りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。

動物咬傷③ マネジメント

動物咬傷reviewも後半戦です!

 

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(Trauma Reports 2018;19(3):1-12.)

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(Emerg Med Pract. 2016 Apr;18(4):1-20.)

 

医師によってだいぶマネジメントは差異がある部分だと思います。

大原則をここで押さえましょう!!!

 

 

動物咬傷における一般的なマネジメント

・創洗浄は感染可能性を低下させる
 ◦高圧洗浄は低圧洗浄と比較して創内の細菌数と感染率を低下させる
  ‣高圧洗浄…16-19Gの外筒を35-65mlシリンジにつけて洗えばよい
 ◦水は生理食塩水でも水道水でも感染率に差はない
・創のポピドンヨードによる消毒は一般的には推奨されない
 ◦創傷治癒を遅らせてしまう
 ◦ただし、HIV感染や狂犬病のリスクがある場合には使用してもよい

縫合をどうするか?

イヌ咬傷の場合

・伝統的には初期は開放創、二次的に縫合することが推奨されていた
 ◦感染徴候がないのに閉鎖が数日遅れることに関してしばしば議論の的になっていた
・いくつかの研究では、初期縫合しても感染率は増大しないことが示されている
 ◦顔面への咬傷では感染率が低く、美容面の問題もあり初期閉鎖したほうが予後良好
 →美容面が問題になる場所では初期縫合してもよいかも
・手への咬傷では感染率が高いことが示されている
 ◦現時点では、手への咬傷については初期縫合が勧められてはいない
・時間経過も感染率に大きく関与する
 ◦受傷後8時間以内…4.4%、8時間以降…22.2%
・縫合糸の種類や縫合方法についてのtrialはない
 ◦多くのtrialでは非吸収糸で単純縫合されている
 ◦埋没縫合では感染率増加

 

受傷から8時間以内、顔面など美容面で問題になる箇所で血流がよい部位については初期縫合してもよいかもしれません。

 

ネコ咬傷

・ネコ咬傷は刺創になりやすいため、すぐに自然閉鎖してしまうことが多い
 ◦これにより歯についていた細菌が創内部に閉じ込められてしまう可能性がある
 →創処置の基本は、閉鎖していた場合には創を切開して大量の水で高圧洗浄することになる
・特にリスクが高いのは、手で指尖部や爪床、屈筋腱鞘、手掌などのスペースがある部分
 ◦この領域については外科的創面切除(デブリドマン)や抗菌薬静注が適応になる
基本的にネコ咬傷は感染リスクが特に高いため二次的な縫合を行うこと
・顔面などの美容面で問題になる領域についてはなかなか難しいが…
 ◦感染率は4.4%であったという報告あり、これなら許容範囲かもしれない
 
ネコ咬傷は、その感染率の高さからは縫合しない方がよさそうです。

 

ヒト咬傷の場合

・Occlusion biteの場合、ほとんど真皮を損傷させることはないため縫合を要さないことが多い
 ◦真皮まで達しており縫合が必要な場合にも感染率は低いため(8.3%)、美容的に問題となる部位は縫合可能
 ◦創縁が不整だったり非常に深い場合には初期縫合は避けたほうが良いかもしれない
・手に対するOcclusion biteやclosed-fist injuriesに関しては手術室直行でもよい
 ◦広範囲の水洗とデブリドマンが必要になる
 ◦手術室での処置により感染率低下が示されている
 ◦上記施行しないことで手の機能障害を起こす可能性も高まる
 
受傷から時間が経過してから受診することも多く、初期縫合というよりは外科的に対応してもらった方がよさそうです。
 
基本的な方針としては以下のようになると思います。
・受傷からの時間経過が短時間なイヌ咬傷で、美容的に問題になる部位であれば縫合可能
・でもそれ以外の動物咬傷や咬傷部位では縫合はしない方がよい
いずれにせよ、どんなにしっかり洗浄しても短時間であったとしても感染しにくい部位だったとしても10-20人に1人程度は感染してしまうことをしっかりとICしておくことが重要と思います。
 

