りんごの街の救急医

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Real ER Round No.45:「造影剤腎症」の呪縛からさようなら!ER実践編

もういいかな、この話題…

と思っているのですが、意外と浸透しない「常識」なのでまた取り上げたいと思います。

 

よくこんな質問をされます。

「腎機能を見てから、造影CTに行った方がいいですよね?」

いわゆる「造影剤腎症」を心配しての発言です。

正直、自分はほとんど気にもかけていないのですが、この概念は実臨床に根強く浸透していて…困ったものです。

 

結論から書きます。

ヨード系造影剤を使うか使わないかは、腎機能を見て決めるものではありません。

臨床診断を導くのに造影剤が必要か、必要でないか。その軸で語るべきです。

 

とはいえ、「気にしなくていい」の一言で終わらせると、それはそれで雑です。

 

2025〜2026年になって、また揺り戻しがきています。

つまり、「eGFRが低い患者では、小さいけれど本当にリスクがあるのではないか」という慎重論が、それなりの規模の研究で戻ってきています。

 

この記事では、

・なぜ「造影剤腎症」への畏怖がここまで根強いのか(歴史的背景)

・本当のリスクはどのくらいなのか(最新の慎重論も含めて)

・ERで実際にどう考えて、どう手を動かしているか

・造影剤を減量して撮ったほうがいいのか

・メトホルミンやNSAIDsを飲んでいたらどうするか

などを扱います。

この分野もちょっとずつ進んでいるため、自分でも定期的にフォローしないといけないなという意味合いも込めて、いろいろ煩わしいことを書いています。

もし結論だけ知りたい場合には、

「ブログ管理人の意見:じゃあ、どうしているのか?」

「ERでの意思決定:造影CTは「必要ならやれ」」

あたりのセクションまで飛んでください~

まず、CA-AKIとCI-AKIを分ける

話を始める前に、用語の整理からです。

ここが混ざっていると、この先の議論がぜんぶ濁りますので、よく覚えてください。

用語 意味
CA-AKI
contrast-associated AKI

ヨード造影剤の血管内投与後、48時間以内に生じた急性腎機能悪化の総称。

造影剤が原因かどうかは問わない。

ACRは「correlative diagnosis」と表現している。

旧称のPC-AKI(post-contrast AKI)も同義

CI-AKI
contrast-induced AKI

造影剤の血管内投与が原因で生じたAKI。

CA-AKIの部分集合。

ACRは「causative diagnosis(因果の診断)」と表現している。

旧称のCIN(造影剤腎症)と同義

(ACR Manual on Contrast Media 2026/Radiology. 2020;294:660-668.)

この2つが別物であることは、絶対に押さえてください。

造影後に発生したAKIには、

・原疾患そのものによる腎障害

・低血圧、血管内脱水、貧血、敗血症

・その治療に必要な腎毒性物質(抗菌薬、利尿薬、NSAIDsなど)

・そして、造影剤

が全部まざっています。

3509_0301.jpg

https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2023/3509_04

 

ACR(米国放射線医学会)は、CA-AKIとCI-AKIを分ける適切な対照群を持つ研究がきわめて少ないことを指摘したうえで、

「CI-AKIはまれではあるが実在する病態である」

(ACR Manual on Contrast Media 2026)

という立場を明示しています。

「存在しない」とは言っていませんので、ここは押さえておきましょう。

 

🚨 ここがPitfall!

「造影後にCrが上がった」=「CI-AKI」ではない。クレアチニンの上昇だけでは、造影剤が真犯人だと言えない

「造影剤腎症」という一語で、造影後に起きたすべてのAKIを説明しない。この言葉自体が因果を含んでしまっている

ER・ICU患者では、原疾患そのものによるAKIの寄与が大きい。造影剤に責任を押しつけて原疾患の評価・治療が遅れるのが最悪のパターン

なぜ「造影剤腎症」への畏怖はこんなに根強いのか

ここが、この記事で一番書きたかったところの1つです。

「エビデンスはもうひっくり返っている」と言われても、現場の空気はなかなか変わりません。

なぜでしょうか。歴史をたどると、けっこう納得できる理由が並びます。

1954年、多発性骨髄腫の1例から始まった

造影剤腎症(CIN)は、造影剤投与後72時間以内に血清クレアチニン値が前値より0.5 mg/dL以上または25%以上増加した場合に診断されるとされてきました(腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018)。

最初の報告は、1954年、Bartelsらによる67歳の多発性骨髄腫患者です(Acta Med Scand. 1954;150:297-302.)。

ここから半世紀にわたって、造影剤とAKIの関連を示す論文が乱立していきました。

ちなみに余談ですが、多発性骨髄腫そのものは、単独ではCA-AKIのリスク因子として支持されていません(ACR Manual 2026/Eur Radiol. 2018;28:683-691.)。

最初の1例の病名が、その後リスク因子として一人歩きしたというのもなんだか象徴的な話です。

畏怖が残ることになった5つの理由

① そもそも対照群がなかった

CI-AKIの発生率を調べた文献の多くが造影剤を投与されていない対照群を含んでいませんでした。

造影剤を使った検査のあとにAKIが何%起きたかを報告しているだけでは、造影剤自体の腎毒性は評価できません。

② クレアチニンは、放っておいても動く

これが個人的にいちばん腑に落ちる話です。

造影剤をまったく投与されていない30,000人超の患者で、半数以上が25%以上の血清クレアチニン変化を示し、40%以上が0.4 mg/dL以上の変化を示したという報告があります。

(ACR Manual 2026/AJR Am J Roentgenol. 2008;191:376-382.)

