今回はERでしばしば遭遇するけどなかなか難しい手技、
気管挿管についてreviewしたいと思います。
これを読めば、現時点で最新の気道管理についての知識的な部分は全部わかるはず!
以下の文献からまとめています。
➀
Goto T, Goto Y, Hagiwara Y, Okamoto H, Watase H, Hasegawa K. Advancing emergency airway management practice and research.
Acute Med Surg. 2019 May 21;6(4):336-351.
PMID: 31592072; PMCID: PMC6773646. こっちは特に必読!!!
②
Heidegger T. Management of the Difficult Airway.
N Engl J Med. 2021 May 13;384(19):1836-1847.
PMID: 33979490.
Airway managementのアルゴリズム(difficult airwayの認知)
・
アルゴリズム化により迅速なdecision-making、エラー減少、airway managementの質改善が目標
(
N Engl J Med. 2021 May 13;384(19):1836-1847.より作成)
・difficult airwayかどうかの判断が最も重要な分岐点
◦ER settingでは実は定義がない
◦2-27%がdifficult airwayとされているが定義がばらばら
・最近のガイドラインによれば、以下の要因がある場合にdifficult airwayと定義される
◦経験ある臨床医が気道確保困難と予測した
◦緊急外科的気道確保が必要と判断された
difficult airwayのタイプ
・difficult airwayはいくつかの型に分類される
◦喉頭展開困難(difficult laryngoscopy)
◦BMV困難(difficult bag-mask ventilation)
◦声門上デバイス(EGD)挿入困難(difficult extraglottic devices)
◦輪状甲状靭帯切開困難(difficult cricothyroidotomy)
・difficult laryngoscopyがいわゆるdifficult airway
◦声門が見えるかどうかが挿管成功率に寄与する
◦分類はCormack and Lehane (C-L) gradeが有名
‣grade 3-4では挿管失敗と関連
◦ただ、ERでは他の方法で
気管挿管困難かどうかを見積もっておく必要がある
これの大事なところは、
difficult airwayかどうかを判断して、そうでなければRSIを選択するというところだと思います。
・difficult tracheal intubation(気管挿管困難)とdifficult laryngoscopy(喉頭展開困難)は区別して考えること
◦ビデオ喉頭鏡の登場によりdifficult laryngoscopyがdifficult tracheal intubationと直結しなくなった
・直接喉頭鏡での観察不良はCormack and Lehane分類が用いられる
◦軟性気管支鏡やビデオ喉頭鏡により、grade 3-4でも容易に観察でき、挿管が容易になっている
◦予測された気道困難でも95.8-100%
◦気管挿管失敗による死亡率は一般人と比較して約4倍になる
・BMV困難は以下のスケールが有用とされている(特に筋弛緩薬使用の有無の情報と併せて)
◦grade 1:BMV問題なし
◦grade 2:補助器具(経鼻エアウェイなど)を用いて換気可能
◦grade 3:換気困難/不十分/不安定/2名の術者を要する
・BMV困難症例の発生率は1.5-5.0%
difficult airwayの予測
・844206人のデータを対象としたcochrane systematic reviewによれば、現在のベッドサイドで行われているスクリーニングテストはどのような組み合わせであっても、多くの気管挿管困難者を見落としてしまうとされている
◦予期せぬ気管挿管困難者の検出には適していない
以下に気管挿管困難検出に有用な項目を列挙しておきます。
・手術室におけるdifficult laryngoscopy予測のmeta-analysisによると…
◦upper lip bite testは有用
‣下顎切歯で上口唇を噛めない場合にはdifficult laryngoscopyである可能性が高い
‣+LR 14, 特異度0.96
◦Mallampati score…class 3-4であれば+LR 4, 特異度0.87
→ERでは実施できないことが多い
‣ERでは挿管実施患者の約30%しか実施できていない
・LEMON criteriaはresuscitatoin roomでの使用のためNational Emergency Airway Management Courseにより考案された
◦original versionではMallampati scoreを含んでいた
◦modified versionではMallampati scoreを除外
‣いずれの項目も当てはまらなければdifficult laryngoscopy除外において感度85.7%/特異度98.2%
L-Look externally
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患者の外観を観察して 喉頭展開/ 気管挿管/換気困難の特徴がないかどうか見る
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E-Evaluate the 3-3-2 rule
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・オトガイ舌骨間距離…口腔底に舌を納めるスペース
・舌骨 喉頭隆起… 喉頭が適切な高さ、声帯が直視 喉頭鏡で確認できる可能性が高い
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M-Mallampati
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座位の状態で患者に開口してもらう
・Ⅳ度…硬口蓋のみが視認可能
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O-Obstruction
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・腫瘍
・膿瘍
・外傷
