COPD急性増悪と肺塞栓の臨床像は似通っていて、なかなか判断が付きにくいことが多いです。
全ての患者に造影CTを実施するわけにもいかず、患者を選んで対応することになりますが、実際にどのくらいの頻度でCOPD急性増悪に肺塞栓が紛れ込んでいるかはまだよくわかっていません。
これまでにいくつかの研究がされ、COPD急性増悪の患者に高頻度に肺塞栓が含まれていることが報告されており、警戒している医療者も多いと思います。
(Thorax. 2006 Mar;61(3):250-8./Ann Intern Med. 2006 Mar 21;144(6):390-6./J Bras Pneumol. Jan-Feb 2014;40(1):38-45./Chest. 2009 Mar;135(3):786-793.)
meta-analysisでは、入院を要する原因未確定のCOPD急性増悪のなんと16%に肺塞栓を認めたと報告されています。
(Chest. 2017 Mar;151(3):544-554.)
COPD急性増悪で死亡した患者の21%が肺塞栓であったというretrospective studyもあります。
(Chest. 2009 Aug;136(2):376-380.)
ん~、実際のところどのくらい肺塞栓が潜んでいるんでしょうか。
そこで、COPD急性増悪にはどのくらいの割合で肺塞栓が潜んでいるかを前向きに検討した研究が発表されました。
Couturaud F, et al; PEP Investigators. Prevalence of Pulmonary Embolism Among Patients With COPD Hospitalized With Acutely Worsening Respiratory Symptoms.
JAMA. 2021 Jan 5;325(1):59-68.
PMID: 33399840
・フランス7施設におけるprospective study、2014年1月~2017年5月
・対象…18歳以上の呼吸状態が急激に悪化し入院となったCOPD患者、入院48時間以内
・入院後48時間以内に以下の手順に従って評価を受けた
◦全患者をrevised Geneva scoreで事前確率を評価
◦score≧11…造影CTと下肢静脈超音波
◦score<11…D-dimer実施
‣D-dimer<500ng/ml…肺塞栓は除外とした
・VTEが特定された場合には抗凝固療法が開始された
・全ての患者は3か月後に追跡調査された
・primary outcome…入院後48時間以内に診断された肺塞栓
・2268人がスクリーニングされ、最終的に740人が対象となった
◦Geneva score≧11…17人(2.3%)
‣5人が造影CTで肺塞栓と診断
◦Geneva score<11…712人
‣D-dimer<500mcg/mL…212人
‣D-dimer>500mcg/mL…500人のうち478人が造影CTをうけ36人が肺塞栓と診断
‣D-dimer検査を受けなかった…11人のうち、3人が肺塞栓と診断
・上記の如く、合計44人(5.9%)が肺塞栓の診断となった
・抗凝固療法を受けていなかった患者のうち、5人(0.7%)が3か月のフォローアップで肺塞栓を発症した
この研究は、これまでで最大規模の前向き研究でした。そこが目玉だと思います。
下肢静脈超音波が行われなかったなどのプロトコール違反もそれなりにありましたし、D-dimerについてはage-adjusted D-dimerなんかを使えばもう少し造影CTを省略できるんじゃない?という思いもあります。その他Limitationは多い研究です。
そもそも普段接している日本人とは体格が違いすぎるし(BMI 25.7)、だいぶリスク因子も多いように思います。
これをそのまま現代の日本の実臨床に当てはめてよいかは疑問だとは思いますが、肺塞栓が意外と見逃されていることも事実なのでしょう。
全ての患者にclinical prediction ruleをつけつつ、症例を選んでD-dimerを検索し、目の前にいる呼吸不全の患者が本当にただのCOPD急性増悪でよいのか?と考えながら診療を行わなければならないという警鐘を鳴らす論文だと思いました。