りんごの街の救急医

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重症喘息発作への対応(Am J Emerg Med. 2020;S0735-6757(20)30171-6.)

気管挿管を要するような喘息発作にはめったに遭遇しませんが、

それなりに重症な患者には遭遇します。

 

重症患者に対峙したときにどれだけ手持ちの武器があるかで戦い方が変わります。

 

今回は重症喘息発作への対応について学びます。

 

SABA吸入、ステロイド投与くらいで止まっていませんか?

その次の手はなにかありますか?

 

Long B, Lentz S, Koyfman A, Gottlieb M. Evaluation and management of the critically ill adult asthmatic in the emergency department setting.

Am J Emerg Med. 2020;S0735-6757(20)30171-6.

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重症喘息発作とは

以下を満たす患者を重症と定義しています。

・バイタルサインの異常…頻脈、頻呼吸など
・SpO2<90%
・会話不能または数語単位でしか話せない
意識障害、特に興奮状態
・中等度~高度に呼吸補助筋を使用している
・全呼吸でwheeze聴取または呼吸音の低下
・EtCO2>35mmHg
 

初期対応フローチャート

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酸素投与

低酸素は危険!あまりケチらず積極的に投与する。
 
たまに誤解がありますが、低酸素血症は高二酸化炭素血症よりも危険です。
低酸素血症があれば存分に酸素投与を行いましょう!
 

輸液

・喘息患者はしばしば脱水症を合併している
 ◦呼吸による喪失や経口摂取量の減少などによる
 ◦血圧は正常~上昇していることが多いが(内因性+外因性)アドレナリン作用による
  ‣挿管やNIPPV使用により血圧は下がる
 →重症喘息では経験的静脈内輸液を行う必要がある
 

SABA

喘息治療の第一選択薬…細気管支平滑筋弛緩作用がある
 ◦albuterol(日本ではsalbutamol)が最もよく使用される薬剤
 ◦作用発現まで数秒~数分程度、ピークは30分後、半減期4-6時間
 ◦重症の場合にはalbuterol 10-20mg/hrで持続吸入(または3回に分けて吸入)することが推奨される
  ‣入院治療の必要性を低下させる…NNT10
 
・β-agonists吸入により半数の患者で乳酸≧2mmol/Lの上昇がありえ、4mmol/L以上になる患者も存在する
 ◦細胞代謝の変化が原因とされている
 

抗コリン薬

・Ipratropium bromide…肺胞平滑筋のムスカリン作動性アセチルコリン受容体を阻害することにより気管支拡張作用がある
 ◦しばしば重症喘息患者ではalbuterol吸入と組み合わせて使用される
 ◦作用発現まで15分程度、ピーク60-90分、半減期4-8時間
  ‣SABAに比較して作用発現が遅いが作用時間は長い
 ◦最初の1時間は0.5-2mgを吸入する
 
SABAに抗コリン薬を加えることにより肺機能を改善し、入院を減少させる効果あり
 ◦特に重症の場合にはNNT10
 

アドレナリン

・喘息やCOPD急性増悪に対する治療法として認識や使用があまり認知されていない薬剤だが、専門科によってはfirst line agentとして強く推奨している
 
他の治療への反応性不良であったり吸入もできないような重症の場合には、β-agonisitは皮下注(SC)/筋注(IM)/静注(IV)の形態で投与されうる
 
・terbutalineはSCとして最も投与されうる薬剤
 ◦患者の予後改善効果は証明されていない
 
重症/難治性喘息発作ではepinephrine 0.3-0.5mg IMを投与可能
 ◦特に、低血圧/呼吸不全かつアドレナリン作用により皮膚灌流低下している場合にはSCよりもIMが好ましい
 ◦低血圧/IMにも難治性の場合にはIVも考慮される
  ‣IVの場合には、5-20mcgを2-5分毎に投与
  ‣IVに引き続き、0.1-0.5mcg/kg/minで持続静注も考慮され、症状に応じて増減
 
・副作用の心配がされることがあるが、文献的には心血管/神経的副作用を増加させることは示されていない
 ◦気管支攣縮を減らすことで頻脈/高血圧を減らす効果が得られうるし、肺機能改善も望める
 ◦高齢者でも大丈夫!
 