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N-Neck mobility
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頸椎カラーでの固定や関節リウマチ患者など
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LEMONはよく聞くけどMallampatiなんてできることの方が少ないですよね。
んで、やらなくてもそれなりにdifficult airwayを予測できることが報告されています
(modified LEMON)
upper lip bite testも有効だと思いますので、患者さんに余裕があればしてみてもいいかもしれません。
・解剖学的/生理学的特徴や背景的問題を考慮しておくこと
・肥満は、解剖学的および生理学的な要因を併せ持つため、difficult airwayの重大な予測因子となっている
◦肥満患者は非肥満患者に比較して重度の気道合併症を起こす可能性が2倍高い
◦麻酔科クローズドクレーム分析では気管挿管困難の68%が肥満と関連
◦肥満に伴う解剖学的変化(首回りが40cm以上など)によりBMV困難/喉頭展開困難/気管挿管困難/輪状甲状靭帯切開困難になることが予測される
◦生理学的にも機能的残気量低下による無呼吸時間への耐久性のなさが問題
・difficult airwayの解剖学的/生理学的特徴
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・開口制限
・口腔内の血液/吐物
・歯列弓狭小
・下顎突出制限
・修正Mallampati classIII-IV
・頭部と上部頸部の伸展制限
・頸部が太い
・BMV困難
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|
・開口制限
・口腔内の血液/吐物
・下顎突出制限
・頸部疾患
・頸部運動制限
・頸部が太い
・肥満
・直接喉頭鏡でCormack-Lehane gradeIII-IV
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BMV困難
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・あごひげ/マスク密着に影響する因子
・男性
・歯がない
・50歳以上
・下顎突出制限
・修正Mallampati class III-IV
・いびきや睡眠時無呼吸
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・開口制限
・上気道閉塞
・固定された頸部屈曲変形
・輪状軟骨圧迫
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輪状甲状靭帯切開困難
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・女性
・8歳以下
・首が太い
・肥満
・気管偏位
・固定された頸部屈曲変形
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生理学的因子
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・full stomach
・機能的残気量低下または酸素消費上昇による急速な酸素飽和度低下と無呼吸(肥満/敗血症/妊婦など)
・血行動態不安定(有効循環血液量低下や右心不全などによるショック状態)
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・difficult airwayの背景的問題
主治医またはチームの経験とスキル
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困難が予測されるときは、医師は許容できる成功率を達成するために予定されたテクニックについて十分に経験を積まねばならない
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技術がある者の助けを得られる
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気道確保において技術的困難の可能性があるときに患者を無呼吸にすることは患者とケアチーム両者にストレスになる可能性がある。処置の際に同僚が隣にいることや、同僚が近くにいて呼び出すことができるなら深刻な困難に直面した場合にストレスを緩和できる
困難が予測されるときにすぐに助けを求められないことは、患者が覚醒しているときに気管挿管の適否を高めることによってどのように進めるかについての決定に影響を与える可能性がある
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適切な器具を利用できること
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困難が予測されるときは全身麻酔導入後または覚醒段階で素早く気道管理するための必要な器具を利用できるべきであろう
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患者のふるまい
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技術的困難性の解剖学的予測因子評価後に覚醒下で気管挿管することが最も安全なアプローチと判断されたとしても指示に適切に従わない患者により妨げられる可能性がある
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高度の緊急性
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緊急性の高い状況では、他の蘇生処置の優先度に迅速に移行する必要があるために、患者が覚醒下での気管挿管が妨げられる可能性がある
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いろいろとリスク因子について書きましたが、それでも結局予測
不能な事態は発生してしまいます。。。
・188064人を対象としたコホート研究では気管挿管困難3391件/BMV困難857件と報告
◦気管挿管困難の3154件(93%)は想定外であった
◦BMV困難の808件(94%)は想定外であった
・全ての症例に対して困難な状況になっても対処できるように準備して、必要な技術を習得し維持する必要がある
以下からが実践編です!
