りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

review:腰椎穿刺後頭痛のリスク因子

腰椎穿刺後頭痛のリスク因子をご存知でしょうか?
 
実は根拠がないのに巷でリスク因子認定されていたり、
逆にあまり認知されていないものが結構あります。
 
さて、以下の問題に自信をもって答えられるでしょうか?

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サイコーなまとめがあったので読んでみます。
 
 
Cognat E, et al. Preventing Post-Lumbar Puncture Headache.
Ann Emerg Med. 2021 May 6:S0196-0644(21)00151-7.Epub ahead of print.
PMID: 33966935.
※腰椎穿刺後頭痛(post-lumbar puncture headache:PLPH)
 
 
 

 

女性はPLPHのリスクとなるか?

議論が残る
 
・女性であることはリスクになるかも…RR2.58, 95% CI 1.39-4.82
 ◦ただし、Engedalらによる1つの研究による結果で、他の研究ではこの結果を再現できず
 ◦体重や年齢、併存疾患など補正されていない交絡因子による?
 

痩せていることはPLPHのリスクとなるか?

議論が残る
 
・EngedalらによればBMI<20kg/m2ではPLPHのリスクが有意に増加
・PLPH発症 vs 非発症…BMI 23.4 vs 24.5 (p=0.022)
BMI<25kg/m2ではリスク増加…OR3.26, p=0.001
 
・ただし、最近の研究では確認されておらずさらなる研究を要する
 

PLPHは乳幼児や小児でも発症するのか?

YES
 
・乳幼児では臨床診断が困難だが、小児PLPHの有病率は成人の有病率とほぼ一致していることがわかっている(12-15%)
 
・atraumatic needleの使用に関する文献は成人に比較して小児ではるかに少なく、ほとんどの研究では従来型の穿刺針(cutting needle)が使用されている
・小児の場合には、ベベルの向きを背骨の軸と平行にすること/内筒を入れた状態で抜針すること/脳脊髄液採取を少量にしておくことがリスク低下と関連
 
・針の太さや安静臥床は小児PLPHの発症率に影響しない
 
 

高齢であることはPLPHの発症率を下げるか?

YES
 
・PLPHは年齢が上がるほど少なくなる
・10000例以上の腰椎穿刺を対象とした大規模研究では、PLPHの発症が60歳以上では5%以下であったのに対し、若年者では15%に達していた
・Salzerらによる最近の研究でも同様に高齢者ではPLPHリスクが低いと報告
 
・Blennowらは認知症や脳萎縮がある場合にはさらにPLPH発症率が低下する(2-2.6%)と報告
 ◦脳脊髄腔が拡大しているため
 ◦ただし、重度の認知機能障害により頭痛を訴えることができず過小評価されている可能性もある
 
 

慢性頭痛の既往はPLPHのリスクとなるか?

議論が残る
 
・慢性頭痛の病歴がある患者のPLPH発症率については、相反する結果を報告する研究がある
・cutting needleを用いた前向き研究では、片頭痛既往があると対照群に比較してPLPHの発症率が低かった
 ◦片頭痛既往あり:28% vs 既往なし:44.9%
 
・PLPHを発症した患者は、慢性的な頭痛の既往がある場合に増えたと報告するKimらによる研究もある
 ◦慢性頭痛あり:27.3% vs 慢性頭痛なし:2.1%
  ‣軽度の頭痛既往…OR1.76, 1.16-2.59
  ‣中等度~重度の頭痛既往…OR2.65, 1.88-3.74
 ◦さらに、PLPHの既往歴があるとPLPH発症リスク増加と関連していることも示された
 
・慢性頭痛の既往とPLPHリスク増加はと関連がないとする研究もある
 ◦OR1.47, 0.81-2.67
 ◦ただし、対象者が少なく、頭痛の重症度に基づいた分析がされていないという問題がある
 
 

基礎疾患や内服薬はPLPHのリスクとなるか?

