動物咬傷も最終回になりました。
今回ははじめに提示した症例をどう対応するか考えてみましょう。
そして、ピットフォールについてまとめておきましょう!
症例(再掲)
どの患者に抗菌薬投与が必要ですか?狂犬病予防は?入院は必要ですか?
考えてみてください!
①25歳女性
・右手および前腕の発赤が認められる
・1日前に野良ネコに手を咬まれた
②45歳男性
・犯罪現場から逃げ出したため警察犬に下肢を複数回咬まれた
・4cm-14cmほどの裂創が認められる
③8歳男児
・先週、飼っていたモルモットに咬まれたという
・患児は特に何の症状もないというが、母親が「なんか病気」をもらっているのではないかと不安を訴える
①感染が成立してしまっている症例
・大量の水道水で洗浄
・深部損傷評価のために手の外科に紹介
・手の感染はやっかい!入院させて抗菌薬点滴静注を開始
※日本では不要だと思いますが…。海外で出会ってしまって帰国された症例では考慮必要。
②感染はまだ成立していない症例
・異物や骨折評価のためレントゲンをオーダー…異常なしを確認
・大量の水道水で洗浄
・3cmを超える創は感染可能性が高い。
→抗菌薬予防的投与を行い、24-48時間後の受診を指示した
③感染徴候はなく、感染成立可能性が低い症例
・1週間も経てば感染はなしと考えてよいため、抗菌薬治療は不要
・モルモットからの狂犬病伝搬は考えにくいためワクチン不要
◦念のため、そのモルモットを10日間観察したが狂犬病は発症せず
上記のように対応でよいと思います。
破傷風についてはどの症例でも考えておきましょう。
ピットフォール
※青字がだめな考え方、黒字が正しい対応。
・「ネコに咬まれた人だけど傷口小さいし感染はしないでしょう」
◦全ての動物咬傷は感染可能性あり
◦ネコ咬傷は刺創のようであり深部組織が汚染され特に感染リスクが高い
・「患者はけんかしたときに壁に擦って受傷したって言っています」
◦けんか中に発症した手の傷(特にMP関節部)はヒト咬傷を強く疑うこと
◦患者は本当のことは語らない傾向にある
・「深めのイヌ咬傷だけど、明日みてもらうから今日は受診しません」
◦抗菌薬投与、洗浄までの時間が予後を決める
◦すぐに治療を受けるよう指導
・「手になにか触れたのを感じて起きたらコウモリがいました…特に咬まれた跡はないけど」
◦コウモリ咬傷は非常に小さく拡大鏡がないと見えないこともある
◦患者は狂犬病予防を受けるべき
※日本では不要と思う
・「ただのイヌ咬傷、レントゲンは不要でしょう」
◦イヌの顎の力は強い
◦骨へのダメージが少しでも疑われればレントゲン撮影はしておこう
◦老犬だと特に欠けた歯が見つかるかも…
・「ヒトに背中をかまれた~抗菌薬予防投与だけでいい?」
◦手足でなければヒト咬傷で抗菌薬治療が必要なことはない
・「イヌ咬傷に対して抗菌薬予防投与実施、1週間以内に再受診してね」
◦抗菌薬投与しても感染成立することはある。
◦24-48時間でのフォローアップをすること
・「顔面の動物咬傷、発赤あるけど美容面の問題があるから縫っちゃえ」
◦感染している場合には初期縫合すべきではない
◦感染が落ち着いてから縫合したほうが美容的に良い
・「7年前に破傷風ワクチン打ったから必要ないでしょう」
◦過去5年間にワクチン接種歴がなければ追加接種すること
以上で動物咬傷review終了です。
日々の診療を見直してみると意外にはっとすることも多いかもしれません。
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