りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

肺塞栓除外のためのD-dimer閾値 PEGeD study

肺塞栓診断は結構難しいです。

ERにくるそれっぽい患者すべてに造影CTするわけにもいきませんし、

それでいて見逃すと致命的です。。。

 

みなさんはどのように診断していますか?

 

NEJMより、外来診療する医師には必見の研究が発表されました!

低リスクならD-dimerの閾値を上げられるんじゃないの?という趣旨です。

(N Engl J Med. 2019 Nov 28;381(22):2125-2134.)

 

 

PE診断についての基本のまとめ

診断は、おおむね3 stepに分かれます。
 
step 1
当たり前ですが、まずはPE/DVTを疑うことが第一歩です!(笑)
 
step 2
そのうえで、事前確率を考えます。
これにはWells Predicition Rule/revised Geneva Scoreを使用します。
※これらのclinical decision ruleの詳細は知らなければ調べておいてください!
 
step 3
そして、riskに応じて対応を考えます。
low risk…50歳未満ならPERCを使用、PERC 0ならそれ以上の検査不要。
PERC≧1であればD-dimer検査実施。
500ng/mlを基準に、これを超えれば画像検査、これ未満なら画像検査不要。
intermediate risk…D-dimer検査実施。
500ng/mlを基準に、これを超えれば画像検査、これ未満なら画像検査不要。
high risk…いきなり造影CT実施。

 

表にすると以下のようになります。

f:id:AppleQQ:20191214171905p:plain

(Ann Intern Med. 2015 Nov 3;163(9):701-11. )

 

これが診断についての基本中の基本です。

 

でも、D-dimer≺500ng/mlってめっちゃ厳しい基準で、

そもそも肺塞栓を疑っているような高齢者だと容易にこれを超えてきます。

その際にはえいやっと造影CTをすることもあれば、

「まぁこれくらいなら大丈夫だろう」ということで検査を見送ることもありました。

 

こういった背景から、

age-adjusted D-dimerという考え方が出てきました。
これは50歳以上の人に用い、年齢×10ng/mlをcutoffにするものです。
PE診断において感度97%を達成できたと報告されています
BMJ. 2013 May 3;346:f2492.)
 
さらに、日本の施設から、
low-intermediate riskの場合にはD-dimer≺1100ng/mlにしても
見逃し率0%であったというretrospective studyも発表されました。
(Int J Emerg Med. 2019 Aug 28;12(1):23.)
 
みんなD-dimerの閾値を上げたいと思っていたんですね…!よかった。
 
さらに今回、D-dimerの閾値について検討した研究が発表になりましたので
紹介します。
 

D-dimerのcutoffは1000ng/mlでもいい ⁉

・肺塞栓のリスクが低い患者の場合、D-dimerのcutoffは1000ng/mlでもいいのではないかということについて検討したprospective study
 
・Well's criteriaとD-dimerを使用して、下記に当てはまる場合には画像検査をしないこととした
 ◦low risk群…D-dimer<1000ng/mL
 ◦intermediate risk群…D-dimer<500ng/mL
 
・2017人が対象となり、初期診療で7.4%に肺塞栓を認めた
上記方法で除外された1325人は全員その後3か月のフォローでもVTEは認めなかった
 
実はこの手法はほとんどYEARS criteriaのパクリです。
外的妥当性も検討されているclinical decision ruleです。
 
なぜいまさらこんな研究が出てきたかというと、意義は2つあるかなと考えます。
Well's criteriaの方が知名度が高いから使いやすい
YEARS criteriaやage-adjusted D-dimerとの比較もされていたが、
これらよりも画像検査が減ったと報告あり
 
まとめますと、
低リスク患者はD-dimer<1000ng/mL以下で肺塞栓否定できそう
ということになりそうです。
 
よかったよかった。