病歴/身体所見
・62歳男性
・5日前にイヌに咬まれた
・発熱と広範囲の紫斑性発疹、意識障害のため救急搬入された
・搬入後に急激に低血圧となり輸液/ノルアドレナリン/cefotaxime→meropenemが投与された
検査
・血液検査…DICと急性腎不全の所見を認めた
・末梢血塗抹標本…多数の細菌を認めた
細胞内(A)と細胞外(B)にグラム陰性桿菌を認めた
※しかし、血液培養は長期間の培養にもかかわらず陰性であった
・心停止したが蘇生に成功、そのままVA-ECMO実施
診断
Capnocytophaga canimorsusによる感染性電撃性紫斑病
・最終的に血液から直接16S rRNA遺伝子の塩基配列を調べて同定された
・5日後にVA-ECMO離脱、10日後にはノルアドレナリンを離脱した
・Capnocytophaga canimorsusはイヌやネコの唾液に常在するグラム陰性桿菌である
(Microbiol Immunol. 2018 Sep;62(9):567-573.)
・通性嫌気性菌であるため細菌の検出は困難であることがある
◦そのため血液塗抹標本と遺伝子検出が診断の基礎となっている
なんて激しい症例なんでしょう。
ここまでの動物咬傷には出会ったことはありません。勉強になりました。
Capnocytophaga canimorsusはイヌ咬傷のときに経験的に狙い撃ちすべき細菌であり、感染性電撃性紫斑病の原因として有名です。
もっと早く受診していてくれたらここまで重症化しなかったかもしれません。
動物咬傷の分野では、予防的抗菌薬投与がされることも多いのではないでしょうか。
以下のような場合には動物咬傷において予防的抗菌薬投与を考慮します。
さて、紫斑病?皮膚壊死?を疑うときには以下の疾患を鑑別にあげて考えます。
(N Engl J Med. 2021 Mar 11;384(10):953-963.)
■皮膚壊死
・以下の疾患は病初期に網状皮斑が見られうる
●calciphylaxis
・病変は脂肪が多い領域に発症しやすい
◦下腹部、臀部、上肢など
・触れると非常に強い痛みを伴う
・数日~数週間にわたって進行する
・主に高齢者や慢性腎不全の患者に発症
・通常はcalciphylaxisだけでは凝固機能異常やSIRSを伴うことはない
●warfarin-induced skin necrosis
・ワルファリン内服患者に発症
■血小板減少性紫斑病
・2つのタイプで皮膚病変と重度の血小板減少症を発症する
◦ITPとTTPが鑑別になる
・ほとんどの場合、亜急性に発症する
・皮膚所見として皮下出血ができやすいことや、下肢の斑状出血などが主体
・SIRSや凝固機能障害と関連することは一般的ではない
■クリオグロブリン血症性血管炎
・小血管性血管炎
・斑状の紅斑性発疹、関節痛、多発神経障害、倦怠感などの症状が出る
・多くの場合、基礎疾患(特にC型肝炎)がある
・亜急性の経過をたどり、SIRSや凝固障害を伴わない
■劇症型抗リン脂質抗体症候群
・劇症型といえど、通常は数日~数週間にわたって発症する
・aPTTはしばしば延長するが、低フィブリノゲン血症を伴う全身性消費性凝固障害は通常発生しない
・抗リン脂質抗体症候群または別の自己免疫疾患との関連で発症する
・ショックにはならない…腎への関与のためむしろ重度の高血圧になる可能性がある
■感染性電撃性紫斑病
・以下の細菌群で多く発症する
◦Neisseria meningitidis
◦Streptococcus pneumoniae
◦Capnocytophaga canimorsus
・三徴として➀消費性凝固障害、②SIRS、③紫斑性発疹
・発症は非常に急激であり、網状皮斑やskin mottlingが病初期から見られ、重篤なSIRSや凝固機能障害が24時間以内に出現する
・proteins C, Sやantithrombinも低値になる
そういえば感染性電撃性紫斑病の症例は以前も扱いました。
どうでもいいですが、細菌の名前が複雑すぎて呼んであげられないことがあります。
キラキラネームってわけではありませんが。
そんなときにはこのアプリ(120円かかります)が有用です。
いろんな細菌の名前を読み上げてくれます。
※COIはありません。
まとめ
・Capnocytophaga canimorsusはイヌやネコの唾液に常在するグラム陰性桿菌であり、電撃性紫斑病の原因となる
・通性嫌気性菌であるため細菌の検出は困難となり、血液培養でうまく検出できないこともあり、血液塗抹標本や遺伝子検出が診断の基礎となっている
・動物咬傷の予防的抗菌薬投与の適応について覚えておこう