Emergency Medicine Practiceから救急外来で見逃してはならない二次性頭痛のreviewが出ていました!
まずは、病態生理、疫学と症状の特徴や病歴/身体所見/検査特性について見ていきましょう!
症例
以下のような人が来たらどのように対応しますか?
①55歳男性、人生最大の頭痛
・5時間前に発症、鋭い痛みで放散痛はなし
・CTは陰性で、鎮痛薬には反応し頭痛消失
・本当にSAHではないとして帰宅させて大丈夫だろうか…?
②非小細胞がんに対してシスプラチン内服中の55歳男性、急性発症の頭痛と倦怠感
・210/120mmHg, 70beats/min, 36.7°C
・局所神経学的異常や髄膜刺激徴候なし
・頭部CT撮影後、降圧を考慮しているがどのくらいのペースで降圧すればよいのだろうか…?
③45歳女性、後頚部痛/頭痛/めまい
・神経学的異常はないが、椎骨脳底動脈解離を疑っている
・CTAをオーダーしたが、画像所見が陽性だったとき抗凝固薬を投与するか、抗血小板薬を投与するか迷ってしまった。
これらがすでに余裕でわかる人は読む価値がなさそうです(笑)
もしもわからなければ一緒に見ていきましょう!
病態生理
・脳実質自体は疼痛への受容体を持たない
◦髄膜や血管が牽引されたり刺激されたりすることで疼痛を感じる(侵害受容体)
◦substance Pやcalcitonin gene-related peptideなどのneuropeptidesによる受容体活性化で頭痛が生じる
◦一次性頭痛でも二次性頭痛でも共通した疼痛経路を有するため、鎮痛薬への反応性で二次性頭痛を除外できない
‣二次性頭痛においてもNSAIDsやtriptanへの反応があったとする症例報告が多数ある
‣ACEPでも鎮痛薬への反応性で二次性頭痛を除外しないように勧告されている(ACEP Level C recommendation)
これ、とっても大切だと思います。
たまにカルテ記事で「鎮痛薬への反応性をみて判断」などと記載を見つけますが、それはなしです。病歴や身体所見から疑ったら必ず追求してください。
疫学
・米国において、頭痛はER受診者の3%を占め、4番目の受診理由である(http://www.cdc.gov/nchs/data/ahcd/nhamcs_emergency/2011_ed_web_tables.pdf. )
●アメリカ(開業医)…多くの患者が一次性頭痛
・重症は1.3%程度で少ない。
・緊張型頭痛:23.6%
・その他(ウイルス感染/外傷/頭蓋外起因):47.3%
・診断不明:15.1%
・重症(SAH、硬膜下血腫など):1.3%
(J Fam Pract. 1988 Jul;27(1):41-7.)
●日本(救急搬送)
・ERの患者は二次性頭痛が多い。
・重症:18%
・緊張型頭痛:31%
・片頭痛:6.6%
・頭部外傷:21%
・その他:13%
・診断不明:8%
(日本頭痛学会誌 2008;28:4)
・高齢者は二次性頭痛のhigh rik群と認識しておく
◦頭蓋内出血、急性隅角閉塞緑内障、巨細胞性動脈炎、悪性腫瘍など
◦50歳以上ではそれ以下の年齢と比較して器質的疾患である可能性は4倍になる
50歳以上の新規発症の頭痛は精査対象です!
