りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

小児DKAガイドライン BSPEDより

2020-2021年にNICEガイドラインも改訂されるようです。

それまでに暫定的な推奨事項を示すために作られたガイドラインみたいです。

 

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BSPED Interim Guideline for the Management of Children and Young People under the age of 18 years with Diabetic Ketoacidosis

 

 

ガイドラインの主な変更点

・16-18歳で内科にて治療されている場合には成人のガイドラインに従うのがよい。
 小児科により治療されている場合には小児科のガイドラインに従うのがよい。
DKAの定義として、HCO3-<15mmol/L or pH<7.3というISPAD基準が使用された。
・重症度をpHによって分類し、かつこれにより脱水量の推定も可能
・脳浮腫の懸念はあるが、初期輸液によるショック離脱に重点が置かれた
・ショックの場合には20ml/kg bolusを実施し、10ml/kgずつ最大40ml/kgまでbolus実施
・ショックがない場合には10ml/kgを60分かけて投与。これはfluid defictから差し引きされる。
・維持輸液はHolliday–Segar formulaを使用して計算する
・肥満患者に対して過剰輸液を避けるために最大体重は80kgとした
・重症でない限り、インスリン投与量は0.05単位/kg/hr
カリウムは初期輸液以外の全てのシーンで補充する
・長時間作用型インスリンを使用していた患者ではそれを継続して併用し、
 新規患者では導入しなければならない
 
脱水量の推定って言われてみればかなり難しい気がするので、
重症度で分類してくれるのならこちらとしてはありがたいです。
小児DKA全例に10ml/kgの生食が推奨されるのもあまり実践していなかったことです。
 
以下、詳しくみていきます。
 

対応のまとめ

 

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これをトイレの壁に貼って覚えるといいと思います。

診断

診断基準は変更されました。
前回のガイドラインではHCO3-<18mmol/Lでしたが、
今回のガイドラインではHCO3-<15mmol/Lがcutoffです。
 
診断には、アシドーシス+ケトン血症の存在が必要で、以下のように定義されます。
・アシドーシス…pH<7.3 または HCO3-<15mmol/L
・ケトン血症…β-ヒドロキシ酪酸>3mmol/L
ケトン血症の証明が必要になっています。
一応、尿検査で代替は可能で、尿中ケトン+++=血中ケトン3.0mmol/Lに相当します。
でも、脱水が強いと尿が出ないこともあるので、当院ではベッドサイドで簡易的にケトン血症を測定できる機器を導入しています。
尿中ケトンは診断には代替可能ですが、治療反応性には使えません。
 
基本的には高血糖であることが多いです。
でも、診断には必須ではありません…。
既知の糖尿病がある場合には血糖値が基準値内のこともありえます。
これはpitfallになりそうです。
 
重症度分類は以下のようになります。
・軽症…pH7.2-7.29 and/or HCO3-<15mmol/L
・中等症…pH7.1-7.19 and/or HCO3-<10mmol/L
・重症…pH<7.1 and/or HCO3-<5mmol/L
 

初期蘇生

ABCの安定化

・昏睡状態なら気管挿管による気道確保をせよ
・意識低下や嘔吐を繰り返す場合には経鼻胃管挿入しドレナージ
・フェイスマスクで100%酸素を投与
・ルート確保して血液検査を実施せよ
ショックの場合には輸液20ml/kgをbolus投与せよ
 
ここはお決まりのことが書いてありました。
 

初期輸液

ショックの場合と非ショックの場合に初期輸液が異なります。
 
そもそも小児のショックはどのように覚知すればいいのでしょうか。
APLSでは、ショックは以下のように定義されています。
・頻脈
・CRT延長
・末梢動脈触知不良、血圧低下(これが出たら最終段階!)
全て触ればわかる項目です。
 
ショックの場合には生食20ml/kgを15分かけてbolus投与をします。
過剰な輸液は脳浮腫リスクがありますが、循環を保つことを最優先にします。
※脳還流は脳還流圧と頭蓋内圧に依存→低血圧は脳損傷のリスク増大につながる
 
