りんごの街の救急医

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Real ER Round No.41:ER失神マネジメント大全①~失神mimicsを見極めろ!けいれん・PPS・drop attack etc...

まず、こんな患者さんから始めましょう。

 

【症例】

ひとり暮らしの75歳男性。

原因不明の転倒による頬骨骨折でERを受診した。

高血圧、脂質異常症、うつ病の既往があり、いずれも治療中である。

受傷は午後の早い時間で、犬の散歩中に起きた。失禁を伴っていたが、本人はその出来事をまったく覚えていない。目撃者はいない。

過去6か月をさかのぼると、同様の転倒が1回、一過性意識消失のエピソードが2回あった。いずれも食後に長く座っていたあと立ち上がったとき、あるいは夜間の排尿時に起きている。すべて目撃者はいない。

さて、この患者をどうマネジメントしますか?

(N Engl J Med. 2026;395:582-91. より)

 

「転倒による顔面骨折」として整形外科にコンサルトして終わり……にはできなさそうですよね。

 

失神は、ERにおいて

「検査を出すのは簡単だけど、そこでは答えが出づらい」

という、なかなか意地の悪い症候です。

 

初回評価だけで確定診断にたどり着けるのは50〜60%程度にとどまると報告されています。

(J Clin Med. 2024;13:3231.)

 

つまり、ERで失神の原因を全例確定させようとするのは、そもそも勝ち目の薄い戦いだと考えておきましょう。

実際、最近のER向けreviewやconsensusは、「診断名を当てにいく」のではなく「プロセスを決める」方向に舵を切っています。

 

そこでこのシリーズでは、ERでの失神診療を5つのステップに分けて、3本立てで扱います。

だいぶ長くなったので3部作にしていますが、ER診療における失神で必要な考え方はおおむね網羅されると思います。

 

【①この記事】STEP① 本当にsyncopeか? ~失神mimicsを外す

【②中編】STEP② 死ぬ失神ではないか? / STEP③ 検査を「選ぶ」

【③後編】STEP④ 3つに分類する / STEP⑤ 行き先を決める(帰宅・観察・入院)

 

この記事では、そのSTEP① 本当にsyncopeか?

つまり、失神mimicsを扱います。

 

「失神っぽく見えるけど実は違う!」という疾患群です。

最終的に意識消失に至るものもあれば、実際には意識は消失していないのに失神に見えてしまうケースもあります(ややこしい!)。

いずれも失神とは異なるメカニズムで起こり、マネジメントも異なるのがポイントです。

 

 

 

 

診療の入り口を間違えない

失神(syncope)は、ESCガイドラインの定義では

「脳血流低下(cerebral hypoperfusion)による一過性意識消失(TLOC)で、急速な発症、短い持続、自然かつ完全な回復を特徴とするもの」

とされています。

(J Clin Med. 2024;13:3231.)

 

原因は大きく心原性失神・反射性失神・起立性低血圧の3つに分類されます。

 

まずこの枠組みを理解することが重要なのですが、

そもそも失神ではないのに「失神」と決めつけて診療を進めてしまうと、正確な診断や適切な治療方針を見誤ります。

 

診療の入り口を間違えないことが最重要です。

 

ER診療においては、このステップをRecognize(認識する)と呼んでおり、

「失神をmimicする主な病態はseizureとfall(転倒)であり、これらを除外しなければならない」

「この段階で最も重要なのは患者本人または目撃者によるエピソードの記述である」

と考えられています。

(J Clin Med. 2024;13:3231.)

 

採血でも心電図でもCTでもなく、まず「話を聞くこと」です。

身も蓋もないですが、ここを飛ばしたり適当に流したりすると後の検査が全部無駄撃ちになります。

 

こと失神診療に関しては、病歴の重要性が抜きん出ています。

患者の意識が十分であれば患者にねっちり聞きますし、

目撃者がいればその人に、もしくはいなければ電話して聴取させてもらいます。

救急隊からの報告も失神診療のときにはよ~く聞くようにしています。

 

では、Recognizeのステップとして、失神mimicsを見ていきましょう!

 

mimics その①:けいれん

失神は、脳全体の低灌流によってTLOCが起こるのが特徴です。

しかし一部のけいれんでは、網様体賦活系の異常や活動低下によってTLOCが引き起こされることがあります。

 

「失神とけいれんなんて、間違えないでしょ?」と思うかもしれませんが、これが意外と難しい。

 

まずショッキングなデータから。

「てんかん」と診断されている患者の20〜30%は、実は失神だった可能性がある

と報告されています。

(J Clin Med. 2024;13:3231.)

 

逆に言えば、我々が「これはけいれんですね」と言った瞬間に、そこそこの確率で外している可能性があるということです。

 

なぜ難しいのか、理由を3つに整理しました。

 

① 目撃者がいないことが多い

目撃者がいれば病歴の聴取がスムーズですが、そもそも目撃者がいないことも少なくありません。

たとえ目撃者がいたとしても、冷静に当時の状況を思い出せる人は多くないのが現実です。

 

② 非けいれん発作はわかりにくい

強直間代性けいれんなら比較的わかりやすいですが、非けいれん性発作や焦点発作は臨床的に失神との区別が難しいことがあります。

 

「なんかよくわからないけど、なんらかの失神だったのかな~」と思って帰宅指示をしようとしたところ、目をシパシパ・口をモゴモゴさせる様子が観察できて、「コレが原因か~!」となった経験は一度や二度ではありません。

 

ぼんやり、反応が悪い、視線が合わない、口をもごつかせる、まばたきが増えるなどの所見は、失神に隠れた発作の可能性を考えます。

 

③ けいれんと失神は「矢印が双方向」になりえる

失神とけいれんが紛らわしい最大の理由は、両者が互いに似た見た目をつくるからです。

 

ポイントは矢印が2方向あることです。

 

・てんかん発作 → 心原性失神

てんかん発作が徐脈や心停止を引き起こし、失神の形をとることがあります(ictal asystole、徐脈ならictal bradycardia)。

 

発作中は頻脈になることが圧倒的に多い一方で(90%以上)、

少数例では徐脈・心停止が起こり得ます。報告では、ictal bradycardia 約2%、ictal asystole 0.5%とされています。

 

特に側頭葉てんかんではictal asystoleを伴うことがあり、これが失神や転倒の原因になることがあります。

この場合には、脳波なしには失神との鑑別が難しいことがあります。

(Lancet. 2004;364:2212-9. / Epilepsia. 2003;44:179-85. / Neurology. 1992;42:2222-3.)