予防的抗菌薬

イヌ咬傷とネコ咬傷の場合

・ずっと議論が残る分野
 ◦2つのmetaanalysisが方針決定の参考になる
  ‣感染率を16%→10%に低下させ、NNT14(metaanalysis、イヌ咬傷)
  ‣上記で使用されたRCTに加えて、手へのネコ/ヒト咬傷についてのtrialを加えたCochrane review
   …感染率は28%→2%に低下、NNT4
  ⇒これらのmetaanalysisの違いは、ネコおよびヒト咬傷の感染率が高いことに起因している
  ⇒哺乳動物咬傷に対しては予防的抗菌薬投与はありではないかという説を支持しているよう
 
※特にネコ咬傷は感染率が高いため、咬まれた時点で感染したと考えて対応くらいでもよいと個人的には考えています。
 
・抗菌薬の選択…Amoxicillin-clavulanateがfirst choice
 ◦doxycycline, trimethoprimsulfamethoxazole, ciprofloxacinも選択肢
・感染の予測因子として以下が報告されている
 ◦イヌ咬傷においては刺創のような鋭い創、初期閉鎖が主な感染予測因子であった
  …創初期閉鎖により感染率は増加しないという報告とは矛盾するようだが…
  ※ただし、これらのtrialのうちいくつかでは抗菌薬投与がされているため解釈が困難
  ⇒刺創のような鋭い創である場合や初期閉鎖する場合には予防的抗菌薬を投与しておいた方が良いだろう
・ネコ咬傷では抗菌薬投与群では感染なし、非投与群では66%で感染したというデータあり
 
イヌやネコによる咬傷に対しては予防的抗菌薬投与はreasonableだと考えます。
第一選択薬はいわゆるオグサワでよいと思います。
セファゾリンやセフトリアキソンは外来で使いやすい抗菌薬ではありますが、 Pasteurella multocidaへの抗菌活性が弱かったり、嫌気性菌をカバーできていないため避けるべきです。
 

ヒト咬傷の場合

・伝統的には予防的抗菌薬投与の適応だが…
 ◦手足を含まない表在性咬傷においては、予防的抗菌薬の効果を証明することができなかった
・手に対する咬傷では、予防的抗菌薬投与群では感染は見られなかったが、非投与群では47%の感染率
 ◦足も構造的に似ているため、四肢への咬傷であれば抗菌薬投与はreasonableだろう
 
四肢については感染率が高いため、予防的抗菌薬投与をしておいた方がよさそうです。
 
 
今回の論文中では以下の患者への予防的抗菌薬が推奨されていました。
予防的抗菌薬を考慮すべき状況
・全てのネコ咬傷
・イヌ咬傷(刺創)
・初期縫合した全てのイヌ咬傷
・皮下まで達するヒト咬傷
・手への動物咬傷
・手や足へのヒト咬傷(浅くとも)
・挫滅創
・免疫不全患者
・脾摘後患者
・糖尿病患者
・担癌患者
ステロイド免疫抑制剤などの内服
・受傷後8時間以上経過している場合
何に咬まれたか、どこを咬まれたか、咬まれてからどのくらいの時間が経過したか、患者の免疫状態はどうか…というところが重要ポイントです。
 

感染成立後の抗菌薬投与

・すでに感染が成立している場合には10日間の抗菌薬投与が推奨
 ◦ampicillin/sulbactam
 ◦piperacillin/tazobactam
 ◦carbapenem
 ◦(アレルギー)metronidazole+doxycycline, ST, ciprofloxacin
 
