造影CTの時に使用するヨード系造影剤についてのまとめになります。
現時点での推奨、わかっていることとわかっていないことが
詳しく記載されていてよかったです。
「腎機能が低下しているから造影剤投与は控えます」なんて言っている人、
まわりにいないでしょうか?
これを機に知識をアップデートしましょう!
Matthew S Davenport et al.
Use of Intravenous Iodinated Contrast Media in Patients with Kidney Disease: Consensus Statements from the American College of Radiology and the National Kidney Foundation
Radiology. 2020 Mar;294(3):660-668.
- 背景と用語の定義のまとめ
- CA-AKI/CI-AKIのリスクとなる腎機能は?
- CA-AKI/CI-AKIのリスク因子は?
- 等浸透圧造影剤と低浸透圧造影剤を使用する場合で臨床的に差があるか?
- どの患者群に対して造影剤投与前に予防的対応をすべきか?
- 維持透析をされていないCKD stage4-5の患者に対しては造影剤投与を控えるべきか?
- 慢性維持透析を受けている患者ではどうするか?
- 片腎患者ではどうするか?
- CI-AKIのリスクがある場合、造影剤投与量を減量すべきか?
- 特定の腎毒性物質や化学療法を受けている患者への対応はどうするか?
- 造影剤投与前に特定の薬物を中止する必要はあるか?
- まとめ
背景と用語の定義のまとめ
腎機能が低下している患者に対するヨード系造影剤使用(以後造影剤と書きます)は、歴史的にcontrast-induced acute kidney injury (CI-AKI)のリスクがあるとしてその使用が差し控えられる、または遅らされていた背景があります。
しかし、これにより誤診や診断の遅れがでていまい、患者の健康に影響を与えていたことが分かっています。
肺塞栓疑うけど腎機能悪いからどうしようかな~と思っているうちにどんどん病状が悪化しているなんてこともあったんでしょう。
そんな歴史的背景がありますが、
このたび米国放射線学会と腎臓病学会より合同声明が発表されました。
※ただし、冠動脈造影などの動脈内注入についてはこの声明の範疇にありません
そもそもCI-AKIの診断ってどうやってされているのでしょうか。
造影剤以外の因子による腎障害が除外されて初めて診断として成り立ちますが、
この定義自体にうさんくささがあります。
臨床をしている方はとてもよくわかると思いますが、造影剤に限らず腎機能を悪化させる要因はたくさんあります。
なので、実臨床においては造影剤以外による腎障害の因子を除外することが結構難しい(というかほぼ無理なのではないか…)。
それなのに、あたかも造影剤のみが腎機能を悪化させる薬剤として誇張されるようになってしまったわけです。
そもそもこの分野の多くの研究が造影剤を投与されていないcontrol群を設定しておらず、造影剤自体に問題があるかどうかも検討ができていなかったようです。
研究方法がどんどん改善されてきて、
2013年頃からの大規模研究によれば、造影剤投与後のAKI発症については実は造影剤が影響していないのではないかということがわかり始めています。
2015年に米国放射線学会は、造影剤とAKIの因果関係についての暗黙的な誤解を解くために以下の用語に関する声明を出しました。
Contrast-associated acute kidney injury (CA-AKI)
・造影剤投与後48時間以内に発症するAKIのこと
・postcontrast acute kidney injury (PC-AKI)も類義語
・いずれの用語も造影剤投与とAKIの関連性についてを示唆した言葉ではない
(AKIの原因は造影剤に限らずなんでもありってこと)
Contrast-induced acute kidney injury (CI-AKI)
・CA-AKIに含有される概念
・造影剤投与による影響を示唆している
・以前はcontrast-induced nephropathyと呼ばれていた
・この用語を用いることは、実臨床において偽陽性イベント(造影剤以外の腎毒性のある薬物への曝露や処置などによるAKI)を考えないことになり誤診に繋がりうる
ここからは推奨の重要な部分を切り取って紹介します。
ちゃんとCA-AKIとCI-AKIを分けて考えてくださいねということだと思います。
"CA-AKI"を心配するあまり造影剤投与を差し控えて重大な疾患を見逃さないようにしたいものです。
CA-AKI/CI-AKIのリスクとなる腎機能は?