 

・失神 → 発作っぽい運動

逆に、失神でも脳灌流の低下によりけいれん様の運動が付いてくることがあります。

これをconvulsive syncopeと言います。

このときの運動の代表がmyoclonic jerksで、目撃者からは「けいれんしていた」と表現されやすいのがpitfallです。

(J Emerg Med. 2018;54:81-9.)

 

その心は?

通常は倒れて仰臥位になれば脳灌流が回復して意識も戻ります。

ところが、座位のまま支えがあるなど仰臥位になれない状況では低灌流が持続し、けいれん様の運動が目立つことがあります。

たとえば、高齢者に多いpostprandial hypotension(食後低血圧)などが原因で、座ったまま意識消失し、そのままけいれんに見えるケースが典型的です。

(J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2005;60:1268-70.)

 

あとは、サウナから上がって休んで座っていたら起立性低血圧から失神してしまった(そのままけいれん様運動が観察された)、なんてこともよく経験します。

(なんも整ってないやんけ!というツッコミをしたくなりますよね)

 

このときの動きは強直間代性けいれんというより、非同期・非対称で短いミオクローヌス様のピクつき(myoclonic jerks)が中心で、持続は30秒以内とされます。

 

また、けいれんした回数も診断のカギになることがあります。

10-20ルール」と呼ばれることもあります。

 

・10回未満 → convulsive syncope(myoclonic jerksが代表的)の可能性大

・20回以上 → けいれんを強く示唆

(Neurology. 2018;90:e1339-46.)

 

そして、倒れ方も重要です。

「硬くバタン」と倒れた場合には発作を、「ぐにゃ、ずるっ」という感じで弛緩性に倒れた場合には失神をにおわせます。

(Eur J Pediatr. 2023;182:4771-80.)

 

目撃情報があれば、それも丁寧に拾いにいきましょう。

 

convulsive syncopeでは(仰臥位にされないまま維持されると)意識消失時間が長引くため、意識障害のように見えることがあります。

しかし、救急隊が到着して「ストレッチャーに横たえたらすぐ意識が回復した」場合、それは失神の可能性が高いと考えられます。

 

どんな状況で意識消失をしたのかはもちろん、「時間的空白がないように」病歴を丁寧に聴取することが重要ですね!

 

失神と発作の鑑別ポイント

臨床的特徴 失神 発作
誘発因子の有無 非常に多い まれ
誘発因子の内容 VVS:疼痛、長時間の立位、採血や医療処置、強い情動
状況失神:排尿・排便・咳・嚥下などの特定の動作
OH:起立動作、食後、降圧薬の開始・増量

光刺激が有名だが実際は少数。

睡眠不足、飲酒・アルコール離脱、抗てんかん薬の自己中断などが誘因となる

前駆症状 反射性失神:悪心・発汗・顔面蒼白・生あくび・視野の暗転などの自律神経症状が数十秒続く
OH:起立直後のふらつき、眼前暗黒感
心原性:動悸や胸痛。前駆症状なく突然倒れることも多い

前兆:患者ごとに毎回ほぼ同じ内容が繰り返される数秒間の感覚。

既視感、心窩部から込み上げる感じ、不快な異臭など

体位との関係

立位・坐位での発症が大半。

臥位での発症はまれ(心原性を除く)

体位に関係なく起こり、臥位や睡眠中の発症もある
不随意運動(ミオクローヌス/間代)

通常10回未満。

振幅は不規則で、左右非同期・非対称。

意識消失の「後」に出現し、持続は短い(おおむね15秒以内)

20〜100回程度と多い。

全般強直間代発作では左右同期性・対称性で、強直相に続いて出現。

焦点発作では一側性に始まり、二次性に全身化しうる

自動症

(口をもぐもぐさせる等)

まれ 口部自動症(咀嚼様運動、舌なめずり)や手の自動症が明瞭で、比較的長く持続する
舌咬傷 まれ。あっても舌尖部

舌の側面(まれに両側)。

特異度は高いが感度は低い

意識回復までの時間 通常30秒未満 60秒を超え、数分以上に及ぶこともある
発作後の状態

多くは10秒以内に状況を理解し、その後は完全に覚醒。

ただし高齢者では回復が遅れることがある

数分〜数十分続く意識混濁・健忘(同じ質問を繰り返す)。

そのまま眠り込むこともある

発作後の頭痛・筋肉痛 まれ

しばしばみられる。

片麻痺(Todd麻痺)を伴うこともある

尿失禁 まれではない(約10%程度に生じ、鑑別の決め手にはならない) しばしばみられる
意識消失中の開眼 開眼していることが多い ほぼ常に開眼し、共同偏視を伴うことがある
顔色

顔面蒼白が典型的。

チアノーゼはまれ

チアノーゼ(顔面の青色変化)が比較的多い

略語
VVS:血管迷走神経性失神(vasovagal syncope)
OH:起立性低血圧(orthostatic hypotension)
LOC:意識消失(loss of consciousness)

(J Emerg Med. 2018;54:81-9. を参考に作成)

 

Furlanらによれば、失神とてんかんを鑑別する単一因子として最も精度が高いのは「側方舌咬傷(lateral tongue biting)」だとしています。

 

舌咬傷そのものがてんかん発作を支持する比較的特異度の高い所見として知られています。

メタ解析では感度33%、特異度96%、陽性尤度比8.17でした。

特に舌側面の咬傷はてんかん発作を強く支持しますが、感度は低いため舌咬傷がないことでは否定できません。

(J Clin Med. 2024;13:3231.)

