りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

Refeeding症候群

アルコール使用障害や精神疾患認知症含む)などを背景に、

何日も食事摂取ができず、まるで屋内行き倒れのような状態で救急搬入される患者さんは非常に多く経験すると思います。

 

ERは「社会のセーフティネット」としての側面も持つため、

これらの患者さんへの対応はよく知っておきたいところです。

 

まぁなんていうか、

治療の順番は通常はA→B→C→D→Eですが、

彼らに対してはEの異常を最初に対応することが必然多くなります。

(察してください)

 

ERでABCDEを整えたら、入院後はF:Feedingへの介入が必要です。

 

そこで問題となってくるのがRefeeding症候群です。

病棟管理に必須知識なので確認をしておきます。

 

 

 

疫学

栄養不良/低栄養状態(Malnutrition)は慢性疾患の内科的入院患者に頻繁に見られ、入院期間の延長や合併症発生率/死亡率の増加などとの関連がある
入院加療を必要とする患者の30%以上が栄養リスクを抱えているとされる

・慢性疾患は炎症による異化亢進により、食事摂取量の減少や意図しない体重減少を引き起こす
・ADL低下や高度な炎症および内分泌的なストレス反応などが関連して栄養状態がさらに悪化し、筋肉量の減少や代謝/機能状態の悪化が進行する

・このような患者群への不適切な栄養介入がされることで、臨床状態が悪化することがある
・例えば、1回の高脂肪食により血管内皮細胞の活性化と機能障害が誘発され、TNF-α活性化により心血管リスクが増大することが報告されている

・RFSは重度の栄養障害で異化が亢進している患者における、栄養投与後に生じる生命を脅かす代謝性合併症とされており、慢性疾患患者でより発生頻度が高い
・Naおよび体液の貯留と臓器障害を伴う電解質異常が特徴とされる
 ◦Vit.B1欠乏が臨床像に影響を与えることもある

・研究対象集団にもよるが、RFSの発生率は15-30%程度とも報告されている
 ※ただし、普遍的に使用可能な定義がないため真の発生率は不明
 
・栄養療法のオーダーメイド化の認識は高まっているが、それにより生じる有害事象については十分な知見の蓄積がないのが現状である

病態生理

・RFSに至る正確なメカニズムはよくわかっていない部分もある
 
・一般的には代謝状態の変化に伴う生理的反応であると考えられている
 

 
・異化(絶食/ストレス/炎症など)が起きているときには、細胞内イオン(K/P/Mg)やNa、微量元素などが失われていく
(いろいろ欠乏状態)
 
栄養療法が始まるとグルコースが入り、それによりインスリン刺激が起きる
 →グルコース電解質の細胞内移動/腎排泄の減少によるNaと水の保持が起きる
 →低P血症/低K血症/低Mg血症と細胞外液量の過多が生じる
 
・さらに解糖系やTCA回路に必要なチアミンは、飢餓状態では貯蔵量が少なく、糖代謝が促進されることで急性欠乏症に陥る可能性がある
 →結果的に乳酸が生成されてグルコース代謝が損なわれ、乳酸アシドーシスが発生
 
・重症患者で高血糖が起きると、superoxideの過剰産生が誘発されうる
 →心臓/呼吸器/血液/肝臓/神経筋系に悪影響を及ぼし、合併症発生につながる
 
 
ちなみに、チアミンと乳酸の関係性については以下の記事を参照してください。

appleqq.hatenablog.com

概説:グルコース代謝に関与する酵素は2種類あります。

➀ピルビン酸脱水素酵素PDH:pyruvate dehydrogenase

②α-ケトグルタル酸脱水素酵素α-KGDH:α-ketoglutarate dehydrogenase

そして、いずれもチアミン依存性酵素です

 

チアミンが欠乏することにより、上記2種類の酵素が働かなくなる
→回路が回らず、ATPの合成が低下+中間体である乳酸が蓄積(高乳酸血症)
という機序です。
 
なので、よくわからん乳酸アシドーシスがあるときにはひとまずチアミンを大量投与するということもしばしば行っています。
 
 

