りんごの街の救急医

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症例53:腹痛と嘔吐が続く80歳男性(Ann Emerg Med. 2021 Jan;77(1):e68-e69.)

病歴/身体所見

・80歳男性
・高血圧とパーキンソン病のため通院している
2日間持続する嘔吐と腹痛のためER受診
・バイタルサインに異常はない
 

検査

・血液検査…軽度の貧血(Hb 11.4g/dL)、低K血症(K 3.1mmol/L)

 

・腹部単純レントゲン

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著明な胃拡張を認める

 

・腹部超音波とCTが実施された

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Bモード(左)とDoppler(右)による腹部大動脈瘤(直径6.46cm)

 

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腹部大動脈瘤(*)と上腸間膜動脈(矢頭)により圧迫され重度に拡張している胃と十二指腸(矢印)
 
 
 
 

診断

腹部大動脈瘤による上腸間膜動脈症候群
 
・経鼻胃管挿入を行い、大量の胆汁性排液をドレナージして減圧した
・手術目的で救命センターに転院となった
 
 
SMA症候群は別名Wilke症候群として知られる、近位小腸閉塞のまれな原因の1つ
(Ann Gastroenterol. 2011;24(1):59-61.)
 
腹部大動脈と上腸間膜動脈による十二指腸水平脚の圧迫が特徴的
 
腸間膜脂肪の喪失に起因し、これにより大動脈と上腸間膜動脈の形成する角度が減少する
 ◦Ao-SMA角が25度以下、Ao-SMA間距離が8mm以下になると診断的
(Ann Gastroenterol. 2011;24(1):59-61./J Intern Med. 2005 Apr;257(4):346-51./Diagn Interv Radiol. 2005 Jun;11(2):90-5.)
 
・大動脈上腸間膜動脈角の狭小化の原因として急激な体重減少が挙げられる
 ◦悪性腫瘍
 ◦重症熱傷/外傷
 ◦吸収不良症候群など
(Ann Gastroenterol. 2011;24(1):59-61./J Emerg Med. 2017 May;52(5):e199-e200.)
 
・まれではあるが腹部大動脈瘤が徐々に拡大することでSMA症候群を発症しうる
 ◦大動脈瘤治療により大動脈上腸間膜動脈角を広げ、SMA症候群の根治治療になる
(J Emerg Med. 2017 May;52(5):e199-e200./Ann R Coll Surg Engl. 2010 May;92(4):356.)
 

 

持続する嘔吐の原因としてあまり頻度は高くないですが、SMA症候群にはときおり遭遇します。
たいていは虚弱高齢者ですが、ボディビルダーのように脂肪を少なくするようなトレーニングをしている筋肉質な男性でも遭遇したことがあります。
 
 

まとめ

・持続する嘔吐の原因としてSMA症候群を鑑別に挙げる

・SMA症候群は腸間膜脂肪の減少に起因し、急速な体重減少があるような患者には疑いをもつこと

・Ao-SMA角が25度以下、Ao-SMA間距離が8mm以下になると診断的

・腹部大動脈により腸閉塞を発症しうり、根治治療は大動脈瘤修復による