この論文の著者は、こう書いています。

「もしこれらの患者の一部が、クレアチニン上昇と時間的に関連してヨード造影剤を投与されていたら、その上昇は生理的変動や他の病因ではなく、造影剤のせいだと疑いなく帰属されていただろう」

これは怖い話ですよね。

そして、ベースラインのクレアチニンが高い患者ほど、日々のクレアチニン測定値の変動幅が大きいことも影響します。

つまり、腎機能が悪い人ほど「造影剤のせいでCrが上がった」ように見えやすい背景があります。

③ 高浸透圧造影剤の時代のデータが混ざっている

Barrettらのメタ解析は、腎機能低下患者において低浸透圧造影剤(LOCM)は高浸透圧造影剤(HOCM)より腎毒性が低いと結論しました(ACR Manual 2026より)。

そして現在、ほとんどの施設で血管内HOCMは使われていません。

つまり、いま使っていない薬のデータで怖がっている部分があるということです。

④ 動注(心血管造影)のデータと混同されている

ここは決定的です。心血管造影と静注造影剤投与とで3つの点で大きく異なります。

別物と考えなければなりません。

① 注入が動脈内かつ腎動脈より上流である

② カテーテルがアテローム塞栓を飛ばしうる

③ 腎への造影剤到達がより急峻で高濃度になる

そのうえで、「心血管造影の研究から得られたデータは、静注造影検査を受ける患者のCI-AKIリスクを過大評価している可能性が高い」としています。

(ACR Manual on Contrast Media 2026)

⑤ 「CA-AKIの患者は予後が悪い」という観察

これも畏怖を強化しました。

CA-AKIを起こした患者は、一過性の障害だけの患者を含めても、在院日数が長く、死亡率が高く、心血管・神経イベントの発生率が高いという報告が複数あります。

この観察が、CI-AKIのリスクが高いと感じられる場面での造影剤使用への広範なためらいにつながった可能性が指摘されています。

ただし、これらの研究の多くもまた、造影剤を受けていない対照群を含んでいませんでした。

ACRは、「これまでCI-AKIに帰属されてきた罹病率・死亡率の多くは、実際には他の病因によるものである可能性がある」としています。

2006年、そして2020年に転機が訪れる

2006年、Raoらが反旗を翻します。

造影剤の静脈内投与のみを対象とし、造影剤使用の有無で対照群を設定した文献解析を行い、造影剤とAKIの関連性が指摘できなかったことを報告しました(Radiology. 2006;239:392-397.)。

 

ここを境目に研究手法が見直され、大規模研究が増えていきます。

 

ただし、新しい問題が出てきました。

AKIリスクが高い患者ほど造影剤が差し控えられるので、単純CT群のほうにハイリスク患者が集まってしまうことになります。いわゆる選択バイアスですね。

 

造影剤を使うかどうかをランダムに割り付ける研究は、診断がつかない群が生じるという倫理的問題があって難しくなります。

そこで登場したのがpropensity score matching(傾向スコアマッチング)でした。

 

ACRは、2013年と2014年に発表された4つの大規模研究(いずれも10,000例超)について、結論には差があるものの、

「4研究すべてが、CI-AKIはこれまで信じられていたよりはるかに少ないことを示した」

としています。

 

そして2020年、米国放射線学会(ACR)と米国腎臓財団(NKF)が合同声明を出しました(Radiology. 2020;294:660-668.)。

その中核となるメッセージは、

「静注造影CTによる腎障害リスクは従来より過大評価されてきた。AKIまたはeGFR<30を高リスクとするが、必要な造影CTを腎機能だけで中止・遅延してはいけない。」

というものでした。

ここが、いま我々が立っている場所だと認識しています。

で、本当のリスクはどのくらいなのか

ACR-NKF合同声明が示した数字を見てみましょう。

安定時のeGFR CA-AKIのリスク(造影剤と無関係なAKIを含む) CI-AKIのリスク(造影剤が原因のもの)
≥60 約5% ほぼ0%
45〜59 約10% ほぼ0%
30〜44 約15% 0〜2%
<30 約30% 0〜17%

(Radiology. 2020;294:660-668.)

 

左の列と右の列の差が、そのまま「造影剤の濡れ衣」の大きさです。

eGFR 30-44で「15%」と言われたらギョッとしますが、そのうち造影剤のせいと推定されるのは0〜2%にすぎません。

残りは原疾患やその他の因子によるAKIです。

 

そしてeGFR<30の「0〜17%」という幅の広さ

これが、いまも議論が続いている理由です。

 

ACR-NKFはこの点について、

・これらの研究は重症腎機能障害患者でのリスクを確立するには検出力不足である

・eGFR<30における結論が研究間で異なる(推定CI-AKIリスクの幅 0〜17%)

・観察研究デザインである(既知の交絡しか扱えない)

と明記し、さらに「eGFR<30の患者でCA-AKIとCI-AKIを区別したランダム化試験は存在しない」としています。

 

ちなみにACR-NKFは、NNH(1人がCI-AKIを発症するまでに何人が曝露されるか)という数字も出しています。

CKD stage 4/5(維持透析なし)における well-controlled な観察研究での推定値は、

「6人という低い値から、無限大(=害なし)まで」

でした。ここまで幅があるということです。

「全体としては差がない」を示した研究たち

ほかの主要な4つのメタ解析を整理しておきましょう。

研究 対象 主な結果
McDonald 2013 13研究、25,950例

AKI 6.4% vs 6.5%、RR 0.79(95%CI 0.62〜1.02)

死亡RR 0.95(0.55〜1.67)、透析RR 0.88(0.23〜3.43)

Ehrmann 2017 ICU患者、マッチング3研究560例 AKIとの関連なし、OR 0.95(95%high posterior density interval 0.45〜1.62)
Aycock 2018 急性期28研究、107,335例

AKI 7.2% vs 7.4%、OR 0.94(0.83〜1.07)

RRT OR 0.83(0.59〜1.16)、死亡 OR 1.0(0.73〜1.36)

Obed 2022 PSM 21研究、169,455例

全体でAKI 12.3% vs 14.1%、OR 0.97(0.85〜1.11)。

ただしeGFR≤30のサブグループではOR 1.68(1.29〜2.19)、絶対リスク増加は4%(19% vs 15%)。RRT・死亡は差なし。I² 90%

(J Emerg Med. 2025;72:129-136)

