りんごの街の救急医

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case 154: sickdayなのにメトホルミンだけは欠かさず飲んじゃってた…(Clin Case Rep. 2026;14(3):e72197.)

糖尿病治療薬の中でも一番使われているといってもよいメトホルミン。


腎機能のあやしい高齢者では、もともと飲んでいたメトホルミンが致命的になることもあります。


今回は備忘録がてらメトホルミン関連乳酸アシドーシス(MALA)の重症例をまとめます。

病歴/身体所見

  • 82歳男性
  • 既往:高血圧/慢性心不全(NYHA II-III)/慢性心房細動/2型糖尿病/CKD G3a(baseline Cr 1.4 mg/dL、eGFR 49mL/min/1.73m²)/結腸癌術後(肝転移あり)
  • 常用薬:valsartan 160mg×2/amlodipine 10mg×2/metoprolol 50mg×2/torasemide 10mg/rivaroxaban 20mg/metformin 850mg×3
  • 数日前から倦怠感/嘔気/経口摂取低下のあるなか普段の内服は継続していた
    • その後、低血圧となりコミュニケーションが困難となったためERへ搬送
  • 来院時所見
    • GCS 5、皮膚蒼白、舌・粘膜乾燥
    • BP 70/32mmHg, SpO2 88%, Kussmaul呼吸

検査

  • 血液検査
    • Hb 8.2g/dL、Cr 10.1 mg/dL、Urea 59.4mmol/L
    • K 9.2mmol/L
    • CRP 4.3mg/dL
  • 動脈血液ガス
    • pH 6.64
    • HCO3⁻ 2.0mmol/L
    • BE undetectable、PCO2 18mmHg、PO2 84mmHg
    • Lactate 10.7mmol/L
  • 心電図:不整(心房細動)、wide QRS、テント状T波
  • 腹部エコー:特記事項なし
  • 胸部Xp:うっ血像あり、左肺底部に浸潤影の疑い

pH 6.64って、見たことあります?実際に出会うとやはりギョッとします。

心停止ならまだしも、それ以外ではあまりお目にかからない数値ですね。

自験例の「この症例」でもこのくらいだったような…。

 

鑑別/治療

  • 初期診断:低血容量性ショックと重度乳酸アシドーシスを伴うAKI(KDIGO stage 3)
  • 治療
    • 輸液蘇生、昇圧剤、酸素投与、抗菌薬、PRBC輸血
    • 来院から数時間以内に緊急間欠的血液透析(IHD)を開始
      • 3時間セッション、FX80膜(表面積1.8m²)
      • 血流量250mL/min、bicarbonate-based dialysate(HCO3⁻ 32mmol/L)
      • クールダイアライセートを併用
    • 翌日以降は腎臓内科で4時間透析を継続
  • 来院後24-26時間で施行した検査でmetformin 16mg/L(中毒域 5-10mg/L)
    • 透析を2セッション施行した後の値でこれだけ高値であった

診断

メトホルミン関連乳酸アシドーシス(metformin-associated lactic acidosis: MALA)

  • 3回の血液透析後にpH 7.3以上となり透析離脱
  • 循環動態安定、ノルアドレナリン離脱
  • その後安定退院となった

正直、来院時のバイタルとガスを見た瞬間にはICUを生きて出られたら御の字、本当に助かるのかなぁと思ってしまうレベルの症例です。


これだけの状態から完全回復にもっていけたのは、診断の早さとIHDへの即時導入が効いたんだろうなと感じました。

 

考察:MALAという病態

  • メトホルミンは2型糖尿病の第一選択薬として世界で最も処方されている血糖降下薬の一つ
  • 発症は10万人あたり8.4人程度と報告される
    • その他の有害事象:脳症(2.5%)/肝炎・肝不全(2.1%)/低血糖(1.6%)/精神症状/B12欠乏/膵炎(0.4%)
  • MALAは最も重篤かつ致命的になりうる合併症
    • 年間発症率は10万人あたり3-10例程度
    • かつての死亡率は50%程度であったが、近年は早期診断・治療の普及で25-33%程度まで低下している

(Clin Case Rep. 2026;14(3):e72197. / World J Diabetes. 2024;15(6):1178-1186.)