ショックではない場合いずれの重症度の患者でも生食10ml/kgを60分かけて投与。
 
これらの輸液量は診断とともにすぐにでるように暗記しておくとよいと思います。
 

初期検査項目

・血糖値
・血算、生化学
・BUN、電解質CRP
・血中ケトン濃度(尿中ケトンでも代替可能)
HbA1c甲状腺機能、Coeliac screening
 
以上が推奨されていました。
 
その他の検査は必要があれば行うように提案されていましたが、
個人的にはCXR、血液/尿/髄液培養、咽頭スワブなどやってしまうような気がします。
 
DKAでもなんでもそうですが、なぜそのような状態になったかの原因検索を要します。
発熱または低体温、低血圧、難治性/乳酸アシドーシスがある場合には敗血症を疑います
さらに、乳酸高値である場合には感染症/敗血症が示唆されます。
 

Full Clinical Assessment

意識状態の変化を1時間毎に評価(GCS)

経時的に意識状態が悪化した場合には気道確保をします。
 
意識状態は直接的にアシドーシスの程度と関連していますが、
頭蓋内圧亢進徴候がある場合には脳浮腫を示唆します。
 
以下に詳述しますが、脳浮腫を疑ったらCT!ではなく、次の一手をすぐに打たなければなりません。
 

全身検索

脳浮腫…頭痛、易刺激性、徐脈、血圧上昇、意識状態の低下
 ◦乳頭浮腫は晩期症状のためあてにならない
イレウスDKAではcommon
 

体重測定

もしも臨床状態が悪く測定不能であれば直近の体重か、centile chartから推定します。
 
体重測定は輸液量調整に必須の情報です。
過剰輸液を控えるために、体重の上限を80kgとして対応するか、97th centile weight for ageを使用して対応します。
 
私の場合には(小児ではありませんが)90kgくらいあるので(2020年2月5日時点)、
80kgとして輸液してもらわないと輸液が多くなりすぎてしまうようです。
 

高次医療施設への転院

特に患者が2歳未満または重症DKAでは1:1看護が必要になるためPICUがある施設への転院を考慮します。
 

Management

輸液

ここまでのステップで循環血液量は改善しているはずなので、
ここからの輸液は初期輸液が終わった後の輸液をどうするかについてです。
 
輸液必要量=不足量(deficit)+維持量(maintenance)で考えていきます。
輸液の1時間量は以下のように考えます。
Hourly rate = ({Deficit – initial bolus} / 48hr) + Maintenance per hour
 
不足量(deficit)について
臨床評価で脱水の程度をうまく測定することは難しいです。
なので、初期pHから推定するのがよいとされています。
簡単であることが一番です。でもほんとにいいのかは少し不安ですが…。
軽症(pH7.2-7.29 and/or HCO3-<15)…5%
・中等症(pH7.1-7.19 and/or HCO3-<10)…7%
・重症(pH<7.1 and/or HCO3-<5)…10%
軽症ならば不足量は体重の5%、重症なら10%と考えます。
そして、この不足量は48時間かけて補っていくことになります。
 
ここで注意点が2つあります。
ショックの際にbolus投与した輸液量は不足量から差し引くべきではない
②全ての非ショック患者に投与された10ml/kgの輸液は差し引く
 
維持量(maintenance)について
Holliday – Segar formulaにより計算します。これってこんな名前がついていたんだ…
・10kgまで…100ml/kg/day
・10-20kgまで…50ml/kg/day
・20kg以上…20ml/kg/day
 
ここまで不足量と維持量について書いてきましたが、なかなか複雑なので
以下に2つの例題を載せておきます。
このガイドラインのいいところはところどころこんな感じの例示があったり、後述する輸液の作り方なんかも載っているところが親切でいいです。
 
