病歴/身体所見
・生後8週男児
・6時間前に発見された左中足趾の腫脹と発赤
・外傷歴なし
・痛みを訴えるように泣き続けているという
・左足第3趾は腫脹しておりCRT延長、よく見ると髪の毛と綿が巻き付いていた
・局所麻酔を使用して鉗子と針により除去を試みたが失敗に終わったため形成外科へ紹介となり、手術室にてdigital block後に2カ所の切開を行なって毛髪が除去された
診断
hair tourniquet syndrome(HTS)
本症例はすでに患者さんの家族からの申告があったため診断自体は容易だと思います。
これを自分で見つけるのはなかなか難儀だったりします。
・hair tourniquet syndrome(HTS)は、人体の先端部が毛髪や糸などで絞扼されることにより発症する
この疾患は、もともとはBartonらが生後12日~5カ月までの乳児6人の症例報告を基にして提唱されました。
…おそろしや…。。。
・巻きつけられた毛髪などにより血流やリンパ流が遮断され軟部組織の浮腫が生じる
・多くは小児期に発症し、最も多いのは乳児期である
◦知的障害のある成人でも報告はあり
◦性差はなし
◦足の指(特に中指)が部位として最多
‣耳垂、臍、舌などに発症することもある
◦髪の毛が原因であることが多く、指の場合にはミトンの糸のほつれも原因になる
・褥婦の90%が経験するびまん性脱毛がHTSのリスク因子となる
◦まれだが抜毛症も報告あり
・診断は臨床所見に基づき、疼痛/変色/感覚異常/絞扼部より遠位の腫脹など
◦小児の場合には易刺激性が唯一の初期症状の可能性がある
・見逃しにより組織壊死/感染/脱落などにつながりうる
・適切な鎮痛薬の投与に引き続き、バンドを除去する
→神経や血流のモニタリングを行う
・多くの場合にはERで対応可能
◦照明や拡大鏡などを使用し、はさみや鉗子で除去
今回、hair tourniquet syndromeの治療で驚きだったのが以下の記載です。
ただし、これは毛髪のみに使用でき、綿/ポリエステル/レーヨンなどには使用できないことに注意を要します。
例えば、(Ann Emerg Med. 2015 Mar;65(3):256-9.)では
髪の毛の太さに関わらず10分以内には溶解したことが報告されています。
除毛クリーム!ここで使えるんですね!びっくりでした。
でも、傷がある場合や粘膜部分には使用できません。
一応、注意点は読んでおきたいと思います。
・上記で解除できなければ手術
…手術法に関しては複数の方法が提案されている(局所麻酔下に可能)
◦足指の背側を骨に到達するまで短く深い切開
◦足指背側の傍腱膜を2カ所切開
泣き止まない小児患者の鑑別疾患のひとつであるhair tourniquet syndrome。
全身をくまなく見ないと発見できません。ちゃんと裸にして観察を怠らないようにしましょう。
まとめ
・hair tourniquet syndromeは乳児期に多く、特に足の中指に発症しやすい
・唯一の症状が易刺激性のみというパターンもあるため全身をくまなく観察すること
・治療はバンドの切除、もしくは粘膜面の露出がなければ除毛クリームも使用可能!