りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

case149:殴られてから目が見えなくなった男性(Ann Emerg Med. 2021 Jun;77(6):649-656.)

病歴/身体所見

・58歳男性
・既往歴:双極性障害、アルコール使用障害
・暴行を受けてから両目の視力が低下したことを主訴にER受診
・右瞳孔は前眼部が濁っており、完全に視力喪失していた

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検査

・POCUSにより左眼球後方に可動性のある楕円形の高エコー域を認めた

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診断

外傷性水晶体脱臼

 

眼科医の診察を受け、緊急手術となった。
 
 
・水晶体脱臼は眼科救急の1つ
 
外傷で最も多くEhlers-Danlos症候群/ホモシスチン尿症/Marfan症候群/Weill-Marchesani症候群などでも認められる
(J Emerg Med. 2015 Jun;48(6):e135-7./Am J Emerg Med. 2013 Jun;31(6):1002.e1-2./Clin Anat. 2018 Jan;31(1):6-15.)
 
・前方水晶体脱臼は急性緑内障予防のために緊急手術の適応
(Middle East Afr J Ophthalmol. Jan-Mar 2015;22(1):129-30.)
※本症例は後方脱臼でしょうか
 
・CTによって適切な診断は可能であるが、POCUSは同等の検出率でより迅速に可能
(JAMA Netw Open. 2020 Feb 5;3(2):e1921460.)
 
 
ちなみに、これは水晶体の前方脱臼でしょうか。

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( N Engl J Med. 2014 Apr 3;370(14):1343. )
普通見えるはずのない水晶体が虹彩より前に出てきているためにその全貌が明らかになっています。
この人は運動をしていて急に目が痛くなって水晶体脱臼したそうです。
なにか基礎疾患があったのでしょうか。
 
 
眼球の鈍的外傷は非常に軽微に見えたとしても、実は意外と損傷があることが多く、個人的には大丈夫と思っても、後日眼科フォローしていただくことにしています。
前房出血や硝子体出血、網膜剥離なんかは軽微な症状のことがあってよく見落とされることがある疾患です。
 
 
眼球の鈍的損傷は苦手としていますし、眼科医以外はあまり得意な人はいないかもしれませんが、たとえば、最低限以下のような所見をチェックして疾患を想定しておくとよいと思います。
 
・眼球破裂が明らか/seidel sign陽性…眼球破裂疑い
 ◦目を保護してそれ以上の検査中止、眼科コンサルト
・眼球突出…球後出血
・眼球運動障害…眼窩底骨折
・瞳孔不同…外傷性縮瞳または散瞳、虹彩離断など
・RAPD陽性…視神経損傷、網膜剥離、硝子体出血など
・前房に二ボー/寝てると目が曇るけど起きるとスッキリ…前房出血
・視力障害…水晶体脱臼、硝子体出血、網膜剥離など
・眼圧上昇…急性緑内障
・眼圧低下…眼球破裂(ほんとはやっちゃいけない)

 

 

外傷性散瞳、前房出血はこちら

appleqq.hatenablog.com

 

RAPDの復習はこちら

appleqq.hatenablog.com