J Emerg Med. 2025;72:129-136. ではこう結論付けられていました。

「入手可能な文献に基づけば、CT画像への静注造影剤の使用は、AKIリスクの増加とは関連しないようである」

 

そして、日本からのデータも見ておきましょう。

Hisamuneらは、日本最大級の病院データベース(MDV、2008〜2019年)を用いて、救急入院を要した144,149例を解析しました。

傾向スコアマッチング後の43,367ペアでの結果がこちらです。

アウトカム 造影CT 単純CT OR(95%CI)
AKI stage 1〜3 4.6% 5.1% 0.899(0.845〜0.958)
AKI stage 3 1.1% 1.0% 1.156(1.013〜1.320)
入院中のRRT導入 1.5% 0.9% 1.335(1.171〜1.523)
退院時のRRT依存 0.6% 0.4% 1.297(1.070〜1.574)
院内死亡 5.4% 6.5% 0.821(0.775〜0.869)

(Crit Care Explor. 2024;6:e1142.)

全AKIはむしろ造影群で少なく、院内死亡も造影群で有意に低い結果となりました。

 

でも、解釈はそんなに簡単ではありません。

ここで重要なのは、腎アウトカムが一方向ではなかったことです。

AKI stage 1〜3全体は造影群で少なかった一方、stage 3 AKI、入院中のRRT導入、退院時のRRT依存は、いずれも造影群で多くなっていました。

この研究の結論は、「造影CTはAKIリスクの有意な増加とは関連せず、救急入院を要する患者において死亡率のベネフィットと関連している可能性がある」でした。

 

ただし、これは後ろ向き観察研究です。したがって、造影CTそのものが死亡率を改善したと証明されたわけではありません。

正確な診断によって適切な治療へつながった可能性がある一方、全身状態や腎機能が比較的良好な患者ほど造影CTを受けやすかったという、残余交絡や選択バイアスも否定できません。

 

さらに見落としてはいけないことに、CKDのサブグループではAKI stage 1〜3のORが2.082(1.571〜2.769)と増加したことです(CKDなしではOR 0.833[0.781〜0.889])。

著者らも「CKD患者における造影剤の使用は、利益より害をもたらす可能性がある」と、限界の項で述べています。

 

ただ、主要なlimitationとして以下が指摘されています。

・CKDは診療報酬データ上の病名コードで定義され、eGFR別に解析されていない

・CKD群は544ペアと比較的小規模

 

したがって、この結果は「CKDなら造影CTを避ける」という根拠にはならず、腎機能障害例では診断上の利益と腎リスクをより慎重に比較する必要があるという警告シグナルとして読むのが妥当だろうと思います。

 

はてさて…。

2025〜2026年、慎重論の揺り戻しが起きている

ここからが、この記事のもうひとつの山場です。

「造影剤腎症は神話だった」で話が終わったかと思いきや、そうでもありません。

本当はこういったものはあまり考えないほうがER診療ではうまくいくことが多いと思うのですが、フェアではないのであまり都合のよくない話も追っていきます。

 

韓国16施設、182,170ペアの研究

Choiらは、韓国16施設の電子カルテデータベース(2006〜2022年)から、造影CT 182,170件と単純CT 182,170件を1:1傾向スコアマッチングして比較しました。

全体の結果は、これまでの流れどおりです。

AKI発生率 4.1% vs 3.9%、OR 1.036(95%CI 0.968〜1.109)、P = 0.304で有意差なし。

1か月以内の透析も OR 1.0(0.859〜1.165)、P = 0.997 でした。

 

ところが、eGFRで層別化すると、ことはそう単純にいかない様相を呈しています。

eGFR 造影CTのAKI 単純CTのAKI OR(95%CI)/P値
<30 19.4% 16.52% 1.176(1.08〜1.281)/P = 0.011
30〜45 11.5% 10.04% 1.139(1.043〜1.244)/P = 0.019
45〜60 6.6% 6.14% 1.048(0.911〜1.208)/P = 0.581
>60 2.8% 2.7% 1.035(0.971〜1.103)/P = 0.35

(Invest Radiol. 2025;60:376-386. )

 

CKDと診断されている患者でも OR 1.215(1.084〜1.361)、adjusted P = 0.011 と有意でした。

 

ちなみにこの研究は、造影剤の種類でも差が出ています。

等浸透圧造影剤(iodixanol)使用群で、AKIが8.7% vs 6.22%、OR 1.392(95%CI 1.196〜1.622)、P = 0.011

低浸透圧造影剤(LOCM)各製剤では有意な増加を認めませんでした(OR 1.014[0.954〜1.078])。

iodixanolの腎障害リスクがLOCMより高い可能性が示唆されました。

ただし、後ろ向き観察研究であり、施設差や造影剤選択、未測定交絡が残るため、iodixanolの腎毒性がより強いと確定したわけではありません。

画像診断上同等であれば、腎機能低下患者でLOCMを選択することは合理的な予防策になり得ますが、現時点で確立した標準や必須事項ではありません。

 

※現在の静注造影CTで使用されるのは、主に非イオン性低浸透圧造影剤(LOCM)です。イオパミドール、イオヘキソール、イオメプロール、イオプロミドなどが該当します。一方、イオジキサノールは等浸透圧造影剤(IOCM)です。

 

著者らの結論は、

「一般集団におけるCI-AKIのリスクは最小限であった。しかし、CKDと診断された患者、eGFR 45 mL/min/1.73m²未満の患者、または等浸透圧造影剤を投与された患者では注意が必要である」

でした。

 

Nyman 2026:PSA研究そのものを疑う

そして2026年、傾向スコア調整(PSA)研究32報を精査し、患者集団の重複を除いた26コホートをまとめた批判的レビューが発表されました。

タイトルは直球勝負です。

「Contrast-enhanced CT—Nephrotoxic or not?」

 

救急・入院患者を対象とした研究について、造影CT群と単純CT群の差をeGFR別に集計した結果がこちらです

eGFR コホート数 加重絶対差(%ポイント) 加重オッズ比(95%CI)
【AKI】
<30 8 +4.0(3.0〜5.1) 1.25(1.16〜1.34)
30〜44 5 +1.7(1.1〜2.4) 1.18(1.10〜1.28)
45〜59 5 +0.4(0.0〜0.9) 1.05(0.95〜1.16)
【RRT(腎代替療法)】
<30 4 +1.8(0.9〜2.7) 1.30(1.12〜1.50)
30〜44 2 +0.7(0.2〜1.2) 1.45(1.09〜1.93)
45〜59 2 −0.2(−0.5〜0.1) 0.84(0.63〜1.12)

(J Intern Med. 2026;300:5-25.)

