病歴/身体所見
・29歳女性
・6週間前からの左下肢痛のためER受診
・ちょうど6週間前に下腿の手術を受けていた
・手術以来、持続的な重度の疼痛/灼熱感を自覚していた
・立位により疼痛が増悪し、触れたり寒冷刺激により過敏に感じると話した
受診時
立位時
診断
複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome:CRPS)
・CRPSは、外傷後に発症する、予測される経過に比較して時間または程度が不釣り合いに長引くまたは強くなり、継続的な局所疼痛を自覚する状態を指す
・疼痛は局所的で、より遠位優位に異常感覚/運動障害(筋力低下/ジストニア)、発汗の異常/血管運動異常/皮膚の異常(脱毛、拘縮など)などを呈する
(Pain Med. May-Jun 2007;8(4):326-31.)
・発症率…13人/10万人/年
(J Pain. 2018 Jun;19(6):599-611.)
・女性に多く、男性の3-4倍ほどを占める
(Pain. 2007 May;129(1-2):12-20.)
・CRPSに先立って何らかの刺激が加わるイベントがあることが多い
◦手術/骨折/捻挫/挫傷/手根管狭窄など
(J Pain. 2018 Jun;19(6):599-611.)
・CRPSの診断はBudapest Criteria (2004)による
◦感度99%/特異度68%
(Pain. 2010 Aug;150(2):268-274.)
Budapest Criteria
|
1)原因から理解できない持続的疼痛
2)以下の4項目のうち3項目以上で1つ以上の症状を有する
・知覚障害:知覚過敏、アロディニア
・血管運動障害:温度の非対称、皮膚色調変化
・浮腫/発汗
・運動障害:関節可動域低下、筋力低下、振戦、ジストニア
・萎縮性変化:髪/爪/皮膚の萎縮性変化
3)以下の徴候のうち、2項目以上を少なくとも病期中に一度有する
・知覚障害:知覚過敏(ピンプリック)、アロディニア(触覚や圧迫、関節運動で惹起)の証拠
・血管運動障害:温度の非対称、皮膚色調変化の証拠
・浮腫/発汗:変化や非対称性の証拠
・運動障害:可動域減少、筋力低下、振戦、ジストニアの証拠
・萎縮性変化:髪/爪/皮膚の萎縮性変化の証拠
4)これらの症状や徴候を説明できる他の疾患がないこと
|
ちなみに、日本では以下の判定指標がある。
自覚症状
|
1)皮膚/爪/毛のいずれかに萎縮性変化
2)関節可動域制限
3)持続性ないしは不釣り合いな痛み、しびれたような針で刺すような痛み、知覚過敏
4)発汗の亢進ないしは低下
5)浮腫
|
他覚所見
|
1)皮膚/爪/毛のうちいずれかに萎縮性変化
2)関節可動域制限
3)アロディニア(触刺激ないしは熱刺激による)ないしは痛覚過敏(ピンプリック)
4)発汗の亢進ないしは低下
5)浮腫
|
臨床用の判定指標(自覚/他覚それぞれ2項目以上該当)を用いることにより感度82.6%/特異度78.8%で判定でき、研究用の判定指標(自覚/他覚それぞれ3項目以上該当)により感度59%/特異度91.8%で判定できる
・一般的には保存的加療を行うことになる
◦NSAIDs, corticosteroid, bisphosphonate, calcitonin, lidocaine, capsaicin, 抗痙攣薬など
(Pain Med. 2013 Feb;14(2):180-229./BMC Neurol. 2010 Mar 31;10:20./Can J Anaesth. 2018 Jun;65(6):658-684.)
CRPSかな?と思うことはありますが自分で最終診断を下したことはありません。
まとめ
・複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome:CRPS)は、外傷後に発症する、予測される経過に比較して時間または程度が不釣り合いに長引くまたは強くなり、継続的な局所疼痛を自覚する状態を指す
・疼痛は局所的で、より遠位優位に異常感覚/運動障害(筋力低下/ジストニア)、発汗の異常/血管運動異常/皮膚の異常(脱毛、拘縮など)などを呈する
・診断はBudapest Criteriaによる