代表的な二次性頭痛の特徴
疾患名
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症状と徴候
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・突然発症、労作時発症
・意識消失
・頸部痛、項部硬直
・年齢≧40歳
・動眼神経麻痺、同側の瞳孔散大
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頸動脈解離
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・頸部痛
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椎骨動脈解離
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・頸部痛
・最近の頸部外傷歴
・Ehlers-Danlos/Marfan症候群既往
・後方循環系脳卒中様症状(めまい、協調運動障害など)
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脳静脈血栓症
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・妊娠、産後、そのほかの過凝固状態(ピル+タバコとか)
・乳頭浮腫や外転神経麻痺などの頭蓋内圧亢進症症状
・片麻痺、運動失調、痙攣など
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特発性頭蓋内圧亢進症
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・体位による頭痛増悪
・外転神経麻痺、両眼性複視
・拍動性耳鳴
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巨細胞性動脈炎
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・側頭動脈腫脹、圧痛
・jaw claudication(顎跛行)
・複視
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・急性発症頭痛、高血圧、意識障害
・視覚異常
・強直間代性けいれん
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・発熱、頸部痛、項部硬直
・免疫不全
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急性緑内障
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・高齢
・眼痛、結膜充血
・片側性霧視や視力障害
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子癇前症
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・妊婦、褥婦
・高血圧、蛋白尿、末梢性浮腫、血小板減少、肝機能障害、腎障害など
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一酸化炭素中毒
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・末梢性チアノーゼ
・意識障害
・霧視
・嘔気/嘔吐
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これらが鑑別にすらすら出てくると、救急外来での見逃しがだいぶ少なくなります。
●くも膜下出血(SAH)
・原因は多くは動脈瘤破裂だが、血管奇形や特発性もあり
・見逃しは致死的!死亡率50%にも及ぶ
・症状で最も警戒すべきは突然発症の頭痛(75%でみられる)
◦一過性意識消失/意識障害…25%
◦項部硬直、嘔吐、複視など
・SAH患者の20%では警告出血(sentinel bleed)による疼痛が先行する病歴あり
◦SAH発症の数日から数週間前に以下の症状が起きうる
‣数時間~数日持続する頭痛
‣脳神経麻痺
‣頸部痛
‣嘔気/嘔吐
所見
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陽性尤度比
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項部硬直(他覚的)
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6.6
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項部硬直(自覚的)
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4.1
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局所神経学的異常
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3.2
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羞明感
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2.3
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意識消失
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1.9
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労作時発症
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1.7
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突然発症
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1.3
