度の過度の急激な上昇リスクよりも迅速な輸液の必要性が優先される
 
■7.5:低ナトリウム血症が急速に改善された場合の対処
・血清Na濃度が最初の24時間で10mEq/L以上/その後の24時間で8mEq/L以上上昇した場合、血清Naを再低下(relowering)させるための迅速な介入を行う
・3%食塩水を中止する
電解質を含まない溶液(5%ブドウ糖液など)10ml/kgを1時間かけて投与
・専門家と相談し、デスモプレシン2mcgの静脈内投与を行うことを検討する
 
 
ガイドラインでは上記のように「150mlの3%食塩水を投与」になっていますが、
個人的には以下の理由から「100mlの3%食塩水を投与」に読み替えています。
➀一刻も早く準備して投与したい(作成がより簡単でミスりにくい)
②日本人では欧米より小柄なことが多く過補正の可能性がある
 
これまでの経験からはちょうどよく治療ができている印象です。
 
3%食塩水100mlの作成方法は以下の通りです。
・生理食塩水100mlから20ml抜く
・上記に10%NaCl20ml(1A)を入れる
 
マニュアルによっては、「生理食塩水500mlから100ml抜いて、10%NaCl120mlで3%食塩水を作成する」ように書かれていることがあります。
 
もしかしたら病棟ではよいのかもしれませんが、
ことERに関してはつきっきりでいられるわけではないので、事故が起きえます。
気が付けば過量投与されてしまった…なんてことが起きるかもしれません。
なので、個人的にはあまりこの投与方法は(少なくともERにおいては)使用しないことを勧めています。
 
 
あと、10%NaCl溶液はERに置いてないけど、
なぜかメイロン®は置いてある、なんてERでもあると思います。
その場合にはメイロン(炭酸水素ナトリウム)での代用も可能です。
 
炭酸水素ナトリウムの浸透圧は2000mOsm/Lであり、ほぼ6%食塩水です。
単純計算で通常の3%食塩水に比較して2倍のパワーがあるため、
「3%NaCl溶液100mlと8.4%炭酸水素Na50mlが同等」と考えられます。
 
簡単でラクですね。
3%食塩水200ml投与は敷居が高いけどメイロン100mlなら怖くない…
なんて感じる医療従事者もいるかも。
 
 
 
低ナトリウム血症の治療のタイミングと方法を覚えておきましょう。