準備
S Suction 吸引
T Tools for intubation 挿管に必要な資器材準備
O Oxygen 酸素
P Positioning 体位
M Monitors モニター(EtCO2含む)
A Assistant, Assessment
BVM/挿管チューブなどの準備、difficult airwayの評価
D Drugs 薬剤
|
実際のところはなかなか思い出せないと思うので、
各施設の救急カートにあんちょこをおいておくとよいです。
preoxygenation
・
気管挿管に先立ってpreoxygenationを行うことで、
挿管実施中のapnic phaseの低酸素血症を避けることができ、安全域が広がる
unsupported ventilation
・pressure supportなしの酸素投与ルート(unsupported ventilation)は以下
◦リザーバー付き酸素マスク
‣ERにおいて最も頻用される
‣O2 15L/min投与でFiO2 60-70%しか投与できない
◦bag valve mask(BVM)
‣十分な自発呼吸が残っていれば必ずしもバッグをもむ必要はない
‣しっかりとmask sealすること
‣PEEP Valveをつけると5–15cmH20のPEEPをかけられる
‣自発呼吸がしっかりしていない場合にはゆるやかな陽圧をかけること
…換気を受けると鎮静中の低酸素血症を避けることができる(
ICU settingでのtrialだが)
◦(補助的)nasal cannula
‣上記方法に追加することもできる
apnic oxygenation
・挿管の際、自発呼吸が消失し(多くは筋弛緩によって)無呼吸になった患者に対して行う経鼻的酸素投与
◦通常は鼻
カニュラ高流量10-15L/min投与のことを指す
・挿管中の低酸素血症発症率を下げ、初回成功率を上昇させる
BMV
・気道困難は気管挿管のみに焦点があてられることが多いが、これでは不適切
・BMVは意識がない患者に対する気道管理の最初のステップであり、欠かせない
◦気管挿管や声門上デバイス挿入に失敗した場合の救助手段としても用いられる
・BMVが有効であるかどうかは以下を参照して判断する
◦胸郭の上昇
◦カプノグラフィーの波形
◦酸素飽和度の上昇
・BMVの補助手段として以下が挙げられる
◦頭部後屈顎先挙上
◦二人法での換気
・神経筋遮断薬の使用でBMVが改善することもある
positioning
・通常仰臥位でされることが多いが…
・20-45度半坐位(ramped position)であると以下の効果が望めて好ましいよう
◦preoxygenationの改善
◦初回挿管成功率上昇
◦挿管関連合併症発症率の低下
・でも、ramped positionはあまり挿管成功率を上げないんではないかとの報告も…
◦初回成功率
:Sniffing 85.4% vs Ramped 76.2% (p=0.02)
◦3回以上施行:
Sniffing 2.3% vs Ramped 7.7% (p=0.02)
◦酸素化については有意差なし
(Chest. 2017 Oct;152(4):712-722.)
・Back Up Head Elevated (BUHE) Intubation
◦耳孔と胸骨切痕を同じ高さにする
(Anesth Analg. 2016
Apr;122(4):1101-7.)