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性行為中発症
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1.2
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(Acad Emerg Med. 2016 Sep;23(9):963-1003./Stroke. 2009 Apr;40(4):1195-203.)
●CAD(carotid artery dissection)
・頸動脈解離+椎骨動脈解離を含んだ概念
・特発性に発症しうるが、以下の原因がある場合も多い
◦seat-belt injury, hanging, vigorous physical activity, chiropractic manipulation
・Ehlers-Danlos syndrome、骨形成不全症、Marfan syndromeがrisk factor
●特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)
・妊娠可能年齢の肥満女性がリスク
◦特に、ビタミンA過剰摂取がリスクとされる
◦皮膚疾患やがん治療に用いられるall-trans-retinoic acid(ATRA), retinol, isotretinoin, etretinate, tretinoinもリスク
◦Tetracycline治療開始直後でのIIH発症も報告あり
・modified Dandy criteriaが診断基準として有名
◦頭蓋内圧亢進を疑う症状や徴候がある
‣頭痛、視覚異常、拍動性耳鳴、乳頭浮腫など
◦上記以外の神経学的異常はなく、意識障害も呈さない
◦腰椎穿刺において初圧上昇かつ脳脊髄液所見正常
◦頭蓋内圧亢進を呈する他の原因がない
●GCA
・まれな疾患
・女性に多く、50歳以上での発症がほとんど
・発熱、倦怠感、筋肉痛、頭痛、複視や一過性黒内障など多彩な症状を来しうる
・PMRがGCA患者の半数以上に見られる
◦GCA疑う場合には近位筋の疼痛に関しても病歴聴取、身体所見をとること
●PRES
・可逆性の高血圧緊急症の一種
・重度の高血圧による脳自動能不全、血管拡張、間質への液体の漏出→浮腫が病態
・高血圧性脳症、子癇、cyclosporine/tacrolimus/cisplatinなどの免疫抑制剤の使用と関連がある
・血圧上昇、急性発症の頭痛、意識障害が症状として特徴的
◦強直間代性痙攣が最大75%に認められる
病歴聴取
・OPQRSTを聴取して危険な病歴を聞き出す
Onset
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・突然発症の頭痛
・労作時/orgasm時の頭痛
⇒SAH/ICH/CVT
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Provocation
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・体位による変化
◦特に仰臥位や咳をした時の悪化
⇒頭蓋内圧亢進
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Quality
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・以前の頭痛との性状/パターン/強さが異なる
⇒新規発症の頭痛として精査対象
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Radiation
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・頸部への放散痛
⇒SAH/CAD
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Severity
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・Thunderclap or worst headache
⇒SAH/CVT/ICH
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Temporal
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・経時的に変化してきた慢性頭痛
⇒頭蓋内占拠性病変
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「突然発症」「人生最悪」に関してはとても有名で誰しも聞けていますが、「労作時」「体位による変化」「パターンが異なる」などもしっかり聞き逃さないようにしたいものです。
雪かきをしていて(労作時)、重い雪を持ち上げた瞬間に(突然発症)、めちゃくちゃひどい頭痛を自覚した(人生最悪)患者さんがこのまえ当科を受診されていました。
初診時のCTでは異常がなく症状も経過観察でよくなったものの、危険な病歴のため入院してもらって経過観察、翌日のCTで出血が…なんてこともありました。。。おそろし。
身体所見
バイタルサイン
・特に、発熱と高血圧に対して敏感になる必要がある
・特に妊婦における血圧上昇では、高血圧性脳症/頭蓋内出血/PRES/子癇前症/下垂体卒中/RCVS/CVTなどを真っ先に想起すべき
・Cushing徴候…血圧上昇、徐脈、不規則な呼吸
→頭蓋内圧上昇のサイン!SAH、脳卒中、IIHを考慮すべし。
…頭痛、発熱、項部硬直、意識状態の変化のうち2つがあれば髄膜炎を考慮
◦髄膜炎の95%では上記4つのうち2つが認められる(そりゃそうだろ)
神経診察
・これがある場合には、頭蓋内病変を疑う強い予測因子となる
・注意力検査もすべし
◦月を逆から言わせる
・運動/感覚機能、協調運動、反射、歩行などの所見をとること
・Horner症候群(眼瞼下垂、縮瞳など)や前方循環系脳卒中様症状(構音障害、認知機能低下など)がある場合
→特に、CAD考慮
・後方循環系脳卒中様症状(めまい、視力変化、四肢脱力など)の場合
