よく外来でドレナージされる自然気胸に関して、
「そんなにドレナージしなくていいんじゃないの?」という問いかけを行った研究がNEJMより発表されたので紹介します。
N Engl J Med. 2020 Jan 30;382(5):405-415. doi: 10.1056/NEJMoa1910775.
Conservative versus Interventional Treatment for Spontaneous Pneumothorax.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31995686
まず現状ですが、大きな気胸に対してはドレナージしてしまう施設が多いのではないかと思います。
( Thorax. 2010 Aug;65 Suppl 2:ii18-31.)
肺門レベルで気胸の大きさを判定して、
それが2cmを超えている場合にはドレナージの対象です。
安定している患者であればまずはアスピレーションを試みて、
それでも改善なければドレーンを挿入するというのが大まかな流れです。
若者は入院したくない人も多いので、このアスピレーションだけで帰宅させることもできることがあり、実臨床に即した方法だと思います。
このたび、保存的に治療することは、実は介入治療(主に胸腔ドレナージ)と同じくらい効果的で安全なのではないかという問いに答えたのが本研究です。
オーストラリアとニュージーランドの39病院で行われたopen-label, multicenter, noninferiority trialです。
対象は、14~50歳の初発/片側性の中等度~重度の自然気胸となっています。
Collins法という方法で32%以上となる症例が対象で、基本的には通常ドレナージの対象となるようなサイズの気胸です。
介入群は以下のように治療されました。
・12Fr以下の細径の胸腔ドレーン挿入して吸引なしでwaterseal
→1時間後にCXR撮影し、肺再膨張が確認できエアリークがなければクランプ
→4時間後に患者の状態が安定していてCXRも問題がなければドレーン抜去して帰宅
※上記以外の場合には入院して治療を行います
これは我々のpracticeと大きく異なる部分になりそうです。
こんな素早くドレナージ終了して帰宅させている施設は日本にあるのでしょうか…。
保存治療群は以下のように対応されました。
・4時間経過観察してCXR撮影、酸素不要/歩行可能であれば鎮痛薬とを持たせて帰宅
・以下の場合には介入治療が行われた
‣適切な鎮痛にも関わらず、臨床的に重要な症状が持続
‣労作時の胸痛または呼吸困難が持続
‣保存治療継続を拒否
‣患者の状態が不安定…SBP<90mmHg、HRがSBP以上の数値、RR>30、SpO2<90%
‣CXRで気胸の拡大
316人がランダム化され、154人が介入群、162人が保存治療群に割り付けられました。
保存治療群では25人(14.4%)が介入治療を受け、残りの137人(84.6%)は介入治療を受けずに済みました。
primary outcomeは、8週間後の肺の完全な拡張でした。
・介入群 vs 保存治療群=98.5% vs 94.4%
・risk difference -4.1, 95%CI -8.6 to 0.5
…事前に設定された非劣性マージンは-9%であり、非劣性であることが証明されました。
ただし、これは介入群23人と保存治療群37人を除外した完全症例解析であり、保存治療群の方が除外された患者が多く、潜在的なリスクがある患者を見落としている可能性があるのではないかと思われます。
実際に、ドロップアウトした患者を治療失敗ととらえた感度分析では、介入群 vs 保存治療群=93.5% vs 82.5%となってしまい、非劣性を証明できませんでした。
secondary outcomeは保存治療群に良い結果がもたらされる傾向があり、重大な合併症や気胸再発は保存治療群で少ない傾向にありました。
この論文を読んでみて、これから自分のマネジメントが変わるかどうか考えてみると、
「今のところはマネジメント変わらないな」
というのが感想です。
この研究は、以下のような問題点があります。
・ドロップアウト数が多い
・感度解析を行うと非劣性を証明できなかった
・そもそも介入群の介入時間が短すぎて、現在行っている医療と違いすぎる
しかも、primary outcomeが8週間後ってどうなんでしょう。
なんか煙に巻かれているような感じがしちゃいます。
もっと急性期の、例えば緊張性気胸発症率などで語るべきでないのでしょうか。
しばらくは中等度~重度の気胸にはアスピレーション→ドレーン挿入の方針を変えずにやっていこうと思います。