病歴/身体所見
・31歳男性
・特に既往歴なし
・20時間前にワイン2Lを飲んでからめまいが出現
・そのまま腹臥位で寝て起きたところ、右上肢の腫脹/疼痛が出現
◦右手関節と手指の可動域制限と感覚鈍麻を自覚
・最近の外傷、激しい運動、違法薬物使用、感染症罹患などはなかった
・患者にsickな印象はなかった
・右上肢の腫脹と緊満、圧痛を認めた
◦右上腕動脈触知はできた
◦上肢の皮膚温は正常
◦触覚は鈍麻していた
◦手指は全て可動域制限があり、触覚鈍麻を認めた
・手指を他動的に伸展させると激痛が生じた
検査
・血液/尿検査…CPK 66,549U/L, ALT 185U/L, AST 676U/L, LDH 2,293U/L, 尿潜血 3+, 尿ケトン体 2+
・ECGやCXRでは異常を認めなかった
診断
横紋筋融解症、右上肢compartment症候群
・緊急手術となった
◦右上肢にS状縦切開による筋膜切開が行われた
◦上腕二頭筋が暗赤色となっており、電気刺激によっても筋収縮が見られなかった
◦その他の筋群に壊死組織は認めなかった
・縫合はされず、VSD(閉鎖式負圧吸引術)が実施された
・第7病日、右上腕部に壊死組織が出現したためデブリドマンが実施された
・compartment症候群は、外傷により引き起こされる、compartment内圧上昇と組織の微小灌流低下による症状/徴候が出現する
(Open Orthop J. 2012;6:535-43.)
・copartment症候群は四肢への外傷により発症する
◦特に前腕と下腿の長管骨骨折によることが多い
(BMJ. 2002 Sep 14;325(7364):557-8.)
・以下の"5P"のうち3つがあるとコンパートメント症候群発症の可能性は90%以上
◦pain out of proportion…見た目以上に強い疼痛
◦pallor…蒼白
◦paresthesias…知覚異常
◦paralysis…麻痺
◦pulselessness…無脈
(Crit Care Nurs Clin North Am. 2012 Jun;24(2):261-74./J Clin Orthop Trauma. Oct-Dec 2016;7(4):225-228.)
・ただし、これらが揃うのを待つのは感度が低く、これらの症状が出現してからではすでに虚血による壊死が進行しており手遅れ
◦初発症状は知覚鈍麻であり、これがある場合には強く疑うこと
(J Orthop Trauma. 2002 Sep;16(8):572-7.)
・他動的に筋肉を収縮させると疼痛が増強することは疑うヒントになる
・横紋筋融解症はコンパートメント症候群の合併症のひとつ
◦筋骨格金損傷による細胞内物質が循環系へ放出されることに起因する
◦ミオグロビン尿/電解質異常/急性腎障害が主徴候
(World J Emerg Med. 2019;10(1):27-32.)
・横紋筋融解症の治療は、以下の3つが重要なポイント
◦さらなる骨格筋損傷を防ぐ
◦急性腎不全発症を防ぐ
◦致命的な高カリウム血症を予防/治療する
(Clin Biochem. 2017 Aug;50(12):656-662.)
泥酔の結果、実に20時間も寝ていたんですね。
泥酔で20時間…、はあまりないかもしれないですが、20時間以上自宅内で倒れてた人はざらに来院されますのでそういった方に対してcompartment症候群を来していないか、その目で検索しないといけません。
まとめ
・compartment症候群は前腕と下腿の長管骨骨折に起因することが多いが、本症例のように長時間の圧挫による発症もある
・compartment症候群は5Pが有名だが、知覚鈍麻が初発症状のため、すべて揃うのを待ってはならない
・他動的に筋肉を収縮させることで疼痛が増強することは疑うヒントになる