・吸入アドレナリンは以前、気道浮腫軽減目的で使用されていたがβ-agonist吸入以上の効果は期待できない
 
個人的には、アドレナリン筋注は重症患者には結構初期から使ってしまっています。
吸入を用意するまでの間に筋注してしまうこともしばしばあります。
みなさんはいかがでしょうか?
 

マグネシウム

気管支平滑筋弛緩作用がある
 ◦気道平滑筋細胞へのCa流入を防ぎ、adenylate cyclaseを活性化することによる
 
・使用に関してはcontroversialではあるが、重症なら使ってみてもよい
 ◦重症喘息においてはMg静注により肺機能改善、入院率減少効果が報告されている
 ◦死亡率改善やNIPPV/挿管などの介入を減らす効果は示されていない
 
・Magnesium sulfate 2gを20分以上かけて点滴静注
 ◦2回まで繰り返し投与可能
 
・Mg吸入については小児患者では有益性が報告されているが、成人では報告は限定的
 

ステロイド

・炎症性メディエーターを抑えて気管支の炎症をおさめ、β受容体のupregulationを起こして肺機能を改善させる
 
ガイドラインでは、以下の患者に対しての使用が推奨されている
 ◦中等症~重症
 ◦初回SABA吸入に反応しない
 
・作用発現自体は通常6時間以内とされているが、重症の場合には初期(特に治療開始1時間以内)に投与することで入院率を低下させる効果が複数報告されている
 
・投与により治療失敗を50%以上低下させる…NNT 9!
 ◦30日増悪率や病院滞在時間を減少させる
 ◦死亡率低下は望めない
 
・投与経路による治療失敗率や死亡率は有意差なし
 ◦bioavailabilityは非常に高いため、飲めるなら飲めばよい
 
重度の喘息発作/経口摂取不能/呼吸不全では経静脈的投与が推奨される
 ◦これらの患者ではしばしば内臓への低灌流があり、二次的なアドレナリン作用刺激も相まって消化管からの吸収率が低下する
 
・投与量はmethylprednisolone 80-125mg/day~0.5mg/kg q6h程度でよい
 ◦高用量240mg/day以上)で以下の副作用が増える
  ‣高血糖、ミオパチー、不安/せん妄、高血圧、感染症増加、消化管出血
 ◦高用量投与しても病院滞在期間短縮/挿管率減少/呼吸機能改善の効果はない
 
・投与期間は5日間~8週間
 ◦REDUCE trialによると短期間は長期間と非劣性
 

抗菌薬

・喘息発作の原因となる呼吸器感染症はほとんどがウイルス性
 
・喘息発作に対する抗菌薬投与については限定的なエビデンスのみ
 ◦CXRなどで肺炎が証明された場合にのみ投与を考慮する
 

NIPPV

・重症喘息でfirst line therapyに失敗した場合/呼吸回数>30回/分/著明な努力呼吸をしている場合には試す
 ◦”直接的気管支拡張薬”として作用する+PEEPで肺胞を開放させる
 ◦挿管必要率低下/換気改善/肺胞リクルートメント/換気血流不均衡改善効果/入院率減少/ICU病棟滞在時間短縮させるが死亡率を低下させることは示されていない
 ◦気管挿管に比較して院内肺炎発症率が低い
 
・このreviewの著者は、より病態生理と一致するためbilevel PAPを推奨している
 
初期設定はIPAP 8cmH2O、EPAP 3cmH2O
 ◦効果判定は30分以内に行う
 ◦小児と妊婦にも安全に使用できる
 ◦喘息治療では換気改善のためPSを増加させることが好ましいため、PEEPは維持してIPAPを増やすのがよい
 ◦1回換気量は少なくとも5cm3/kgを目標にする
 ◦分時換気量は4-5L/minを目標にする
 
