ERで、研修医からこう報告されたとしましょう。
「70歳代の女性、自宅で意識を失って倒れたそうです。もう意識は清明です。
とりあえず頭部CTと採血フルセット(トロポニンとD-dimerも入れました!)、あとで心エコーもやっときます!」
……さて、どうでしょうか。
結論から言うと、もしかしたら不要な検査が含まれているかもしれません。
検査は出せば出すほどいいという性質のものではありません。
そして、お盆の混雑した外来であれもこれもとやっていると患者をさばけません。
前編では「そもそも本当に失神か?」という入り口の話をしました。
この中編では、「失神だ」と判断したあとに何をするかを扱います。
【①前編】STEP① 本当にsyncopeか?──失神mimicsを外す
【②この記事】STEP② 死ぬ失神ではないか? / STEP③ 検査を「選ぶ」
【③後編】STEP④ 3つに分類する / STEP⑤ 行き先を決める(帰宅・観察・入院)

STEP② 「死ぬ失神か?」を先に決める
EUSEMが推奨するプロセス
EUSEM(欧州救急医学会)のsyncope groupが2024年に出したconsensus statementは、ER運用寄りです。
個人的には多くの症例において、この方式をおおむね踏襲しています。
TLOCで来院してから最初にやることは、診断ではなく「トリアージ」と「2つの除外」だと明示しています。
①未認識の外傷(unrecognized trauma)を除外する
→ 外傷性TLOCなら、この失神アルゴリズムは終了して外傷性TLOCのアルゴリズムへ移る
②ショックを臨床的に評価する
→ ショックがあれば失神アルゴリズムは終了し、ショック管理へ移る
この2つがどちらも否定されて初めて、「外傷なし・ショックなしのTLOC患者」として失神のコア経路に入ります。
(Eur J Emerg Med. 2024;31:250-259.)
そのうえで、EUSEMは次の3つを並行して行うとしています。
・vital parameters(血圧、心拍、SpO2、呼吸数、体温)の確認と記録
・12誘導心電図
・血液検査(施設の設定として適切であれば)
その後、病歴・身体診察を行い(ESCガイドラインに従って適切ならSchellong testも実施)、患者は3群に分かれます。
| 分岐 | 内容 |
|---|---|
| syncope as a symptom |
失神は他疾患の一症状にすぎない(肺塞栓、大動脈解離、ショックを伴わない敗血症など) → その疾患の経路へ移り、失神の経路は終了 |
| syncope as an explanation |
失神が主訴で、原因が確実/きわめて濃厚(大動脈弁狭窄症、完全房室ブロックなど) → 適切な治療プロトコルへ |
| unexplained syncope |
失神が主訴だが、初期評価で確定診断に至らない → ESCのリスク層別化へ |
(Eur J Emerg Med. 2024;31:250-259.)
原因が判明しない場合にはリスク層別化をして、方針を決めていくことになります。
これは、次回:最終章の課題です。
ERでは失神の原因を必ずしもはっきりさせることはできない(unexplained syncope)ということが明示されているのは現場向きですね。
consensus statementでは、
「失神の正確な原因は必ずしもERで検出される必要はなく、中等度・高リスク患者では病棟医の仕事として残ることも多い」と書かれています。

心電図は「受診から10分以内」
EUSEM consensusでも心電図は必要とされており、さらに時間制限が設けられています!
「心電図の解釈は、登録から10分以内に行われなければならない」
しかも、解釈できる責任者(内科医、または循環器のローテーションを終えた上級レジデント)が行い、その結果は文書化され署名されることとされています。
(Eur J Emerg Med. 2024;31:250-259.)
「心電図はとった」ではなく「10分以内に、読める人が読んで、記録に残した」まで含めてワンセットとされています。
私も失神を疑う患者を診療する際には、
いの一番に心電図検査を行い、すぐに評価するようにしています。
では何を探すのか?