 

救急・入院患者の10コホート中、7つでは造影CTとAKIに統計学的に有意な関連がみられました。さらに、全体では差がなかった1コホートでも、カルテを詳しく調べると重大な群間差が見つかりました。

勘違いしてはいけないのは、Nymanらが示したのが「造影剤の腎毒性が証明された」ということではないということです。PSA研究だけを根拠に、「腎毒性は存在しない、あるいは臨床的に無視できる」と断定するのも危ういということです。

…では、eGFR<30でみられた「+4.0%ポイント」は、造影剤によってAKIが4%増えたという意味なのでしょうか?

ここは、慎重に考える必要があります。

その心は?~なぜ「造影剤によって4%増えた」と言えないのか

本当に知りたいのは、まったく同じ患者に造影CTを行った場合と、行わなかった場合の差です。

しかし、現実には同じ患者で両方を観察することはできません。

 

PSAは、年齢、腎機能、併存疾患などが似た患者を比較し、RCTに近づけようとする方法です。ただし、補正できるのはデータに記録された因子だけです。循環動態、脱水、感染の重症度、治療内容、そして「なぜ医師が造影を選んだ、あるいは避けたのか」までは十分に調整できません。

 

したがって、「+4.0%ポイント」という群間差には、少なくとも次の3つが混在し得ます。

造影剤そのものによる腎障害

造影CTを必要とした疾患や重症度によるAKI

AKIリスクの高い患者では造影が避けられることによる選択バイアス

特に3つ目は、造影剤の害を隠す方向に働きます。高リスク患者が単純CT群に集まれば、本当は造影剤に害があっても、両群に「差がない」ように見えるからです。

たとえば、Chaudhuryらの研究では当初、造影CT群と単純CT群でAKI発生率に差はありませんでした。ところがAKI例のカルテを再検討すると、血行動態不安定は造影CT群の8%に対し、単純CT群では88%でした。さらに、造影CT群のAKI例の約半数では、造影剤以外に明らかな原因が見つかりませんでした。比べている患者の背景が違いすぎて、PSAでも補正しきれていなかった可能性があります。

また著者らは、輸液や感染治療などによる急性腎機能回復が、造影剤による小さな悪化を相殺した可能性も挙げています。

ただし、これは現時点では仮説であり、証明された機序ではありません。

 

結局、Nymanの「AKI+4.0%ポイント」は、造影剤による因果的な上乗せリスクではなく、PSA観察研究における造影CT群と単純CT群の加重絶対差です。

 

それでも、腎機能が低いほどAKIやRRTとの関連が大きくなるというシグナルは無視できません。一方でNymanらも、検査の利益が腎障害の可能性を上回る患者では、造影CTを実施すべきであると明言しています。

 

慎重派の論文であっても、結論は「造影するな」ではありません。

必要性を吟味したうえで、必要ならやる。けれども「腎リスクはゼロ」とも言い切らない。

これが、このレビューから受け取った現実的なメッセージです。

「本レビューは、eGFR 45 mL/min/1.73m²未満、とくに30未満の救急・入院患者において、AKIおよびRRTとCECTの関連を示している。RRTを要するAKIのリスクは、完全に無視できるものではない」

「ただし重要なことに、検査の利益がAKIのリスクを上回ると思われる患者では、CECTはやはり実施すべきである」

(J Intern Med. 2026;300:5-25.)

 

最後の一文がマジで大事です。

いちばん慎重派の論文ですら、「必要ならやれ」は否定していません。

ブログ管理人の意見:じゃあ、どうしているのか?

ここまでは論文が言っていることです。

以下は、自分がどう考えているかを書きます。

 

Nymanらの「eGFR<30でAKIが+4.0%ポイント、RRTが+1.8%ポイント」という数字を見ても、自分の立場は変わっていません。

それでも、造影は遅らせません。

 

この数字は、「造影を控える理由」ではなく、「造影したあとに何を見ておくかの動機になる」と思っています。

具体的には、

・volume statusをきちんと評価しておく動機

・不要な腎毒性物質を止めておく動機

・造影後の腎機能フォローの計画を立てておく動機

になる。それ以上でも以下でもありません。

 

そしてもうひとつ、はっきり書いておきたいことがあります。

選択バイアスの問題は、まだ残っています。

Nymanら自身が、PSAは「未知・未測定の交絡や、CT時点で造影剤を使うかどうかの医師の判断に影響する選択の問題を説明できない」と書いています。

Chaudhuryらのカルテレビュー(血行動態不安定 8% vs 88%)は、その選択バイアスが「差がない」方向に働いた例として提示されたものでした。

 

でも、この事実は同時に、「造影群と非造影群は、そもそも比べられる集団ではないことがある」ということも示しています。

ここは諸説あるのでしょうが、PSAが選択バイアスを一方向にだけ動かすと決めつけることも、また難しいと思っています。

 

そして最後に、これがいちばん大事な点です。

「造影しない」を選んだ場合の害が、この議論には計上されていません。

たとえば大動脈解離を見逃したときの+何%ポイントは、どの表にも載っていません。

ERでの意思決定:造影CTは「必要ならやれ」

お待たせしました。実践編です。

合言葉は

「造影CTは必要ならやれ」

につきます。

 

STEP① この造影CTは時間依存性か

まず、これを決めます。

造影CTが診断・治療を直接変える病態を疑っているなら、腎機能の結果を待って撮影を遅らせてはいけません。

 

造影CTを遅らせてはいけない代表格

急性大動脈症候群

肺塞栓症

急性腸間膜虚血

活動性出血・外傷性血管損傷

敗血症の感染源検索(膿瘍など) など

 

いろいろな立場がありますが、大体のガイドラインは自分と同じような立ち位置です。

・ACR:

「CI-AKIへの懸念は、AKIまたはeGFR 30 mL/min/1.73m²未満で維持透析を受けていないリスク患者に対する血管内ヨード造影剤投与の、相対的禁忌であって絶対的禁忌ではない」

・ACR-NKF合同声明:

「生命を脅かす診断のために造影剤の投与が必要であれば、腎機能を根拠にそれを差し控えてはならない」

(ACR Manual on Contrast Media 2026/Radiology. 2020;294:660-668.)