・挿管合併症(3回以上の失敗、10分以上かかる、SpO2<90%、食道挿管)を減らす
◦通常の方法…22.6%
◦BUHE intubation…9.3%
この辺は議論が残るところなのかもしれません。
はじめからこのポジショニングをしておいて
気管挿管を行ってみるもよし、もし
気管挿管を試みて失敗するようであれば試してみてもよしと思います。
NIV(non-invasive ventilation)
・unsupported ventilationでは十分な酸素化が得られないときにNIV考慮
・陽圧換気により肺胞recruitmentが得られ、preoxygenationが良好になることがある
・急性呼吸不全に対してNIV vs BVM換気で比較すると低酸素血症発症率がNIV群で低下
HFNC(high-flow nasal cannula)
・標準的な酸素投与方法に比較してより高いFiO2を得られる
→挿管中のapnic phaseでも酸素化が保てる可能性あり
◦ただし、まだデータ不足でpreoxygenationに本当に有効かはcontroversial
・挿管前には、HFNC15L/minをbaseにしてリザーバーマスクやBMVで十分な酸素化を行う
◦これでSpO2≧95%を保てない場合には肺シャント(肺炎や肺水腫など)の存在を疑わせる
‣この場合にはPEEPをかける必要が出てくる
DSI(delayed sequence intubation)
・
以下のような場合にはRSIの代わりにDSIを考慮することができる
◦低酸素により興奮してintubationができない
◦精神的興奮などにより十分なpreoxygenationができない
・preoxygenationに先立ってProcedural sedationを行う
◦筋弛緩薬(NMBs)投与を一時的に保留して鎮静薬投与を行う
◦
ケタミン1mg/kg iV → Preoxygenation → 筋弛緩
→ 無呼吸化でのApneic Oxygenation →挿管
・
DSIにより従来の方法でpreoxygenationが不能な患者へのpreoxygenationが可能
・複数回の気管挿管試行と、低酸素血症/気道外傷/心停止などの有害事象との間には強い関連性がある
◦
気管挿管を必要とする場合には、他の方法を検討する前に最適化した試行を2回まで行える
・ERで行われた1828件の気管挿管を対象とした研究
◦合併症発生率…1回の試行:14% vs 2回の試行:47%
・うまくいかない方法に固執(perseveration)しないこと
◦3回以上同じ方法で気道管理を使用とすることと定義される
・換気と酸素化は可能だが、(最大3回の試行で)気管挿管が出来ない場合には手技を止めて立ち止まって選択肢を考えること
◦患者を覚醒させる(ERでは不可能だが)
◦気管挿管をさらに試みる(気管支鏡を使用するなど)
◦外科的気道確保に移行する
・“Cannot Intubate, Cannot Oxygenate” ※cannot ventilateとも
◦酸素化がうまくいかず酸素飽和度が低下するときには外科的気道確保の準備をせよ
◦それと同時に試していない手技を全て試み、神経筋遮断を確立すべし
・喉頭展開や気管挿管困難が予期されていない場合であっても、困難に遭遇したことを想定した戦略を立てておくこと
RSI(rapid sequence intubation)
・difficult airwayが予想されない患者に対する標準的な緊急挿管方法
・prehospitalでは、
NMB投与に関わらずより包括的にdrug-assisted intubationと呼ばれている
・鎮静薬単独に比較してRSI施行で挿管成功率上昇
◦ERでもprehospitalでも報告あり
◦それにもかかわらず日本では53%しかERでRSIされていない
‣さらに施設によって異なり、0-79%まで使用率はまばら
・difficult airwayが予想される場合にはRSIよりnon-RSIが選択されたほうがよい
awake intubation
・CVCIのリスクが高い症例の場合や技術不足などが想定される場合には筋弛緩薬を使用せず、自発呼吸を残したままのawake intubationを検討
→挿管チューブを進める
・この際、気管支鏡やビデオ
喉頭鏡が用いられることが多い
surgical intubation
・
喉頭鏡やそれ以外のデバイスを用いても気道確保困難である場合に選択される
・輪状甲状靭帯切開/穿刺が手段としてある
supportive tecchnique
・ultrasonographyを使用することでチューブ留置の正確性と迅速性が上昇する
・