例1)6歳男児、体重20kg、pH7.15でショックではない
・初期輸液として10ml/kg(200ml)の輸液を60分かけて投
 
例2)15歳女児、体重60kg、pH6.9でショック
・初期輸液として生食30ml/kg(1800ml)が投与された
※このbolus投与は不足量から差し引かれることはない
 
輸液の種類は、血糖値<252mg/dLとなるまで生食500ml+KCL20mmol(40mmol/L)です
ケトーシスが消失し嘔気/嘔吐がなくなるまで経口補水させないこと。
特にイレウスになっている場合には経鼻胃管挿入も要しますし、経口摂取してしまうと計算された48時間輸液量を経口摂取に応じて減量しなければならなくなります。
 
また、大量の尿が出た場合や経鼻胃管からのドレナージを続ける場合には、それらと同等の濃度の輸液(0.45%食塩水+KCL)を補うことになります。
 

カリウム

低K血症は治療開始から最大48時間まで発症しうるため注意です。
DKAの治療失敗の原因は低K血症によるところが大きいです。
 
ERでDKA患者に血液検査するとさまざまな数値をとります。
しかし、血清K濃度によらず基本的に体内K量は常に不足していることが指摘されています。さらに、インスリンが開始されるとどんどん低下していきますので気づいたときには難治性不整脈…なんてこともあります。
 
腎不全になっていない限り、初期輸液を除くすべての輸液は40mmol/LのKCLを含有させます。
K<3mmol/Lまで低下した場合にはインスリン投与量を減量することも考慮します。
また、40mmol/L以上の濃度での投与も考慮されるため集中治療の専門家とも相談しながら治療に当たるのが好ましいと思います。

 

インスリン

脱水が補正されてカリウムの投与が始まると、血糖値は低下し始めます。
 
なるべく早く血糖値を低下させたい気持ちはありますが焦ってはいけません。
※そもそもDKAにおいてインスリン投与の最大の目的は血糖値を下げることではありません。
 
インスリン開始時期が早すぎることは脳浮腫発症と関連するとされています。
よって、輸液が始まってから1-2時間の間はインスリン投与を控えることが推奨されます。また、静脈内インスリンbolus投与しないようにしましょう。
 
投与方法としては、インスリン50単位/50ml溶液を作成し、0.05-0.1単位/kg/hrで投与を開始するのが典型的な方法です。
基本的には0.05単位/kg/hrで十分であることが多く、低血糖も避けられます。
重症DKAでは0.1単位/kg/hrを要するかもしれないですが、上級医と相談しましょう。
 
BSPEDの推奨は、「重症DKAまたは思春期以降でない限り、0.05単位/kg/hr」となっています。
 
少し以下に注意点。
①CSIIを受けている患者ではポンプを停止してインスリン静注による治療を行います。
②すでに長時間作用型インスリン投与を受けている場合、インスリン静注に加えてこれを継続することが可能です。
③ISPADでは、インスリン静注に加えて長時間作用型インスリン投与を提案してはいましたが、BSPEDではそれを支持するエビデンスに乏しいとしています。
 

炭酸水素ナトリウム

炭酸水素ナトリウムを投与するべからず!
致命的な高カリウム血症や心収縮能が低下するほどの重度アシドーシスが存在するときだけ考慮しますが、アシドーシスの補正はインスリンでされるべき病態です。
 

静脈血栓症リスク

大腿静脈にルート確保されている場合には静脈血栓症発症リスクが高まります。
 
16歳以上、経口避妊薬内服、大腿静脈へのルート確保がある場合にはVTE予防を講じることが推奨されます。
 

モニタリング

看護師による観察(senior nurseに以下を徹底してもらうこと)

