心不全の左室駆出率(LVEF)が45%だったら、HFrEFとして治療するのでしょうか。
それとも、これまでどおりHFmrEFとして少し距離を置いて考えるのでしょうか。
2026年の欧州心臓病学会(ESC)心不全ガイドラインは、この曖昧だった領域へかなり踏み込みました。
HFmrEFという分類を廃止し、LVEF 50%未満をHFrEF、50%以上をHFpEFとしました。
(ヨシッ、あれ読み方よくわかんないし面倒だったから、非専門家はなじみづらかったと思うんよね)
しかし、今回の改訂は単に「EFの境界を50%へ動かした」だけではありません。
全LVEFに共通する基礎治療、薬剤を導入する速さ、非代償性心不全における除水反応の測定、心原性ショックでのMCS選択、advanced HFへの紹介まで、心不全診療を一本の時間軸として組み直されました。
今回のメッセージは、「分類して終わり」ではないということです。
診断したら治療を早く組み、反応を評価し、改善後も続け、次の治療が必要な患者を遅らせずに見つけることです。
まず結論:2026年版ガイドラインを一言でいうと
心不全をHFrEF<50%とHFpEF≧50%へ再編
症候性心不全ではSGLT2阻害薬とMRAをLVEFにかかわらないfoundational medical therapy(FMT)としたうえで、慢性期は「早く導入して続ける」、非代償性心不全とadvanced HFは「反応を測り、適切な患者を早く次へ送る」方針を明確にした
| 今回の重要事項 | 臨床で変わること |
|---|---|
| HFmrEFを廃止 |
LVEF 41~49%をHFrEFに含める。 ただし、すべてのHFrEF薬に同じ強さの直接エビデンスがあるわけではない。 |
| 全EFに共通するFMT |
症候性心不全ではSGLT2阻害薬とMRAが基本。 HFrEFではACE阻害薬/ARNI/ARBとβ遮断薬を加える。 |
| 導入と増量を速める | 固定された導入順序はなく、診断後できるだけ早く開始し、少なくとも1~2週ごとに増量する。 |
| 改善後も継続 | 症状やLVEFが改善しても、原則として最高忍容量のFMTを続ける。 |
| 除水反応を測る | 2時間後尿中Naまたは6時間尿量で反応を判定し、不十分なら同日中に治療を強化する。 |
| MCSは患者を選ぶ | Shock Teamが病型、神経学的予後、合併症リスク、治療の出口を踏まえて選択する。 |
| advanced HFを早く拾う | 「I NEED HELP」が1項目でもあれば、移植・LVAD施設への早期相談を考える。 |
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心不全ガイドラインの最初の俯瞰図として見ておいてください。
HFpEF/HFrEFのFMT、追加薬物治療、デバイス・弁治療、非代償性心不全、advanced HFまでを1枚で俯瞰できます。
HFmrEFが消えた⁉:心不全分類の大改訂
LVEF 50%を境に2つへ分ける
2021年版では、心不全はHFrEF、HFmrEF、HFpEFの3群でした。
2026年版はHFmrEFを廃止し、次の2群へ再編しました。
| 分類 | 2021年版+2023年Focused Update | 2026年版 | 診断上の要点 |
|---|---|---|---|
| HFrEF | LVEF≦40% | LVEF<50% | 現在または過去の心不全症状・徴候を伴う。 |
| HFmrEF | LVEF 41~49% | 廃止 | 2026年版ではHFrEF側に含まれる。 |
| HFpEF | LVEF≧50% | LVEF≧50% | 症状・徴候に加え、構造異常、拡張障害、左室充満圧上昇などの客観的証拠が必要。 |
この変更の背景には、LVEF 41~49%の患者が、病因、収縮機能障害、経時的なLVEF低下、治療反応の面でHFpEFよりHFrEFに近い、というガイドラインの整理があります。
「LVEF 41~49%をHFrEFと呼ぶ」ことと、「すべてのHFrEF薬がこの範囲だけを対象とした大規模RCTで証明されている」ことは同義ではありません。
2026年版自身が、LVEF 41~49%だけを対象にβ遮断薬、ACE阻害薬/ARNI/ARBを検証した大規模前向きRCTはないと明記しています。
新分類は病態と治療反応の連続性を重視したものですが、薬剤ごとのエビデンスの直接性は残して読む必要があります。
stage A~Dで予防からadvanced HFまでつなぐ