臨床的側面(定義など)

・RFSの普遍的な定義は存在しない
 
・診断は、栄養療法開始から72時間以内に発生する電解質異常に基づくことが多い
 ◦多くの研究では低P血症がRFSの特徴として捉えられている
 
・飢餓状態の患者に対する栄養療法の開始は、リン以外にも様々な細胞内イオンレベルを変化させることにつながる
 ◦リンだけでなく、そのほかの電解質異常も含めるべきという声明がある
・2020年のASPEN Consensus Recommendations for Refeeding Syndromeでは、RFSの定義には電解質(リン/カリウム/マグネシウム)のうち1つ以上の低下またはチアミン欠乏による臨床症状があることとされている
 
それぞれが欠乏することで起きる症状/徴候は以下の通りです。

重症患者の電解質低下はRFSというより、もともとのintake不足による結果である可能性もあるということで、imminent RFSとmanifest RFSが提唱されたそうです。
 
・imminent RFS:重度の電解質異常が生じる
・manifest RFS:上記に加えて、臨床症状も呈する
 ◦肺塞栓が除外された上で、頻脈/頻呼吸/末梢性浮腫が主な症状となる
 ◦その他に、神経筋機能低下/不整脈/心不全/脳症/神経障害/消化器症状などがありえる
 

 
manifest RFSが真のRFSということになりますが、imminent RFSも同様に扱うべきと思うので、臨床的にそこまで区別が要らないと思いますがどうなんでしょうか。
 

リスク層別化

・RFSの発症は、栄養開始から数時間以内に起きうるためリスク層別化をし、予期しておくことが予防の第一歩となる
 
・リスク因子として以下は重要
 ◦重度の栄養不良
 ◦電解質チアミンを十分に補充せずに始めた過剰栄養療法
 ◦アルコール使用障害、消化器疾患、偏食や拒食など
 

予防対策

・RFSの管理および予防のための標準化されたアルゴリズムが専門家グループにより提案されている
 

 
重要なポイントは以下の通りです。
 
・リスクがある患者では、栄養療法はエネルギー制限せよ
 ◦リスク分類に基づいて5-10日間かけて増量する
・脱水への対処、予防的な電解質やビタミン補給を考慮
・栄養療法開始から72時間は電解質を毎日モニタリングする
 ◦電解質の低下がある場合には1日量を調整して補充すること
  ‣K 1-1.5mmol/kg/day
  ‣Mg 0.2-0.4mmol/kg/day
  ‣P 0.3-0.6mmol/kg/day
チアミンマルチビタミンを補充すること
・鉄剤により低K血症と低P血症が悪化する可能性があるため、顕性鉄欠乏症であっても栄養療法開始から7日間は投与を控えること
Eur J Clin Nutr . 2014 Apr;68(4):531-3.)
 
あまりICUで使うことはありませんでしたが、
鉄剤と電解質異常については知りませんでした。
 
 
●初期カロリー
・栄養療法開始から24時間はブドウ糖100-150gまたは10-20kcal/kgで開始
・1-2日ごとに目標値の33%ずつ増量する
電解質異常があるRFS moderate-high risk群では、電解質補充がされるまたは正常化するまで栄養療法の開始または増量を控える
ブドウ糖含有液からのカロリーは、上記目標カロリーの範疇で考慮すること
 
●水分/Na/タンパク質の制限
・言及なし
 
・high risk群では、最初の3日間は12時間毎にモニタリングする
・栄養療法開始から電解質が急激に低下した場合には、カロリーまたはブドウ糖量を50%減量する
 ◦臨床症状に基づいて1-2日ごとに目標値の33%ずつ増量を検討
・重度の電解質異常がある場合には栄養療法の中止を検討する
 
・重度の栄養障害/慢性アルコール中毒などではチアミン≥100mg/dayを5-7日間補充する
・経口経腸栄養を受けている患者ではマルチビタミンを1日1回10日間以上投与する
 
●モニタリング
・high risk群では、栄養療法開始から24時間は4時間毎にバイタル測定をすること
・不安定または重度の栄養障害がある患者には、心電図モニタリングが推奨される

(Nutr Clin Pract . 2020 Apr;35(2):178-195.)

