ちょっと前まで橋中心髄鞘崩壊症(CPM)と呼ばれていたアレです。
これまであまり出会うことがありませんでしたが、最近エンカウントしたので
主にUpToDateからまとめてみました!
リスクファクター
受診時の血清Na濃度
低Na血症の持続時間
・数時間程度の重症低Na血症の持続では神経学的悪化はあまり起こらない
◦特に自身の尿排泄能力により急速かつ自然に血清Na値が正常化する例では起きにくい
・慢性的に進行した低Na血症の場合には脳が次第にその状態に順応してしまっている
→急速に補正されると順応できずにODSを発症
・臨床家はいつも低Na血症を見た場合には慢性低Na血症と考えておくべきである
もともと低Na血症がなかった人の大量飲水による急性反応ではODS発症しづらいんですね。確かに輸液もせずに自力で治る人たちでは発症した症例をみたことがありません。
急速な補正
・1時間あたりにどれくらい補正したら発症するかということは報告されていない
・24時間で8mEq/L、48時間で16mEq/Lだけの補正であっても発症した報告あり
・1日あたり5mEq/L未満であればODSを発症したという報告はない
・せいぜい4-6mEq/L/day程度にとどめておくことが推奨される
・血液透析ではしばしば急速に補正されるが、ODS発症頻度はまれ
◦尿素除去により引き起こされる血清浸透圧低下と相殺される?
けいれんなどなければ4-6mEq/L/day程度のゆっくり補正がよさそうです。
症状
・通常は急速なNa補正から2-6日後に発症する
・しばしば非可逆的な症状となる
◦嚥下障害、構音障害、四肢麻痺/対麻痺、行動障害、痙攣、混乱、見当識障害、昏睡など
・重度の症状として「locked in syndrome」がある
◦覚醒しているが体動や言語的コミュニケーションができなくなる
◦眼球運動やまばたきのみ可能
・橋が障害されると…言語障害が出現
◦皮質脊髄徴候…腱反射亢進、両側性Babinski徴候
◦皮質球徴候…brisk jaw jerk(下顎反射)
・ミオクローヌスやジストニア、パーキンソニズムなども出現しうる
診断
・リスク因子を持つ患者での、持続的な臨床所見がある場合に疑う
・MRI(なければCT)で診断する
→疑いが強い場合には数週間の間、MRIを繰り返すことが必要
・病変部位は橋だけではない
◦橋のみ…56%
◦橋外のみ…13%
◦いずれにもあり…31%
病変部位が橋だけではないことが名称が変更になった所以でしょうか。
マネジメント
・血清Na濃度を急速に補正しすぎないよう注意が必要
◦初期は2-3時間ごとにモニタリングしておくこと
◦急速補正しすぎた場合にはrelowerも必要となることがある
Proactive or Preventive Strategy
・急速補正が起きやすい患者に対する戦略
・水分排泄障害が可逆的な場合(hypovolemiaなど)
→利尿がつき、これによるNa上昇が危惧される
・上記のような場合やアルコール性肝障害患者などhigh risk患者では治療開始時にdesmopressin投与を行う
・desmopressin 1-2mcg 静注/皮下注 6-8時間毎に24-48時間投与
+高張食塩水15-30ml/hr点滴静注を行う
desmopressinは上記目的で使用したことはありませんでしたが、global standardは使うようです。
Reactive Strategy
・血清Na値の動態がよろしくない患者に対する戦略
・治療中に水利尿が出現した場合/補正速度が目標値を上回りそうな場合
→尿からの自由水排泄をD5Wで置き換える or desmopressin投与をやめる
・実際にはD5W投与あまり成功しない
・desmopressin 2mcg 静注/皮下注 効果乏しければ最大4mcgまで増量可能
◦6-8時間ごとに投与して、必要に応じて高張食塩水10-30ml/hrを併用
◦desmopressinは1回投与として、血清Na値の急激な上昇/尿量の急激な増量があれば再投与する方法でもよい
・ただし、急激に発症したと考えられる低Na血症(マラソンランナーや精神疾患などで急激に大量の飲水をした患者)ではdesmopressinなど投与する必要はない
Rescue Strategy
予後
しっかりとマネジメントされれば生存退院や機能的予後はそこまで悪くない疾患みたいです。
まとめ
・障害部位は橋だけではない。よってODSという呼び方がされる。
・Na≺105mEq/Lの重症低Na血症により発症するが、アルコール依存症や肝腎障害、栄養障害などある場合にはそれより高くとも発症しうる。