りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。

ODS 浸透圧性脱髄症候群

 

ちょっと前まで橋中心髄鞘崩壊症(CPM)と呼ばれていたアレです。

これまであまり出会うことがありませんでしたが、最近エンカウントしたので

主にUpToDateからまとめてみました!

 

リスクファクター

・数日持続した重症低Na血症<120mEq/Lを急速補正した際に発症しうる
 ◦ただし、Na>120mEq/Lや緩徐な補正でも出現することはある

受診時の血清Na濃度

ODS発症例の大部分はNa≦105mEq/Lで発症
 ◦ほとんどの症例はNa≦120mEq/Lである
 ◦Na>120mEq/Lでの発症はまれで、多くは以下の病歴を伴う
  ‣重症肝障害…肝移植後に血清Na値が上昇して発症
  ‣尿崩症患者…デスモプレシンの副作用としての低Na血症があった患者が怠薬
 
・24時間に12mEq/L以上 or 48時間に18mEq/L以上の補正がODS発症と関連
 
・上記のごとく補正されずにODS発症した例は全例Na≦105mEq/Lであった
 
・一方で、低Na血症がなくしてODSを発症した報告も少なからず存在する
 ◦比較的多い…アルコール依存、栄養障害、低K血症、肝硬変、肝移植、腎不全/透析
 ◦まれ…熱傷、HHS、AIDS、下垂体卒中、refeeding症候群(低P血症)、アルコール離脱、高アンモニア血症補正、リチウム中毒、妊娠悪阻、カーバメート中毒
 
 
基本的にはNa≺105mEq/Lの重症低Na血症によりODSが起きるようです。
アルコール依存症や肝腎障害のある患者では特に要注意になります。
ちなみに経験した症例ではHHSが基礎にありました!まれなもののようです。

 

低Na血症の持続時間

数時間程度の重症低Na血症の持続では神経学的悪化はあまり起こらない

 ◦特に自身の尿排泄能力により急速かつ自然に血清Na値が正常化する例では起きにくい

  ‣マラソンランナー/精神疾患患者などが短時間に大量飲水

 

慢性的に進行した低Na血症の場合には脳が次第にその状態に順応してしまっている

 →急速に補正されると順応できずにODSを発症

・臨床家はいつも低Na血症を見た場合には慢性低Na血症と考えておくべきである

 

もともと低Na血症がなかった人の大量飲水による急性反応ではODS発症しづらいんですね。確かに輸液もせずに自力で治る人たちでは発症した症例をみたことがありません。

 

急速な補正

 

・1時間あたりにどれくらい補正したら発症するかということは報告されていない

・24時間で8mEq/L、48時間で16mEq/Lだけの補正であっても発症した報告あり

 

1日あたり5mEq/L未満であればODSを発症したという報告はない

 

・せいぜい4-6mEq/L/day程度にとどめておくことが推奨される

血液透析ではしばしば急速に補正されるが、ODS発症頻度はまれ

 ◦尿素除去により引き起こされる血清浸透圧低下と相殺される?

 

けいれんなどなければ4-6mEq/L/day程度のゆっくり補正がよさそうです。

 

症状

通常は急速なNa補正から2-6日後に発症する

しばしば非可逆的な症状となる

 ◦嚥下障害、構音障害、四肢麻痺/対麻痺、行動障害、痙攣、混乱、見当識障害、昏睡など

 

・重度の症状として「locked in syndrome」がある

 ◦覚醒しているが体動や言語的コミュニケーションができなくなる

 ◦眼球運動やまばたきのみ可能

 

・橋が障害されると…言語障害が出現

 ◦皮質脊髄徴候…腱反射亢進、両側性Babinski徴候

 ◦皮質球徴候…brisk jaw jerk(下顎反射)

・ミオクローヌスやジストニア、パーキンソニズムなども出現しうる

 

診断

・リスク因子を持つ患者での、持続的な臨床所見がある場合に疑う

MRI(なければCT)で診断する

 ◦MRIでさえも発症から4週間ほど偽陰性となることがある

 →疑いが強い場合には数週間の間、MRIを繰り返すことが必要

 