 

RFSはほとんど予防に全振り疾患です。

入院時点~24-48時間以内にできるだけ早く栄養状態をスクリーニングすることが主な国際学会より推奨されています。

 

マネジメント

・入院患者におけるRFSと有害事象との関連はEFFORT試験の二次解析で明らかにされた
 ◦長期死亡率や、ICU入室リスク増加/入院期間延長などの臨床的有害事象と有意に関連することがわかった
 
・それにもかかわらず、RFSのマネジメントについては確固としたエビデンスがない(RCTはわずか)
 
・ある多施設共同RCTによれば、重症成人RFS患者管理の際にはカロリー制限を行うことの有益性が示されている
 ◦栄養療法開始から72時間以内に低リン血症(<0.65mmol/L)を発症した患者339人を対象
 ◦refeeding症候群治療中にカロリー制限をすることで全生存率および60日死亡率が有意に改善された
 ◦カロリー制限群では、主要な感染症/下気道感染症の発生率が有意に減少した
 ※少なくとも2日間はエネルギー摂取量を20kcal/hrに減量
  →リン補充を行なった後に2-3日かけて通常摂取量に戻した
Lancet Respir Med . 2015 Dec;3(12):943-52.)
 
・上記の知見は、その後に行われた337人の重症患者を対象としたretrospective studyでも確認された
 ◦カロリー制限群(refeeding症候群発生から3日間は目標エネルギーの50%未満を摂取とし、その後は1日ごとに目標エネルギーの25%を増加)は、対照群(目標カロリーの50%以上を摂取)と比較して、180日生存率が改善/入院期間が短縮する傾向を認めた
Clin Nutr . 2018 Oct;37(5):1609-1617.)
 
もしもRFSを発症してしまった場合には、
カロリー制限をして電解質を立ち上げるくらいしか治療はなさそうです。
 
カロリー制限はどのくらいすればよいかはまだ明確なエビデンスはありません。
いったん中止してしまうのがよいのではと思いますが。
 
大事なのは、発症を予防することと、発症した場合にはそれを迅速に察知できるようにモニタリングを綿密にすることでしょうか。
 

モニタリング

栄養療法開始から10日間はリスクが高い状態が続くため、集中的なモニタリングを行うことが推奨される
 
 
・体液過剰や臓器不全などの初期徴候を検出するには、バイタルサイン/volume status/生化学検査などが必須
 ◦体重増加…0.3-0.5kg/dayの増加は病的な体液貯留の可能性がある
  ‣第1-3病日は毎日体重測定を行うこと
  ‣第4-6病日は2日おき、第7-10病日には1-2回/週でよい
 ◦very high risk群や重度の電解質異常(K<2.5mmol/L, P<0.3mmol/L, Mg0.5mmol/L)では、重度の不整脈やQT延長、TdP出現リスクがある
  ‣最初の3日間は連日心電図検査を行うこと
 

まとめ

・Refeeding症候群の普遍的な定義はない

電解質(リン/カリウム/マグネシウム)のうち1つ以上の低下またはチアミン欠乏による臨床症状があることと考えておくとよい

・マネジメントについてはその合併症発生率や死亡率の高さとは裏腹に、あまりエビデンスが存在していない

・そのため、出来る限り早期にリスク層別化を行なった上で、予防策を敷くことが重要である

・栄養療法開始後は綿密なモニタリングを怠らないこと

 

参考文献

Nutrients . 2022 Jul 12;14(14):2859. open access

Nutr Clin Pract . 2020 Apr;35(2):178-195. ASPENガイドライン

https://www.udem.insel.ch/de/lehre-und-forschung/forschungsschwerpunkte/ernaehrungsmedizin/wichtige-abbildungen

図はここから。めっちゃきれいでわかりやすい。