りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

retrospective:COPD急性増悪の至適酸素飽和度はどこにある?

COPD急性増悪のときには酸素飽和度を上げすぎない!

 

これはもはや常識になりつつある話題かもしれません。

 

・各ガイドラインの推奨まとめ
 ◦European and British Thoracic Societies guideline…COPD急性増悪の目標SpO2は88-92%、高CO2血症にならなければSpO2 94-98%で調整してよい
 ◦National Early Warning Score 2 guideline…目標SpO2は94-98%、高CO2血症があればSpO2 88-92%に調整

 

「だいたいSpO2 88-92%くらいで管理しなさいよ」と推奨されています。

 

酸素飽和度を上げすぎてしまうと以下のようなリスクがあります。

酸素誘発性高二酸化炭素血症は、主にV/Qミスマッチや分時換気量の変化によって引き起こされる複雑な現象
 ◦呼吸性アシドーシスや死亡につながる危険な病態である
(Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2014 Nov 7;9:1241-52.)
・さらに過剰な酸素投与により無気肺/炎症/急性肺損傷/心臓や脳の血管収縮が引き起こされうる
BMJ. 2018 Oct 24;363:k4169./Ann Intensive Care. 2015 Dec;5(1):42./Circulation 2015;131:2143–50.)

 

とはいえ、良くないとは知りつつもなるべく高い酸素飽和度を保ちたいという欲望は見え隠れしてしまうことはあるのではないでしょうか?

 

酸素飽和度ごとの死亡率が一目瞭然となるわかりやすいfigureを見つけたのでついでにざっと読んでみました。

 

Echevarria C, Steer J, Wason J, Bourke S. Oxygen therapy and inpatient mortality in COPD exacerbation.
Emerg Med J. 2021 Mar;38(3):170-177.
PMID: 33243839.
 
 
COPD急性増悪の院内死亡率を調査する目的で行われた
・対象…スパイロメトリで閉塞性障害、35歳以上で10年以上の喫煙歴がある患者
・除外…COPD以外の疾患による1年以内の死亡が見込まれる患者
・患者は酸素飽和度により4群に分類され、酸素投与の有無にかかわらずこれら4群間での院内死亡率が比較された
 
・2645人が対象となり、1027人(39%)が酸素投与を受けていた
 ◦平均年齢73歳、女性56%
 ◦平均入院前FEV1 41.7%
 ◦57%は助けなしに外出不能
 ◦31%は入院時CXRで浸潤影、27%はABGでアシデミア、54%がCharlson index≧2
 ◦SpO2≦87%:14%, 88-92%:28%, 93-96%:37%, 97-100%:22%
・全体の院内死亡率は12.8%、酸素非投与患者では6.0%
 
・primary outcome…院内死亡率
 ◦SpO2≦87%:17.1%, 88-92%:8.7%, 93-96%:11.2%, 97-100%:17.1%
  ‣97–100%群…unadjusted OR=2.18; adjusted OR=2.97
  ‣93–96%群…unadjusted OR=1.40; adjusted OR=1.98
  ‣≦87%群…unadjusted OR=2.17; adjusted OR=1.36

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ベースラインリスクにより死亡率が変動することは証明できず、酸素の過剰使用が死亡率に寄与したと考えられる結果でした。

 

・1027人の酸素投与を受けた患者のうち476人は高二酸化炭素血症がなかったが、この群でもほぼ同様の結果であった

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二酸化炭素血症がなくとも、過剰酸素投与を行うと死亡率上昇してしまうことがわかりました。もちろん、低酸素血症もだめですけど。

 

 

これらの結果をまとめた秀逸な図が以下です。

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この図だけ見とけばいいじゃんか…。

 

 

ただし、この研究の最大の注意点として、
"Dyspnoea, Eosinopenia, Consolidation, Acidaemia and Atrial Fibrillation (DECAF) score"というCOPD急性増悪での院内死亡率を予測するためのclinical prediction ruleを検証した、イギリスの多施設で行われた大規模前向き研究のデータの二次解析によるもので、酸素飽和度による死亡率を調べるために集められた患者ではないことです。
 
 
それにしても酸素飽和度と死亡率の相関が非常にわかりやすいです。
 
 

まとめ

COPD急性増悪に対する至適酸素飽和度は88-92%!
 ・COPD急性増悪に対してSpO2 88-92%の範疇より低い/高い目標で酸素投与を受けた患者では、全体/高CO2血症がない患者において院内死亡率が高まった