りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

症例65:出生から30時間後に腹部青色斑が出現した男児(Ann Emerg Med. 2020 Dec;76(6):e127-e128.)

病歴/身体所見

・健康な女性から40週5日で吸引分娩により生まれた3140gの男児
・Apgar scoreは3-7-7だった
・蘇生は酸素投与のみで改善
・当初身体所見からは特に異常が指摘できなかった
 
・生後30時間で右半身の斑状出血と臍上部に青色斑が出現した

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検査所見

・患児のHbは16.7→14.5g/dLに減少していたが凝固機能は正常、肝逸脱酵素は軽度上昇のみ
・腹部単純レントゲンは異常なし
・超音波検査にて少量の腹水と陰嚢水腫を認めた

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陰嚢の超音波検査
・8mmほどの水腫(矢印)、正常な精巣(☆:捻転なし)、腹膜鞘状突起(矢頭)
 
 
 

診断

腹腔内出血
・保存的加療が行われ、7日後に退院となった
 
 
・腹腔内出血は肝鎌状間膜/肝円索を通じて臍周囲領域に広がり(Cullen's sign)、精索を通じて陰嚢領域に広がる(Bryant's sign
(APSP J Case Rep. 2013 Dec 1;4(3):53./N Engl J Med. 2011 Nov 10;365(19):1824.)

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・右陰嚢の暗青色への変色…Bryant's sign(矢印)
・臍上部の緑青色への変色…Cullen's sign(矢頭)
 
 
また、別の症例ですが鼠径部に出血斑を認めることもあります。
(N Engl J Med. 2011 Nov 10;365(19):1824.)

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Bryant's signに加え、Stabler’s sign(鼠径部の出血斑)を認める。
保存的加療で治癒した腹腔内出血症例であった
 
 
・肝臓/副腎/脾臓など由来の周産期腹腔内出血は分娩時処置/仮死/蘇生などにより発症することはめったにない
(APSP J Case Rep. 2013 Dec 1;4(3):53./N Engl J Med. 2011 Nov 10;365(19):1824./Semin Fetal Neonatal Med. 2019 Dec;24(6):101047./Pediatr Clin North Am. 2004 Aug;51(4):1169-86, xii.)
 
・Cullen's signやBryant's signは出血から時間が経ってから出現する晩期所見である
(Semin Fetal Neonatal Med. 2019 Dec;24(6):101047./Pediatr Clin North Am. 2004 Aug;51(4):1169-86, xii.)
 
・多くは保存的加療となるが、不安定な場合には手術を要することもある
 
 
小児科研修で教わった「全身を脱がして観察すること」はとても重要ですね。
あとはこれを蒙古斑と考えてしまわないかどうか(笑)
 
 

まとめ

・小児の診察は全身を脱がせて観察せよ

・腹部や陰嚢の青色斑は腹腔内出血を示唆する

・上記所見は晩期症状であることに注意を要する