 
NIPPVの禁忌
・顔面、食道の外傷や手術
・上気道閉塞
・分泌物過多
・非協力的な患者
・心停止、呼吸停止
 
・NIPPV使用中も吸入治療は続けること
 
二酸化炭素血症やpH<7.25、意識障害は禁忌には当てはまらない
 ◦ただし、特に意識障害の場合には頻回のモニタリングをする必要はある
 ◦高二酸化炭素血症や低酸素血症改善により意識障害が改善する可能性がある
非協力的な場合にはketamineやdexmedetomidineによるprocedural sedationが効果的な場合もある
 ◦ketamineは呼吸ドライブと気道反射を維持したたま鎮静できるため最適な薬剤
  ‣意識障害あり+挿管予定の患者のpreoxygenationの際にketamine投与をすることでSpO2を平均8.9%上昇させ、挿管を回避できた症例もあり
 ◦dexmedetomidineは呼吸数を維持しながら鎮静可能であり、気管支拡張作用があるが、その効果発現は10-15分とketamineに比較して遅い
  ‣bolus投与を行うと低血圧/徐脈の原因になるためしてはならない
 ◦これでもダメな時やNIPPVによる治療失敗の際には挿管する
 

HFNC

・NIVに耐用性がない/禁忌の患者に対して代替使用できる
 
・気道のdead space消すことができるが、一回換気量を大幅に改善させることはない
 
小児では有効性が示されているが、成人でのルーチン使用は現時点では推奨がない
 

ケタミン

first choiceの薬剤に対する反応が悪いときに適応になる
 ◦60秒で効果発現、ピークは7-11分、半減期が10-15分
 
・以下の効果があると報告されている
 ◦肺実質のNMDA受容体活性を抑制→気道攣縮と肺浮腫を抑制する
 ※NMDA受容体刺激では気道攣縮、肺浮腫を促進する
 ◦気管支攣縮に働くNO産生を抑制
 ◦マクロファージの遊走をブロック→サイトカイン産生を抑制
 ◦β-agonist再取り込み阻害を減少
 
・2013年のsystematic reviewでは、難治性喘息発作に対してketamineを投与することにより肺機能改善/酸素投与量減少/IPPV回避効果があることが報告
 ◦その他の研究でも同様の報告あり
 
・ketamineの投与方法には目的に応じて2種類ある
 ◦Subdissociative dose ketamine(気管支拡張作用)…重度の呼吸不全患者を覚醒状態かつ快適な状態に保ちつつ肺機能を改善する目的での投与
 ◦dissociative dosed ketamine(解離性麻酔)…NIPPVを使用する目的またはRSIへのつなぎとしての目的
 
・ketamineは気道分泌を増やし、一時的に呼吸仕事量を増やしうる可能性はあるため経過観察は慎重に行う
 

気管挿管

気管挿管は合併症/死亡率上昇と関連しており、気管挿管されてICU入室した患者の死亡率右は20%にも及ぶ
 ◦できる限り喘息発作に対する気管挿管は避けるべき
 
気管挿管の適応は以下
 ◦最大酸素投与量でもSpO2<90%
 ◦高二酸化炭素血症による徐呼吸
 ◦呼吸努力
 
挿管前にはnasal cannulaを使用してpreoxygenationを行うことや輸液負荷により前負荷を上げておくことが推奨される
 
・チューブは気道抵抗をなるべく減らすため、出来るだけ太いもの(8.0mm)が良い
 
・挿管時の鎮静にはケタミンプロポフォール
 ◦ケタミン…カテコラミンリリースにより気管支平滑筋を広げる
  ‣明らかに不整脈が出ているようなときには避けておきたい
 ◦プロポフォールも気管支拡張作用があるが低血圧に注意
 
・筋弛緩薬はサクシニルコリンやロクロニウム使用
 ◦ロクロニウムは使用量により作用発現時間や持続時間が変化する
 

人工呼吸器

呼吸器装着中も定期的な気管支拡張薬吸入を要する

 

permissive hypercapnia戦略で対応する

 ◦pH>7.15-7.20ほどの呼吸性アシドーシスは許容 

  ‣一回換気量と呼吸回数を制限

 ◦barotraumaを回避し、auto PEEPを減らす戦略

 ◦初期設定例

  ‣RR6‐10/min、一回換気量6-8cm3/kg、吸気流量80-120L/min

  ‣呼気時間を増やす…I/E比>1:4

  ‣PEEP 0-5mmHg

  ‣プラトー圧<30mmHgを達成すること

 

・ピーク圧高値かつプラトー圧正常→気道抵抗が強い

 ◦気道狭窄、粘液過多など→より積極的なβ-agonist治療が効果的である可能性

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・ピーク圧高値かつプラトー圧高値→コンプライアンス低下、過膨張など

 ◦気胸、ARDS、auto-PEEPなど考慮

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プラトー圧>30mmHgや流速波形の呼気が基線まで戻らない→auto-PEEPの可能性