| ステージ | 定義 | 診療の焦点 |
|---|---|---|
| Stage A:At risk for HF | リスク因子はあるが、症状・徴候・心構造異常がない。 | 危険因子の是正と心不全予防 |
| Stage B:Pre-HF | 症状・徴候はないものの、構造・機能異常、充満圧異常、持続するバイオマーカー異常がある。 | 症候性心不全への進展予防 |
| Stage C:Symptomatic HF | 心構造・機能異常と、現在または過去の症状・徴候がある。 | FMT、AMT、GDIT |
| Stage D:Advanced HF | 最適治療下でも重い症状、運動能力低下、反復イベントがある。 | advanced HF施設、LVAD、移植、緩和ケア |
FMT・AMT・GDITという新しい治療言語
- FMT(foundational medical therapy):非選択的な心不全集団に対して、心不全入院または死亡を減らすClass Iの基礎薬物治療
- AMT(additional medical therapy):特定の表現型・併存疾患に用いる治療、Class IIa/IIb治療、または主に症状・QOLを改善する治療
- GDIT(guideline-directed interventional therapy):ICD、CRT、弁治療、MCS、LVAD、心移植などの介入治療
FMTとAMTを合わせたものがguideline-directed medical therapy(GDMT)です。
2026年版は、薬剤だけでなく介入治療まで同じ土俵に載せ直しています。
症状が出る前から心不全診療は始まる
stage AとBを採用したことで、心不全予防と無症候性左室機能障害が、症候性心不全と同じ時間軸に置かれました。
| 対象 | 2026年版の推奨 | Class/LOE |
|---|---|---|
| 高血圧またはstage B | 収縮期血圧<130 mmHgを目標に厳格な血圧管理を行う。 | I/A |
| 心不全リスクのある2型糖尿病 | SGLT2阻害薬を使用する。 | I/A |
| 2型糖尿病+CKD | SGLT2阻害薬とfinerenoneを使用する。 | 各I/A |
| 2型糖尿病+追加CV危険因子≧1 | GLP-1受容体作動薬を考慮する。 | IIa/A |
| Stage B、LVEF≦40% | ACE阻害薬、忍容できなければARBを使用する。 | I/A |
| Stage B、LVEF<50% | β遮断薬を使用する。 | I/B1 |
| 心筋梗塞後、LVEF≦40%+心不全徴候または糖尿病 | eplerenoneを使用する。 | I/B1 |
ただし、stage BのLVEF<50%すべてに同じ直接エビデンスがあるわけではありません。ここでも、新しい分類と試験で直接検証された集団を区別する姿勢が必要とされています。
心不全をどう診断する?
症状からNP、心エコー、原因検索へ
心不全はLVEFだけで診断する病気ではありません。
2026年版は、心臓の構造的・機能的異常によって、安静時または運動時の心内圧上昇、心拍出量不足、またはその両方を生じ、症状・徴候を呈する臨床症候群と定義しています。
- 症状、徴候、既往歴、危険因子から心不全を疑う。
- 心電図、胸部X線、基本検査を行う。
- ナトリウム利尿ペプチド(NP)を測定する。
- 心エコーで診断、LVEF表現型、弁膜症、原因を評価する。
- 必要に応じてCMR、冠動脈評価、遺伝学的検査、アミロイドーシス検索などへ進む。
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外来で心不全を疑ってから、年齢別NT-proBNP、心エコー、HFrEF/HFpEFの確定、原因評価へ進む診断アルゴリズムです。診断の流れが一目でわかります。
外来NT-proBNPは年齢別に読む
| 年齢 | 心不全がlikelyとなるNT-proBNP |
|---|---|
| 50歳未満 | ≧125 pg/mL |
| 50~74歳 | ≧250 pg/mL |
| 75歳以上 | ≧500 pg/mL |
BNPは≧35 pg/mLが心エコー・専門評価へ進む目安です(救急外来だともっと閾値は高く設定していますが)。
NT-proBNP>2000 pg/mLなら早期イベントリスクが高く、Figure 4では可能なら2週以内の専門評価を提案しています。