病変部位は橋だけではない

 ◦橋のみ…56%

 ◦橋外のみ…13%

 ◦いずれにもあり…31%

  ‣中脳、視床大脳基底核

 

病変部位が橋だけではないことが名称が変更になった所以でしょうか。

 

マネジメント

・血清Na濃度を急速に補正しすぎないよう注意が必要

 ◦初期は2-3時間ごとにモニタリングしておくこと

 ◦急速補正しすぎた場合にはrelowerも必要となることがある

 

Proactive or Preventive Strategy

 

・急速補正が起きやすい患者に対する戦略

水分排泄障害が可逆的な場合(hypovolemiaなど)

 →利尿がつき、これによるNa上昇が危惧される

・上記のような場合やアルコール性肝障害患者などhigh risk患者では治療開始時にdesmopressin投与を行う

・desmopressin 1-2mcg 静注/皮下注 6-8時間毎に24-48時間投与

 +高張食塩水15-30ml/hr点滴静注を行う

 

desmopressinは上記目的で使用したことはありませんでしたが、global standardは使うようです。

 

 

 

Reactive Strategy

・血清Na値の動態がよろしくない患者に対する戦略

治療中に水利尿が出現した場合/補正速度が目標値を上回りそうな場合

 →尿からの自由水排泄をD5Wで置き換える or desmopressin投与をやめる

・実際にはD5W投与あまり成功しない

 

・desmopressin 2mcg 静注/皮下注 効果乏しければ最大4mcgまで増量可能

 ◦6-8時間ごとに投与して、必要に応じて高張食塩水10-30ml/hrを併用

 ◦desmopressinは1回投与として、血清Na値の急激な上昇/尿量の急激な増量があれば再投与する方法でもよい

 

・ただし、急激に発症したと考えられる低Na血症(マラソンランナーや精神疾患などで急激に大量の飲水をした患者)ではdesmopressinなど投与する必要はない

 

Rescue Strategy

補正目標を超えてしまった場合の戦略
・desmopressin投与により水分排泄を防ぎ、血清Na値を再度下げる
・必要な場合にはdesmopressin+D5Wが効果的
 ◦D5Wを6ml/kg(除脂肪体重)を2時間かけて投与…これにより
血清Na値2mEq/L低下する
  →目標に達するまで投与
 ◦desmopressin 2mcg 静注/皮下注 6-8時間毎
  ‣必要に応じて4mcgまで増量可能
※desmopressinの効果はtolvaptanなど内服中の患者では減弱が予想される
 
・最適な治療は定義されてはいないが、以下が推奨
 ◦治療を開始した血清Na値よりも高くしておく(16mEq未満)
  ‣100mEq/Lで治療開始して、130mEq/Lになってしまった場合
   →115mEq/Lを目標にreloweringすればよい
 ◦relowering速度は1mEq/L/hrほどにする
 ◦綿密に神経所見とNa値をモニタリングする
 

予後

以前は予後不良な疾患とされていたが、意外と悪くはないかも…。
・ODSの予後についてretrospectiveに検討
 ◦89%が人工呼吸器を必要とした
 ◦31%は入院中に死亡
 ◦69%は生存退院
  ‣これらは全員1年後も生存していた
  ‣1年後のmRS:0…24%、1…32%、2…4%
  ※機能的予後良好は60%とされる

 

 

しっかりとマネジメントされれば生存退院や機能的予後はそこまで悪くない疾患みたいです。

 

まとめ

・障害部位は橋だけではない。よってODSという呼び方がされる。

・Na≺105mEq/Lの重症低Na血症により発症するが、アルコール依存症や肝腎障害、栄養障害などある場合にはそれより高くとも発症しうる。

・補正速度は1日当たり4-6mEq/L程度にしておく。
・補正中に利尿がついたりなどして補正速度が速くなりそうなときにはdesmopressin投与や5%ブドウ糖液投与を考慮する。