・in-out balanceの監視
・1時間毎に簡易血糖測定
 ◦突然異常値を記録した場合には静脈血を使用して検査室で測定
・1-2時間毎に血中ケトン濃度測定
・1時間毎に血圧測定
・1時間毎に意識状態のチェック(GCSを使用する)
 ◦2歳未満、pH<7.1では脳浮腫リスクが高いため30分毎に意識とHR測定
・頭痛、徐脈、意識や精神状態の変化があればすぐに報告すること
・モニター波形の変化について報告(特にST低下やU波出現など=低K血症)
・1日2回の体重測定(in-out balanceの監視と関連)
 
ほんとにこれ、看護と医師で連携した治療がされないとだめです。
こうやってチェックすべきことが記載されているのもよいです。
いつかチェックリスト作ろうかな~

治療反応性と合併症の評価

治療反応性の評価として、治療開始後2時間および最低4時間毎に以下を検査していきます。
血糖値(検査室で測定)
・血液ガス(pHとpCO2)
・BUNと電解質
・血中ケトン濃度
 
また、最低4時間毎(2歳未満、pH<7.1ではそれより短い間隔で)に診察します。
合併症検索の意味合いが強いように思います。
・バイタルサイン、神経学的異常
・血液検査結果の評価
・ECGの評価
・体液バランスの評価
 
高Na血症は、実はあまり臨床上問題になりません。
脳浮腫に対して保護的に働く、とさえ記載されています。
 
下記に紹介するNacorrが治療中に低下してくると脳浮腫リスクを示唆しますので、
これをモニタリングしていきます。
※Gluは単位がmmol/Lであるため注意(1mmol/L=18mg/dL)
・4-8時間でNacorr>5mmol/Lの増加…体液量が少ない、輸液速度が遅い
・4-8時間でNacorr>5mmol/Lの低下…体液量が多い、輸液速度が速い
 
 また、一部の専門家はNacorrよりもeffective osmolalityによるモニタリングを提案して
 
anion gapも定期的に調べておくとよいです。
DKA患者では通常20-30mmol/Lくらいですが、もしもこれを超える場合には(>35mmol/L)、敗血症やショックによる乳酸アシドーシスを考慮します。
 
ご存知の方は多いと思いますが、
NaCl大量投与により高Cl性代謝性アシドーシスを発症しうることは有名です。
 
DKAのときに面倒くさいのが、これによりケトアシドーシスの改善をマスクしてしまう可能性があることです。
 
高Cl性代謝性アシドーシスであれば特別な治療を要さないため、経口摂取やインスリン皮下注を遅らせずともよいですが、どう鑑別すればよいでしょうか。
 
BEだけで治療効果判定をしてしまうと判断を間違えることがありますので、
血中ケトン濃度測定やClによるBEの変化の公式がこれらの鑑別に役立ちます。
例)Na142、Cl126の場合
BE due to Chloride=(142-126)-32=-16

脳浮腫を疑ったときの対応

以下の所見がある場合には脳浮腫を疑ってください。
・頭痛、興奮/易刺激性、徐脈、血圧上昇
意識障害、呼吸状態の変化、眼球運動制限、異常姿勢、瞳孔不同/散大
 
疑った場合には以下の最も使いやすい方法で即座に対応することが求められます。
高張食塩水…2.7%-3% 2.5-5ml/kg 10-15分かけて
mannitol…20% 0.5-1g/kg 10-15分かけて
 ◦15分以内に効果発現、120分効果持続
 ◦30分以内に効果が現れない場合には同一量を反復投与
 ※維持輸液投与量は半量にすること
 
高張食塩水はmannitolと併用で相乗効果がある可能性あり、投与から30分以内に効果が出てこない場合には併用してみるといいかもしれません。
 
患者の状態が安定したら他の病変を検索する目的で頭部CT検査します。
頭部CTをとるために治療を遅らせることはしてはなりません。
 
 
ERでの対応は上記ができれば完璧だと思います。
 
さらにガイドラインでは維持輸液をどうするか、インスリンはいつまで続けてどうやって終わるか、HHSの場合にはどうするかなどの情報が満載です。
 
ご興味があれば一読をお勧めします。