CA-AKI
・CA-AKI発症リスクは腎機能障害(CKD stage)が悪化するほどに上昇する
・これらは造影剤使用後の腎障害のことでありいかなる理由によるものも含有するためCI-AKI発症リスクよりはるかに高くなる
※疾患の重症度しかり、何らかの侵襲的処置や薬剤投与しかり
CI-AKI
・CI-AKI発症リスクはCA-AKIよりもはるかに少ない
・ただし、腎機能が重度に低下している患者での真の発症率はまだ不明瞭
・大規模研究によれば、CKD stageによらずCI-AKI発症のエビデンスはないと報告されている
・一方で、重度の腎機能障害がある場合にのみCI-AKI発症したと報告する文献もある
※これらの研究では重度の腎障害患者におけるCI-AKIリスクを考えるにはunderpowered(特にeGFR<30群では結論がだいぶばらばらで、観察研究による)
現時点では、eGFR<30ml/min/1.73m2におけるCA-AKIとCI-AKIを区別するためのランダム化研究はありません。
CA-AKIもCI-AKIも腎機能が悪くなればなるほどリスクになりますが、
肝腎のCI-AKIについてはそのエビデンスはありません。
CA-AKI/CI-AKIのリスク因子は?
CA-AKI
・主要なリスク因子はeGFRであり、糖尿病が加わるとさらに影響が強い
・以前は多発性骨髄腫もリスクと考えられていたが、最近の研究により否定的である
CI-AKI
・CI-AKIとそのリスク因子との関連を検討した研究はほとんどない
・その中でも、eGFRはリスクになるという研究があるが、これ以外のリスク因子は同定されていない
等浸透圧造影剤と低浸透圧造影剤を使用する場合で臨床的に差があるか?
CA-AKI
・等張性造影剤(IOCM)と低張性造影剤(LOCM)とで、CA-AKI発症リスクは臨床的に有意な差はない
・LOCM iohexolはその他のLOCMよりもリスクが高いという間接的なエビデンスがあるが確定的ではない
CI-AKI
・CI-AKI発症リスクとしてLOCMとIOCMとを比較した研究はない
・ランダム化試験では、IOCMとLOCMとでCA-AKI発症リスクは臨床的に有意な差はない
・現在使われている造影剤の多くはLOCMで、より高い浸透圧をもつ造影剤は使用されなくなっている
どの患者群に対して造影剤投与前に予防的対応をすべきか?
・適応となるのは、AKI+eGFR<30ml/min/1.73m2+維持透析されていない患者
※ただし、CI-AKIというよりはCA-AKIの一般的予防のためのデータに基づいたエビデンスであることに注意。
・特に心不全などのhypervolemic conditionの患者への予防的対応は議論が残る
・eGFR30-44ml/min/1.73m2では、個々のリスクに応じて予防を考慮してもよい
◦リスク因子が多い
◦最近のAKI既往
◦border line eGFR
・造影剤曝露後の予防的対応についてはこの効果を支持するエビデンスはない
・予防方法としては生理食塩水投与が好ましい
◦理想的なタイミング、投与量、投与速度などは不明瞭
◦通常は造影剤投与1時間前と造影剤投与後3-12時間にわたって投与される
‣前後でそれぞれ500mlずつか、1-3ml/kg/hrなど
◦より長いレジメン(約12時間)は短いレジメント比較してCA-AKIリスクが低くなることが分かっている
‣でも外来ではこのレジメンは使用しづらい
◦oral hydrationについては十分に研究されていない
・炭酸水素ナトリウムは生理食塩水と同様の効果があるが、薬剤師による調剤が必要なので好ましくない
※日本なら簡単ですが、事件もありましたしねぇ…。
・N-acetylcysteineはplaceboと比較して有意差がなかった
・不要な腎毒性薬剤(特にNSAIDsなど)をやめることは有効
維持透析をされていないCKD stage4-5の患者に対しては造影剤投与を控えるべきか?
※それぞれeGFRs15–29 mL/min/1.73 m2、<15 mL/min/1.73 m2
・この群の患者はCI-AKIのリスクである可能性がある
◦NNH6~∞(無害)といわれていて議論が残る
・絶対的禁忌ではなく相対的禁忌程度で、診断に必要であれば差し控えるべきではない
◦その際には可能であれば生理食塩水投与による予防策が行われるとなおよい
診断に必要なら腎機能を理由に造影剤投与を差し控えてはいけません。
その方が逆に患者の不利益になることが多いです。
慢性維持透析を受けている患者ではどうするか?