肥満ではNPが低くなり、年齢、心房細動、腎機能低下、重症感染症などでは高くなります。年齢別NT-proBNP値は診断効率を高めるための提案ですが、ガイドライン自身が前向き検証をevidence gapに挙げています。
HFpEFはLVEF 50%以上だけでは診断できない
HFpEFでは、心不全症状・徴候とLVEF≧50%に加えて、左室拡張障害または充満圧上昇に合致する構造的・機能的異常が必要です。
左房拡大、左室肥大、E/e′上昇、三尖弁逆流速度上昇などを組み合わせ、必要な場合は運動負荷や侵襲的血行動態評価へ進みます。
LVEF≧50%の呼吸困難患者を、そのままHFpEFと診断してはいけません。
肥満、肺疾患、貧血、deconditioningなどは症状を模倣または併存します。
客観的証拠と原因・表現型の評価が必要です。
初期検査にUACRが加わった
基本検査には血算、eGFR、電解質、肝機能、甲状腺機能、HbA1c、脂質、TSAT、フェリチンに加えて、尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)が含まれます。
CKDをeGFRだけで評価せず、治療可能かつ予後に関係するアルブミン尿も確認することになっています。
- 心アミロイドーシス疑い:血清・尿免疫固定、血清free light chain、DPD/PYP/HMDP骨シンチ(I/B)
- 診断・予後・治療・生殖管理・家族評価に影響する心筋症:遺伝学的検査(I/C)
- 心サルコイドーシス疑い:18F-FDG-PETを考慮(IIa/C)
- CIED留置後の新規・増悪HFrEF:右室ペーシング率を確認(IIa/C)
全EFに共通するFMTは2本柱になった
EF別に基礎治療を並べてみる
| 表現型 | FMT | 重要な留保 |
|---|---|---|
|
症候性心不全 :全LVEF |
SGLT2阻害薬+MRA | HFpEFでは、個別の死亡減少より心不全入院を含む複合転帰の利益が中心。 |
|
HFrEF :LVEF<50% |
SGLT2阻害薬+MRA+ACE阻害薬/ARNI/ARB+β遮断薬 | LVEF 41~49%だけを対象としたACE阻害薬/ARNI/ARB、β遮断薬の大規模前向きRCTはない。 |
|
HFpEF :LVEF≧50% |
SGLT2阻害薬+MRA | ACE阻害薬/ARB/ARNIは心不全入院減少目的に考慮できるにとどまる(IIb/C)。 |
| うっ血を伴う全ての心不全 | 個別化したループ利尿薬 | 最小限の用量でeuvolaemiaを維持し、容量状態に応じて動的に調整する。 |
SGLT2阻害薬:全EF Class Iは2023年からの連続性
ダパグリフロジン(フォシーガ)またはエンパグリフロジン(ジャディアンス)は、症候性心不全でLVEFを問わず、心不全入院または心血管死を減らすために推奨されます(I/A)。
効果の中身はEFによって同一ではありません。ガイドラインは、主要複合評価項目の減少は検討されたLVEF範囲で一貫していた一方、心血管死単独の減少が示されたのはHFrEFであり、HFpEFの利益は主として心不全入院減少によると説明しています。
ただし、これはすべてが2026年に初めて生まれた推奨ではありません。2021年版でHFrEF、2023年Focused UpdateでHFmrEFとHFpEFにClass I/Aとなっており、2026年版はそれを全EFに共通するFMTとして統合しました。
もうこのあたりはあたりまえの領域なんでしょう。
(DKAを治療することが多い救急医としては、猫も杓子もSGLT2阻害薬…はなんとかならないものかと愚痴りたくなりますが、とてもよい薬剤なんでしょう)
MRA:今回の大きなpractice-changing point
MRAは、症候性心不全でLVEFを問わず、心不全入院または心血管死を減らすために推奨されます(I/A)。
HFrEFではsteroidal MRA(spironolactoneまたはeplerenone)、HFpEFではsteroidal MRAまたはnon-steroidal MRAのエビデンスを用いています。
HFrEFでは、spironolactoneとeplerenoneによる死亡・心不全入院減少が確立しています。
一方、HFpEFで直接使われた薬剤はspironolactoneとfinerenoneであり、eplerenoneを含むすべてのMRAがHFpEFで同じように検証されたわけではありません。
また、死亡単独の減少が明確なのはHFrEFで、HFpEFの利益は主として心不全入院を含む複合転帰です。
