ついに出ました!CRASH-3!
トラネキサム酸(TXA)はいまや出血イベントに対してはほぼルーチンのように使用されています。特に受傷3時間以内の外傷に対しては有効とされていますが外傷性脳損傷(TBI)に対しての効果については小規模の研究のみでした。
今回、CRASH-3で検討したのはこのTBIに対するTXAの有効性についてです。
結論を先に書くと、primary outcomeでは有効性を示せませんでしたが、secondary outcomeではそれなりの有効性を示せました。あくまでsecondary outcomeなのが惜しいですが…。
個人的にはこれからも患者を選択しつつ使っていこうかと思いました。
背景のまとめ
・CRASH-2では頭蓋外の出血に対する3時間以内のTXA投与は死亡率を1.5%低下させる(NNT67)ことが示された
◦ただし、頭蓋内出血(ICH)に対する効果については除外されたため不明であった
・2つのRCTでは、ICHに対してTXA投与を行うことで死亡率が低下したと報告された
◦いずれのRCTも小規模であり、エビデンスとまでは言えない結果であった
(Am J Emerg Med. 2014 Dec;32(12):1503-9.)
・TICH-2… international, randomized, double-blind, placebo-controlled phase 3 trialであり、約2300人の成人ICHが対象となった
◦これでも90日後の機能的予後改善効果は示されなかった
◦2日後の血腫増大抑制効果、7日後の死亡率改善効果を示した(secondary outcome)
(Lancet. 2018 May 26;391(10135):2107-2115.)
上記研究が行われ、TXAはTBI(traumatic brain injury)にも有効ではないかという仮説を証明すべくCRASH-3が行われるに至った。
CRASH-3 概要
・2012年~2019年、29の国にまたがる175病院でのRandomized, placebo-controlled trial
・対象
◦受傷3時間以内で16歳以上のTBI
‣GCS≦12
‣頭部CTで頭蓋内出血がある(GCS13-15)
◦CTで頭蓋内出血の所見がある
◦主要な頭蓋外出血がない
※もともとは8時間以内で登録されていたが、2016年9月からはエビデンスに基づき3時間以内の症例を選択
・除外
◦16歳未満
◦主要な頭蓋外出血がある
◦受傷から8時間以上(2016年9月からは3時間以上)
◦GCS3および両側瞳孔反射なしを除いた、事前に指定した感度分析
※感度分析…治療効果に影響すると仮定される因子を変化させてみて、治療効果が変化するか銅貨をみる分析方法
・介入方法
◦TXA群…10分間かけて1g loading、さらに8時間かけて1g投与
CRASH-3 結果
・12737人がランダム化された…TXA群:6406人、Placebo群:6331人
◦9202人(72.2%)は3時間以内に治療された
◦平均年齢42歳、80%が男性、80%が両側瞳孔反射あり、約2/3がGCS<12
・受傷から死亡までの日数とその割合は以下
・primary outcome…28日以内の頭部外傷関連死亡率
◦TXA群:18.5% vs Placebo群:19.8%(RR0.94, 95%CI 0.86-1.02) NNT77
◦GCS3および両側瞳孔対光反射消失を除いた感度分析
→TXA群:12.5% vs Placebo群:14.0%(RR0.89, 95%CI 0.80-1.00) NNT67
・secondary outcome
◦受傷から24時間以内の頭部外傷関連死…RR0.81, 95%CI 0.69-0.95
◦全原因死亡…RR0.96, 95%CI 0.89-1.04
◦GCS9-15…TXA群:5.8% vs Placebo群:7.5%(RR0.78, 95%CI 0.64-0.95) NNT59
◦GCS3-8…TXA群:39.6% vs Placebo群:40.1%(RR0.99, 95%CI 0.91-1.07) NNT200
◦両側瞳孔対光反射あり…TXA群:11.5% vs Placebo群:13.2%(RR 0.87, 95%CI 0.77-0.98) NNT58
◦片側または両側対光反射消失…TXA群:52.3% vs Placebo群:50.8%(RR1.03, 95%CI 0.94-1.13)
◦治療までの時間を考慮しても同様の傾向がある
‣重症群…TXA投与までの時間とoutcomeに関連なし
‣軽症~中等症群…TXA投与までの時間が早いほど効果的
◦機能予後…平均Disability Rating Scale 4.99 vs 5.03(統計学的有意差なし)
◦血管閉塞イベント(MI、CVA、DVT、PE)…RR0.98, 95%CI 0.74-1.28
CRASH-3 Limitationなど
・臨床的に重要な疑問に対する研究であり有用
・さらに、ICHに対するTXAの効果を検討した最も大規模なRCTであった
・primary outcomeでは有効性を示せなかったが、CRASH-2に比較していやに死亡率が高く、TXAは効果を示さないような重症群が多く含まれていたためにTXAの効果を下げるような結果につながった恐れあり
・当初は10000人の患者に15%の相対的死亡率低下を検出する90%の検出力を持たせることが計画されていたが、研究途中で受傷後3時間以内にランダム割り付けされた患者における28日以内の頭部外傷関連死へとprimary outcomeが変更されたことでサンプルサイズが13000人に増加した
・Subgroup解析のみでしか有効性を示せなかった
・登録されている施設の大半が、パキスタンなどの低所得~中所得の国々であったことから外的妥当性は不明瞭
・DVTやPEは画像で陽性または剖検で陽性であった場合を採用しているため、これらの合併症を過小評価している可能性あり
CRASH-3 まとめと個人的見解
・TXAの効果が最大限となる患者群は以下
◦受傷から治療まで3時間以内…NNT 77
◦mild-moderate(GCS9-15)…NNT 59
◦両側対光反射あり…NNT 58
◦GCS3かつ両側対光反射消失以外…NNT 67
・安価であり、主要な合併症が認められなかったためTXA使用は妥当かと思う
・特に弘前のような田舎では全例脳外科にアクセスすることは不可能であるため、少しでも予後改善を達成するためにTXA使用することは許されるのでは…
・よって、これからもTBIに対してTXAは使っていこうと思う