輪状軟骨圧迫は
誤嚥予防のためにされていたが、RSIの際には不要かも
・BURP法についても声門確認率が上昇するわけではない
薬剤投与
前投薬
・
気管挿管に先立ち、最低3分以上前に投与するのが一般的
・状態が非常に悪い場合には3分以内や省略も可能
・Lidocaine…気管支攣縮を予防するために使用
・Fentanyl…交感神経刺激による心血管系イベントリスクを減少
◦低血圧リスクがあるため注意
・atropine…基本的には使用しないが、徐脈が起きた時のrescueとして用意しておくのはよい
薬剤
|
Dose
|
Onset
|
作用時間
|
特徴
|
副作用
|
主な適応
|
リドカイン |
1.5mg/kg
|
NA
|
NA
|
・挿管に伴う頭蓋内疾患/気管支攣縮を防ぐ
|
・AV block患者では心停止のリスクになる
|
・頭蓋内圧亢進
・頭部外傷
|
|
1-3mcg/kg
30秒以上
|
NA
|
NA
|
・交感神経反応を減らす
|
・呼吸抑制
・低血圧
|
・心血管疾患
・頭蓋内圧亢進
|
鎮静薬
・鎮静/鎮痛/記憶へ作用する薬剤投与が必要になる
・北米ではetomidateが頻用されるが日本では使用されない
・そのような場合にはketamineが良い代替薬となる
・midazolamなどのBZDは日本では広く使用されており、持続鎮静目的にもよく使われる
・propofolも使用可能だが低血圧リスクのため注意を要する
薬剤
|
Dose
|
Onset
|
作用時間
|
特徴
|
副作用
|
主な適応
|
Etomidate
|
0.3mg/kg
|
15-45s
|
3-12min
|
・onsetが速い
・作用時間も短い
・血行動態に影響が出にくい
|
・副腎皮質抑制の可能性がある
・ミオクローヌス
|
・RSIで最もよく使用される
・挿管後の管理には使用されない
|
ケタミン |
1-2mg/kg
|
45-60s
|
10-20min
|
・呼吸抵抗を減らす
・カテコラミンリリース(昇圧作用)
|
・血圧上昇
・頻脈
|
・重度の気管支攣縮がある血管動態安定した患者
・difficult airwayが予想されるseptic shockのnon-RSI
|
|
0.1-0.3mg/kg
|
30-60s
|
15-30min
|
・健忘作用
・抗けいれん作用
|
・低血圧
・呼吸抑制
|
・挿管後の管理にも使用できる
|
|
1.5-3mg/kg
|
15-45s
|
5-10min
|
・onsetが速い
・作用時間が短い
・呼吸抵抗を減らす
|
・低血圧
|
・気道閉塞
・痙攣重積
・挿管後管理
|
|
3mg/kg
|
<30s
|
5-10min
|
・脳保護作用
・抗けいれん作用
|
・低血圧
・呼吸抑制
|
・あまり使用されない
|
筋弛緩薬
・succinylcholineは効果発現が速いがいくつかの禁忌事項あり
◦熱傷、筋挫滅、脊髄損傷、腎不全など
・rocuronium…効果発現が速く、副作用が少なく、禁忌も少ない
◦さらに、sugammadexといった拮抗薬も存在
・ERにおいては挿管初回成功率と合併症発症率は2剤で変わりがない
薬剤
|
Dose
|
Onset
|
作用時間
|
特徴
|
副作用
|
主な適応
|
サクシニルコリン
|
1.5mg/kg
|
45s
|
5-9min
|
・onsetが速い
・作用時間が短い
|
・横紋筋融解
|
・禁忌以外の全ての患者
|
ロクロニウム
|
1mg/kg
※添付文書では0.6mg/kg
|
45-60s
|
45min
|
・onsetが速い
・作用時間が長い
・スガマデクスでリバース可能
|
・difficult airwayの際には注意を要する
|
・サクシニルコリンが禁忌の場合
|
直接喉頭鏡(DL) vs ビデオ喉頭鏡(VL)
・現代では
ビデオ喉頭鏡使用がairway management分野で台頭してきている
・Difficult Airway Society of the United Kingdomでは、適切な訓練を受けている場合には、重症患者に対する全ての挿管にビデオ喉頭鏡を用意してオプションとして考慮すべきであるとしている
・ER/外傷/difficult airway/心停止患者において
ビデオ喉頭鏡の優位性が提唱されている
◦声門可視率上昇
◦初回成功率上昇
◦短時間での挿管可能
◦挿管合併症(食道挿管など)発症率低下
※ただし、万能ではなく、矛盾するデータは存在する
・術者の経験によらず、ビデオ
喉頭鏡は口腔内構造物への負担減少効果あり
・日本では2016時点で初回挿管時にビデオ
喉頭鏡を使用する施設が40%に達している