 

「舌を噛みましたか?」ではなく「舌のどこを噛みましたか?出して見せてください」と診察するようにしてください。

 

 

そして、不随意運動のタイミングも情報量を増やす因子です。

失神ではjerkは倒れた後に来ますが、てんかんでは倒れる前か同時に来ます。

 

目撃者に聞くときは、

「けいれんしましたか?」ではなく

「倒れてからガクガクしましたか?それともガクガクしてから倒れましたか?」

と聞いた方がよいでしょう。

 

なお、尿失禁は鑑別に使えません。

尿失禁は発作と失神を区別することができません。

失神発作の10〜20%、特に高齢者では起こりえます。

 

NEJMのreviewによれば、

舌咬傷・jerking・発作後の傾眠(postevent drowsiness)も失神で起こるとしています。

(N Engl J Med. 2026;395:582-91.)

 

だからこそ、診療が難しいんですね。情報量を増やして解像度を上げていきましょう。

 

 

また、血液検査ではCK・乳酸の上昇が参考になります。Furlanらによると、

CK:全体的な特異度は良好(85〜100%)だが、感度は12〜75%と報告に幅がある

乳酸:特異度87〜97%、感度73〜88%で、実施される臨床設定によって変わり得る

(J Clin Med. 2024;13:3231.)

 

そして、「典型的な合併症のない失神に対して、EEGや神経画像(MRI・CT・血管エコー)を行っても、正確な病歴聴取を超える追加の臨床的利益はない」

とされています。

※ただし、発作を疑う病歴、持続する意識障害、局所神経所見、頭部外傷などがあれば話は別です。検査を否定するのではなく、病歴と診察で適応を選びます。

 

やっぱり入り口を間違えないことは超重要です。

 

🚨 ここがPitfall!

失神かな?と思ったときには「実は発作が起きていた」可能性も考えよう。

非けいれん性発作や焦点発作はわかりづらい(ERでは出現しないこともある)

失神→発作様運動が起きることがある(convulsive syncope)。特にmyoclonic jerksという運動が代表的で、非同期・非対称で持続時間の短いミオクローヌス様のピクつきが特徴的

失神 vs けいれんでは、けいれん回数(10/20ルール)や倒れ方にも注目しよう

10/20ルール:10回未満→convulsive syncopeの可能性大、20回以上→けいれんを強く示唆

「硬くバタン」ならけいれん、「ぐにゃ、ずるっ」なら失神かも

舌咬傷は「どこを噛んだか」まで確認する。舌尖部の咬傷は失神でも起こり、てんかんの根拠にならない

尿失禁は鑑別に使えない。失神発作の10〜20%、特に高齢者で起こり得る

 

mimics その②:代謝性障害(意識障害)

低血糖、低酸素血症、熱中症、一酸化炭素中毒、過換気症候群、薬物中毒など、さまざまな代謝性疾患はTLOCを引き起こし、失神とよく似た症状を示します。

 

しかし、代謝性障害の場合には根本的な代謝異常が解消されるまで「意識障害」

が続くことが多いのがポイントです。

一方、失神なら通常、TLOCから素早く完全回復し、特別な治療を必要としません。

 

この違いを見極められないと、診断や治療の効率がガクッと落ちるだけでなく、正確な診断にたどり着けない可能性もあります。

 

原則として、失神であれば救急搬入されたときには意識清明であるはずです。

もし「GCS E4V5M6ととれるけどJCS 1-1でイマイチだな…」というときには、意識障害としても考えて対応した方がよいでしょう。

 

代謝性障害 病歴 身体所見
低血糖 ・不十分な経口摂取
・糖尿病治療薬を常用している
・敗血症を疑わせる感染症状がある
・不安感、空腹感、めまいなど
・発汗
・錯乱
・傾眠
・動悸
低酸素血症 ・先行する呼吸器症状
・頭蓋内疾患や麻薬使用による呼吸抑制
・呼吸困難
・発汗
・錯乱
・蒼白または皮膚の変色
・喘鳴
・呼吸努力の増加または低下
熱中症 ・労作性:暑熱環境での運動または労働(健康な人が環境適応せずに活動)
・非労作性:外部からの熱ストレスにより発生(主に高齢者や障害者、労作は不要)
・発汗
・頻脈
・頻呼吸
・高体温
・中枢神経障害
・けいれん
・低血圧
・横紋筋融解症
・不整脈
・多臓器不全
一酸化炭素中毒 ・頭痛、悪心、インフルエンザ様症状
・住宅火災、密閉空間での車両排気ガス、ヒーターの使用
・蒼白
・頻脈
・頻呼吸
・高体温
・中枢神経障害
過換気症候群 ・感染症状の既往
・薬物過剰摂取(サリチル酸)
・肺疾患の既往(喘息、COPD、肺塞栓)
・妊娠
・不安
・激しい疼痛
・頻呼吸
・四肢の異常感覚
・テタニー
・中枢神経障害
・けいれん
毒物 ・急性発症
・薬物曝露や入手可能性
・関連薬物:サリチル酸、麻薬、インスリンおよび経口血糖降下薬、コリンエステラーゼ阻害薬、抗うつ薬、降圧薬、血管拡張薬
・摂取した薬剤に応じた症状

(J Emerg Med. 2018;54:81-9. を参考に作成)

 

🚨 ここがPitfall!