Finerenoneとeplerenoneはspironolactoneよりミネラルコルチコイド受容体選択性が高く、女性化乳房が少ないという薬理学的違いもあります。一方、用量設定や適応は薬剤ごとに異なります。
- eGFR<25 mL/min/1.73 m²では十分検証されていません。
- K≧5.0 mmol/Lでは開始を慎重に判断します。
- 治療中K>5.5 mmol/Lなら、まず再検し、減量または一時中断を検討します。
- 高K血症が解消したら再開を検討します。
HFrEFの追加治療は「誰に使うか」が重要
| 治療 | 主な対象 | Class/LOE |
|---|---|---|
| Digoxin/digitoxin |
最適なFMT後も症候性、LVEF≦40%。 心不全入院減少目的 |
IIa/B1 |
| Ivabradine | 洞調律、LVEF≦35%、安静時HR>70/分、最高忍容量FMT後 | IIa/B1 |
| Hydralazine+ISDN | 自己認識上のBlack患者、LVEF≦40%、症候性HFrEF、最適なFMT後 | IIa/B2 |
| Vericiguat | LVEF<45%、最適なFMT後も症候性 | IIb/B1 |
| ACE阻害薬/ARB/ARNI | 症候性HFpEFの心不全入院減少目的 | IIb/C |
導入順より、速さと継続が重要になった
少なくとも1~2週ごとに増量する
2026年版は、FMTを症状、バイタルサイン、検査所見に基づいて、少なくとも1~2週ごとに増量し、RCTで有効だった目標量または最高忍容量へ近づけるよう推奨しました(I/C)。
HFrEFのFMTには、固定された導入順序を支持するエビデンスはありません。診断したら4系統を順番待ちにせず、血圧、心拍数、腎機能、K、うっ血、臨床的安定性に応じて早期に組みます。
「今回は1剤追加し、その数か月後にまた追加する」のではなく、最初から完成形を見据え、1~2週単位で開始・増量・再評価を回すという設計です。
たしかに専門家は3-4剤ドカッと行くことがありますよね。
LVEFが改善しても治療を止めない
症状が消失した患者やLVEFが改善した患者でも、最高忍容量のFMTを継続することが推奨されます(I/C)。ガイドラインは、多くの患者を「治癒」ではなく寛解と捉えています。
可逆的な原因が治療され、左室機能、左室容積、NPが完全に正常化した極めて選択された患者では、患者希望を踏まえ、頻回の臨床・検査・画像監視下で段階的中止を考慮できます。しかしClass IIb/Cであり、日常的な中止を支持する推奨ではありません。
Cr上昇を単独で中止理由にしない
CKDはFMTを使わない理由ではありません。
主要FMTの相対効果はCKDの有無で大きく変わらず、CKD患者は基礎リスクが高いため絶対的利益が大きくなる可能性があります。
ACE阻害薬/ARNI/ARB、MRA、SGLT2阻害薬の開始後にはeGFRが一時的に低下することがあります。腎機能変化は、血圧、K、容量状態、除水反応、臓器灌流と合わせて判断します。
非代償性心不全では、良好な除水を伴う腎機能悪化は必ずしも転帰不良と関連しません。問題なのは、除水できず、うっ血が残り、腎機能も悪化している状況です。
ICUでもしっかり除水をできていないと怒られます。
デバイス・介入治療はFMTと競争しない
ICD、CRT、弁治療などはGDITとして位置づけられます。
原則はFMTを導入・最適化したうえで適応を再評価しますが、すべてを薬物治療完了後まで待つという意味ではありません。
| 介入 | 2026年版の要点 |
|---|---|
| 一次予防ICD | 虚血性HFrEF、NYHA II/III、LVEF≦35%、3か月以上のFMT後、心筋梗塞後40日超では推奨。非虚血性では考慮。 |
| CRT | 症候性HFrEF、LVEF≦35%、洞調律、LBBB、QRS≧150 msで推奨。LBBB、QRS 130~149 msなどでは考慮。 |
| CRT upgrade | 既存ペースメーカー/ICD、高い右室ペーシング率、心不全増悪で考慮。 |
| 僧帽弁TEER | 最適なFMTと必要なCRT後も重症二次性MRが残る、血行動態的に安定した選択HFrEFでClass I/B1へ強化された。 |
| 肺動脈圧遠隔モニタリング | NYHA III、過去12か月の心不全入院歴がある症候性HFでIIa/B1。 |
症候性HFrEF、LBBB、QRS≧150 ms、LVEF≦35%では、FMT開始とCRT計画を同時に進めることを考慮できます。ただし、植込み前にはLVEFを再評価します(IIb/C)。