EUSEMのTable 3を見てみましょう。
high-risk featuresがmajorとminorに分けられています。
【Major high-risk features】
・急性虚血の所見
・Mobitz II型および3度房室ブロック
・徐脈性心房細動(HR < 40/分)
・持続性洞徐脈(HR < 40/分)または反復する洞房ブロック・洞停止(> 3秒)で、覚醒時かつ身体トレーニングによらないもの
・脚ブロック、心室内伝導障害、心室肥大、虚血性心疾患または心筋症を示唆する所見
・持続性および非持続性心室頻拍
・ペースメーカーまたはICDの機能不全
・Type 1 Brugadaパターン(V1-V3のST上昇)
・QTc > 460 msec(反復した12誘導心電図で一貫して)で、long QT症候群を示唆するもの
【Minor high-risk features】
(※不整脈性失神と整合する病歴がある場合にのみ高リスクとする)
・Mobitz I型2度房室ブロック
・著明にPR間隔が延長した1度房室ブロック
・無症候性の軽度洞徐脈(HR 40-50/分)
・発作性上室頻拍または心房細動
・pre-excited QRS complex
・短いQTc間隔(< 340 msec)
・非定型Brugadaパターン
・右側前胸部誘導の陰性T波、epsilon波(不整脈原性右室心筋症を示唆)
(Eur J Emerg Med. 2024;31:250-259. Table 3)
心電図で何を探すかの各論は、過去記事にまとめてあります。詳しくはこちら👇
「ALWays BBQ」を探しに行きましょう!
red flagはこの5つ
vital parametersの確認と記録とともにやっておくことがあります。
red flagのあぶりだしです。
「この段階で考慮すべきred flag」として、以下の5つを押さえておきましょう!
(J Clin Med. 2024;13:3231.)
雑に言えば、「失神」以外になにか症状や徴候がないかを探して、
あればそこへfocusしていこうと考えればよいと思います。
ABCDにかかわる部分を丹念に拾い、追加でpainのあるところを探せばよいです。
painは第6のバイタルサインともいわれますが、バイタルがおかしいところを素直に見ればよいということになります。
話を少し真面目路線に戻します。
この5つのred flagのうちのいずれかがあれば、そこから先の検査(D-dimer、トロポニン、心エコー、CT)を組み立てることになります。
逆に言えば、red flagがないなら、それらの検査は自動的には出さないほうが診療の解釈が複雑化しなくてよいことになります。
この段階で想定すべき病態として挙げられているのは、
- 急性大動脈症候群(AAS)
- 急性冠症候群(ACS)
- 肺塞栓(PE)
- 致死性不整脈
- コントロールされていない出血
- くも膜下出血(SAH)
です。
SAHで失神はあるのか???と思う方もいるかもしれませんが、
SAHでの意識消失は、頭蓋内圧の急激な上昇によって引き起こされる全脳の低灌流によるものと考えられています。
必ずしも意識障害で来るとは限りません。先行する頭痛や神経学的異常があればここは検索対象になります。
大動脈解離については、興味深い数字があります。
・急性大動脈解離のうち失神で発症するのは13%にとどまる
・一方で80〜90%超は急性胸痛で発症する
・そもそもER受診全体における大動脈解離の有病率は低い(米国では12,000受診に1例)
→ したがって、
他の症状を伴わない失神が急性大動脈症候群であることはきわめてまれ(extremely rare)
(J Clin Med. 2024;13:3231.)
とされています。
でも、個人的な経験では失神でやっぱり急性大動脈解離だったなんて経験はあるので、
うまくバイタルサイン、身体所見、POCUS、clinical prediction ruleなんかを組み合わせて造影CTの閾値を決めるようにしています。
ADD-RS(Aortic Dissection Detection Risk Score)が低リスク(スコア ≤ 1)かつD-dimer陰性(< 500 ng/mL)の組み合わせがAAS除外に有効とはされているので、こういったスコアリングも活用しながら考えています。
肺塞栓についても触れておきます。
肺塞栓は典型的な胸痛を主訴に受診するよりも、
失神の影に潜んで受診することが多くあるような気がします。
(見つけた時のインパクトがデカいからそう思うだけかもしれませんが…)
Prandoniらの有名な激ヤバ報告では、失神で入院した患者の最大17%(95%CI 14〜21)にCTでPEの所見があったとされ、世界中がざわつきました。
こんなこと言われるとあらゆる失神症例に肺塞栓を除外しに行きたくなります。
(これまでに見逃したことがあるとなおさら)
しかし、すべての失神症例に肺塞栓除外のpathway(リスクも評価せずにD-dimerをとりあえず出す運用しかり、造影CTを確実にぶっぱなす運用しかり)を適用すると、ER診療が回らなくなります。
さらに、予後改善の点で患者に臨床的利益をもたらすというエビデンスはないとされています。
その後の中長期的なデータでは、失神患者における肺塞栓の全体的な有病率は1%未満である可能性も示唆されました。
したがって、
肺塞栓はすべての失神患者で考慮されるべきではありますが、
すべての失神患者が肺塞栓除外の診療を受けるべきとは思いません。
見逃さない+適切に検査へ進めるコツは、
「肺塞栓と言えば低酸素血症がある」というとらわれがちなイメージを払拭することにあるんじゃないかと思います。
たとえば、あんちょこ本に載っているWells Criteriaを見てみてください。
低酸素血症の項目はありません。
バイタルサインでいえば、頻脈が代表入りしています。
なので、「妙なバイタルサインの変化」があれば肺塞栓を疑うようにしてください。
妙なバイタルサインとは、
なんか頻脈
なんか頻呼吸
なんか低血圧
なんかSpO2がイマイチ
などを指します。ぜひ参考にしてください!