失神なら、原則としてERへ救急搬入されたときには意識清明であるはず。

もしちょっとおかしいな(JCS 1-1とか)と思えば、意識障害ととって同時並行で介入を進めるのがよい。

 

mimics その③:PPS(Psychogenic pseudosyncope)

PPSは、失神のように見える一過性の反応消失が起きているにもかかわらず、

失神に必要な脳低灌流が生じていない病態

です。

 

日本語では「心因性偽失神」などと訳されますが、「偽」という語から詐病のように受け取られやすい点には注意が必要です。

 

PPSの発作は意図的に作られているわけではありません。

現在は、psychogenic nonepileptic seizures(PNES)と同じく、機能性神経症状症(functional neurological disorder:FND)の一型として理解するのが一般的です。

 

PNESでは大きな四肢運動を伴うことが多いのに対し、PPSでは動きが目立たず、じっと反応しなくなるため、失神に似て見えます。

ただし、両者の境界は必ずしも明瞭ではありません。

 

そして、ここが一番大事なところです。

 

PPSは「心臓も脳も調べたけれど異常がないから、残った診断」ではありません。

病歴と発作中の陽性所見から積極的に疑い、典型的な発作を記録して診断する病態です。

(Eur Heart J. 2018;39:1883-1948. / Neurology. 2013;81:752-758.)

 

「患者背景」ではなく、「発作中に何が起きていたか」を見る

ERでPPSを考えるきっかけになるのは、次のような所見が組み合わさっているときです。

 

即戦力Tips! 「もしかしてPPSかも?」と思う所見

通常の失神より反応消失が長い。数分以上続くこともある

発作中に閉眼している

開瞼しようとすると抵抗する

眼瞼の細かな震え、眼球運動、嚥下など、完全な意識消失とは合いにくい動きがある

発作頻度が非常に多く、1日に複数回起こることもある

発作中にも血圧と心拍数が保たれている、あるいは上昇している

 

特に情報量が多いのが発作中の閉眼です。

 

Tilt試験中にPPSが再現された研究では、

発作中の閉眼はPPSの97%、血管迷走神経性失神(VVS)の7%に認められました。

また、PPSでは見かけのTLOC中にも血圧と心拍数が低下せず、むしろ上昇していました。

(Neurology. 2013;81:752-758.)

 

ただし、これらは単独で診断を確定する所見ではありません。

PPSの発作時間は短いこともありますし、外傷を伴うこともあります。

 

🚨 ここがPitfall!

「若年女性」「精神疾患の既往」「ER到着時の正常バイタル」「外傷がない」だけでPPSと判断してはいけません。

これらは診断特異度が低く、器質的疾患を心因性と早合点する原因になります。見るべきは患者の属性ではなく、発作中に何が起きていたかです。

 

確定診断は、典型的な発作と生理学的所見を同時に記録する

確定診断の中心は、

患者にとっていつもの発作を再現し、その最中にも血圧・心拍数と脳波が保たれていることを確認すること

です。

 

一般には、Tilt試験中に連続血圧、心電図、脳波、可能であれば動画を同時記録します。

 

真の失神では、脳低灌流に伴って血圧が低下し、脳波に徐波化や平坦化が現れる

一方、PPSでは見かけのTLOC中にも血圧と心拍数が正常ないし高値で、脳波には覚醒時閉眼に対応する正常なα活動が保たれる

(Eur Heart J. 2018;39:1883-1948. / Neurology. 2013;81:752-758.)

 

でも実際にはERで診断をつけることはできませんが、ピンときて次の専門科にバトンタッチするのが重要です。

 

🚨 ここがPitfall! PPSと真の失神は併存する

PPSらしい発作があるからといって、それまでの全エピソードをPPSで一括りにしてはいけません。

PPSとVVSが同じ患者に併存することは実際にあります。

(Eur Heart J. 2018;39:1883-1948. / Neurology. 2015;85:2006-2010.)

 

目撃情報を集めると、

「短時間で顔面蒼白となり、血圧が下がって倒れる発作」

「長く閉眼したまま反応しないが、血圧と心拍数は保たれている発作」

の2種類が混在していることがあります。

 

今回の発作がPPSらしいことと、患者に心血管性失神がないことは同義ではありません。

胸痛、動悸、労作中・臥位での発症、異常心電図、心疾患、出血、低酸素、低血糖、持続する神経学的異常などがあれば、通常どおり危険な原因を評価します。

 

ERでできること

ERで無理に「心因性」と確定する必要はありません。

 

発作を直接観察できたら、安全を確保したうえで、

閉眼、開瞼抵抗、反応消失の時間、筋緊張、眼球運動を記録し、同時刻の心電図、血圧、SpO2、血糖を残します。

可能であれば、本人・家族の同意を得て動画を記録すると、その後の診断に役立ちます。

 

そして、PPSが強く疑われても、伝え方は重要です。

 

✕ こう言わない

「検査で異常がないから気のせいです」

 

○ こう言う

「意識がなくなったように見える発作は本当に起きています。ただ、今回確認できた発作では血圧や心拍が保たれていて、脳への血流が落ちる通常の失神とは違う可能性があります。これは本人が意図して起こしているものではなく、適切な説明や治療の対象になる病態です」

 

診断を明確に説明するだけでも発作頻度や医療機関受診が減る可能性がありますが、根拠は観察研究に限られます。

(Neurology. 2016;87:2214-2219.)

 

発作が続く場合は、失神診療に習熟した循環器・神経内科と、FNDを扱える心療内科・精神科・心理職を含む連携につなげます。

認知行動療法が用いられますが、PPSそのものを対象とした質の高い介入試験はまだ十分ではありません。

(Eur Heart J. 2018;39:1883-1948.)

 

まとめると、

PPSを見抜くコツは、患者の属性から心因性を推測することではありません。

発作中の閉眼、遷延、保たれた循環・脳波という陽性所見を捉え、真の失神との併存を忘れないことです。

 

ERでFNDを見つけて、それを患者さんと共有できるようになれるとまた一段階診療のレベルが上がるだろうな~と、目下勉強中です。

 

ちなみに専門家による総説でも、

若年者の心因性TLOCについて「5分を超える遷延したLOC、閉眼あるいは開眼への抵抗、意識レベルの動揺」があれば疑うべきとしたうえで、

「この場面ではむしろ、失神を見逃すことよりconversion syndrome(FNDのこと)を見逃さないことに関心を向けるべきである」

と記載があります。良性の反射性失神と決めつけると何も治療されないが、FNDなら専用のケアと支援で利益を得られるからというのが根拠のようです。

(J Clin Med. 2024;13:3231.)