「急性心不全」から非代償性心不全へ
DHFは急激な発症だけではない
2026年版はacute heart failureに代えて、decompensated heart failure(DHF:非代償性心不全)を標準用語としました。
DHFは、急性または徐々に出現した心不全症状・徴候が、緊急の診療を必要とし、予定外入院、救急外来受診、予定外外来受診につながり、治療の開始または強化を要する状態です。
実は旧AHFの定義も、突然発症だけでなく「徐々に悪化する心不全」を含んでいました。したがって、対象疾患がまったく変わったわけではありません。
変更の本質は、acuteという時間的表現から、decompensatedという病態的表現へ軸を移したことにあるようです。
最初に、うっ血と低灌流を分ける
初期管理では、誘因・原因の治療と並行して、うっ血と低灌流を評価します。
低灌流は低血圧と同義ではありません。血圧が保たれていても、四肢冷感、意識変容、乏尿、狭い脈圧、乳酸上昇、腎・肝障害があれば心原性ショックを考えます(SCAI Cですね)。
| 病態 | 主な治療軸 | 見落としたくない点 |
|---|---|---|
| 左心系DHF | うっ血に対する静注ループ利尿薬 | 残存うっ血と利尿反応を再評価。 |
| 右心系DHF | 右室前負荷・後負荷・収縮の評価 | 肺塞栓、右室梗塞、弁疾患を除外。 |
| 急性肺水腫 | NIV、血圧が高ければ血管拡張薬、必要に応じ利尿薬 | 全身容量過剰ではなく血液再分布が中心のことがある。 |
| 心原性ショック | 原因治療、灌流回復、選択例で昇圧薬・強心薬・MCS | 低血圧がなくても組織低灌流があれば疑うこと。 |
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DHFを心原性ショック、急性肺水腫、左心系・右心系DHFに分け、初期治療へ接続する図です。原因検索は「CHAMPIT」です。
酸素・NIV・挿管
- SpO₂<90%またはPaO₂<60 mmHgでは酸素投与(I/C)
- 呼吸数>25/分かつSpO₂<90%の呼吸困難では、NIVをできるだけ早く考慮(IIa/B2)
- 酸素またはNIV後も呼吸不全が持続・進行する場合は挿管(I/C)
陽圧換気は静脈還流と左右心室前負荷を低下させます。
右心不全、前負荷予備能低下、低血圧では心拍出量を悪化させうるため、呼吸だけでなく血圧と臓器灌流を追います。
利尿薬を投与したら、2時間後に答え合わせをする
初回量と反応目標
| 場面 | 推奨される対応 |
|---|---|
| 利尿薬未使用 | Furosemide 40 mg静注または相当量 |
| 慢性ループ利尿薬使用中 |
普段の1日経口量の2倍を静注。 CKDではより高い初回量を考慮 |
| 反応良好の目安 | 2時間後spot尿中Na≧70 mmol/L、または最初の6時間尿量≧100 mL/時 |
| 反応良好 | 同じレジメンを12時間ごとに反復し、完全除水を目指す |
| 反応不良 | ループ利尿薬を倍量化、または慢性ループ使用例でacetazolamide/HCTZを追加 |
尿中Na誘導の利尿薬治療は、最初の数日におけるナトリウム利尿と尿量改善を目的に考慮できます(IIb/B1)。ただし、死亡や再入院を改善することはまだ示されていません。
実際にはそこまで測定していませんでした。
反応不十分なら同日中に作用点を変える
ループ利尿薬を増量しても容量過剰が残る場合、短期の静注acetazolamideまたは経口hydrochlorothiazide追加を考慮します(IIa/B1)。これはsequential nephron blockadeとして、異なる尿細管部位を同時に遮断する考え方です。
除水できないならそれを放置せずに、手を変えてどんどん除水を目指します。
| 追加薬 | Figure 15の用量 | 注意 |
|---|---|---|
| Acetazolamide | 500 mg静注、1日1回 | より進行したCKDでは選択しやすい可能性がある。 |
| HCTZ:eGFR>50 | 25 mg/日 |
腎機能悪化、低K血症などを監視する。 CLOROTICはhard endpointの利益を示していない。 |
| HCTZ:eGFR 20~50 | 50 mg/日 | |
| HCTZ:eGFR<20 | 100 mg/日 |
最大限の利尿薬治療でも除水できない場合は限外濾過を検討できます。