■MALAの定義と分類

  • 乳酸アシドーシスは一般に「pH<7.35、lactate>2.0-4.0mmol/Lで定義される
  • MALAは「pH<7.35かつlactate>5.0mmol/L」で定義される
  • メトホルミンに関連する乳酸アシドーシスは、メトホルミン曝露・蓄積・基礎疾患の関与によって以下の3つに分類される
分類 定義/原因 典型的臨床背景
MILA
(Metformin-Induced Lactic Acidosis)

急性または意図的な過量摂取による乳酸アシドーシス。

高濃度メトホルミンによるミトコンドリア直接抑制が主体

過量服薬。

メトホルミンが主因

MALA
(Metformin-Associated Lactic Acidosis)
メトホルミン内服中の患者で、腎不全/肝機能低下/敗血症などの素因下にメトホルミンが蓄積して発症

腎機能障害、循環不全、重症疾患の合併。

緩徐発症のことが多い

MULA
(Metformin-Unrelated Lactic Acidosis)
メトホルミン内服患者だが、メトホルミンが原因ではなく他の急性疾患による乳酸アシドーシス

ショックや組織低酸素を伴う重症病態。

メトホルミンの存在は偶発的

(Diabetes Obes Metab. 2017;19(11):1499-1501.)

 

MILA/MALA/MULAって分類がされています。


ER医的には「メトホルミン飲んでて乳酸高い人」をひとまとめにしがちですが、
本症例は典型的なMALA(腎機能低下+脱水+メトホルミン継続)で、ショックや感染も絡んでくるとMULAの要素も混じってきます。


治療方針自体は変わらないものの、原因としてのメトホルミンの寄与の大きさを意識しておくことは予後予測に役立ちそうです。

■病態生理

  • メトホルミンはミトコンドリアのエネルギー代謝を阻害する
    • 乳酸産生↑/乳酸クリアランス↓→細胞内乳酸の蓄積
    • 細胞内redox potentialが好気性代謝→嫌気性代謝へシフト
  • さらにピルビン酸カルボキシラーゼ活性が低下し、肝での糖新生が抑制される
    • AKI/敗血症/低血容量/心不全合併下では肝での乳酸代謝もさらに障害される

(Metabolism. 2016;65(2):20-29.)

■危険因子

  • 高齢
  • メトホルミン>2000mg/日
  • 組織低酸素(敗血症、ショック、低血容量、心不全)
  • 乳酸代謝の異常(アルコール多飲、肝不全)
  • メトホルミンクリアランス低下(AKI、CKD)

(Am J Med Sci. 2015;349(3):263-267.)

本症例は教科書的とも言える危険因子のオンパレードです。


82歳/メトホルミン2550mg/日(850mg×3)/CKD G3a/心不全あり/嘔気と摂取低下による脱水…と並んでおり、これに数日前からの「sick day」が重なってAKI→メトホルミン蓄積の悪循環に陥った構図と読めます。


sick dayルールを徹底できていれば、ここまで悪化せずに済んだかもしれません。


メトホルミンを内服している糖尿病患者さんには、「食欲が落ちたときは一旦メトホルミンを止めて受診を」と説明しておくことの大切さを改めて感じました。

 

ここはER医として忘れがちになってしまうため、少しまとめておきます。

CKDのガイドラインには、CKD患者の急性脱水性疾患時の sick day rules として一時中止を指導される薬剤として、「SADMANS」が挙げられています。

https://kdigo.org/wp-content/uploads/2024/03/KDIGO-2024-CKD-Guideline.pdf

SADMANS 薬剤
S Sulfonylureas:SU薬
A ACE inhibitors:ACE阻害薬
D Diuretics / direct renin inhibitors:利尿薬/直接的レニン阻害薬
M Metformin:メトホルミン
A ARBs:ARB
N NSAIDs
S SGLT2 inhibitors:SGLT2阻害薬

こういった薬剤を常用している場合には、

軽症であっても中止して、入院点滴経過観察の閾値は低めに設定しておいたほうがよさそうですね。

 

■予後因子

  • 死亡率に関連する因子
    • ショックでICU入室
    • 入院時の重症度スコア高値(SAPS II 75±23、APACHE III 142.3±26.0)
    • プロトロンビン活性<50%
    • 男性
  • 30日死亡率を下げる因子
    • 早期透析(来院から6時間以内)
    • APACHE IIスコア低値
  • pHやlactate値そのものは予後予測因子としての精度はばらつきがある
    • 170例のMALA系統的レビューでは、pH/lactate値は死亡予測因子としては不十分
    • 一方でarterial pH<7.0lactate>20mmol/Lは死亡率上昇との関連報告あり
  • 血中メトホルミン濃度は予後予測には使えない
    • 678μg/mLという極端な高値でも生存例あり

(J Med Toxicol. 2020;16(2):222-229. / PLoS One. 2022;17(8):e0273678. / Crit Care Med. 2009;37(7):2191-2196.)