個人的には密なフォローアップをしておよそ5日間ほどで感染が落ち着いているように感じていましたが、現在の推奨は10日間のようです。
 

 破傷風予防

・CDCによれば唾液で汚染された創、刺創、挫滅創については汚染創とみなされるべきであるという
 →咬傷はこの範疇に完全に合致する、全例汚染創として対応
・動物咬傷に関しては以下の図より破傷風ワクチンの適応を判断する。
 ◦破傷風トキソイドが過去3回以上接種されている…基礎免疫が獲得されている
  →5年以上経過していた場合には1回の追加接種、破傷風グロブリンは不要
 ◦破傷風トキソイド接種歴不明か3回未満の場合
  →破傷風トキソイドとグロブリン接種

 

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(Am Fam Physician. 2014 Aug 15;90(4):239-43.)

狂犬病予防

狂犬病はLyssavirusにより引き起こされる致死的な急性脳炎
 ◦世界的には年間24000-61000人程度が死亡している
  ‣主に発展途上国で発症
 ◦世界で5例の生存例がいるが基本的には致死的(Milwaukee protocol)
・北米における狂犬病発症は大部分がコウモリ咬傷または接触によるもの
狂犬病保有している動物の92%が野生動物
 ◦アライグマ(32.4%), コウモリ (27.2%), スカンク(24.7%)
 ◦ネコやイヌは数%程度で経緯
・動物と接触後、経過観察をするかPEP(曝露後予防)開始するか?
 ◦動物が同定されており観察可能な場合には10日間経過観察
  ‣狂犬病発症の疑い→PEP開始
 ◦狂犬病を持つであろう野生動物集団との接触
  ‣PEP開始
・げっ歯類やウサギ目の動物
 ◦基本的には狂犬病リスクはないとされていた
 ◦2010年の疫学では、16年間でアメリカでは合計737例の狂犬病例が認められている
 ◦現時点では診断的検査やPEPはケースバイケースで判断
・コウモリに関しては、咬傷が認められなかった症例でも発症例がある
  ⇒咬傷がなくとも接触があればPEPの推奨あり
  …寝て起きたら部屋にコウモリがいた…なんて状況でも必要
 

基本的には日本では狂犬病については考慮しなくてよさそうですが、輸入例については考慮すべきだと思います。

ヒト咬傷について C型肝炎HIVはどうするか?

ケンカなどだけでなく、夜中に看護師が患者に咬まれて受診することもあるため少し考えておいた方がよいと思います。それぞれの病院でプロトコールはあるとおもいますが…

 

HIV
 ◦ヒトの唾液中にはHIVはほとんど存在しない
  →血液曝露がない場合には感染しないと考えられており、感染報告もない
 ◦血液曝露+相手がHIV陽性+患者がHIV陰性の場合に曝露後検査およびPEP推奨
 ◦HIVとは異なり、ヒトの唾液中にウイルスが存在する
 ◦症例報告として存在するのは数例
  ‣よりB型肝炎の方が多く報告がある
 ◦CDCでは、咬んだヒトと咬まれたヒトの両方でB型肝炎スクリーニングと陽性の場合のPEPを推奨
 ◦C型肝炎では、感染率が低くワクチンもないためスクリーニングは推奨されていない
  ‣血液曝露の場合には患者への情報提供としての検査は考慮してもよい
 

入院適応

●入院適応
・感染徴候がある場合、深部損傷、手への咬傷の場合には入院の閾値を低くしておくこと
腱/関節への咬傷で、すでに感染が成立している場合
 →非常に急速に感染が進行することがあり外科的処置を要することがある
・入院によるメリットは以下
 ◦抗菌薬をより積極的に投与できる
 ◦患部の挙上や安静を保つことができる
 ◦頻回の評価が可能で、悪化の徴候をとらえやすい

 

マネジメントについては以上です!

次回は、初回に提示した症例の解説とピットフォールまとめをしたいと思います。

 

動物咬傷① 疫学、原因微生物など - りんごの街の救急医

動物咬傷② 病歴聴取、身体所見、検査など - りんごの街の救急医