EmergencyMedicine Practiceと並んで大好きな雑誌「Emergency Medicine Clinics of North America」には、どんな患者が危なくて、実際どんな検査をしていけばよいのかより具体的に記載があったため、共有したいと思います。
Emerg Med Clin North Am. 2016 Nov;34(4):695-716. doi: 10.1016/j.emc.2016.06.003. Epub 2016 Sep 3.
Headache in the Emergency Department: Avoiding Misdiagnosis of Dangerous Secondary Causes.
ACEPの推奨4項目
二次性頭痛を示唆する所見
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・頭痛の性状…突然/最悪/増悪/普段と異なる/valsalvaで増悪
・随伴症状…発熱/嘔吐/精神症状/麻痺
・リスク要因…50歳以上初発/悪性疾患や免疫不全/頭部外傷歴
・身体所見…神経脱落症状/髄膜刺激徴候
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・さらに、red flagsとして以下が知られる
・局所神経学的異常
・突然発症 or Thunderclap headache
・50歳以上での新規発症の頭痛
・頸部痛や項部硬直
・視覚異常
・発熱、免疫不全状態、悪性腫瘍の既往
・妊娠中、産後
・失神
・けいれん
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・これらのことから、ACEPの画像検査推奨は以下の4項目。
症状、症候
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recommendation level
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頭痛+新規発症神経学的異常(巣症状、意識障害、認知機能障害)
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level B
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sudden onsetの激烈な頭痛
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level B
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HIV陽性患者の新規発症頭痛
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level B
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神経学的異常はないが、年齢>50歳の新規発症頭痛
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level C
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(Ann Emerg Med. 2008 Oct;52(4):407-36.)
さらに10個の推奨
Emerg Med Clin North Am. 2016 Nov;34(4):695-716. では、さらに10個の推奨を設けています。
頭痛+sudden oncet
・脳出血やSAHをまず鑑別に挙げるべき徴候
・それ以外にも生命をおびやかしうる疾患は隠れているため注意
・CAD:片側性頭痛/頸部痛に神経学的異常を伴うときには考慮
・CVT:緩徐発症頭痛で視界やその他の神経学的異常を伴う。
◦thunderclapのこともあるため注意(2-13%)
‣thunderclap headacheでCT陰性/髄液正常/初圧上昇していればCVTを疑う
・AACG:頭痛、眼痛、視覚障害が出現。視力検査や眼圧測定が必須。結膜充血を伴った散瞳が特徴的な所見。眼圧>21mmHgで異常、>30mmHgではAACGの事前確率が高くなる。
・特発性低髄液圧症候群、下垂体卒中、RCVS(reversible cerebral vasocontriction syndrome)などもこの鑑別に挙がる。
・低髄液圧症候群…臥位で経過し座位/立位で悪化する起立性頭痛が特徴的
◦両側の慢性硬膜下血腫を見たら特発性低髄液圧症候群を疑うこと。
◦平均発症年齢40歳前後
◦立位で15分以内に起こり、臥位で30分以内に改善または消失する
◦特発性低髄液圧症候群の10~25%が慢性硬膜下血腫を合併する。
頭痛+局所神経学的異常
・局所神経学的異常がある場合には頭蓋内病変の事前確率が非常に高くなる
・女性、若年、後方循環系の脳梗塞では発症時に頭痛を経験しうることが知られているため注意
