りんごの街の救急医

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review:RRT開始のタイミング

代替療法(RRT)開始のタイミングについての話題です。

 

やべー、最近このあたりの話題おろそかにしてたー!

まぁ絶対的な基準さえ逃さなきゃとりあえずいんじゃね?

的な理解でよさそうに思っていましたが、少しまとめておきます。

 

Gaudry S, Hajage D, et al. Comparison of two delayed strategies for renal replacement therapy initiation for severe acute kidney injury (AKIKI 2): a multicentre, open-label, randomised, controlled trial.
Lancet. 2021 Apr 3;397(10281):1293-1300.
PMID: 33812488.

 

Bagshaw SM, Hoste EA, Wald R. When should we start renal-replacement therapy in critically ill patients with acute kidney injury: do we finally have the answer?
Crit Care. 2021 May 26;25(1):179.
PMID: 34039373; PMCID: PMC8152190.

 

 

・重症AKIはICUに入院する重篤な患者に多くみられ、高い合併症発症率や死亡率を伴うことが知られている
 ◦特に難治性合併症がある場合にはRRTを受ける割合が多くなる
 
AKIのRRT適応についてコンセンサスがあるのは以下の場合(絶対適応
・アシドーシス(pH<7.1)
・高カリウム血症(6-6.5mEq/L)
・透析可能な薬剤乱用(サリチル酸/リチウム/toxic alcohols)
・肺うっ血(特に高血圧/酸素需要がある、利尿薬に反応しない)
・尿毒症(出血/心膜炎/脳症)
Emerg Med Clin North Am. 2019 Nov;37(4):661-677.を改変)
 
・大規模研究(STARRT-AKI)や複数のRCT/メタ分析では、重篤な合併症が存在しない場合には早期にRRTを開始しても、遅延させた場合に比較して生存率が向上しないことが示された
 ◦そればかりか早期にRRTを開始することで合併症が多くなることがわかった
  ‣低血圧/低リン血症/透析依存性/菌血症/医療費増大など
 
 
 
これにより緊急性の高い徴候が現れるまではRRTをなるべく延期することがデフォルトの戦略として採用されるべきであるという考え方が支持されるようになったみたいです。
 
個人的な知識はこのへんで止まっていました。
 
ここから先はあまり知らない内容でした。少しさぼるとすぐおいてかれますね💦
 
 
 
 
・ただし、上記絶対適応がない場合においてはRRTを開始する基準は不明確であり、リスクなしにRRT開始を延期できる期間についてはわかっていない
 ◦RRT開始をどのくらい遅延させるかについては研究毎に大きなばらつきがあり、25-57時間ほどの幅がある
 ◦乏尿/無尿の期間、または尿毒症の程度がRRT開始の適切な適応となるかは不明であった
 
 
ここで、どのくらいRRTを延期できるかについて検討した研究が必要になりAKIKI-2 trialで検討された
Lancet. 2021 Apr 3;397(10281):1293-1300.)
 
 
~以下、AKIKI-2 trialについてみてみます~
 
 
・フランスの39ICUで行われた多施設共同前向き非盲検ランダム化比較試験
 
・対象…18歳以上の成人で人工呼吸器または血管収縮薬投与を受けICU入室している、KDIGO Grade 3のAKI患者
 
72時間以上の乏尿または血中BUN≧112mg/dLとなった時点でランダム化、1:1に無作為に割り付け
 ◦delayed群…上記を満たした直後にRRTを開始する待機戦略
 ◦more delayed群…下記条件を満たすまでより遅延させる超待機戦略
  ‣高K血症/代謝性アシドーシス/肺水腫が出現する、または血中BUN≧140mg/dL
 
・対象となった5336例のうち、278例がランダム化され、137例がdelayed群/141例がmore delayed群に割り当て
 ◦両群で急性腎障害やRRTに関連する可能性のある合併症数は両群間で同程度
 ◦RRT導入率…delayed群:98% vs more delayed群:79%
 
primary outcome…生存かつRRTフリー期間
 ◦中央値は12日 vs 10日, p=0.93
 
・secondary outcomeの人工呼吸器フリー期間/ICU滞在日数などには両群間に有意差なし
 
・多変量解析にてmore delayed群ではdelayed群に比較して、60日死亡のハザード比(HR 1.65)が上昇した
 
 
 
わかったことをまとめると以下のようになります。
 
 
 
早期RRT導入戦略 vs 遅延導入戦略(72時間以上の乏尿または血中BUN110mg/dL前後)においては、生存率や合併症発症率の観点から遅延導入戦略に軍配が上がった
・さらに遅延させたらどうなるんだろうということで、主にBUN≧140mg/dL(と絶対基準)を用いて超遅延戦略 vs 通常の遅延導入戦略を比較してみたのがAKIKI-2 trial
・超遅延戦略は遅延導入戦略と比較してRRT導入率を低下させたが、RRTフリー期間は変わらず60日死亡率を上昇させてしまうという結果になった
RRT開始時期を長期にわたって遅延させることには限界があり、有害となる可能性がある
 
 
BUNは研究でも教科書的にもよく出てきますが、どう考えればいいんでしょう?
 
・少なくともRRT開始基準をBUNをトリガーとして使用することは理想的ではないことが示唆されているかもしれない
 ◦BUNは死亡リスクが高い患者を特定するのに有用ではない
  ‣毒性を示すBUN閾値については明確なデータがない
  ‣BUN値自体より、その上昇がみられた期間の方が尿毒症関連合併症の発症を示す代替指標となり得るかも
 ◦BUNは様々な要因に影響される
  ‣過剰なタンパク異化作用/ステロイド投与/外因性タンパク質/消化管出血/脱水など
 ◦BUN閾値は緊急RRT(絶対基準)を要する患者を区別できない
  ‣stage 3 AKIの16.6%はdelayed基準が満たされる前に緊急RRT適応となった
  ‣more-delayed群の33%は、BUN≧140mg/dLを満たす前に緊急RRT適応となった
 
・とはいえ、BUNだけで語れないだろうが、BUNも着目して導入タイミングを逸しないことが重要なのではとも思う
 
 
現状ではRRT開始について完全に定まった見解はないが、
以下が助けにはなるかもしれない
 
・RRTを要する患者と回避可能な患者を区別するツールとして以下が提案はされている
 ◦機械学習による臨床予測
 ◦フロセミ負荷試験
 ◦新規バイオマーカーなど