※当院ではほぼ全例コレになりました。COVID-19の流行による影響が大きかったのではないでしょうか。たぶん現在は上記よりさらに多くの施設が使用していることと思います。
・開口障害/頸部運動が制限されている患者720人を対象とした多施設共同研究
◦6つのビデオ喉頭鏡を使って180秒以内の初回成功率は90%以上
◦外傷ではその所要時間が気になるところで60秒以内が好ましい
‣この時間内の初回成功率は70%未満であった
・手術室/ICU/ERにおけるビデオ喉頭鏡と直接喉頭鏡を比較したCochrane review
‣特にdifficult airwayの場合
◦ビデオ喉頭鏡が気管挿管試行回数や低酸素血症/呼吸器合併症の発生率を下げられるかどうかについては十分なエビデンスなし
◦ビデオ喉頭鏡の使用が気管挿管に要する時間に影響を与えるという根拠はなかった
・ICUでの研究のSR&MAでは、ビデオ喉頭鏡は声門をよりよく可視化できるとしても幅広い条件下では直接喉頭鏡よりも優れているとの結果はでなかった
・laryngeal maskやlaryngeal tubeなど
→完全な気道確保までのつなぎとして使える
◦麻酔が軽度であること
◦位置不良
◦解剖学的要因
・上記要因がないにもかかわらず換気や酸素化が出来ないときには気管挿管またはBMVを試みるべし
・
喉頭展開が不十分な患者に対する
気管挿管の際に使用できる補助手段
・原則的にはRSIされた患者に対する手段であり、直接/ビデオ
喉頭鏡いずれでも使用可能
・
緊急気管挿管時、通常の喉頭鏡使用に比較してブジー使用群では初回挿管成功率が有意に高かった
Rescue method
・
最大の目標は初回気管挿管成功ではあるが、ERにおける失敗率は17-32%と高い
→失敗した時の代替手段を常に考慮しておくべし
RSI
・初回挿管失敗のbackup planとしても使える
・ある報告によると、rescue methodの第一選択として20%で選択され、
次回気管挿管成功率を上昇させたという
輪状甲状靭帯切開
・airwayが確保できず、酸素化が保てない場合にはcricothyrotomy適応となる
◦ERでの気道確保において0.2-0.5%ほどの頻度
・ビデオ喉頭鏡は患者の口から声門までを一直線にするような手技はせず適切な視野が確保できる
・ただし、
ビデオ喉頭鏡の直接喉頭鏡に対する優位性は依然として議論が残る
◦確実な気道確保ができるまでのつなぎといて酸素化と換気に有用
挿管実施者交代
・挿管失敗した場合にはより経験のある医師に交代することが推奨
◦2回目の挿管において同一者がやるより手を代わった方が挿管成功率が高い
特殊環境下における気管挿管
外傷
・ERにおける
気管挿管のうち、
10-30%が外傷に関連する気道の異常とされる
◦初回挿管成功率は64-86%
◦緊急性が高い
◦解剖学的な異常(損傷)
‣頸椎損傷の可能性を考慮すると適切なpositioningがとりづらい
◦口腔内分泌物や血液
◦嘔吐のリスク
◦血行動態不安定
・difficult airwayでなさそうであればRSIが推奨されている
◦北米では外傷に対して85%がRSI実施
‣日本では35%程度にとどまる
・ketamineは循環呼吸状態に影響を与えないため好まれる
◦以前は頭蓋内圧を亢進させるとの報告もあったが…
◦現代のエビデンスではketamine使用を否定する根拠に乏しい
‣酸素消費量を増大させない
→カテコラミンによる脳還流増加によって生じる頭蓋内損傷を抑える
・propofolやBZDは血行動態が安定している場合には使用可能
・RSIの際に使用される筋弛緩薬としてはsuccinylcholineがそのonsetの速さと
半減期の短さから好まれる
・
外傷の場合には口腔内の血液や嘔吐物などによりビデオ喉頭鏡では視野が確保しにくいかも
心停止
◦でも意外とCPR中の挿管については完全に確立された戦略はない
・初回挿管成功率は36-94%、合併症発症率は9-27%
‣ROSC率低下
‣ROSCまでの時間延長
‣蘇生開始15分でのROSC率低下
◦初回挿管成功率上昇
◦胸骨圧迫中断時間減少
・初回挿管成功率は経験値ともろに関連する
◦熟練者 vs 初心者では初回成功率は82% vs 36%
◦240回以上の挿管経験があれば90%の確率で胸骨圧迫中断10秒未満で挿管可能と報告
小児
・18歳未満の患者に対する初回挿管成功率は60%と低い
◦2歳未満では50%に落ちる
◦患者全体では74%の成功率
・小児分野では経験がより大きな意味を持つ
◦上級医では89%、後期研修医では43%、研修医では35%
・小児に対する気道確保の原則は成人とほぼ同じ
◦年齢や体格により使う薬剤量やデ
