病歴/身体所見/検査
・生後4週、満期産
・SVT既往あり
・HR299bpmとなりER受診となった
・ECGではnarrow QRS tachycardiaを認めた
・BP62/54mmHgであり、ショックの徴候はなし
・SpO2 82%(酸素3L/min投与)、RR32
診断は?
上室性頻拍症
Next Stepは?
・迷走神経刺激を試す余裕はなく、薬物的cardioversionが選択された
・adenosine0.2mg/kg+生食(合計3ml)が24GルートからIV pushされた
↑ adenosine投与中の心電図所見
・患者はHR166bpmまで落ち着き、洞調律に復帰した
・上室性頻拍(Supraventricular tachycardia:SVT)はERではよくみられる頻脈発作
◦洞性頻脈からWPW症候群までを包括するリズムを指す
(N Engl J Med. 2012 Oct 11;367(15):1438-48.)
・2000年~2008年に生まれた小児を対象とした台湾のコホート研究によりSVT発症率が推定された
◦全体として0.06/1000patient-years
◦先天性心疾患のない小児では0.05/1000patient-years
(Heart Rhythm. 2016 Oct;13(10):2070-5.)
・adenosineは薬物治療の第一選択となっている
◦即座に効果発現し、半減期が5-10秒ほどなので副作用がほとんどない
◦代謝されるまでの速度が生食に速いため生食によるフラッシュを要する
・PALSの推奨:SVTに対しては迷走神経刺激を試して失敗した場合にはadenosine投与
◦adenosine 0.1mg/kg(max6mg) IV+生食5-10mlフラッシュ
◦上記で失敗した場合には、0.2mg/kg(max12mg) IVを最大2回まで試すことが可能(全部で3回まで)
(Ann Emerg Med. 1994 Aug;24(2):183-9.)
※海外ではadenosineというとADPを指しますが、日本ではATPを指します。
※用量としては海外:日本=6mg:10mgが対応しますが、小児ではADPと同じ投与量で問題ありません。
・一般的には、adenosine投与の際には三方活栓が使用される(two-syringe法)
◦でも結構難しいし、治療が遅れる可能性があるし、場合によっては在庫がないかもしれない
(Ann Emerg Med. 2018 Feb;71(2):220-224.)
two-syringe法は伝統的にやってきた方法です。
三方活栓を2つつけて、
①adenosine IV push
②即座に生食 IV push
でも操作ミスの可能性があり、特に慣れない場合には手技が難しいことがあります。
・代替の投与方法としてsingle-syringe法が提唱されている
◦こちらの方法の方が有用性が高いと考えられはじめている
‣治療成功率が高い
‣反復投与の必要性を減らす
‣三方活栓やスタッフの必要性を減らす
‣末梢静脈のルート漏れを減らす
・2019年に成人におけるsingle-syringe法がこれまでのtwo-syringe法に比較して非劣性であることが示された
(Acad Emerg Med. 2020 Jan;27(1):61-63.)
single-syringe法は、生食20mlにadenosineを混注して一気にIV pushする方法です。
この方が明らかに簡単ですよね。
今回の症例報告は、新生児SVTに対してsingle-syringe法によりadenosine投与がされたことが斬新です。
今後、その効果と安全性が検討されていくと思いますが、個人的には全てsingle-syringe法でいいように思います。自験例においては、洞調律復帰率はsingle-syringe法と従来のやり方では変わらないように感じています。
まとめ
・SVTに対しては、薬物的cardioversionの第一選択はadenosine
・成人では、adenosine投与はsingle-syringe法がその効果と安全性が証明されつつある
・小児においても今後研究が進んでいくだろう