病歴/身体所見
・83歳男性
・航空機内で発症した呼吸不全と重度低血圧のためERへ搬送された
・著明な腹部膨隆を認め、腹痛を訴えていた
検査
・CXR:著明な結腸拡張と、左横隔膜挙上/左肺虚脱/右側への心臓と気管の偏位を認めた
次の一手は?
・ショックと呼吸不全が著明であったため即座に手術室に運ばれた
診断
慢性特発性偽性腸閉塞(Chronic idiopathic intestinal pseudo-obstruction:CIIP)
・大腸全摘術と左横隔膜形成術が施行され、肺再膨張が得られ、血行動態も安定化した
・上大静脈のねじれを伴う「腹部」タンポナーデに至っていた
・血行動態不安定のためERにおける内視鏡的減圧は行われなかった
・CIIPは、器質的/全身性/代謝性疾患がないにも関わらず、腸閉塞の症状と徴候を呈する消化管運動障害の増悪を特徴とする症候群
(Gut. 2004 Nov;53(11):1549-52./Clin Gastroenterol Hepatol. 2005 May;3(5):449-58.)
・腸管/外因性神経系/腸管平滑筋の機能不全により食欲低下→経腸栄養や経静脈栄養依存、まれに心肺合併症を呈することがある
(Clin Gastroenterol Hepatol. 2005 May;3(5):449-58./Clin Gastroenterol Hepatol. 2006 Jul;4(7):866-73.)
・保存的なマネジメントが成功することもあるが、50-70%では外科的介入を要する
◦薬物治療への失敗や重篤な合併症発症のため
(Gut. 1997 Jul;41(1):93-9./Br J Surg. 2001 Oct;88(10):1392-6./Ann Surg. 2005 Apr;241(4):562-74.)
ここまですごい大腸拡張は見たことがありません!術者も心なしかテンションあがってそうですよね!
「腹部タンポナーデ」(=腹部コンパートメント症候群:ACS)により著明な低血圧となっているためその解除にいかに早くいけるかがポイントです。
まとめ
・慢性特発性偽性腸閉塞は、消化管を閉塞させる器質的な異常がないにもかかわらず著明な消化管運動障害をきたす疾患
・腸閉塞様の症状を呈し、慢性的な経腸栄養/経静脈栄養や心肺疾患の原因となりうる
・保存的加療も可能だが、半数以上の症例で外科的介入を要する
・腹部コンパートメント症候群を呈するときには特に迅速な外科的介入が必要である