 

なかなか刺さる指摘でした。

 

mimics その④:ちょっとレアな原因(TIA・鎖骨下動脈盗血症候群)

研修医に「失神の鑑別を挙げて!」と聞くと、真っ先に「TIA!」と返ってきて、トホホ…と思うこと、ありませんか?

これ、なぜなんでしょう? 大学の授業で『失神=TIA』と教えているんですかね? ちょっと不思議です。

 

原則として、

失神は局所神経学的異常を伴わない一過性意識消失、対してTIAは局所神経学的異常が主で、意識消失は典型的には伴わない

とされています。

 

とはいえ、たしかに例外はありますので、「レアな失神の原因」として見ていきましょう。

 

椎骨脳底動脈系の急性虚血・TIA

めったにないですが、たしかに起こりえます。

何度も言いますが、最初から疑う疾患ではなく、あくまでmimicsの範疇です。

 

ある研究では、脳卒中またはTIA患者のうち約5%が初診時に失神または前失神を呈していたとの報告もあります。

(Age Ageing. 2015;44:655-61.)

 

原因不明のLOCを繰り返す血管リスクの高い患者では、他の原因が明確でない場合、椎骨脳底動脈系TIAも鑑別リストに入れておくのは妥当かもしれません。

 

特に、その反復するエピソードに複視・構音障害・運動失調・感覚障害などの後方循環系の局所神経学的異常が同時に起きる場合には鑑別の上位にあがってきます。

 

さらに、crescendo TIAと呼ばれる、TIAを疑う徴候が数日から数週間の間に集中的に発生するようなエピソードがあれば疑いを強めることができます。

(Pract Neurol. 2014;14:23-31.)

 

誤解しないようにしてもらいたいのは、TIAや脳梗塞が孤立したTLOCだけを呈することは極めてまれだということです。

複視、構音障害、嚥下障害、運動失調、眼振、片麻痺・感覚障害など、後方循環虚血を示す局所神経症状を同時に伴う場合に限って、椎骨脳底動脈系虚血(crescendo TIA含む)を考えるようにすることが基本です。

 

これを見逃してからは、頭部CTを見るときには何の気なしに椎骨動脈~脳底動脈付近の石灰化・血栓を疑う高吸収域がないか見るクセがつきました(失神で頭部CTを行うことはあまりありませんが)。

こういった習慣も、いつか身を助けるかもしれませんかね。

 

即戦力Tips! ちょっとレアな失神の原因「TIA」を疑うポイント

「原因不明のLOCを繰り返す血管リスクの高い患者」では、椎骨脳底動脈系TIAを鑑別に入れておこう

・特に以下の場合には可能性が上がる

 ・後方循環系の局所神経学的異常を伴う場合

 ・crescendo TIAを疑う場合

 

鎖骨下動脈盗血症候群

もうひとつ、珍しいけど見逃しがちな疾患です。

「上肢を動かしたら失神した」では鎖骨下動脈盗血症候群を疑いましょう!

 

鎖骨下動脈近位部の閉塞または狭窄がある場合、遠位の鎖骨下動脈血流を補うために椎骨動脈を通じて血液が逆流します(盗まれます)

特に上肢を動かしているときには上肢の血流需要が増加しており、この逆流が顕著になることで脳虚血となり失神することがあります。

 

さらに「上肢の運動によりくりかえし誘発される」「同側上肢のだるさ・冷汗・間欠的跛行」なんてエピソードが聴取できれば、疑いが上がります。

 

失神自体も転倒リスクにつながりますが、そもそも動脈硬化が進行しているサインとして全身の血管リスク評価や管理が必要になりますので、できればER診療で引っ掛けておきたいところです。

 

即戦力Tips! 「鎖骨下動脈盗血症候群」を疑うポイント

「上肢を動かしたら失神した」では、鎖骨下動脈盗血症候群を疑う

・特に以下の場合には可能性が上がる

 ・上肢の運動によりくりかえし誘発される

 ・同側上肢のだるさ・冷汗・間欠的跛行がある

 

血管リスクを持つ患者のcrescendo TIAや、上肢を動かしたときの失神という特徴的な病歴に遭遇したら、これらの病態を頭の片隅に置いておくと役立つかもしれません。

 

ER初診で発見するのはかなり難しいかもしれませんが、再受診の場合にはちょっとレアな失神の原因も考えておきましょう。

 

mimics その⑤:失神っぽいけど意識は保たれている

意識消失はしないものの、一過性の脱力発作が問題となる疾患も失神mimicsとして押さえておくべきです。

 

カタプレキシー

その代表格がカタプレキシーです。

ナルコレプシーにみられる「起きているのに突然、骨格筋の力が抜ける」発作で、意識は保たれるのが最大のポイントです。

 

倒れたり、崩れ落ちたりしたとき、本人は周囲の声を理解しているのに体が動かせないという状況になりえます。

そのため、目撃者の印象だけだと「失神」や「てんかん(特に脱力発作)」に見えてしまい、実際に誤診されることがあります。

(Nat Rev Neurol. 2014;10:386-95. / Cureus. 2024;16:e57540.)

 

誘因として典型的なのは、笑い、喜び、興奮、驚きなどの強い情動で、発作は数秒〜1分程度が多いとされます。

症状は軽い顔面の脱力(ろれつが回らない、顎が落ちる)から、膝が抜けて座り込む、全身が脱力して転倒するなどまで幅があります。

 

ERでは、情動トリガーの有無に加えて、ナルコレプシーで起こりやすい日中の強い眠気、入眠時幻覚、睡眠麻痺、夜間睡眠の断片化などの症状をセットで拾えると、診断仮説が一気に立ちやすくなります。

 

なお、「外傷がないからカタプレキシーではない」とは言えません。

発作の程度や状況によっては、本人が前兆のような感じで「下肢の力が抜ける感じ」を自覚して座るなど回避行動を取れることがあるので、一般的にはあまり外傷はないと理解されているかもしれません。

 

しかし、近年の大規模データではナルコレプシー患者は一般集団より外傷(骨折を含む)が多いことが示されています。

(J Clin Sleep Med. 2024;20:1657-62.)

