病歴/身体所見/検査
・28歳男性
・2か月前に意識消失と誤嚥性肺炎のため入院歴がある
・うつ病の既往があるが、薬物乱用の既往はなし
・内服薬…paroxetine, brotizolam, etizolam, lormetazepam
・家族歴は特筆すべきものはなし
・自宅内で意識障害を呈して倒れているところを発見され救急搬入された
・搬入時バイタル…GCS4, BP117/37mmHg, HR118bpm, RR14/min, SpO2 73%, BT35.0℃
・気管挿管され、CT撮影が行われた
◦びまん性両側性のすりガラス影を認めた
・血液検査ではCre上昇やD-dimer上昇以外には特記すべき異常なし
・自己抗体はいずれも陰性
・各種培養は陰性、β-Dグルカンやアスペルギルスなども陰性
・Triageではベンゾジアゼピンが陽性であった
・受診時点ではHb16.8g/dLだったが翌日には13.4g/dLに低下していた
・気管支肺胞洗浄では血性排液を認めた
暫定診断
びまん性肺胞出血
・4日間の人工呼吸器による治療が行われ、ステロイドなどの補助治療なしに改善した
・第7病日に退院した
・follow-upでレントゲン検査が実施されたが異常なしを確認された
合成カチノンによりびまん性肺胞出血
・第2病日、意識は清明となり…
・recreational drug ”BON’S CRYSTAL”を吸入したことを告白した
・recreational drugである合成カチノンはびまん性肺胞出血の原因となりうる
◦2012年に日本で入手できるようになり、中毒が報告されるようになった
◦強力なdopamine/norepinephrine取り込み阻害剤として作用する
‣神経学的/精神的異常…興奮、意識障害、痙攣様運動
‣交感神経刺激性所見…頻脈、高血圧、高体温
(World J Emerg Med. 2018;9(1):73-75./Clin Toxicol (Phila). 2016 Aug;54(7):563-7.)
(Can Respir J. Mar-Apr 2015;22(2):77-9./J Jpn Soc Intensive Care Med. 2014;21(2):169-71.)
→合成カチノンがびまん性肺胞出血の原因となってもおかしくない
(World J Emerg Med. 2018;9(1):73-75./Clin Toxicol (Phila). 2016 Aug;54(7):563-7./Clin Toxicol (Phila). 2011 Jul;49(6):499-505./Clin Toxicol (Phila). 2016 Aug;54(7):568-75./Clin Toxicol (Phila). 2017 Feb;55(2):159-160./Chem Biol Interact. 2013 Dec 5;206(3):444-51.)
・違法薬物は患者が告白しない限り診断が難しく、適切な治療が遅れる可能性がある
まとめ
・違法薬物による中毒は患者が告白しない限り診断確定が難しい。常に薬物中毒の可能性は疑って対応すること
・合成カチノン吸入はびまん性肺胞出血の原因となる