NO
 
・Vidoniらは、認知症がない患者 vs 軽度認知症~脳脊髄液マーカーでアルツハイマー認知症と診断される患者でのPLPH発症率を比較すると有意差はなかったと報告
 
・Duitsらも認知症がない患者 vs 軽度の認知機能低下がある患者においてPLPH発症率に有意な差はないと報告
 ◦年齢補正をすると認知症群ではPLPHが少なかった(OR0.66)
 
多発性硬化症やclinically isolated syndromeの患者はその診断がされていない患者と比較してPLPH発症率は有意差なし
 
HIV患者と非HIV患者においてもPLPH発症率に有意差なし
 
筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者においてはやや高い発症率(15-28%)であったが、これまで報告されている発症率とそう大差ない結果であった
 
アスピリン内服している患者では単変量解析を行うと相対リスクが低下(RR0.17, 0.04-0.73)
 ◦ただし、多変量解析を行うとこの傾向はなくなっていた
 
 

atraumatic needleの使用はPLPH発症予防に有効か?

YES
 
・腰椎穿刺には従来型のもの(cutting needle)とatraumatic needleのいずれかが使用される
・atraumatic needleは先端が丸くなっており、1980年代に開発された
・死後の硬膜を用いた研究では、atraumatic needleは硬膜をきれいに切り開くことができていたのに対し、cutting needleでは硬膜線維の破壊と圧縮を伴っていた
・さらに液漏れについては、cutting needleはatraumatic needleの5倍に増加した
 
cutting needleを用いて腰椎穿刺を行うと、atraumatic needleを用いた場合と比較してPLPHが有意に増加することが報告されている
 ◦metaanalysis➀…cutting needleはPLPHのリスクが2.14倍に増加
 ◦metaanalysis②…atraumatic needleはcutting needleと比較してRR0.4, 0.34-0.47
 
 

穿刺針の直径が大きくなることはPLPHのリスクとなるか?

議論が残る
 
・日常診療では術者や状況により幅広い口径の針が使用されている
・2つの研究では口径の小さい針を使用するとPLPHのリスクが減少すると結論付けている
 
大規模なmetaanalysisでは針の口径とPLPH発症率との間に関連は確認できなかった
 
・Salzerらの単施設前向きRCTによれば、atraumatic needleにおいて25G針を使用することは22G針を使用することに比較してPLPHを減少させたと報告(OR 0.65, 0.45-0.93)
 
 

穿刺針の操作によってPLPH発症率は変わるか?

議論が残る
 
・内筒を外したままの状態で抜針すると、その針内にくも膜が挟まることで硬膜の損傷が生じ、結果的に髄液の漏出が増加するのではないかと考えられている
・診断的腰椎穿刺を受けた600人の患者を対象とした前向き無作為化試験では、内筒を挿入して抜針することでPLPHを減らせたと報告
 ◦全体のPLPH発症率が5%であるのに対し、内筒を挿入せずに抜針すると16.3%
 
・ただし、最近の前向き無作為化試験ではこの結果を裏付ける結果とはなっておらず、議論が残る分野
 
・cutting needleを使用する場合には、ベベルの向きを背骨の軸と平行にすることでPLPH発症率が有意に低下することがmetaanalysisで示されている
 ◦OR 0.29, 0.17-0.5
 
 

腰椎穿刺時の体位とPLPH発症率に関連はあるか?

YES
 
・腰椎穿刺は、通常は座位か側臥位で実施される
・側臥位で腰椎穿刺を行うことでPLPHを軽減させるという報告がある
 ◦Duitsらの報告ではOR 0.6, 0.3-0.9
 
・metaanalysisでも、座位と比較して側臥位で行うことでPLPHを防げたと報告されている
 ◦OR0.61, 0.44-0.86
 
 

椎間によってPLPHのリスクが変わるか?

YES
 
・atraumatic/ cutting needleを用いたretraspective studyでは、穿刺レベルとPLPH発症率には直接的な相関関係があることがわかっている
 ◦穿刺レベルが低いほど発症率が高い
 ◦L1/L2では5.2%、L4/L5では16.2%
 
 

難易度の高い腰椎穿刺はPLPHのリスクとなるか?