→椎骨動脈解離を考慮
脳神経
・視神経の異常
◦Marcus Gunn pupil(swinging flashlight test)…視神経炎、GCA、網脈中心動脈閉塞症など
・動眼神経の異常
◦瞳孔散大、眼瞼下垂、down-and-out eye(眼位が外下方に偏位)
・外転神経の異常
◦側方注視で複視、眼位が鼻側に偏位
→IIH、CVTなど頭蓋内圧亢進症を考慮
‣これらの患者は乳頭浮腫により視力障害、視野障害などを呈することがある
頭頚部の身体所見
・項部硬直…髄膜炎、SAHを考慮
・partial Horner syndrome(縮瞳、眼瞼下垂)…CADを考慮
◦交感神経線維は影響を受けないため無汗症は出ない
◦発症までに数日程度かかることもあるため初診時にはわからないことがある
・側頭動脈の圧痛や腫脹…GCA考慮
◦側頭動脈圧痛…LR 4.6、側頭動脈 beading…LR 2.6
◦顎跛行…LR 4.2
◦複視…LR 3.4
眼底検査
するべきなんですね…
したことないし、これからもあまりする気はないのでこの項目は読んでません。
検査
血液検査
・原則的には血液検査でわかることは少ないが…
・血糖値検査は必須、頭痛+血圧上昇を呈する女性では妊娠検査
◦ただし、感度や特異度は低く、疑いが強い場合には陰性でも生検や治療に踏み切るべき
・CO中毒疑い…COHb測定
・CVTを疑う場合には、D-dimerが有用かもしれない
◦D-dimer<500mcg/L…感度97%/陰性的中率99%
◦原則的には低リスク患者の除外に使うこと(頭部CT陰性、妊婦や褥婦ではない患者)
→高リスク患者(妊婦や悪性腫瘍)ではMRVで精査すべき
画像検査
・画像検査についてのACEP推奨は以下
◦Level B Recommendations (Moderate Strength of Evidence)
‣頭痛、新規神経学的異常(意識障害、認知機能低下など)ある場合
‣新規発症、突然発症の重度の頭痛
‣HIV陽性患者の新規発症頭痛
◦Level C Recommendations (Weak Strength of Evidence)
‣50歳以上の新規発症頭痛(神経学的異常がない場合)
・基本的にはfirst choiceは単純CTでよい
・占拠性病変(腫瘍や膿瘍)、感染(トキソプラズマ、脳嚢虫症など)を疑う場合には造影CT推奨
・CAD疑う場合には、CTAやMRIが推奨される画像検査
・CVT…疑いが強い場合にはMRVが必要
CTとSAH
・CTに関しては時間に依存してその診断能が変化する
◦発症から6時間以内…感度100%/特異度100%/陰性的中率100%(prospective study)
◦発症から6時間以内…陰性尤度比0.01(meta-analyses)
・ 2008 ACEP Clinical Policy Guideline/ 2012 AHA Guidelineでは頭部CT陰性かつSAHを疑う全患者に対する腰椎穿刺を推奨してはいる(Level B recommendation)
発症から6時間以内のCT所見が陰性であれば除外してよいと思います。
ACEPでは腰椎穿刺が推奨されていますが、あまり必要でない気もします。
腰椎穿刺
・髄膜炎、SAH、IIHなどの診断に重要な意味を持つ検査
・腰椎穿刺前に画像検査を要する患者…ICP上昇の可能性のある患者
◦乳頭浮腫
◦眼底鏡検査で静脈拍動の欠如
◦意識障害
◦局所神経学的異常
◦髄膜刺激徴候
…これらの徴候がなければ腰椎穿刺前の画像検査を省略できる
(ACEP Level C recommendation)
・IIHを疑う患者では側臥位での検査をすること
◦座位で初圧を測定すると実際よりも初圧が上昇することがある
◦通常、初圧>25cmH2Oであり、組成に異常はなく、検査後には症状が一時的に改善する
◦1mlの脳脊髄液除去でおよそ1cmH2Oの低下が見込まれる
・SAHの所見
◦高い初圧>20cmH2O
‣ガイドライン上のcutoff値はない
(Acad Emerg Med. 2013 Mar;20(3):247-56.)
◦Xanthochromia…ヘモグロビンが分解されて生じ、脳脊髄液が黄色になる
‣発症から2-12時間で生じるため、この時間内にXanthochromiaがないことで除外はできない
‣Xanthochromiaなし+RBC≺2000ではSAHは感度100%で除外できる
・頭部CT陰性+初圧正常+脳脊髄液成分異常なしであればアンギオせずにERから帰宅可能
(ACEP Level B recommendation)
眼球超音波
・頭部CTなしに頭蓋内圧亢進を診断でき、腰椎穿刺に安全に移行できる
・頭蓋内圧とONSD(optic nerve sheath diameter)の関連性はあるようだ
◦眼球後部から3mmの位置で測定
◦正常な成人では最大5mm
◦ONSD>5mmであればICP>20mmHgと推定される
◦まだエビデンスとしては確立されていない
閉眼してもらい眼瞼上にエコーゼリーを直接つけてもできますし、テガダームなどを貼ってからその上にエコーゼリーをつけてもよいです。
つけまつげをしている眼球打撲女性にテガダームつけてまつ毛とれてめっちゃ怒られたことがあります。ちゃんとインフォームドコンセントをとりましょう( 一一)
ここまでの話で症例①と症例②の診断まではできると思います!
症例を再掲します。
①55歳男性、人生最大の頭痛
・5時間前に発症、鋭い痛みで放散痛はなし
・CTは陰性で、鎮痛薬には反応し頭痛消失
・本当にSAHではないとして帰宅させて大丈夫だろうか…?
⇒発症6時間以内でCT陰性ならSAHの可能性はかなり低いと判断できる。
ACEPは腰椎穿刺まで推奨しているが個人的には不要と思う。
SAH以外の二次性頭痛についても考慮しておきたい。
②非小細胞がんに対してシスプラチン内服中の55歳男性、急性発症の頭痛と倦怠感
・210/120mmHg, 70beats/min, 36.7°C
・局所神経学的異常や髄膜刺激徴候なし
・頭部CT撮影後、降圧を考慮しているがどのくらいのペースで降圧すればよいのだろうか…?
キーワードは異常な高血圧とシスプラチン内服です。
これら2つからPRESが疑われます。視覚的な異常も認めてほしいところですが…
マネジメントについては次回!