 ◦呼吸回数を減らす、吸気時間を減らす、吸気流量を増やす、一回換気量を減らす

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・人工呼吸器装着中の状態悪化の際には以下のように対応すること

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ECMO

人工呼吸器を装着されているが、酸素化不良や難治性呼吸性アシドーシスがある場合に考慮

・いくつかの症例報告とretrospective studyでは、重症喘息での効果が報告されている

 ◦合併症発症率は65.1%(出血が最多で28.3%)であるため、適応は慎重に選ぶこと

 

投与薬剤のまとめ

薬剤
投与量
効果
albuterol吸入
・2.5-5.0mgを20分毎に3回
 →2.5-10mgを1-4時間毎
・持続吸入の場合には10-20mg/hr
※重症の場合には持続吸入が推奨
・作用発現:数秒~数分
・ピーク:30分
・持続時間:4-6時間
ipratropium吸入
・0.5-2mgを1時間毎
※albuterolと組み合わせて使用
・作用発現:15分
・ピーク:60-90分
・持続時間:4-8時間
epinephrine
・0.3-0.5mg筋注を20分毎に最大3回まで
・効果がなければ10-20mcg静注
(0.1-0.5mcg/kg/minで持続静注も可)
※β-agonist吸入に反応しない難治性喘息に対して使用
・作用発現:5-10分
・ピーク:
 <20分(静注)
 <1時間(筋注)
・持続時間:
 <1時間(静注)
 4時間(筋注)
 
magnesium
・2g静注を20分毎に最大3回まで
※重症喘息に対して使用
軽症~中等症に対しては効果なし
・作用発現:数秒~数分
・持続時間:30分
 
ketamine
・気管支拡張作用:
 0.1-0.3mg/kg静注
 →0.5mg/kg/hrで2時間持続静注
・解離麻酔作用:
 1-2mg/kg静注
※合併症を避けるために5-10分かけて投与
・効果発現:数秒~数分
・持続時間:30分
methylprednisolone
・40-125mg静注
※125mgを超えないようにする
・効果発現:数時間
・ピーク:1-2時間
・持続時間:30-36時間
prednisolone
・40-80mg/day
※経口投与可能
※帰宅の際に持たせる
・効果発現:数時間
・ピーク:1時間
・持続時間:18-36時間
dexamethasone
・最大16mg1回
・投与経路は静注/筋注/内服
※ERで1回投与、帰宅させる場合には2日以内にもう1回投与
・効果発現:数時間
・ピーク:1-2時間
・持続時間:36-54時間

 

まとめ

・低酸素血症は危険、積極的な酸素投与をせよ。

・重症喘息患者では脱水をしばしば併発し、NIPPV/挿管などで血圧低下もしうるため積極的に輸液する

・SABAは第一選択薬。重症喘息では、SABA持続吸入が推奨(NNT10)。

・重症喘息ではSABA+ipratropiumu吸入で治療することで入院回避についてNNT10

・難治性発作の場合にはアドレナリン筋注や必要に応じて静注も考慮

・重症喘息ではマグネシウム投与を検討してよい。ただし、軽症~中等症の場合には効果はない。

ステロイドは中等症以上または初回SABA吸入に反応しないときに適応。入院回避についてNNT9。

・重症の場合にはステロイドを1時間以内に投与することで入院の必要性を低下させられる

ステロイド高用量投与は、治療効果を高めることがないばかりか副作用を増やす

・上記治療に反応が乏しい/頻呼吸持続/努力呼吸ではNIPPVを早期に試すこと。挿管を避けられるかも!

・高二酸化炭素血症、アシデミア、意識障害はNIPPVの禁忌ではない。慎重に導入可能。

・患者が非協力的な際にはketamineやdexmedetomidineによる鎮静を考慮する。

・HFNCはNIPPVの代用が可能ではあるが、成人では現時点での推奨はない。

・ketamine投与も有効な手段。薬物療法への効果が乏しいときやNIPPVとの併用で効果あり。

・喘息に対する気管挿管はなるべく避けるべし。合併症や死亡率上昇と関連あり。

気管挿管するのであれば挿管チューブはなるべく太いものをチョイス。

・人工呼吸器装着後はpermissive hypercapnia戦略で対応する

・それでもだめならECMO