りんごの街の救急医

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心房細動には電気的除細動か、薬物的除細動か?(Lancet. 2020 Feb 1;395(10221):339-349.)

PAFに出会ったときにどのように対応しますか?

 

患者の背景や心房細動の発症時間によって対応はまちまちですが、

基本的な対応指針は以下のようになります。

・血行動態不安定なら同期下cardioversion

・血行動態安定している場合ならrate controlでもrhythm controlでもどっちでもいい

・基礎疾患が多い高齢者や発症から48時間以上経過している場合にはrate control

・基礎疾患が少ない若年者や発症から48時間以内(理想的には12時間以内)であればrhythm control

 

個人的には高齢者はrate controlで逃げることが多いですが、

比較的若年であれば電気的除細動を選択してすっきり洞調律にして帰宅してもらうことが多いです。

 

この除細動に関して、電気的除細動と薬物的除細動を組み合わせたら効果はどうなのか?ということを検証したのが今回紹介する研究です。

 

Stiell IG et al. Electrical versus pharmacological cardioversion for emergency department patients with acute atrial fibrillation (RAFF2): a partial factorial randomised trial.
Lancet. 2020 Feb 1;395(10221):339-349.
 
 
2013年7月18日~2018年10月17日に行われた、カナダの11 academic emergency departmentsでのtrial
・2つのprotocolについてのpartial factorial study
Protocol 1
 ◦randomised, blinded, placebo-controlled
  ‣procainamide無効例に対して最大3回のelectrical cardioversion
   =drug-shock群
  ‣placebo静注後にelectrical cardioversion
   =shock-only群
 
※本研究でのprocainamide投与手順は以下のようになっていました。日本の使用量よりは少し多めになっています。
・生食500mlにprocainamide15mg/kgを混注して持続静注
 ◦投与は30分以上かけること、また最大投与量は1500mg
・洞調律化した時点で薬剤投与は中止する
・QT延長>35%、QRS>120msec、HR≺60bpmになった場合には投与中止
・SBP≺100mmHgになった場合には15分間投与を中止して生食250mlを静注
 ◦SBP>100mmHgに戻ればprocainamide投与再開
 ◦戻らなけらば投与は終了
 
Protocol 2
 ◦electrical cardioversionが必要な患者に対してandomised, open-label comparison実施
  ‣パッドの装着位置を前後 vs 前側面
 
・対象…少なくとも3時間症状がある安定したAF患者で、cardioversionが適切と考えられた患者(※)
症状発症から48時間以内、発症から7日以内で抗凝固療法が4週間以上適切にされている/経食道超音波で左心耳に血栓がない
・以下の患者は除外
 ◦同意が得られない
 ◦永続的心房細動
 ◦血行動態不安定(低血圧、rapid preventricular pre-excitation、ACS、肺水腫など)
 ◦肺炎、肺塞栓、敗血症などが原因と考えられる症例
 ◦ランダム化前に自然と洞調律化
 
・protocol1は1:1のランダム化試験で、そのうち薬物で効果のなかった患者がprotocol2に組み込まれた
・30分間の薬剤注入に効果が認められなかった場合にはelectrical cardioversionが実施された
 ◦この際にパッド装着位置が前後または前側胸部に割り当てられ、最大3回200J以上の出力でショックされた(Protocol 2)
 
・1188人が基準を満たしたが、最終的には396人が対象となった
 ◦drug-shock群:204人、shock-only群:192人
 
primary outcome…洞調律化およびそれから30分以上維持
 ◦drug-shock群…196人(96%)、shock-only群…176人(92%)
  ‣absolute difference 4%; 95% CI 0–9; p=0·07
 ◦IV procainamideでは52%が洞調律化した
 
・protocol 2には244人が組み込まエれ、いずれの位置でも有意差なし
 ◦前後群…119人(94%)、前側胸群…108人(92%)
  ‣relative difference 1·01; 95% CI 0·95–1·09; p=0·68
 
合併症はdrug-shock群でより多かった…多くは一過性低血圧
 ◦electrical cardioversionの合併症は9%
 ◦shock-only群で非同期でのcardioversionを実施して1人が心停止した
・いずれの群でもERでの死亡者や脳卒中発症はなかった
 
 
 
 
結論としては、
PAFへの除細動は電気的でも薬物的でもどちらでもよい
と言えそうです。
パッドの位置も、
前後でも前側胸部でもどちらでもよい
と言えそうです。
 
30分間の抗不整脈薬点滴により50%以上の確率で除細動が成功するため、これに効果がなかった場合に電気的除細動に移るという対応をとることも忙しいERでは考慮してもよいかもしれません。
鎮静が不要で、それによる人員を割かずに済むことから薬物的除細動という選択肢を持っておいてもよいと思います。ただし、低血圧などの副作用が現れることがあるため、モニタリングは徹底しておくべきでしょう。
また、電気的除細動に比較して患者への心理的負担も少ないのではないでしょうか。
電気ショックされるのいやですよね…。ですよね。
 
ちなみに、shock-only群では同期しなかったため1人心停止になっています。
くれぐれも気をつけましょう。。。