しかし、限外濾過の役割はなお不確実で、標準的に早期導入する治療ではありません。
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初回ループ利尿薬、2時間尿中Na/6時間尿量、倍量化、acetazolamide/HCTZ追加、最大量、限外濾過、FMT導入までを1枚で示した、今回の最も実用的と思われる図です。
利尿薬抵抗性なんてのに出会ったら、この図とにらめっこはよさそうです。
安定化したら、入院中にSGLT2阻害薬を始める
初期安定化後のDHFでは、QOLとうっ血症状を改善し、心不全入院を減らすため、入院中のSGLT2阻害薬開始が推奨されます(I/B1)。除水が終わるまでFMTをすべて待つのではなく、除水と早期FMT最適化を並行させます。
利尿薬代わりにSGLT2阻害薬を早期導入することも個人的にはあります。
退院は除水終了ではなく、次の6週間の始まり
- 退院前に残存うっ血を慎重に評価する(I/C)。
- 退院前からFMTを迅速に開始・増量する。
- 退院後6週間は頻回かつ慎重にフォローする(I/B2)。
- 症状、血圧、腎機能、K、うっ血、忍容性を確認し、治療を完成形へ近づける。
この退院前後の集中戦略は、2023年Focused UpdateですでにClass I/Bとなっていました。2026年版は新しいLOE分類でI/B2とし、全心不全に対する1~2週ごとのFMT増量という考え方へつなげています。
心原性ショックのMCSは「使うか」より「誰に使うか」
2026年版は、MCSを一律に広げる方針を取りませんでした。選択された患者に利益がありうる一方、非選択的使用では出血、下肢虚血などの害が増えるためです。
| 推奨 | Class/LOE |
|---|---|
| MCS候補では多職種Shock Teamがデバイスと方式を選択する | I/C |
| STEMI、左室収縮不全、低酸素性脳障害リスクがない選択された心原性ショックでmicroaxial flow pumpを考慮 | IIa/B1 |
| 心筋梗塞関連機械的合併症で、根治治療までの一時的MCSを考慮 | IIa/C |
| 急性心筋梗塞関連心原性ショックに対する非選択的MCS | III/B1:害のリスク |
| 非選択的心原性ショックに対するIABP | III/B1:効果なし |
選択されたSTEMI関連ショックに対するmicroaxial flow pumpの推奨は、DanGer Shockを反映した重要な変更です。しかし、同試験でも重篤な出血や下肢虚血は増加しました。
- ショックの原因とSCAI stage
- 左室不全、右室不全、両心不全のどれか
- 低酸素性脳障害のリスク
- 出血、下肢虚血、弁逆流、心室中隔穿孔などの合併症リスク
- bridge to recovery、decision、durable MCS、移植など、治療の出口
デバイス名だけで決めるのではなく、患者の病態とその先の治療をShock Teamで選ぶというのが、今回のMCS推奨の本質です。
「I NEED HELP」を見逃さない
LVEFが低いだけではadvanced HFではない
Advanced HFは、最適FMT、AMT、GDIT下でも、重い症状、重症心機能障害、反復するうっ血・低心拍出イベント、重度の運動能力低下をすべて満たす状態です。
LVEF≦30%は代表的な条件ですが、HFpEFや孤立性右心不全でもadvanced HFになりえます。
紹介の入口はI NEED HELP
| 文字 | 所見 |
|---|---|
| I | Inotropes:強心薬を必要とした |
| N | NYHA III/IV、または持続するNP高値 |
| E | End-organ dysfunction:肝・腎などの臓器障害 |
| E | EF<20%、または右室機能不良 |
| D | Defibrillator shocks |
| H | HF hospitalization>1回 |
| E | Escalating diuretics:利尿薬の増量 |
| L | Low blood pressure/high heart rate |
| P | Prognostic medication intolerance:予後改善薬が使えない、または減量が必要 |
このうち1項目でもあれば、advanced HFまたはその高リスクを疑います。
移植・durable MCSの絶対禁忌がなく、患者が治療評価を希望する場合、advanced HF施設への早期相談が推奨されます(I/A)。