|
🚨 ここがPitfall! ・「失神ですね」と言った瞬間に、外傷とショックが視界から消える。EUSEMはこの2つを、失神かどうかを決める前に除外する設計にしている ・心電図は「とった」で終わらせない。登録から10分以内に、読める人が読んで、記録に残す ・minorな心電図異常だけで高リスクにしない。Mobitz I、軽度洞徐脈、非定型Brugadaなどは「不整脈性失神と整合する病歴がある場合にのみ」高リスクとされている ・忘れやすい「ALWays BBQ」の心電図所見は探しに行こう。 ・除外のための検査は「妥当性を考えて出す」 |
STEP③ 検査は「セットで出す」のではなく「選ぶ」
最低限は「血糖とヘモグロビン」
EUSEM consensusのTable 2には、
「絶対的な最低限(absolute minimum)は、血糖とヘモグロビンである」
(Eur J Emerg Med. 2024;31:250-259.)
と記載があります。
最低限だけであれば、血液ガスで十分ですね。
そのうえで、担当医の裁量による追加項目として、
血算、電解質、CK・リパーゼ・AST・LDH、乳酸、CRP、凝固(抗凝固療法中の場合)が挙げられ、
さらに疑う診断に応じた特異的検査として、
・心筋梗塞のfast rule out目的の連続トロポニン
・肺塞栓・大動脈解離を疑う場合のD-dimer
が位置づけられています。
ちょっと古典にはなりますが、米国の別のガイドラインでも方向性は変わりません。
「病歴・身体診察・心電図に基づく臨床評価で選択された患者に対して、targeted blood testsを行うことは妥当である」(COR IIa、LOE B-NR)
「ルーチンかつ包括的な血液検査は、失神患者の評価において有用ではない」(COR III: No Benefit、LOE B-NR)
(2017 ACC/AHA/HRS Syncope Guideline)
このガイドラインの本文にはこう書かれています。
「失神患者における標準化された広範なパネル検査の有用性に関するデータは存在しない。特定の心臓バイオマーカーは、ベースライン評価からの臨床的疑いに導かれる場合に限定的な役割を果たし得る。広範なパネル検査の残りの要素と、失神の発症や機序とを結びつける生物学的な妥当性はほとんどない」
一方で、「疑う診断がある患者で行えば、検査結果は診断的で治療の指針として有用になり得る」とも記載があります。
例として挙げられているのは、消化性潰瘍の既往、あるいはタール便と身体診察上の起立性低血圧の組み合わせです。
つまり、血液検査を出すこと自体が悪いのではなく、
「なぜこの血液検査項目を出すのか」を言えるかどうかが分かれ目となります。
やってはいけない4つのルーチン検査
2017 ACC/AHA/HRSガイドラインには、COR III: No Benefit(=やっても利益がない)の推奨が並んでいます。数字がなかなか強烈なので、そのまま並べます。
| 検査 | 推奨 | 診断確定に至った割合 |
|---|---|---|
| 頭部CT・MRI | COR III: No Benefit(LOE B-NR) 局所神経所見または頭部外傷がない失神のルーチン評価では推奨されない |
CT:10研究2728例のうち57%で施行され、診断確定は1% MRI:5研究397例のうち11%で施行され、診断確定は0.24% |
| 頸動脈画像 | COR III: No Benefit(LOE B-NR) 局所神経所見がない失神のルーチン評価では推奨されない |
5研究551例のうち58%で施行され、診断確定は0.5% |
| 脳波(EEG) | COR III: No Benefit(LOE B-NR) てんかんを示唆する特異的な神経学的所見がない失神患者では推奨されない |
7研究2084例のうち52%で施行され、診断確定は0.7% |
| ルーチンの心臓画像(POCUSなど) | COR III: No Benefit(LOE B-NR) 病歴・身体診察・心電図を含む初期評価に基づいて心原性が疑われるのでない限り、有用ではない |
入院失神患者2106例の検討では、心筋逸脱酵素・CT・心エコー・頸動脈エコー・脳波を含む一連の検査が診断や管理に寄与したのは5%未満、病因の決定に役立ったのは2%未満 |
(2017 ACC/AHA/HRS Syncope Guideline)
頭部画像と頸動脈エコーについて、ガイドラインは理由を明快に書いています。
「失神は全脳の低灌流によるものであり、脳の構造的異常はまれである」(頭部画像について)
「失神は全脳の低灌流によるものであり、したがって片側性の虚血によるものではない」(頸動脈画像について)
ただし、「ルーチンでは推奨されない」であって「禁止」ではありません。
推奨文にはいずれも「局所神経所見または頭部外傷がない場合」「てんかんを示唆する神経学的所見がない場合」という条件がついています。
たとえば、「頭部CTはSAHの疑い(先行する激しい頭痛やその持続など)がある場合、または転倒による有意な頭部外傷がある場合には考慮すべきです。
そして高齢者では、この「頭部外傷があったかどうか」自体がしばしば不明です。
そこは別記事に譲ります。詳しくはこちら👇
トロポニンとBNPはどこまで?