・Long らの総説:

「不安定である、あるいは時間依存性の診断(例:大動脈解離)のハイリスクである患者では、既往歴やGFRがどうであれ、クレアチニンがどうかは問題にならない」

(J Emerg Med. 2025;72:129-136.)

 

英豪の学会も同様の立場で、「救急の場面で造影剤を要する患者は、腎機能検査によってスキャンの時間を遅らせるべきではない」としています。

 

個人的には:Cr待ちはしていない

ここは自分の運用をはっきり書いておきます。

「必要」と決めた造影CTであれば、検査前のCr待ちはしていません。

 

理由は2つです。

① 単純に、時間のムダだから

大動脈解離をはじめとした血管病変を疑っている患者では特に、採血結果を30分待つ意味を説明できる人はいないと思います。血ガスでも出ちゃいますけどね。とはいえ、そんな頼りにしていません。

② 決定を鈍らせる因子になるから

こちらのほうが、実は大きいと思っています。

Crの数字を見てしまうと、「やる/やらない」の判断がそこに引っ張られます。

本来「造影剤が診断に必要か」だけで決まるはずの判断に、余計な変数が1つ入ってしまいます。

放射線科からは毎度

「腎機能が悪いですけど、造影しますか?」

と聞かれますが、これは「決定を鈍らせる因子」がシステムとして実装されている状態であまりよくないと個人的には思っています。

 

ため息をつきたくなったときには以下のコメントを読んで、まぁそういうもんだよなと落ち着くことにしています。

「ドグマに挑むことがこれほど難しいというのは、印象的である。いつもどおりのやり方を続けることの慣性が、EBMをベッドサイドに翻訳するのに何十年もかかる理由を説明している」

(J Emerg Med. 2025;72:129-136. Commentary by Dr. Gillian Schmitz)

STEP② AKIか、安定したCKDかを分ける

時間依存性ではない場合、次はここです。

 

ACRは、AKIの状況では血清クレアチニンが信頼できないため、いかなるクレアチニン値・eGFR閾値も患者のリスク層別化には不十分だと明記しています。

つまり、「AKI中の1点のeGFR」でリスクを語ることはできません。

 

そのうえで、

「AKIの患者では、ヨード造影剤の投与は適切な注意をもってのみ、そして患者への利益がリスクを上回る場合にのみ行われるべきである」

とし、さらに

「AKI患者への静注ヨード造影剤投与が、対照群と比べて腎機能障害を悪化させたり遷延させたりすることを示した公表シリーズは存在しない。しかし、AKI患者は腎毒性物質への曝露に特に脆弱であり、したがって可能なときは血管内ヨード造影剤を避けるのがおそらく賢明である」

としています。

 

「証拠はないが、避けられるなら避けるのが賢明」という微妙な言い回しです。

ここは原典の温度感のまま受け取っています。

 

一方、安定したCKDであれば、eGFRで判断します(→STEP③)。

そして重要な点を2つ。

糖尿病があることだけを理由に閾値を引き上げない。ACR-NKFは、eGFR 30〜44の1112例の1:1傾向スコアマッチング研究で、糖尿病は独立してCI-AKIリスクを増やさなかった(P = 0.22)としています

単腎・移植腎も、それ自体を独立したリスク因子としない。腎臓の個数ではなく、全体の腎機能(eGFR)とAKIの有無で判断します

(Radiology. 2020;294:660-668./ACR Manual on Contrast Media 2026)

STEP③ eGFRごとの対応
状況 ERでの基本対応
時間依存性の病態を疑う
(腎機能不明も含む)
腎機能によらず、遅らせずに造影する
安定eGFR ≥45

通常どおり造影。

予防輸液は適応外

安定eGFR 30〜44

造影可能。

ルーチンの予防輸液は不要だが、最近のAKI・境界域eGFR・複数のリスク因子がある場合は、オーダー医の裁量で予防を考慮してよい

eGFR <30
(維持透析なし)

相対的禁忌。

代替検査と利益を比較する。

造影すると決めたら通常の診断量を使い、禁忌がなければ0.9%生理食塩液による予防が適応

AKI

eGFR値に依存せず高リスク扱い。

必要な緊急撮像は遅らせない。

可能な範囲で循環と薬剤を最適化する

維持透析中(無尿) CI-AKIのリスクなし。予防輸液も適応外

(ACR Manual on Contrast Media 2026/Radiology. 2020;294:660-668. をもとに作成)

そもそも、造影前に腎機能を測るべき人は誰か

ACRが「腎機能評価を要する可能性がある」として挙げているリスク因子は、以下です。

腎疾患の既往

・既知のCKD

・過去のAKI

・透析

・腎手術

・腎アブレーション

・アルブミン尿

糖尿病の既往(オプション)

メトホルミンまたはメトホルミン配合薬の使用

 

造影CTをやるならCrを測定しないことはまずありませんが、

これはリスクの見積もりもさることながら、

前述のように造影したあとに何を見ておくかの動機付けとしての意味合いが大きいように感じています。

 

🚨 ここがPitfall!

