りんごの街の救急医

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上部消化管出血への緊急内視鏡は死亡率を低下させるか?(N Engl J Med. 2020 Apr 2;382(14):1299-1308.)

上部消化管出血を疑う患者が来たときには、

最終的には内視鏡をしてもらって診断→治療につなげます。

 

日中であれば消化器内科にコンサルトして対応を協議でよいですが、

夜中にはなかなかどうするか悩むところです。

 

上部消化管出血に対する内視鏡のタイミングについて、

6時間(すぐ) vs 6-24時間(翌朝)

でのガチンコ勝負をした研究が出ましたので紹介します。

 

f:id:AppleQQ:20200408214641p:plain

2020 Apr 2;382(14):1299-1308. doi: 10.1056/NEJMoa1912484.

Timing of Endoscopy for Acute Upper Gastrointestinal Bleeding.

 

 

現時点のinternational consensus groupの推奨は、

急性上部消化管出血患者では診察後24時間以内の内視鏡を推奨

とされています。

一方で、推奨はされているわけではありませんが、

「high risk患者に対しては12時間以内の内視鏡が好ましい」

とされています。

 
なんか煮え切らない表現です。
もっとAMIみたいにdoor to ballon timeを90分以内にせよ!
みたいに厳しめの推奨なら頑張れるのですが、幅が広すぎてどうなん?と思います。
 
内視鏡のタイミングについては、これまでにさまざまな研究がされてきました。
 
特に最近はGlasgow-Blatchford score(GBS)に基づいてリスク層別化されたうえで、内視鏡のタイミングについて検討しているものが増えています。
 
※GBSについては以前の上部消化管出血のreviewでもまとめているので、ご存知なければご参照ください。
 
特に重要な研究は以下の研究です。
 
(Clin Gastroenterol Hepatol. 2018 Mar;16(3):370-377.)
・GBS>7ptsの非静脈瘤性上部消化管出血患者961人へのprospective study
・6時間以内の内視鏡が6-24時間での検査と比較して死亡率低下
 ◦OR 0.36; 95%CI 0.14-0.95
 
しかし、これと相反することを唱える研究もあります。
 
(Gastrointest Endosc. 2017 May;85(5):936-944.e3.)
・2944人への消化性潰瘍による出血患者のコホート研究
・6-24時間での内視鏡を行うことが死亡率を最低限にする
・死亡率が高いのは血行動態不安定/重度の併存疾患
※(American Society of Anesthesiologists grade 3-5)
・ただし、本研究ではrisk-assessment scoreは使われていない
 
 
この研究を背景に、更なる出血や死亡のリスクが高い急性上部消化管出血では、6時間以内の内視鏡が予後を改善させるだろう」という仮説が立てられました。
 
 
その仮説を検証したのが本研究になります。
 
 
2012年7月~2018年10月に中国で実施されたランダム化試験です。
 
対象は、急性上部消化管出血の徴候(吐血、黒色便)+GBS≧12のhigh risk患者です。
これまでに比較して重症度が上がっています。
そして、10%程度ですが静脈瘤も含まれています。
 
18歳未満、ICがとれない、妊婦、ターミナルで衰弱した患者は除外されています。
当然、ショックや初期蘇生で血行動態が安定しない患者も緊急介入を要するため除外項目に入っています。この患者群を朝まで保存的に見ているなんて悠長なことはしていてはいけません。輸血をオーダーしつつ緊急内視鏡依頼です。
 
急性上部消化管出血患者4715人が同定され、そのうち598人がGBS≧12であり、最終的に516人がランダムに割り付けられました。
・urgent群…6時間以内に内視鏡実施
・early群…翌朝か、24時間以内に内視鏡実施
※early群でも出血増強の可能性が高い場合(鮮血の吐血、低血圧、ショック)には緊急内視鏡を実施した
 
両群でおおむね60%ほどが消化性潰瘍、10%弱が胃食道静脈瘤でした。
 
受診から内視鏡までの平均時間はそれなりに速いのではないかと思います。
・urgent群…2.5±1.7時間
・early群…16.8±6.8時間
 
両群に高用量PPI投与(80mg bolusに続き、8mg/hr持続静注)を行いました。
内視鏡後72時間は継続しています。超高用量!使ったことありません。これは日々のpracticeと異なるため注意が必要です。
さらに、静脈瘤からの出血が疑われる場合(肝疾患既往、食道胃静脈瘤既往)にはvasoactive drug+抗菌薬投与がされています。静脈瘤が疑われる場合のオクトレオチドとセフトリアキソンは予後を改善させるため投与しましょう。
※これも過去記事にまとめてあります。
 
primary end pointは30日死亡率です。
結果は、urgent群 vs early群 = 8.9% vs 6.6% (HR 1.35; 95% CI 0.72-2.54)
重症度が高い上部消化管出血でも、6時間 vs 6-24時間論争は有意差なしの結果でした。
 
ただし、early群では20人(7.8%)が緊急内視鏡となりました。
それは、再出血の徴候が認められたためです。
(低血圧…11人、吐血…6人、fresh melena…2人、Hb低下…1人)
 
 
危険なサインさえ見逃さなければ内視鏡検査は翌朝まで待てそうですね。
 
 
まとめ
・GBS≧12ptsの上部消化管出血でも24時間以内の内視鏡でいいかも。夜中に来たのであれば翌朝まで待って内視鏡でよい。
・ただし、ショックや初期蘇生に反応しない患者はだめ!すぐに内視鏡へつなぐ。
・翌朝まで待つ場合にも慎重な経過観察を要する。低血圧、吐血、血便は特に注意。
 
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