ここは、はっきり「まだ決着していない」領域です。
2017 ACC/AHA/HRSガイドラインの推奨は、
「心原性失神が疑われる患者において、BNPおよび高感度トロポニン測定の有用性は不確実である」(COR IIb、LOE C-LD)
です。
EUSEMは、心筋梗塞のfast rule out目的での連続トロポニンという位置づけにしています。
つまり「失神だから測る」ではなく「ACSを疑うから測る」です。
※ただし、後編で扱うFAINTスコアには、NT-proBNPと高感度トロポニンTが変数として組み込まれています。
「診断のために測る」のではなく「リスク層別化のために測る」という位置づけなら話が変わってくるということかもしれません。この整合性については後編で扱います。でも、個人的には失神領域においてはCPRはあまり使用していません。
心エコー
心エコーは、「全例やる」ではなく「疑いがあるならやる」です。
「構造的心疾患が疑われる、選択された失神患者において、経胸壁心エコーは有用となり得る」(COR IIa、LOE B-NR)
(2017 ACC/AHA/HRS Syncope Guideline)
この「疑われる場合」の重みが分かる数字があります。
心疾患の臨床的エビデンスが病歴・身体診察・心電図から得られない入院失神患者128例の後ろ向き研究では、心エコーは63%が正常、37%は診断に至るための有用な追加情報を提供しなかったと報告されています。
つまり、疑いがない患者にやると、100%何も出ないという計算になります。
逆に、病歴・身体診察・心電図から心疾患が疑われた患者では、心エコーが48%で心原性失神の診断を示唆したという後ろ向き研究も紹介されています。
同じ検査でも、出す相手を変えるだけでここまで変わります。
ちゃんと考えて検査を出す、実施することが重要です。
では、ERでの心エコーはどの項目に注目すればよいでしょうか?
失神患者に対するPOCUS(POCCUS:point-of-care cardiac ultrasound)で評価すべき項目は以下の4つに絞りましょう。
失神患者のPOCUSで評価すべき4項目
- 心膜液/心タンポナーデ
- 粗大な左室機能低下
- 右室負荷(D-sign、McConnell's sign)、IVC(サイズ・虚脱)
- 有意な弁膜症
(J Clin Med. 2026;15:3780.)
時間と精度についても数字があります。
・低血圧の評価(IVC、粗大な左室機能、心膜)にかかる時間は平均6分
・バイタル異常(頻脈≧100/分または低血圧<90 mmHg)を伴うPE疑い症例では、focused cardiac ultrasoundはPEに対して92%の感度
(J Clin Med. 2026;15:3780.)
