りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

よくわからん症状を訴える高齢者へのトロポニン検査は有効か?(Acad Emerg Med. 2020 Jan;27(1):6-14.)

米国のERでは65歳以上の患者が約15%を占めるそうです。

…ふふふ、大したことないですね。当院はその3倍以上は来ていると思います。

 

それゆえに、(偉い先生は病歴と身体所見だけで大体診断がつくっていってますが)

しばしば非特異的な症状を訴え、併存疾患/polypharmacy/認知症/ADL低下なども相まってより病態の解明は複雑になります。
適切な診断アルゴリズムはなく、検査を多く行って他覚的所見を積み重ねることになります。これは仕方のないこととも思います。
全身検索をすると、考えてもみなかったような疾患であることがしばしばあります。
 
さて、具合の悪い高齢者と言えば、ACSは鑑別の上位に挙がる疾患です。
厄介なことに高齢者はACSであっても胸痛を訴えないことが多いことが知られています。
・最大20%が脱力(weakness)を主訴に受診
・特に75歳以上の高齢者、女性、糖尿病では注意
・心血管疾患は死亡率も合併症発症率も高齢者では特に高い
 
 
上記は事実なのですが、以下の事柄については不明でした。
・非特異的な症状を訴える高齢者の中でACSが占める割合
・非特異的な症状を訴える高齢者へのtroponin測定の意義
 
そこで、これらに対する研究が行われました。
 
 
Troponin Testing and Coronary Syndrome in Geriatric Patients With Nonspecific Complaints: Are We Overtesting?
Acad Emerg Med. 2020 Jan;27(1):6-14.
 
 
 
・米国3次救急センター単施設でのretrospective study、2017年1月1日~6月30日
 
・electronic medical record (EMR)を検索して以下の患者を検討した
・対象…非特異的な症状でERを受診された65歳以上かつtroponin検査がされた患者
非特異的な症状…weak or weakness, dizzy or dizziness, fatigue, lethargy, altered mental status, light-headedness, medical problem, examination requested, failure to thrive, or “multiple complaintsが事前に定義された症状
・除外…特異的な症状を持つ患者
 ◦focal pain, injury complaint, shortness of breath, vomiting, diaphoresis, syncope, fever, cough, focal neurologic deficit
 
・介入群…troponin検査施行、比較群…troponin検査未施行
・1146人がuniqueな症状を訴えて受診
 →除外項目を除くと594人が最終的に研究に組み込まれた
・69%(412/596人)がtroponin検査実施
・平均年齢78歳
・58%が女性
・75%が入院
・多かった主訴は意識状態の変化(43%)、衰弱(33%)、めまい(21%)
 
・multiple outcome
 ◦非特異的な症状を訴えてtroponin検査された患者の割合:69%
 ◦troponin上昇割合:12.6%(52/412人)
 ※別の30人は入院中にtroponin上昇→合計20%
 ◦初診時または30日以内のACS発症:1.2%(5/412人)
 ※全例初診時
 ◦troponin上昇の原因(ACS以外)…たくさんあるがtop 3は以下(最後に詳述)
  ‣脱水
  ‣心不全 
  ‣心房細動
 
今回の研究で分かったのは、以下です。
・非特異的な症状を訴える高齢者において、初診時または30日以内のACS発症率はたった1.2%であった。
・非特異的な症状を訴える高齢者において、初診時のACS診断におけるtroponin検査の感度80%/特異度88%でいまいちであった。
 
トロポニン検査をされなかった患者182人は、ACCSリスクが低いと考えられていた可能性がそれなりにあると推察されます。すると、これによりACSの全体的な有病率が希釈された可能性があり、有病率はもっと低かったかもしれません。
 
非特異的な症状を訴える高齢者へのtroponin検査は、
偽陽性率が高くルーチンでの検査は推奨されないかもしれません。
 
 
あと、この論文の良いところはtroponin上昇していた患者の原因疾患が記されているところです。結局、高齢者ではよくわからずtroponin検査をしてしまうことがありますが、もしもtroponin上昇が認められた場合には以下の疾患を血眼で探せばいいんです。

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