紹介後に評価するもの
- 心肺運動負荷試験(CPET)(I/C)
- 右心カテーテル(I/C)
- 一時的MCS、durable LVAD、心移植への適応
- 低灌流時にどのFMTを減量するか
- advance care planningと緩和ケア
選択されたadvanced HFrEFに対するdurable LVADは、bridge to transplantation、candidacy、recovery、またはdestination therapyとして、症状を改善し死亡を減らすために推奨されます(I/C)。
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INTERMACS profileから、一時的MCS、LVAD/心移植、治療延期、MCS離脱、緩和ケアへ分岐するadvanced HF治療図です。
2026年度版では、
Profile 1~2:一時的MCSをbridge to decision/recovery/durable MCS/緊急移植として検討
Profile 3~4:計画的なLVAD・心移植評価
Profile>4:高リスク所見があればadvanced therapyを評価し、なければ厳密にフォロー
とおおむね分類されています。
※SCAI:心原性ショックの重症度と経時的変化、INTERMACS:advanced HFにおけるdurable MCS・移植のタイミングを示します。
併存疾患も心不全治療の一部になった
2026年版では、肥満、CKD、鉄欠乏、心房細動、弁膜症、心アミロイドーシスなどを、単なる背景疾患ではなく治療可能な表現型として整理しています。
| テーマ | 重要な推奨・変更 | 留保 |
|---|---|---|
| 肥満 | 症候性HF、LVEF≧45%、BMI≧30 kg/m²ではsemaglutideまたはtirzepatideを考慮(IIa/B1) |
目的は体重減少、運動能力、QOL改善。 HFrEFの罹患・死亡改善は未確立 |
| 鉄欠乏 |
TSAT<20%を新しい実用的定義として支持。 症候性HFrEFの静注鉄は症状・QOL改善I/B1、HF入院減少IIa/B1 |
死亡を含むhard endpointは確定していない |
| 心房細動 | 選択された症候性AF+HFrEFでカテーテルアブレーションを考慮(IIa/C) | 高AF burden、持続1年未満、AFとHFの因果関係などで患者選択 |
| 二次性MR | 選択された安定HFrEFでmitral TEERがI/B1へ強化 |
最適なFMT、必要なCRT、解剖・血行動態基準を満たすことが前提 |
| ATTR心アミロイドーシス | NYHA I~IIIのvariant/wild-type ATTR-CAでvutrisiran、tafamidis、acoramidisを推奨(I/A) | 薬剤間の直接比較や併用療法は未解決 |
| 遠隔モニタリング | NYHA III+過去12か月のHF入院歴で肺動脈圧遠隔モニタリングを考慮(IIa/B1) | 非侵襲的telemonitoringはIIb/B1で、患者選択が未確立 |
心アミロイドーシスでは狭いeuvolaemic windowを意識し、利尿薬を慎重に調整します。β遮断薬やACE阻害薬/ARNI/ARBは低血圧や拘束性生理のため忍容性が低いことがあります。AFではCHA₂DS₂-VAにかかわらず抗凝固が適応となり、除細動前には抗凝固期間にかかわらず経食道心エコーで血栓を除外します。
そのほかの重要事項は要点を押さえる
| 領域 | 2026年版の要点 |
|---|---|
| 心臓リハビリ |
安定心不全では多職種リハビリ内の個別運動療法を推奨(I/B1)。 LVAD患者にも推奨(I/B1)。 DHF後は安全が確保でき次第、早期リハビリを考慮(IIa/B1)。 |
| Advanced HFの意思決定 |
病状経過、治療目標、advance care planningを早期から話し合うことを推奨(I/B1)。 統合された心不全緩和ケアチームへのアクセスも推奨(I/B2)。 |
| 妊娠 |
妊娠前の治療・妊娠・避妊・遺伝学的検査に関する相談を推奨。 妊娠中はACE阻害薬、ARB、ARNI、MRA、ivabradine、SGLT2阻害薬を推奨しない(III/C)。 |
| 妊娠中のβ遮断薬 | HFrEF妊婦では非選択的β遮断薬からmetoprololまたはbisoprololへ変更し、母体・胎児を厳密に監視する(I/C)。 |
