りんごの街の救急医

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症例67:2年間右口唇に疼痛を伴う皮疹が出現していた40歳女性(BMJ. 2020 Oct 1;371:m3390.)

病歴/身体所見

・40代女性
2年間、右下口唇の同じ位置に繰り返す疼痛があるため受診
 ◦いつも同じ場所で変わらないという
 ◦おおよそ1カ月に1回程度出現
 ◦掻痒感を伴うことがあり、潰瘍や水疱形成することがあった
 ◦すべて3-5日間ほどで自然改善
・アレルギーなし
片頭痛発作があるとparacetamolとibuprofenを内服している
醸造所勤務で、テイスティングの一環として月に約1杯のジントニックを飲む
 

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口唇粘膜の潰瘍形成

 

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赤色口唇の腫脹(赤矢印)、皮膚への色素沈着(青矢印)

 

 

 

鑑別診断は?

HSV感染症、細菌感染症、固定薬疹、ベーチェット病など
 
・Swabによる検査ではHSVや細菌は検出されなかった
 
・paracetamolとibuprofenを休薬してもらったが皮疹は出現し続けた
 
当初はジントニックを飲んでから5-7日後に病変が出現していたが、現在ではジントニックを飲んでから1日以内に病変が出現することに気づいたという
 
 

最もらしい診断は?

固定薬疹の可能性が高い
 ◦毎回同じ部位で発症する
 ◦色素沈着が残存している
 
・ibuprofenとparacetamolを中止したにも関わらず再発したことから、トニックウォーターに含まれるquinineによるものが考えやすい
 ◦トニックウォーターに含まれる別の成分が原因の可能性もあるが、quinineは固定薬疹の原因として認識されている物質のためより可能性が高い
(J Allergy Clin Immunol Pract. Jul-Aug 2014;2(4):469-70./Br J Dermatol. 1974 Sep;91(3):359-62./Am J Hematol. 2016 May;91(5):461-6./Clin Exp Dermatol. 2010 Apr;35(3):e83-4.)
 
 
 

確定するための検査は?

・固定薬疹の診断には、組織病理学的検査よりも経口チャレンジテストとパッチテストが有用性が高い
 
パッチテストは患部に直接行った場合にも陰性になる可能性がある
(Am J Clin Dermatol. Sep-Oct 2000;1(5):277-85.)
 
経口チャレンジテストが最も信頼性の高い検査であるが、より重症かつ紅斑な固定薬疹を誘発する可能性があることに注意を要する
 
 

最終診断は?

固定薬疹
 
・背中でparacetamol, ibuprofen, quinineに対するパッチテストが実施されたが陰性
 
・口唇でのパッチテストも試みたが部位的に保持しづらく断念した
 
トニックウォーターを200ml内服してもらったところ、口唇に30分以内にチクチクした感覚を自覚し数時間で潰瘍形成した
 ◦hydrocortisone投与により1-2日以内に改善した
 
キニーネを避けるよう指導したところ、再発はなく経過した
 
 
 
 
・固定薬疹は薬剤により誘発される同じ部位に病変を繰り返す薬疹と定義される
(Am J Clin Dermatol. Sep-Oct 2000;1(5):277-85.)
 
・固定薬疹は毎回同じ部位に発症し、しばらく色素沈着を残すことが特徴
 ◦ただし、エピソード間に消失する
 
・固定薬疹はしばしば複数部位に発症するが、単一部位のみのことがある
(Int J Dermatol. 1998 Nov;37(11):833-8.)
 
最初の感作には数日~1週間程度かかることがあるが、繰り返しの曝露により摂取後30分~数時間以内に発生するようになる
(J Allergy Clin Immunol. 2012 Nov;130(5):1225-1225.)
 
 
 
職業歴が診断の決め手になりました!
鑑別を挙げた上で職業歴を聞くとピンときますね。
 

まとめ

・固定薬疹は口唇のみに出現することがあり、HSV感染症と誤診されることがある
・固定薬疹はトニックウォーターキニーネで発症することがある