 

本症例ではSAPS II 85点(院内死亡率95%相当)/PT活性<50%/pH 6.64と、悪い因子をほぼ揃えていながら救命できています。


やはり「来院から数時間以内のIHD導入」が効いたのだろうと思います。
「早期透析」の閾値を6時間とおさえておくと、現場での意思決定が早くなりそうです。

■治療:いつ透析を始めるか(EXTRIP 2015)

  • MALAを疑った時点でメトホルミンを直ちに中止
  • 軽症ではsupportive careとpH<7.2でのbicarbonate輸液を考慮
  • 重症例では体外式治療(ECTR)がメトホルミン除去とアシドーシス補正に重要な役割を果たす
    • メトホルミンは小分子(129Da)で蛋白結合がない→透析に適する
    • ただし分布容積が1-5L/kgとやや大きく、ダイアライザビリティは「中等度」

EXTRIPワークグループの推奨(2015)はER医として暗記しておきたいところです。

項目 推奨/示唆
ECTR 推奨 lactate>20mmol/L / pH≦7.0 / 標準治療(重炭酸含む)で改善しない場合
ECTR 考慮 lactate 15-20mmol/L / pH 7.0-7.1
ECTR導入閾値を下げるべき併存状態 ショック / 腎機能障害 / 肝不全 / 意識レベル低下
ECTR中止の目安 lactate<3mmol/Lかつ pH>7.35
モダリティ

重炭酸緩衝液を用いた間欠的血液透析(IHD)を第一選択

IHDが施行困難または血行動態不安定な場合はCRRTを考慮

(Crit Care Med. 2015;43(8):1716-1730.)

 

本症例ではlactate 10.7mmol/Lとそこまで高値ではありませんでしたが、

pH 6.64+ショック+意識レベル低下+AKIとECTR推奨の閾値を下げるべき併存状態が複数揃っており、迷う余地なくIHDを開始する判断になります。

「lactate 20mmol/Lに届いていないからまだだな」などと考えていると致命的になりかねません。
EXTRIPの「推奨」「閾値を下げるべき併存状態」のリストは絶対に頭に入れておくべきです。

 

■IHD vs CRRT、いつ止めるか

  • 高効率IHDではメトホルミンクリアランス>120mL/min、半減期約4時間
  • CRRTではクリアランスはIHDの約1/4、半減期は3倍以上
  • 循環動態が許容できればIHDが優先されるべき
    • 速い乳酸クリアランス→生存率改善と関連
  • 透析中止の目安:lactate<3mmol/LかつpH>7.35
    • 中止後もtissueに溜まったメトホルミンが再分布してリバウンドしうるため、慎重な経過観察を要する
  • IHDの累積15時間程度で血中メトホルミン濃度が治療域まで低下するとの報告あり

(Crit Care Med. 2015;43(8):1716-1730. / Kidney Int Rep. 2017;2(4):759-762. / Crit Care Med. 2009;37(7):2191-2196.)

循環動態が悪いとついCRRTに逃げたくなりますが、メトホルミン中毒に関しては「昇圧剤を使ってでもIHDを優先」という方針があるんですね。


透析離脱後のリバウンドアシドーシスも忘れずに、しばらくは血ガスをこまめに追う必要があります。

 

本症例から学ぶこと

  • "sick day"でメトホルミンを継続→AKI→メトホルミン蓄積という、教科書通りの典型MALA症例
  • 来院時にpH 6.64/lactate 10.7/K 9.2/Cre 890という生命予後最悪レベルの数値であったが、来院数時間以内のIHD導入で完全回復している
  • EXTRIP 2015の推奨、考慮、導入閾値を下げるべき併存状態ショック/意識レベル低下/腎機能障害/肝機能異常のいずれか)があれば早期にECTRを判断すべき

個人的には、「メトホルミン内服歴+sick day+ガスでpH低下」というキーワードが揃えば、lactateの値を待たずにMALAを疑って動き出すのが大事だなぁと感じた症例でした。

 

MALAを起こさせないことが重要です!こんな状態にならない予防策を敷かなければなりません。
自戒を込めてsick day教育に取り組みたいと思いました。

 

まとめ

・MALAは「pH<7.35かつlactate>5.0mmol/L」で定義される、メトホルミンの最重症の有害事象
・危険因子は高齢/高用量/組織低酸素/肝機能低下/腎機能低下。「sick day」でのメトホルミン継続は典型的な誘因
・EXTRIPの推奨閾値(lactate>20mmol/L、pH≦7.0)に届かなくても、ショック/意識レベル低下/腎機能障害/肝不全のいずれかがあれば早期にIHDを判断する


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