・血管解離に注意
◦前方循環系症状+頭痛/顔面痛/頸部痛→頸動脈解離
◦後方循環系症状+頭痛/顔面痛/頸部痛→椎骨動脈解離
・頭痛発症から神経学的異常出現までしばしば数日程のタイムラグがあることもあるため注意
◦それまでに見つけることが目標
・脳神経欠損症状に注意
◦視神経…脳梗塞、側頭動脈炎、眼科的異常
◦外転神経…とても長い神経であるためICPの上下に影響を受けやすい(IIHとか)
◦動眼/滑車/外転神経…海綿静脈洞病変
◦複数の脳神経異常…脳幹病変
頭痛+HIVなどの免疫不全状態
・HIVでは24-36%で頭蓋内病変が出現しうる。
・免疫不全(移植前後など)
◦中枢神経系腫瘍やPRES(posterior reversible encephalopathy)などの非感染性原因にも注意
頭痛+高齢者
・頭蓋内出血、潜在性外傷(CSHなど)、巨細胞性動脈炎、悪性腫瘍などの事前確率が高くなる。
・65歳以上の頭痛では二次性頭痛が15%に見られた
・50歳以上はそれ以下に比較して4倍の器質的原因がある
・巨細胞性動脈瘤を疑うのは以下の状態のとき
◦60歳以上の新規発症頭痛
◦PMRの診断
◦頭皮の圧痛、顎跛行、視覚異常など
頭痛+妊婦/褥婦
・ほとんどは健常人と同様の一次性頭痛であるが、子癇/CVT/下垂体卒中/RCVSには注意を要する。
・子癇
◦妊娠20週~産後4-6週間、特に産後1週間には要注意
◦しばしば1日以上続く頭痛が痙攣の前駆症状となるため、頭痛以外の症状がなくとも閾値を低く検索しておきたい
・CVT
◦血栓傾向が強まることから妊娠第3期(28週)~産褥期に発症しやすい
・下垂体卒中
◦妊娠により下垂体は139%に増量するためリスクが高まる
・RCVS
◦まれ
◦脳の中大血管収縮により、出産早期の急性/激烈な頭痛で発症する(頭痛のみが76%)
‣神経学的異常…24%、痙攣…3%
‣視覚症状が最多で、片麻痺、片側性の感覚障害/失語など
◦繰り返すthunderclap headacheでは疑いが強くなる
‣thunderclap headacheを複数回認めた例が94%
‣平均4.5回、病悩期間7.4日、それぞれの頭痛の持続時間は5分~36時間(平均5時間)
‣ほぼ全例で両側性
◦頭蓋内出血、脳梗塞、血管原性脳浮腫の原因となる
頭痛+凝固能異常
・出血傾向では頭蓋内出血に注意を要するとともに、外傷後血腫増大などへの配慮も要する
頭痛+悪性腫瘍
・悪性腫瘍における頭痛の頻度はおよそ80%
◦ただし、頭痛のみを呈する割合は2-8%にすぎず神経学的異常、精神障害、痙攣が随伴する
・早朝頭痛といえば悪性腫瘍と言われてきてはいるが実は頻度は高くない
◦嘔気/嘔吐、神経学的異常が出ることのほうがcommon
・悪性腫瘍自体が頭蓋内出血のリスク
◦脳出血の1-11%の原因となっている
・悪性腫瘍に対する化学/放射線療法でも新たな頭痛を自覚する頻度が上がりうる
頭痛+発熱
→これらの検索のためには腰椎穿刺が必要
・以下の患者では脳ヘルニアの可能性もあるため腰椎穿刺前の頭部CTを考慮
◦60歳以上
◦免疫不全
◦中枢神経疾患の既往
◦最近の痙攣のエピソード
◦意識障害
◦神経学的異常、乳頭浮腫
・脳膿瘍
◦近接臓器からの浸潤(副鼻腔や口腔内)、血行性(肺膿瘍、IEなど)、脳外科的操作が原因となる
◦最多の原因は近接臓器からの浸潤(副鼻腔や口腔内)
◦約70%で頭痛を呈するが発熱は50%にしか見られない
◦頭痛、発熱、神経学的異常の三徴がそろうのは20%程度
・非感染性原因
◦SAH
‣イベント後に発熱をきたすことが知られておりこの場合には死亡率が高まり、機能予後が悪化する
‣強い炎症および体温中枢の機能消失が原因と考えられている
◦下垂体卒中
‣33%が発熱をきたし、83%に髄膜刺激徴候が出現
‣脳脊髄液所見も髄膜炎に類似していたという報告がある
◦巨細胞性血管炎
‣さまざまな炎症反応が引き起こされ発熱が出現しうる。
頭痛+視覚異常
・視野検査や眼底検査(乳頭浮腫→ICP上昇を見つけるためとのことだがこれならエコーでONSD調べれば十分)はやっておくべきである。
・一次性頭痛では片頭痛がありえる
◦この前駆症状はしばしば頭痛に先行し5-20分程度の時間をかけて徐々に悪化し、60分以内に改善してしまう
‣一時的な単眼視力障害が起きるがとてもまれなのであくまで除外診断
・単眼の視覚障害
◦頸動脈解離…網膜虚血が起きる。2%ほどしか見られない
◦GCA、AACG、視神経炎が鑑別診断
・両眼の視覚障害
◦特発性頭蓋内圧上昇、頭蓋内腫瘍などを強く疑う根拠となる
頭痛+意識障害
・痙攣や失神のエピソードがあったが聴取できないことが難しい
・血管系疾患を必ず考慮すべし
◦SAH…失神の原因の5%を占めるとの報告あり
◦脳腫瘍…第3脳室の圧排により頭痛+失神が引き起こされる
・痙攣が起きたことが分かれば子癇、中枢神経感染症、頭蓋内出血、悪性腫瘍、ICP上昇などが鑑別となる
より具体的に注意すべき患者群がわかってきたような気がします!
救急外来で除外すべき頭痛の疫学や鑑別診断、検査などについては以下も見てください!