ただし、POCUS検査が正常だとしても、それ単独では失神の重篤な原因を除外できたわけではありませんので、リスク層別化(次号)に進むようにしてください。
起立性低血圧があっても思考停止しない
まず、起立性低血圧を検出するための起立試験をやること自体は必須と考えています。
やらなかったときに限って、なんらかの見逃しが起きます、そういうものです。
2017 ACC/AHA/HRSガイドラインは、
「臥位および座位、立ち上がった直後、そして立位3分後の血圧と心拍数の変化を測定すること」
を指定しています。
起立性低血圧をきっちり分類すると以下のようになります。
| 分類 | 定義・血圧パターン | 臨床的特徴 | 主な原因・背景 | 見分けるポイント |
|---|---|---|---|---|
| 起立性低血圧 Orthostatic hypotension (OH) |
一般には起立後3分以内に、
|
起立による静脈還流低下に対する、心拍出量増加・末梢血管収縮などの代償が不十分な状態。 |
OHは疾患名というより原因検索を要する身体所見。
|
不整脈、心原性失神、血管迷走神経反射、POTS、めまい疾患などを鑑別。 |
| Initial OH 初期起立性低血圧 |
起立後15秒以内に、
|
「立ち上がった瞬間だけクラッとする」が典型。 一般に良性で、通常の間欠的血圧測定では捉えにくい。 beat-to-beat連続血圧測定が必要。 |
|
Classic OH、POTS、過換気、不整脈など。 通常の起立試験が陰性でも否定できない。 |
| Classic OH 古典的起立性低血圧 |
起立後3分以内に、
|
通常の臥位→立位の起立試験で検出できる。 神経原性と非神経原性の両方がある。 |
循環血液量減少
|
血圧低下に対する心拍数増加を見る。 著明な頻脈なら、脱水など非神経原性を考えやすい。 |
| Delayed OH 遅延性起立性低血圧 |
起立後3分を超えてから、
|
起立直後は保てるが、長時間立位になると徐々に血圧が低下。 短時間の起立試験では見逃される。 |
|
血管迷走神経反射との違いに注目。 Delayed OH:徐々に低下 VVS:潜時後に急峻に低下し、悪心・発汗・熱感などを伴いやすい。 |
| Neurogenic OH 神経原性起立性低血圧 |
中枢または末梢の自律神経障害により、起立時の交感神経性血管収縮が不十分となるOH。 Classic OHにもDelayed OHにもなり得る。 |
血圧が低下しても心拍数増加が乏しい。 併存所見:
|
神経変性疾患
|
ΔHR/|ΔSBP| <0.5 beats/min/mmHg → 神経原性OHを示唆。 ※β遮断薬、AF、洞不全、ペースメーカー例では評価困難。 |
| Postprandial hypotension 食後低血圧 |
一般に食後2時間以内に、 SBP ≥20 mmHg低下。 食後SBP <90 mmHgを含める定義もある。 |
食後の内臓血流増加に対する循環代償が不十分。 OHとしばしば併存するが、座位でも起こり得る。 |
|
起立試験が正常でも否定できない。 食前〜食後2時間の血圧を確認。 「食後にぼんやりする」「昼食後に転倒する」が手がかり。 |
Initial OH、classic OH、delayed OHは「いつ血圧が低下するか」による分類です。一方、neurogenic OHは「なぜ低下するか」による分類、postprandial hypotensionは「どのような状況で低下するか」による分類です。したがって、「神経原性のclassic OH」「神経原性のdelayed OH」「食後に増悪する神経原性OH」のように、それぞれは重複し得ます。
ぶっちゃけここまで起立性低血圧を緻密に分けることはしていません。
それでもなんらかのとっかかりにはなるかもしれないので、特徴的なものがありそうならこの表を参照して、それらしいリスクがあるか確認するようにしています。
さて、ここからが本題です。
起立性低血圧が見つかると、つい「はい、原因判明!」としたくなります。
しかし、ここで終わりにしてはいけません。
・起立性低血圧の有病率は、70歳を超える患者では30%にも達し得る
・同時にこの年齢層は、心原性失神のリスクも高い
・したがって、立位での失神が記録されているか、きわめて示唆的な病歴がない限り、起立性低血圧を単独で同定したことは確定診断を与えない
・さらに、心原性失神を示唆する症状やhigh-risk featuresがあれば、立位で無症状の起立性低血圧の有無とは独立して対応すべきである
(J Clin Med. 2024;13:3231.)