バイスが異なるためlength-based resuscitation tapeを使うとよい
・
小児は機能的残気量が少なく、酸素代謝が成人よりも高い
→低酸素血症をより早期に発症しうる
・小児に対してもRSIを行うことで挿管成功率を改善するとされている
・ERにおいてapneic oxygenationは挿管中の低酸素血症リスクを低下させる
・小児症例では9%がdifficult airwayと報告あり
◦舌/扁桃腺/アデノイドや後頭部が大きく、上気道閉塞につながりやすい
◦大きく軟な喉頭蓋や喉頭が比較的近くにあることから声門を観察しづらい
肥満
・肥満患者では気道管理においてリスクが高いことがわかっている
・予期される気道困難の管理と同様の原則で行う
・安全性を高めるには以下に留意する
◦無呼吸状時の酸素供給を十分に行う(apneic oxygenation)
‣肥満患者へのapneic oxygenationはまだ議論がある分野ではあるが
◦助けを呼んでおく
抜管
・気管挿管に比較して抜管については比較的文献が少なく扱いにくい分野である
・抜管は待機的処置になるため注意深い準備をすべし
・Difficult Airway Society of the United Kingdomから抜管ガイドラインが策定された
◦周術期用に作成されたが、基本的な原則はICUでも適用可能
◦安全な抜管の目的…酸素供給を中断しないこと/抜管に失敗した場合の再挿管のbackup planをもつこと
・抜管不成功のリスク因子
◦気道浮腫や分泌物による解剖学的気道閉塞
◦体液過多や機能的残気量低下などの心肺的な問題
・再挿管困難のリスク因子
◦上気道手術
・必ず以下の質問に答えられるようにすること
◦抜管が安全かどうか
◦抜管を延期することが安全かどうか
◦気管切開を行うことが安全かどうか
・airway exchange catheterは再挿管リスクがある患者での抜管時に使用することが推奨されている
◦抜管に失敗した場合にはこれを介して即座に再挿管可能
◦さらにビデオ喉頭鏡を併用することで再挿管率を改善させられる
・airway exchange catheterから酸素を持続的に投与することによる圧損傷とそれに伴う死亡の報告があるため、これを介したルーチンでの酸素投与は推奨されない
◦上記の代わりにフェイスマスクやHFNCからの高流量酸素を投与すべし
(
N Engl J Med. 2021 May 13;384(19):1836-1847.より作成)
まとめ
・difficult airwayが予測されない場合にはRSIを選択せよ、挿管成功率が上昇する
・difficult airway予測にはupper lip bite testやmodified LEMON scoreが使える
・とはいえ、ベッドサイドで行われるスクリーニングテストはどのような組み合わせであっても気管挿管困難患者を見落とす可能性があり、万能ではない
→全ての症例に対して困難な状況になっても対処できるように準備しておくこと
・気管挿管前には準備が必要、「STOP-MAID」でもれをなくせ
・挿管中の低酸素血症は合併症や不良な予後に関連するためpreoxygenationはしっかりと行うこと
・apnic oxygenationは積極的に行うこと、HFNCとリザーバーマスクを組み合わせる
・低酸素血症が強い場合や興奮してpreoxygenationがうまくいかないときにはDSIを選択せよ。筋弛緩薬の投与はいったん見送って鎮静薬で酸素化を補助する
・前投薬、鎮静薬、筋弛緩薬についてそれぞれの使用薬剤の利点と弱点を知っておく
・複数回の気管挿管と、低酸素血症/気道外傷/心停止などの有害事象との間には強い関連性がある(なるべく一発で決めろ!)
・うまくいかない方法に固執しないこと、いろいろなbackup planを用意して試すこと
・“Cannot Intubate, Cannot Oxygenate”の状況では外科的気道確保の準備をしつつ、試していない手技を全て試みる/筋弛緩を十分に効かせるなど行うこと
・ビデオ喉頭鏡を使用することで初回挿管成功率が上がるかも。でも唾液や吐物があると使いづらい。
・挿管が難しいときにはその他のデバイス(声門上デバイス、ブジー)、輪状甲状靭帯切開を選択。
・「ケタミン使用で頭蓋内圧上昇」は明確な根拠なし!外傷で必要な際には積極的に使用してよい
・小児は低酸素血症をより早期に発症する。積極的なapnic oxygenationをせよ
・肥満はリスク!difficult airwayの中でも肥満は特に重要で、訴訟にもなりやすい
・抜管に際しては抜管不成功/再挿管困難のリスク因子について考え、十分な準備を怠らないこと