| 心筋炎 |
DHF、LVEF<40%、生命を脅かす不整脈、広範なCMR LGEなどは高リスク。 Fulminant myocarditisでは心筋生検・MCSが可能な施設へ相談し、HFrEFにはFMTを導入する。 |
| 成人先天性心疾患 | 解剖、既往手術、遺残病変、不整脈、肺血管病変、腎・肝障害を統合し、専門的管理へつなげる。 |
ガイドラインでも決着していないこと
2026年版は大きく踏み込みましたが、分類変更によってエビデンスの空白が埋まったわけではありません。
ガイドライン自身が挙げた主な未解決事項は次のとおりです。
| 領域 | 未解決事項 |
|---|---|
| 定義 | 正常LVEFの範囲、HFrEF/HFpEF境界、HF with improved EFの定義・予後 |
| 診断 | 年齢別NP値の前向き検証、肥満によるNP補正、HFpEFの精密表現型 |
| 薬物治療 | HFrEF/HFpEFにおけるFMTの最適な導入順序、MRA間の直接比較、potassium binderの臨床転帰 |
| デバイス | ICD候補の精密選択、AFでのCRT、conduction system pacing対従来CRT |
| DHF | 最適な除水プロトコル、強心薬・昇圧薬・血管拡張薬の役割、退院後管理モデル |
| 心原性ショック | MCSの最適な患者、機種、導入時期、離脱戦略 |
| Advanced HF | どのFMTから減量するか、INTERMACS>4でのLVAD対内科治療 |
| 併存疾患 | 重症CKDでの治療、TSAT<20%を用いた静注鉄試験、GLP-1関連薬の罹患・死亡効果 |
| 心アミロイドーシス | 疾患修飾薬の直接比較・併用、ICD/CRT選択、遺伝子保有者のスクリーニング |
2026年版ではESCのLOE分類が変更され、治療領域ではB1/B2などが導入されました。そのため、旧版の「B」から2026年版の「B1」への変化を、そのままupgradeまたはdowngradeとは判定できません。推奨クラスの変化と、評価体系そのものの変化を分けて読む必要があります。
🩺 Clinical takeaway
- HFmrEFは廃止されました。HFrEFはLVEF<50%、HFpEFはLVEF≧50%です。
- HFpEFはLVEFだけで診断しません。構造異常、拡張障害、充満圧上昇などの客観的証拠が必要です。
- 症候性心不全ではSGLT2阻害薬とMRAが全EF共通のFMTです。
- HFrEFではACE阻害薬/ARNI/ARBとβ遮断薬を加えます。ただしLVEF 41~49%の直接エビデンスには限界があります。
- FMTは診断後早期に開始し、少なくとも1~2週ごとに増量します。
- LVEFが改善しても原則継続します。多くは治癒ではなく寛解です。
- DHFでは2時間尿中Naまたは6時間尿量で除水反応を評価します。
- 一過性Cr上昇だけで除水やFMTを止めません。除水反応、うっ血、灌流と合わせて判断します。
- MCSはShock Teamが選択します。選択されたSTEMIショックではmicroaxial flow pumpを考慮しますが、非選択的使用は推奨されません。
- I NEED HELPが1つでもあればadvanced HFを考えます。紹介できる時間を失わないことが重要です。
参考文献・出典
- Køber L, Adamo M, Ruwald AC, et al. 2026 ESC Guidelines for the management of heart failure. Eur Heart J. 2026;00:1–112. doi:10.1093/eurheartj/ehag100.
- McDonagh TA, Metra M, Adamo M, et al. 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure. Eur Heart J. 2021;42:3599–3726. doi:10.1093/eurheartj/ehab368.
- McDonagh TA, Metra M, Adamo M, et al. 2023 Focused Update of the 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure. Eur Heart J. 2023;44:3627–3639. doi:10.1093/eurheartj/ehad195.