AKI・eGFR<30は「相対的禁忌」であって絶対禁忌ではない。生命を脅かす診断に必要なら、腎機能を理由に差し控えない

時間依存性の病態で、Cr結果を待つために撮影を遅らせない。ここが臨床的にいちばん害の大きい判断ミス

「とりあえず単純CTを挟む」もタイムロスである。診断がつかずに病状が悪化するリスクを、造影剤のリスクと比べて評価する

AKIの最中のeGFRでリスク層別化しない。その数字は当てにならない

糖尿病・単腎・多発性骨髄腫を、それ単独で「造影を避ける理由」にしない

減量して撮ったほうがいい? → 原則、しない

これ、聞かれませんか?

自分は、放射線技師さんから「腎機能が悪いようですけど、減量しますか?」と聞かれることがあります。

まず、原典が何と言っているかを確認しましょう。

静注では、用量–毒性関係が確立していない

ACRガイドラインを見てみると、

「ヨード造影剤の腎毒性効果は、心血管造影については用量に比例する可能性がある。しかし、通常の診断量で投与された場合の静脈内投与については、用量–毒性関係のエビデンスはない」

そのうえで、予防の項ではこう書かれています。

「したがって、CI-AKIのリスクを軽減しようとして用量を減らすことは推奨されない。これは準最適または非診断的な画像をもたらす可能性があるためである」

「代わりに、CI-AKIのハイリスク患者への静注ヨード造影剤投与について利益がリスクを上回ると判断されたのであれば、標準的な造影剤投与量が推奨される」

(ACR Manual on Contrast Media 2026)

ACR-NKF合同声明も同じです。

「リスクのある患者にヨード造影剤を投与するのであれば、通常の単回診断量(単回の診断検査で典型的に用いられる量)を使用すべきである。CI-AKIのリスクを軽減する努力としての場当たり的な造影剤減量は、準最適または非診断的な検査を生む可能性があるため、避けるべきである」

(Radiology. 2020;294:660-668.)

つまり、「腎機能が悪いから、今回だけちょっと減らす」は、いちばんやってはいけないパターンということです。

では、減量が正当化される場面はあるのか

あります。ただし、条件つきです。

 

ACR-NKFは続けてこう書いています。

「もし低用量の造影剤が、特定のプロトコルで十分に診断的であることが示されているのであれば、施設は腎機能低下患者だけでなく、そのプロトコルで撮像するすべての患者において用量を下げることを検討すべきである」

「腎機能が悪い人だけ減らす」のではなく、「その撮像プロトコルの全員に対して減らす」という話です。

 

具体的な技術としては、低管電圧CTが紹介されています。

スウェーデンのガイドラインは、

・CECT実施時にgram-iodine / 絶対eGFR比を1.0未満に保つことを推奨

eGFRが30 mL/min/1.73m²に近づく、または下回る場合には、低管電圧CT(70〜80 kVp)の使用を推奨。これにより120 kVpと比べて造影剤量、ひいてはこの比を40〜50%低減できる

としています(J Intern Med. 2026;300:5-25.)。

ぶっちゃけ、あんまりよくわかりません。専門家におまかせしたいです。

少なくともこの話は「注射器の中身を目分量で減らす」のとは、まったく別の話です。

撮影条件を変えることで、診断能を保ったまま造影剤を減らすという技術的なアプローチになります。

 

そういうプロトコルがあるのであれば、腎機能の良しあしにかかわらず、そのプロトコルを使用すればいいです。ないなら標準量でやります。

 

個人的には:減量はしていない

技師さんに「減量しますか?」と聞かれたときの、自分の答えははっきりしています。

減量はしません。

 

理由は、、、

① そもそも施設に減量プロトコルがないから

ACR-NKFが認めているのは「診断能が担保された低用量プロトコル」です。

プロトコルがないところで場当たり的に減らすのは、ACRの推奨からも外れます。

あれば腎機能にかかわらずそのプロトコルを使用するのが賢明です。

 

② 致命的な疾患の見逃しのほうが、予後を悪くすると考えているから

造影が薄くて読めなかった致命的な疾患と、+4%ポイントのAKIリスク。

どちらがその患者の予後を悪くするか、という話です。

「重要な臨床的病態を診断できないことは、それ自体のリスクを伴う」ことが問題です。

非診断的な検査になれば、結局もう一度撮ることになり、造影剤の総量はむしろ増えます。

誰も得をしません。

ついでに:24時間以内にもう一度撮っていいか

関連する話なので、ここで扱います。

低浸透圧造影剤の半減期は約2時間で、腎機能正常者では1回投与分が排泄されるのに約20時間かかります。

そのため「24時間より短い投与間隔は、緊急時を除いて避けるべき」と長く言われてきました。

 

ACRの立場は、

前回投与から24時間以上経過するまで再投与を控える、という決定を支持する十分な証拠はない

24時間以内に投与してはならない造影剤量の特定の閾値を推奨する証拠もない

としています。

 

さらに、

「近接した2つの造影検査の間に血清クレアチニンを測定することは、AKIにおけるクレアチニン変化の遅さを考えると、なんら利益をもたらさない可能性が高い」

とまで書いています。

 

結論として、近接した造影検査を行うかどうかは臨床的・主観的な判断であり、ハイリスク患者(CKD stage IV/V、AKI)ではより慎重に扱うというのがACRの整理です。

(ACR Manual on Contrast Media 2026)

結局、考え方は同じで、

時間依存性の診断があるか、メリットがデメリットを上回るかというところに帰着します。

内服薬をどうするか

ここも現場でよく迷うところです。

メトホルミン:まず、そもそも論から

「ビグアナイド飲んでるので造影ダメですよね?」

この会話もいまだに交わされていると思います。

造影剤使用同意書にビグアナイドの確認欄がある施設も多いでしょう。

 

ここは、順番に事実を確認します。

 

① メトホルミン関連乳酸アシドーシス(MALA)は、たしかに怖い

ACRの記載では、

・発生率は1000患者年あたり0〜0.084例

・報告例における患者死亡率は約50%

たしかに、発症すれば重篤になります。

appleqq.hatenablog.com

 