「起立性低血圧が確認された」≠「この原因のみでよい」
ですので、注意してください。
|
🚨 ここがPitfall! ・「失神だから採血フルセット」は推奨されない。ルーチンかつ包括的な血液検査はCOR III: No Benefit。絶対的な最低限は血糖とヘモグロビン ・頭部CT・MRI、頸動脈画像、脳波は、適応がなければルーチンで出さない。いずれもCOR III: No Benefit、診断確定率は0.24〜1% ・ただし「ルーチンで推奨されない」であって「禁止」ではない。局所神経所見、頭部外傷、激しい頭痛、てんかんを示唆する所見があれば適応は別 ・心疾患を疑う所見がない患者の心エコーは、ほぼ何も出ない。63%が正常、37%は有用な追加情報なし ・POCUSは万能スクリーニングではない。正常でも重篤な原因を除外できない ・起立性低血圧が陽性でも原因確定にはしない。70歳超では有病率30%に達し得るうえ、同じ年齢層は心原性失神のリスクも高い |
ブログ管理人の意見:失神にどこまで検査するか
ここまでは論文が言っていることです。
以下は、自分がERで実際にどうしているかを書きます。
結論から言うと、おおむねEUSEMのフローのとおりに動いています。
順番はこうです。
まずは危険な病態と、心電図
1と2は、順番というよりほぼ同時です。
EUSEMが外傷とショックを先に片づけろと言っているのも、心電図を10分以内にと言っているのも、要は「診断名を考える前に、死ぬ病態から潰す」ということだと理解しています。
ここは自分の中でもほとんど自動化されていて、「失神で来ました」と聞いた時点で、心電図はあたりまえのようにもう検査するように動いているという状態が理想です。
心電図は速攻で検査するのがルーチンです。
検査は「病歴・バイタル・身体所見」で決める
血液検査も、心エコーも、頭部CTも、「失神だから」では出しません。
病歴とバイタルサインと身体所見のどこかに引っかかりがあって、初めて出します。
ひとつだけ、自分なりに決めているほぼルーチンがあります。
起立性低血圧を疑う女性への尿検査閾値を低めに設定するようにしています。
失神に限っては、聴診をする
もうひとつ、これは我ながら例外的な習慣なのですが、
普段はあまり聴診器を使いませんが、
失神に限ってはちゃんと聴診して、ASがないかを見る
ことにしています。
正直、ERで聴診が診断を変える場面はそう多くありません。
ただ、失神は例外だと思っています。
重症大動脈弁狭窄症は、入院での評価と治療が推奨される重篤な病態なので、
心雑音があれば構造的心疾患を疑って心エコーに進むというフローにつなげやすいからです。
つまり、聴診器を胸に当てる十秒が、そのまま「帰す/帰さない」のdisposition分岐に効いてくる数少ない場面となります。
雑音を拾ったら、そこから心エコーにつなげることにしています。
最後は「リスクの大きさ」で決める
そして4です。
ここまでで原因が確定しないことは、正直よくあります。
そのときにさらに精査を進めるかどうかは、「どのくらいのリスクがあるか」で決めているというのが実感に近いです。
低リスクなら、そこで止めて帰宅とフォローの話に移る。
リスクが高そうなら、モニターをつけて次の検査/入院精査モニタリングへ進む。
この「リスクをどう見積もって、どこに置くか」が、次の後編のテーマです。
まとめ
失神の検査は「セット」ではなく「選ぶ」ものです。
順番としては、
外傷とショックを外す
→ バイタル+血糖+12誘導心電図
→ red flagを探す
→ そこから初めて追加検査を組み立てる
そして、ここまでやっても原因は不明のままかもしれません。
ですが、それでいいんです。
次の後編では、「原因不明のまま、どうするか?」
についての実践的な話にしましょう。
|
🩺 ER takeaway ・「失神か」を決める前に、外傷とショックを片づける ・心電図は登録から10分以内に、読める人が読んで、記録に残す ・ECGのminor high-risk featuresは「不整脈性失神と整合する病歴がある場合にのみ」高リスクとする ・red flagは5つ:呼吸困難/頭痛・胸腹部痛/神経学的機能障害/持続する頻脈/低血圧 ・red flagがないなら、D-dimer・トロポニン・心エコー・CTは自動的には出さない ・PEは「考慮する」が「全例検査する」ではない ・採血の絶対的最低限は血糖とヘモグロビン。包括的パネルはCOR III: No Benefit ・頭部CT・MRI、頸動脈画像、脳波はルーチンで出さない(診断確定率0.24〜1%) ・トロポニン・BNPは「失神だから測る」ではない。ACSや心原性を疑う根拠があってから ・心疾患を疑う所見がない患者の心エコーは、ほぼ何も出ない ・POCUSで見るのは4つ:心膜液/左室機能/右室負荷とIVC/弁膜症。ただし正常でも除外はできない ・失神では聴診を飛ばさない。重症ASは「入院を要する重篤な医学的状態」であり、雑音が心エコーへの入り口になる ・起立性血圧は「臥位・座位・起立直後・3分後」の4点で測る ・起立性低血圧が陽性でも思考停止しない。70歳超では有病率30%に達し得る |
参考文献
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