・残腎機能がある場合にはその喪失がQOL低下につながる可能性がある
・完全に無尿ではなく残腎機能がある場合には、eGFR<30ml/min/1.73m2の患者と同様の対応が考慮される
◦絶対的禁忌ではなく相対的禁忌程度に考える
この患者群でもあまり造影剤投与に躊躇する必要はなさそうです。
片腎患者ではどうするか?
・eGFRやAKIの程度に応じて、片腎患者でも通常の患者と同様に扱ってよい
CI-AKIのリスクがある場合、造影剤投与量を減量すべきか?
・動脈内投与に関しては高用量になればなるほどCA-AKIのリスクが増加する
・静脈内投与に関しては臨床に必要な用量を投与する分には用量依存性のリスクはない
→特に減量する必要はない。減量することにより診断精度が落ちる可能性もある。
特定の腎毒性物質や化学療法を受けている患者への対応はどうするか?
・上記対応を変更する必要はない
造影剤投与前に特定の薬物を中止する必要はあるか?
・AKIやeGFR<30ml/min/1.73m2の患者では、不必要な腎毒性薬物投与を造影剤投与24-48時間前と48時間後まで差し控えるべき
◦NSAIDs
◦利尿薬
◦aminoglycoside
◦amphotericin
◦zoledronate
◦methotrexate
・RAA阻害薬については議論が残る
・様々な結果が出ているが、いずれも小規模な研究で、投与ルートも異なり(静脈vs動脈)、CA-AKIの定義が異なり、予防的対応にも一貫性がない
・meta-analysisでは、CA-AKIのリスクはないと結論されていた
◦odds ratio: 1.27; 95% confidence interval: 0.77, 2.11; P = .35
◦ただし、層別解析ではRAA阻害薬慢性使用群でリスク上昇が認められた
‣odds ratio: 2.06; 95% confidence interval: 1.62, 2.61; P < .001
・定まった見解はないが、CA-AKIによる低血圧や高カリウム血症を避けるために造影剤使用48時間前は投与を避けることも考慮される
・metforminはCA-AKIのリスクを増加させない
・もしもCI-AKIを発症した場合には、乳酸アシドーシスのリスクも増加する
・metforminはAKIやeGFR<30ml/min/1.73m2の患者では投与しないこと
◦FDAはeGFR30-59ml/min/1.73m2の患者でも造影剤投与前にmetforminを中止することを推奨しているが意思決定は個別化して考えること
※そもそもmetforminは腎不全の患者には投与禁忌です。
メトホルミンの話題については以下も参照してください!
造影剤投与前の中止は不要で、投与後48時間の休薬でよい。
まとめ
・CA-AKIとCI-AKIを区別しよう
・CA-AKI発症リスクは腎機能障害(CKD stage)が悪化するほどに上昇する
・腎機能が重度に低下している患者でのCI-AKIの真の発症率はまだ不明瞭だが、大規模研究によれば、CKD stageによらずCI-AKI発症のエビデンスはない
・CA-AKIのリスク因子はeGFR低下、糖尿病が加わるとその影響は増大
・CI-AKIのリスク因子はeGFR以外には同定されていない
・必要であればeGFR<30ml/min/1.73m2+維持透析されていない患者であっても造影剤使用を差し控えてはならない
・造影剤投与前の予防的投与の適応があるのは、AKI+eGFR<30ml/min/1.73m2+維持透析されていない患者
・eGFR30-44ml/min/1.73m2では、個々のリスクに応じて予防を考慮してもよい
・慢性維持透析を受けていても残腎機能がある場合には上記と同様に対応する
・片腎患者であっても、腎機能に合わせて通常の患者と同様の扱いをしてよい
・予防的対応は生理食塩水投与でよい(プロトコルは定まっていない)
・CI-AKIリスクがある患者であっても造影剤投与量を減量する必要はない
・AKIやeGFR<30ml/min/1.73m2では、腎毒性がある薬剤は可能であれば造影剤投与24-48時間前と24-48時間後は休薬するとよい
造影剤投与時の注意点➀~造影剤アレルギー、メトホルミン~
造影剤投与時の注意点②~前投薬、血管外漏出した場合の対応~