 

即戦力Tips! 実は意識消失していない「カタプレキシー」

ナルコレプシーの特徴的な症状としてカタプレキシーがある

失神っぽいけど意識は保たれていて、情動で誘発され、同様の脱力を反復しているようなら、まず危険な失神原因を除外したうえで、カタプレキシーの疑いとして専門科につなげる

 

drop attack

もう一つ、高齢者で注意すべき「脱力発作/突然の転倒」がdrop attackです。

 

典型的には「意識消失を伴わずに突然ストンと倒れる」現象を指しますが、高齢者では「失神だったのに本人が覚えていない(健忘)」こともあります。

「意識は保たれていた」という自己申告だけで決め打ちしないのが、他の致命的な失神の原因を見逃さないためのコツです。

(Europace. 2011;13:1040-5.)

明確に失神とdrop  attackを区別することはできないことが往々にしてあります。

 

転倒は骨折や頭部外傷につながり得るため、原因の見極めとマネジメントが重要になります。

 

ある高齢者のシリーズでは、drop attackの原因は大きく「心血管系」「神経系」「歩行・バランス異常」「薬剤関連」の4群に整理でき、

心血管系が最も多く(53%)、神経系(29%)、歩行・バランス異常(18%)、薬剤関連(12%)が続きました。

 

また、系統的に評価すると9割で原因が同定でき、外傷(医療介入が必要な軟部組織損傷)や骨折も少なくないことが示されています。

(J Am Geriatr Soc. 2005;53:74-8.)

 

とはいえERだけで一気に確定まで持っていくのは難しいことも多いので、まずは見逃すとまずいものやコモンなものから潰していくことにしています。

 

心血管系
 ・頸動脈洞過敏症
 ・起立性低血圧
 ・血管迷走神経性失神
 ・洞不全症候群
 ・うっ血性心不全
 ・心房細動

歩行・バランス障害
 ・変形性関節症
 ・人工関節脱臼
 ・認知機能障害
神経疾患
 ・前庭疾患
 ・視覚障害
 ・脳血管疾患(特に椎骨脳底動脈系梗塞)
 ・認知機能障害
 ・パーキンソン病

薬理学的要因
 ・ベンゾジアゼピン
 ・血糖降下薬
 ・アルコール
 ・フェニトイン
 ・三環系抗うつ薬
 ・硝酸薬
 ・降圧薬
 ・ジルチアゼム

表 drop attackの主要な原因

 

■ 心血管系

特に重要なのが頸動脈洞反射に関連する病態です。

ここは用語が紛らわしいので、まず分けて整理します。

 

用語 定義
頸動脈洞過敏
(CSH)
頸動脈洞マッサージ(CSM)によって、心停止が3秒を超える、または収縮期血圧が50 mmHgを超えて低下する反応が起きること
頸動脈洞症候群
(CSS)
原因不明の失神が反射性機序に合致し、CSMによって普段と同じ症状が再現され、その症状を説明できる徐脈・心停止または血圧低下が確認されること

 

ネクタイや襟の圧迫、頭部回旋などの軽い刺激で徐脈や血圧低下が起こり、突然の脱力や転倒につながります。

※CSMを実際にどう使うかは、議論のあるところだと思うので後述します。

 

同じく頻度が高いのが起立性低血圧です。

脱水や自律神経障害(糖尿病、パーキンソン病など)、薬剤などの影響で起こりやすく、失神や転倒に直結します。

 

さらに、洞不全症候群や房室ブロックなどの徐脈性不整脈、頻拍性不整脈も重要です。

心房細動それ自体では問題にならないことが多いですが、これに伴う徐脈化や長いpause(薬剤性を含む)、いわゆるtachy-bradyの文脈で「失神を起こしうるリズム」として捉えておくと安全性が高まります。

頸動脈洞過敏(CSH)と頸動脈洞症候群(CSS):CSMをどう使うか

ここはここ数年で推奨が明確に動いた領域なので、以前の理解のままだとズレますので少し解説をしておきます。

 

まず、用語の区別が重要です。

CSHは失神のない高齢者にもよくみられ、心血管疾患をもつ高齢者では異常反応が40%近くに達するとの報告もあります。

(Eur Heart J. 2018;39:1883-1948.)

 

したがって、

「pauseが3秒あった」「血圧が50 mmHg下がった」という数値だけではCSSと診断できません。

「いつもの症状が再現されたか」まで確認して初めて、検査結果と臨床イベントを結び付けられます。

 

CSSを疑う病歴としては、頭部回旋、ひげ剃り、きつい襟やネクタイ、頸部への圧迫で誘発される失神が有名です。

頸部手術や頸部放射線治療の既往も手掛かりになります。

ただし、典型的な誘因がはっきりしない患者も少なくありません。

 

CSMは「ERでは危険だから行わない」という類の検査ではない

ここは、自分の考えを改めたところです。

 

以前は、私自身も「CSMは病歴一本勝負で、ERではリスクが上回る」と考えていました。

しかし、現在のエビデンスからは、この言い切りは適切ではありません。

 

2018年ESC失神ガイドラインは、

「40歳超で、原因不明かつ反射性機序に合致する失神」にCSMを推奨しています。

(Eur Heart J. 2018;39:1883-1948.)

 

さらに2026年の国際コンセンサスは、適切に選択した患者で標準化して行えばCSMは安全性の高い検査であり、専用の失神外来だけでなくERでも実施可能としています。

(Clin Auton Res. 2026;36:485-497.)