② しかし、発症するのは「禁忌が見落とされていた患者」だけ

報告されたほぼすべての症例において、乳酸アシドーシスはこの薬剤に対する患者側の禁忌が1つ以上見落とされていたために発生したという報告がされています。

スウェーデンの13年間の後ろ向き研究では16例が見つかりましたが、全例が複数の併存因子(多くは心血管疾患または腎疾患)を有していました(Eur J Clin Pharmacol. 1993;44:589-591.)。

これが事実です。

「適切に選択された患者において、メトホルミン関連乳酸アシドーシスの記録された症例は存在しない」

(ACR Manual on Contrast Media 2026)

 

③ そして造影剤自体は、リスクを上げない

ACRは管理の原則として、次の3点を挙げています。

メトホルミンを内服している患者は、他の患者より造影後AKIのリスクが高いわけではない

・ヨード造影剤は、AKI患者および重症CKD(stage IV/V)患者において、腎障害をさらに進める潜在的懸念となる

メトホルミン投与に適切に選択された患者において、静注ヨード造影剤投与後の乳酸アシドーシスの報告はない

 

つまり、造影剤 → MALA という直接の矢印はありません。

 

問題になるのは「造影後にAKIが起きた場合に、メトホルミンが蓄積すること」だけです。

メトホルミンは腎から未変化体で排泄され、吸収された薬剤の約90%が最初の24時間で腎経路により排泄されます

だから、腎機能が落ちると蓄積するというそれだけの話です。

 

メトホルミン:ACRの2分類

ACRは、患者を腎機能(eGFR)に基づいて2つに分類しています。

分類 該当する患者 対応
Category I AKIの証拠がなく、eGFR ≥30 の患者

静注ヨード造影剤の投与前・投与後ともに、メトホルミンを中止する必要はない。

検査後に腎機能を再評価する義務もない

Category II AKIが判明している、または重症CKD(stage IV/V、eGFR <30)、または腎動脈への塞栓(アテロームなど)を起こしうる動脈カテーテル検査を受ける患者

検査時または検査前に一時的に中止し、検査後48時間は休薬。

腎機能を再評価して正常と確認されてから再開する

(ACR Manual on Contrast Media 2026)

 

ただし、日本での解釈にはちょっと注意が必要ではあります。

ACRは、AKIがなくeGFR≥30であればメトホルミンの休薬も造影後の腎機能再評価も不要としています。

一方、日本のメトホルミン製剤の添付文書では、ヨード造影剤を用いる検査前にメトホルミンを一時中止し、造影剤投与後48時間は再開しないことが記載されています。ただし、緊急に検査を行う必要がある場合は、事前休薬の例外です。

したがって、日本の実臨床では、緊急造影CTをメトホルミン内服のために遅らせない一方、造影後の休薬・再開は国内添付文書と施設運用に従うのが原則です。

個人的には:適応どおりに処方されているなら気にしていない

自分の運用は、

原則として、メトホルミンの適応に沿って処方されている患者では、あまり気にしていません。

ACRが言っている「適切に選択された患者ではMALAの報告例がない」を、そのまま受け取っている形です。

 

そのうえで、

48時間後に経過をみて、再開するかどうかを判断しています。

ここでの「経過をみる」は、造影剤のせいかどうかを見に行くというより、その患者の腎機能が実際どうなったかを確認するという意味です。

AKIが起きていれば、メトホルミンの再開は当然待ちます。起きていなければ再開することがあります。

NSAIDsなどの腎毒性薬

ACR-NKFは、まず前提としてeGFRが正常または軽度〜中等度低下の患者では、どの薬剤を処方されていようとリスク患者とはみなされないと書いています。

そのうえで、AKIまたはeGFR <30 の患者については、

臨床的に可能であれば、不要な潜在的腎毒性薬の休薬が賢明かもしれない

・NSAIDs

・利尿薬

・アミノグリコシド

・アムホテリシン

・プラチナ製剤

・ゾレドロン酸

・メトトレキサート

期間は曝露の24〜48時間前から、曝露後48時間まで

(Radiology. 2020;294:660-668.)

 

ERで押さえておくべきは、「不要な(nonessential)」という限定がついていることです。

必要な抗菌薬や必要な利尿薬を、造影剤のために止めるという話ではありません。

ACE阻害薬・ARBはどうするか

ACR-NKFは、「RAAS阻害薬を休薬するかどうかは議論がある」と正直に書いています。

・12研究・4493例のメタ解析では、RAAS阻害薬を投与された患者と投与されなかった患者の間で、CA-AKIリスクに差はなかった。OR 1.27(95%CI 0.77〜2.11)、P = 0.35

・ただし層別解析では、薬剤を休薬しなかった慢性RAAS阻害薬使用者でCA-AKIリスクが増加した。OR 2.06(95%CI 1.62〜2.61)、P < 0.001。この関係は、RAAS阻害薬を新規に開始した患者では認められなかった

 

そのうえでの推奨が、

「RAAS阻害薬の継続が有益であることを示す強いエビデンスが欠けていることから、紹介元の臨床医は、リスクのある患者において少なくとも48時間の休薬を考慮すべきである」

です(Radiology. 2020;294:660-668.)。

 

ただし、これは選択的な検査の話です。

緊急の造影CTを、ACE阻害薬・ARBのwashoutのために48時間待つ、という話ではありません。

ERでは、この論点は基本的に出番がないと思っておいてよいと思います。

透析患者に造影CTはできるのか

結論から言うと、できます。そして、ためらう必要もありません。

そもそもこの患者集団は心血管リスクが高く、診断に造影を要することが多いのが特徴です。

患者 ACRの立場
無尿の末期腎不全患者
(機能する移植腎なし)
腎はすでに機能していないため、さらなる腎障害のリスクなしに血管内ヨード造影剤を投与できる
残存尿量がある透析患者

1日1〜2カップ超(236〜473 mL)の尿がある透析患者は非無尿とみなす。

乏尿の透析患者を無尿に変えてしまう理論的リスクがあるため、AKIまたはeGFR<30の患者に準じた高リスク患者として扱う

(※ACRは「これは推測的であり、この状況における決定的なアウトカムデータはない」と明記)

