りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

wide-complex tachycardia(WCT)をみたときの初期評価と対応

WCTへの対応で困ることは、

本当にこのWCTはVTなのか?それともそれ以外なのか?

対応はどうすればいいのか?

というところに集約されると思います。

 

本日ご紹介するreviewはそんな僕らの助けになる文献です!

一読の価値ありです!

f:id:AppleQQ:20200111200745p:plain

2019 Jul;37(7):1340-1345.

 

 

定義

・HR>100回/分
・QRS>120msec(3マス)
を満たすものと定義されています。
 
主な鑑別診断としてはVTか否かというところで、
これについてはいろいろなアルゴリズムが提唱されてはいます。
ただ、どれも確定的なものではありませんし、そもそも煩雑すぎて日常診療では
全く使えません(個人的な感想です)。
 

鑑別診断

WCTを見たら、必ずVTを想起することが最も重要です。

実際のところは鑑別診断はとても多く、しかも難しいです。

一応、鑑別診断リストを示しておきます。

診断
病歴
身体所見
regularity
心電図特徴
Naチャネルblocker
三環系抗うつ薬、コカインなどのoverdose
散瞳
高体温
regular
右軸偏位
aVRのR波>3㎜
高K血症
腎不全
動静脈シャント
透析
regular
T波増高
変行伝導を伴うSVT
どちらもあり
もともとBBBが指摘されている
副伝導路を伴うSVT
WPW症候群などの既往
regular
心拍数はより高く、QRSはnarrowもwideもある
副伝導路を伴うAF
WPW症候群などの既往
irregular
心拍数はより高く、QRSはnarrowもwideもある
monomorphic VT
cannon A wave
variable S1
regular
房室解離
軸-180~-90
QRS>160ms
precordial concordance
polymorphic VT
QT延長症候群
メタゾン使用
irregular
様々な形のQRS
QT延長が指摘されている
paced tachycardia
ペースメーカー
ペースメーカー
regular
ペーシング不全
比較的徐脈
 
やる気なくします…。
 
WCTの80%はVTとされます。
特に、以下の病歴がある場合にはその可能性が高いのでVTとしてまずは対応です。
 ・VTの既往
心筋梗塞の既往
・心疾患、EF低下
・男性、35歳以上 
 

房室解離を探せ

房室解離(AV dissociation)=VT波形の中にP波があるという状態を探すのが効率的。
これは心房と心室がバラバラに動いている証拠で、
VT診断において特異度100%です。
てことで、房室解離があればほぼ100%VTです。
 
今回の論文では、キャリパーを使って、「P波を示すsharp “notches”」を探せ!
と書かれていました。
 
房室解離があると、WCTの中にP波を示すsharp notchが出てきます。
それがないか心電図をじーっとみつめて、ありそうならそれをキャリパーで追ってみてください。そうすると、診断はVTだ!と胸を張っていうことができます。
 
以下に今回紹介されていた心電図を紹介します。 f:id:AppleQQ:20200111202355p:plain青矢印がP波のsharp notchで、房室解離の所見です。
確かにこうするとわかりやすいです。
 

誤診をしないために気を付けること

 
以下の4項目が大事なこととして紹介されていました。
①previous clinician's false diagnosis
"the patient is too well for the tachycardia to be VT"という思い込み
P-wave trap
QRS morphology trap
 
①previous clinician's false diagnosis
WCTを見たら、各医師は独立して評価してください。
前医が「wade QRS tachycardiaですが、洞性頻脈です」などと言っても、それに惑わされずに必ずまっさらな眼で再評価しなければなりません。
 
これってERで働いているとよくあることです。
腸炎の触れ込みで来たけど、手術を要する急性腹症だった…
脳梗塞の触れ込みで来たけど、普通に敗血症やんけ…なんてことは日常茶飯事です。
濁った眼で見てしまうことになるので、基本的に前医の紹介状はほとんど読まないことにしています(すいません)。
 
"the patient is too well for the tachycardia to be VT"という思い込み
患者さんの見た目が安定しているからVTじゃないっしょ~というのは楽観視です。
VTであっても臨床的に安定していることはしばしばあります。
 