 

安全性の数字も並べておきます。

 

出典 神経学的合併症(TIA・脳卒中)
2018年ESCガイドラインが引用した旧来の4研究(8720例) 21例、0.24%
近年の大規模シリーズをまとめた2026年コンセンサス 約3/10,000、すなわち0.03%
報告されたイベントはいずれも可逆的

(Eur Heart J. 2018;39:1883-1948. / Clin Auton Res. 2026;36:485-497.)

 

患者選択や手技の標準化により、現代のリスクは従来の推定より低い可能性があります。

 

「誰に、どの設備で、何を知るために行うか」

CSMの理想的な実施条件は、

連続心電図とbeat-to-beat血圧監視、臥位・立位を切り替えられるTilt台、蘇生対応可能な環境、訓練された2名以上のスタッフ

です。

 

手技としては、左右それぞれを臥位と立位で評価し、片側ずつ約10秒間行います。

両側を同時に刺激してはいけません。

(Clin Auton Res. 2026;36:485-497. / Europace. 2024;26:euae266.)

 

では、Tilt台もbeat-to-beat血圧計もないERの環境ではどうでしょうか。

 

2026年コンセンサスは、記録・再確認可能な連続心電図があれば、臥位でのCSMは実施可能としています。

ただし、ここに大事な限界があります。

 

この方法で十分に評価できるのは、主に心抑制成分です。

血圧低下が主体の血管抑制型や混合型を評価できないため、陰性でもCSSを否定できません。

(Clin Auton Res. 2026;36:485-497.)

 

したがって、症状が再現された場合、反応が判然としない場合、治療方針に関わる場合は、専門科において再評価してもらいます。

 

実施しない、または慎重に判断する場面

2026年コンセンサスが明確な非実施条件として挙げているのは、次の2つです。

 

・直近3か月以内のTIAまたは脳卒中

・そもそも病歴が反射性失神に合致しない場合

(Clin Auton Res. 2026;36:485-497.)

 

旧来の研究や手順では、頸動脈雑音、既知の頸動脈狭窄、最近の心筋梗塞などを除外条件としてきました。

しかし2026年コンセンサスでは、

頸動脈雑音や既知の頸動脈狭窄は、それだけで絶対的禁忌とはしていません。

また、CSM前のルーチン頸動脈エコーも推奨していません。

 

とはいえ、これは「高度狭窄があってもERで気軽に行ってよい」という意味ではありません。

頸動脈雑音、既知の高度狭窄、過去の脳虚血イベントがある患者では神経学的リスクを個別に評価し、検査結果が治療を変えるか、専門施設で行うべきかを考えます。

 

…実際には私個人としてはこのような患者群へのCSMは避けるようにしてはいます。

 

陽性なら、すぐペースメーカーではない

CSMで徐脈や心停止が起きても、症状が再現されないCSHだけではペースメーカー適応になりません。

また、原因不明の転倒にCSHが見つかっただけの患者では、ペーシングの利益は確立していません。

 

一方で、

40歳超で、重症・再発性・予測不能な失神があり、CSMで普段と同じ失神と3秒を超える心停止が再現される心抑制型CSS

では、dual-chamber pacingが再発予防の選択肢になります。

(Eur Heart J. 2021;42:3427-3520.)

 

ただし、ペースメーカーが防げるのは主に徐脈・心停止成分です。

先行する血圧低下や血管抑制成分が強ければ、植込み後も失神は再発し得ます。

 

2026年コンセンサスは、CSMでCSSが示唆されても直ちに植込みを決めず、血管抑制成分を含む評価を完了するよう勧めています。

(Clin Auton Res. 2026;36:485-497.)

 

ブログ管理人の意見:ERでの実装

ERでの問いは、「CSMをするか、しないか」だけではありません。

自分は、次の5つで考えるようにしています。

 

1. 40歳超で、原因不明の失神が反射性機序に合致しているか

2. 頭部回旋や頸部圧迫など、頸動脈洞反射を示唆する病歴があるか

3. CSMの結果が、専門施設への紹介、追加の循環評価、ペーシング検討など次の診療を変えるか

4. 連続心電図記録、適切な監視、蘇生対応、手技経験があるか

5. 直近3か月のTIA・脳卒中(・頸部雑音など)など、実施を避ける条件がないか

 

この条件がそろえば、CSMはERでも検討できる診断手段です。

そろわなければ、病歴と初期評価を丁寧に行い、失神外来や循環器内科へつなぎます。

 

 

🚨 ここがPitfall!

CSMのpitfallは、危険だから一律に避けることでも、3秒のpauseだけでCSSと決めることでもありません。

症状再現を重視し、血圧低下成分を見落とさず、その結果が患者の治療につながる環境で行うことです。

 

 

■ 神経系

前庭障害、特にメニエール病のいわゆるTumarkin発作(vestibular drop attacks)のように、意識は保たれたまま急に転倒することがあります。

(J Vestib Res. 2022;32:171-82.)

 

脳血管疾患、とくに椎骨脳底動脈系の虚血が隠れることもゼロではありませんが、孤立した転倒だけで来るのは多くないため、複視、構音障害、運動失調などの脳幹症状を伴う場合により強く疑うという距離感にしています。

 

■ 歩行・バランス異常

厳密にはdrop attackというより転倒の要因として重要です。

認知症の進行に伴うバランス喪失、加齢による歩行障害、パーキンソニズム、変形性関節症、人工関節のトラブル(脱臼など)は、突然の転倒として搬送されやすいので、神経学的評価と整形外科的評価を丁寧に行う価値があります。

 

■ 薬剤

転倒リスクを上げる薬剤として、ベンゾジアゼピン系などの中枢神経作用薬は一貫して関連が示されています。

また、降圧薬、血管拡張薬、利尿薬などは起立性低血圧を介して転倒に寄与し得るため、処方全体に調整の余地があるかを検討します(必要そうな場合には、主治医の先生との間に角が立たないように気を付けて診療情報提供を行うこと!)。

 

さらに低血糖も「脱力発作」や転倒の原因になるため、低血糖リスクのある薬剤を使用している患者では血糖評価をルーチンに組み込んでいます。

 