NO
 
・Hammondらの研究によれば、難易度が高い腰椎穿刺(複数回の穿刺試行、trauma tapなど)とPLPHとの関連は認められなかった
 
・針の変形については、フックのような形に曲がっている場合にはPLPHが生じる可能性が高い
 
 

脳脊髄液の採取量とPLPH発症率に関連はあるか?

NO
 
・毎日約500mlの脳脊髄液が産生されるが、一度に125mlほどしか貯留していない
 
これまでに脳脊髄液の採取量とPLPHとの関連性を検討した研究は5件あったが、関連性を確認できたのは1件だけであった
 
・Monserrateらによる高齢者に行われた338例の腰椎穿刺を対照にした観察研究では、採取量とPLPH発症との間に逆相関があることが報告された
 ◦17ml以上はそれ未満に比較して有意に減少…RR3.07, 1.11-8.49
 
 

脳脊髄液の吸引はPLPHのリスクになるか?

NO
 
・Vidoniらによれば、300人中20人(6.7%)が注射器による吸引で脳脊髄液を採取した後にPLPHを発症したのに対し、滴下サンプリングでは214人中8人(3.7%)であった(P=0.31)
 
・その他の研究でも有意差は認められていない
 
 

穿刺後の安静によりPLPHを予防できるか?

NO
 
・側臥位を維持することによるPLPH予防効果は実証されていない
 
・2996人の患者を対象とした2016年のcochrane reviewによれば、腰椎穿刺後の安静は、即座に安静解除することに比較してPLPHをわずかに増加させた
 ◦RR1.24, 1.05-1.48
 
 

水分補給はPLPH予防に有効か?

NO
 
・経口/非経口水分補給の効果は科学的に実証されていない
・1988年の研究になるが、腰椎穿刺を受けた100人の患者に対する経口補液(3L/dayまたは1.5L/day)の効果を分析したところ2群間で有意差は認めなかった
 
・cochrane reviewでも同様の結論となった
 

カフェインはPLPH予防に有効か?

NO
 
・Halkerらが行った2007年のreviewによればエビデンス不足
 ◦これまでに5つの研究が報告
  ‣小規模、方法論的欠陥がありデザインが不一致、それぞれ結果は一致していない
 ◦以降、追加の試験はされていない
 
 

薬物によるPLPH予防は可能か?

議論が残る
 
・Frovatriptanは腰椎穿刺をうける患者の予防的薬剤として提案されているが、非対照研究であり有効性の証明にはなっていない
 
・主に産科患者だが、局所麻酔による穿刺後頭痛の予防にmorphine, cosyntrophine, aminophyllineが有効であるというエビデンスはある
 ◦ただし、診断的腰椎穿刺に対する処置ではないため注意
 
 
 
これまでのお作法通り、
ベベルの向きとか内筒を入れてから抜針するとかはやったほうがよさそうだけど、
穿刺後のベッド上安静は不要だしむしろ頭痛を増やす可能性もあるんですね。
 
前から言われていて気付いてはいたけど、ちょっとずつ院内プロトコルも変えねば…。
 
そしてatraumatic needle欲しい、使ってみたい…!
 
 

まとめ

・腰椎穿刺後頭痛は主な合併症であり、3.5-33%の患者に発症する
・穿刺後頭痛は、患者が座位~立位による現れる頭痛で、仰臥位により緩和されることが特徴
 ◦髄膜の裂け目部分から脳脊髄液が持続的に漏出することによる頭蓋内圧低下が原因
・小児と成人ではPLPH発症率はほぼ同等
・高齢者はPLPHを発症しにくい
・atraumatic needleの使用はPLPH予防に有効性が高い:atraumatic needleかつ細径でやるとよい
・腰椎穿刺の際の体位は座位よりも側臥位の方がPLPH発症率が低い
・椎間が高いほどPLPH発症率が低い
・穿刺回数やtrauma tapとPLPH発症率には関連がない
・脳脊髄液の採取量とPLPH発症には関連がない
・脳脊髄液を陰圧をかけて吸引することはPLPH発症と関連がない
・穿刺後の安静はPLPH予防効果はなく、むしろ増加させる可能性がある
・水分やカフェインは無効
 
 
最後に解答編貼っておきます。

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