転んでしまって膝を打撲して動かせないことを主訴に、ニコニコかつ恐縮した様子でこられた患者さんがいました。
前医からは膝蓋骨脱臼の触れ込みで紹介状を持ってきていました。
転倒時のことを伺うと、「どうして転んだかはわからない」と。
失神の可能性を考慮して評価するとなんとVTだったこともありました。
トリアージの際のバイタルは異常ありませんでした)
患者はVTを発症しているときも歩行可能で元気そうでした…。
 
不安定になるのは、診断ミスと治療の失敗の積み重ねによるところがあり、初療時には安定していることもありますので注意です。
 
P-wave trap
真の1:1 P-QRS relationshipがあるのかを見抜くこと。
P波のように見えているけど、それは本当にP波なのか判断せねばなりません。
VTにP波が付随することはありますが、通常は逆行性伝導パターンとなります。
 
QRS morphology trap
脚ブロックと安易に決めつけるべからず。
もともと脚ブロックがあった人のWCTだと安易にSVTだろうと考えてしまいがちですが「WCTを見たらいつでもVTを疑う」というのは鉄則です。
臨床的背景と房室解離がより優先されるべき所見となります。
 
以下に症例を示します。  f:id:AppleQQ:20200111204119p:plain患者は62歳女性、2日間の経過で心不全症状が増悪している拡張型心筋症。  
この心電図を目にした多くの医療従事者はSVT+BBBと判断していました。
また、赤矢印を洞性P波と判断していました。
でもよくよく考えると患者は心不全の病歴があり、青矢印はP波のsharp notchを示しています(=房室解離)。
この症例では、以下の誤診要因がありました。
①previous clinician's false diagnosis
P-wave trap
QRS morphology trap
 
 

WCTを見たときの対応

WCTがregularかirregularかで少し変わりますので、見ていきましょう。
 

regular WCTである場合

まずは患者の状態がstableかunstableかが対応の入り口です。
 
unstableな場合にはelectrical cardioversion 100J~を選択すべし
特に左室機能低下があるような場合には抗不整脈薬よりも電気的除細動を選択します。
これはstableであっても有効性が高いので、いつでも一応first choiceではあります。
 
SVTの可能性が疑われる場合には、adenosine静注によりその可能性を評価します。
・投与後もWCTに改善なし→VTの可能性が高くなる
 
よくわからないときには、adenosine静注を試してみることはオススメです!
SVTである場合にはadenosineはbest choiceですし、
VTであろうとadenosine投与は安全性が証明されていますので安心して使えます。
※ちなみにadenosineが有効なVTもわずかに存在します。
 
VTであろうと考え薬物的対応を選択した際は、
procainamideまたはamiodaroneを使用することになります。
 
詳しい使い方は別に譲りますが、大まかな使い方としては
VT停止目的でprocainamide、予防目的でamiodaroneとするのが良いです。
VT停止目的であれば、procainamideはamiodaroneに比較して有効性が高く、安全性も高いことが知られています。ACLSガイドラインでも推奨度が高いです。
 
これは意外でした。
なんとなくVTの時にはamiodaroneを使用してしまいがちです。
 
欧米のガイドラインではより高用量であることが多いですが、
procainamideは10mg/kgを20分以上かけて投与することで十分です。
 

irregular WCTである場合

irregular WCTはVTである可能性は非常に低いことが知られています。
irregular WCTだけどVTを疑う状況としては、
「器質的心疾患を持つ高齢者+QRS波形はbizarre+HR120bpm程度で比較的slow」
な場合で、こんな時にはregular WCTと同様、房室解離の徴候を探していきます。
 
irregular WCTの主な鑑別としては、
AF+BBBまたはAF+ventricular preexcitation(WPW症候群)の2つです。
 
・AF+BBB…HR120–160bpmでQRS波形がRBBBまたはLBBB  
・AF+ventricular preexcitation…HR≥180bpmでQRS波形がbizarre
 
病歴上の特徴としては、
AF+BBBは器質的心疾患を持つ高齢者で多く、
AF+ventricular preexcitationは器質的心疾患を持たない患者に多いとされています。
 
AF+BBBでは、AFガイドラインに則った治療を行います。
diltiazemまたはβ-blockerによるrate controlが良いでしょう。
 
AF+WPW症候群では”ABCD”を使用しないことが重要です。
adenosine, amiodarone, verapamil, diltiazem, beta blockers, digoxinはダメです。
electrical cardioversion120-200Jまたはprocainamideを使用します。
 

まとめ

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これがとても秀逸なまとめの表でした。必携です!