透析スケジュール 腎機能によらず、ヨード造影剤の投与のみを理由に、急性透析やCRRTを開始したり、スケジュールを変更したりすべきではない(リスク、コスト、利益の欠如のため)

(ACR Manual on Contrast Media 2026)

「造影剤を抜くための透析」はやらない。

ここは覚えておいてください。

造影後にCrが上がったら

最後のパートです。

ここでの立ち回りが、この記事でいちばん実践的な部分かもしれません。

まず、典型的な時間経過を知っておく

ACRによれば、CA-AKIの通常の経過は一過性の無症候性クレアチニン上昇です。

・クレアチニンは通常、造影剤投与後24時間以内に上昇し始める

4日以内にピークとなる

・しばしば7〜10日以内にベースラインに戻る

永続的な腎機能障害を発症することは異例である

(ACR Manual on Contrast Media 2026)

 

ただし、繰り返しますが、この経過をたどったからといって「造影剤が原因」ということにはなりません。

「造影剤のせい」と決める前に探すもの

ここでリストを置いておきます。

造影後AKIで、造影剤より先に疑うもの

敗血症・感染

低血圧・ショック・出血

血管内脱水(hypovolemia)

低拍出性心不全・静脈うっ血

薬剤(NSAIDs、抗菌薬、利尿薬など)

尿路閉塞

既存のAKIの自然経過

クレアチニンの生理的変動(造影剤なしでも半数以上が25%以上動く、あの話)

個人的には:補正できる因子を探しに行く

自分のスタンスは、CI-AKIの可能性を完全に否定することはしません。

ACR自身が「まれではあるが実在する」と言っているものを、自分が「ない」と断言する理由がないからです。

 

そのうえで、

それ以外に補正できる因子を探して、介入することにしています。

具体的には、

volume statusの評価(足りないのか、多すぎるのか)

心拍出量の評価(低拍出で腎灌流が落ちていないか)

抗菌薬の投与量(腎機能に合っているか)

といったあたりです。

 

必要な検査として造影剤を使ったのならしかたありませんし、

造影剤は、もう入ってしまっているからです。

すでに投与された造影剤について議論しても、患者の腎臓はよくなりません。

それより、いま自分の手で変えられる変数を探すほうが、よほど生産的です。

できることを積み重ねましょう。

造影後のフォローはどうするか

ACRによれば、メトホルミンのCategory I(AKIなし、eGFR ≥30)については、「検査や手技の後に腎機能を再評価する義務的な必要もない」としています。

一方で、AKIまたはeGFR<30の患者を帰宅させる場合に、いつクレアチニンを再検すべきかについて、ACRは固定的な時点を指定していません。

ここは施設・患者ごとに決めるしかない領域だと思います。

 

個人的には、必要に迫られて造影CTを行ったけど異常がなくて帰宅させるような場合には、かかりつけ医でフォローしていただくこともあります。

 

🚨 ここがPitfall!

造影後のAKIを「CI-AKI」と断定して、原疾患の特定・治療を止めない。これがいちばん患者を損なう

造影剤を抜く目的で透析やCRRTを始めない。透析適応は通常のAKIの適応で判断する

「造影剤のせい」で話を終わらせると、脱水・低拍出・薬剤量といった、いま補正できる因子を見逃す

近接した2つの造影検査の間にCrを測っても、判断材料にはなりにくい(AKIではCrの変化が遅れるため)

まとめ

てことで、長くなりましたがまとめです。

🩺 ER takeaway

造影CTをやるかどうかは、腎機能ではなく「診断に造影剤が必要か」で決める

CA-AKIとCI-AKIを混同しない。造影後のCr上昇だけでは、造影剤が犯人だと言えない

造影剤なしでも、半数以上の患者でCrは25%以上動く。腎機能が悪い人ほど変動幅は大きい

心血管造影のデータは、静注造影のリスクを過大評価している(動注・腎動脈上流・アテローム塞栓)

ACR-NKFの推定CI-AKIリスク:eGFR≥45でほぼ0%、30〜44で0〜2%、<30で0〜17%

ただし2025〜2026年の大規模観察研究は、揺り戻しがきている。Nyman 2026では低eGFR患者でAKI・RRTの群間差が示されたが、観察研究上の関連であり、造影剤による因果的な上乗せリスクとは断定できないのが難しいところ。

とはいえ、いちばん慎重派のレビューですら「利益がリスクを上回る患者では造影CTを実施すべき」と明記している

時間依存性の病態(大動脈解離、肺塞栓、腸間膜虚血、活動性出血、敗血症の感染源など)では、Crを待たない

AKI・eGFR<30は相対的禁忌であって、絶対禁忌ではない

腎疾患の既往・糖尿病(オプション)・メトホルミン内服がなければ、造影前のルーチンCr測定は不要

場当たり的な造影剤の減量はしない。ACRは高リスク患者でも標準的な造影剤投与量を推奨している

減らすなら、施設として検証された低用量プロトコルを全患者に適用する(低管電圧70〜80 kVpで40〜50%減という報告もある)

メトホルミンは、AKIがなくeGFR≥30なら休薬不要(ACR Category I)。検査後の腎機能再評価も義務ではない

AKIありまたはeGFR<30なら、検査時に休薬して48時間、腎機能を再評価してから再開(Category II)

適切に選択された患者において、メトホルミン関連乳酸アシドーシスの報告例は存在しない

ACE阻害薬・ARBの休薬は選択的検査の話。緊急造影CTをwashoutのために遅らせない

造影剤投与だけを理由に、透析を開始・追加・前倒ししない

造影後にCrが上がったら、CI-AKIと断定する前に、いま補正できる因子(volume status、心拍出量、薬剤量)を探しに行く

造影剤について、実臨床で迷いやすいところをまとめてみました。

これで明日からは、自信を持って造影CTをオーダーできますね。

合言葉は、「必要ならやれ!」です。

参考文献

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