即戦力Tips! 実は意識消失していない「drop attack」

「意識は保たれていた」のが典型的だが、健忘や認知症の影響なども加味して、まずは一般的な失神としていつも通り評価する

drop attackは原因が多岐にわたるが、系統的に見ることで多くは診断に到達できる

ERではまず心血管系を見落とさないことが重要。そのうえで神経学的・整形外科的評価、薬剤調整の余地などを検討するのがよい

 

高齢者の「原因不明の転倒」は失神として扱う

ここが、この記事で一番「明日から変えられる」ところかもしれません。

 

NEJMのレビューによると、

・原因不明の転倒の発生率は加齢とともに増え、50〜60歳で年約4%、70歳以上では年約8%(同年齢層の失神の発生率は年4.4%)

・転倒の約5件に1件が、医療機関での評価を要する外傷につながる

・高齢者のER受診の約15%が転倒によるもので、そのうち20〜30%は原因不明であり、背景に失神が潜んでいる可能性がある

とされています。

(N Engl J Med. 2026;395:582-91.)

 

また、頸動脈洞症候群は高齢者にほぼ限定して起こり、失神の9〜17%、そして「原因不明の転倒」の最大30%を占めるとも記載されています。

 

実務上での原則は以下のように決めておくとよいでしょう!

 

「高齢者における転倒は、明らかに別の原因が証明されない限り、失神エピソードとして管理すべきである」

 

その理由は…

・高齢者では機械的なつまずき・滑りも多いが、本人がエピソードの経過をはっきり思い出せないことがある

・加齢とともに失神の有病率が上がり、しかも高齢者の失神はより心原性の病因・重大外傷・短期有害事象と関連しやすい

 

ただし、「全員に一律で」と主語を大きく言うつもりまではありません。

「失神を見逃す可能性をどこまで許容するかの閾値は、症例ごとに変わる」からです。

 

トリアージに近いかもしれませんが、

実際には以下のように考えておくのが実践的でしょう。

 

侵襲的治療の適応にならない患者(認知症と著明な運動障害のある高齢者など)

 → 失神を見逃すリスクの許容度は高くてよい

失神再発が本人や他人に重大な結果をもたらす職業(建設作業員、公共交通機関の運転手など)

 → 許容度は低く設定すべき

 

「その人がもう一度倒れたときに何が起きるか」から逆算して考えましょう。

施設に入所している患者さんで要介護もついていて施設職員が見守りしているという状況ならば、正直なところ、ある程度許容されるくらいの一般的な検索を行い、そこで明らかな原因が見つからなければあとは見守りを強化してもらうようにして対応してもらうこともしょうがないかなと考えています。

(賛否あるとは思います…)

 

なお、転倒した高齢者に頭部CTを撮るかどうかは、それ自体が大きなテーマです。詳しくはこちら👇

 

presyncopeは「軽症」ではない…のか?

「意識は飛んでないので、ただの立ちくらみですね」と言いたくなる場面もあります。

 

2026年のsystematic review(ER受診のpresyncope患者2741名、5研究)では、30日以内の重篤な転帰の頻度が以下のように報告されています。

 

・全成人:4.4%〜26.8%

・高齢患者:5.5%〜18.7%

・最も多いのは不整脈で、1つの研究では最大17.4%

(Acad Emerg Med. 2026;33:e14943.)

 

不整脈の内訳は、上室頻拍5.0〜29.5%、洞不全症候群9.7〜12.8%、新規または未制御の心房細動4.9〜15.0%、心室性不整脈3.5〜7.3%。

不整脈の次に多かったのは貧血/輸血を要する出血で、高齢患者ではその次が心筋梗塞でした。

 

そして重要なのが、

医師が見積もったリスクはpresyncope群のほうが低かったにもかかわらず、実際に重篤な転帰を来した患者の割合は失神群と同程度だったと報告されています。

 

よって、「presyncopeは失神と同程度のリスクを有する可能性があり、ERでのpresyncopeの管理には失神と同レベルの注意を払うべきである」と考えておきましょう

 

🚨 ここがPitfall!

高齢者の「原因不明の転倒」は、別の原因が明らかでない限り失神として扱う。本人が意識消失を覚えていないことがある

drop attackも同じ。「意識は保たれていた」という自己申告だけで決め打ちしない

presyncopeを反射的に軽症扱いしない。医師の見積もりリスクは低くなりがちだが、実際の重篤転帰は失神と同程度だったという報告がある

 

 

まとめ

失神診療は、入り口を間違えると全部ズレます。

ERでまずやるべきは検査ではなく、「これは本当に失神か?」を病歴で詰めることです。

 

🩺 ER takeaway

失神とは「脳血流低下による一過性意識消失で、急速発症・短時間・自然かつ完全回復」。まずここに当てはまるかを確認する

「てんかん」と診断されている患者の20〜30%は、実は失神だった可能性がある

目撃者に聞くべきは「けいれんしたか」ではなく「倒れた後か、倒れる前か」

10/20ルール:ミオクローヌス10回未満はconvulsive syncope、20回以上はけいれんを示唆

「硬くバタン」ならけいれん、「ぐにゃ、ずるっ」なら失神かも

舌咬傷は「どこを噛んだか」まで確認する。側方なら特異度96%・LR+ 8.17、ただし感度33%

尿失禁は鑑別に使えない(失神の10〜20%で起こる)

EEG・神経画像は、正確な病歴聴取を上回る利益をもたらさない

失神なら搬入時には意識清明のはず。JCS 1-1なら意識障害として動く

PPSは「除外して残った診断」ではない。発作中の閉眼・遷延・保たれた循環という陽性所見から積極的に疑う。「若年女性」「正常バイタル」「外傷なし」だけで判断しないこと。

発作中の閉眼はPPSの97%、VVSの7%。

PPSとVVSは同じ患者に併存し得る。今回がPPSらしくても、心血管性失神がないことにはならない

「上肢を動かしたら失神」なら鎖骨下動脈盗血症候群

カタプレキシーは情動誘発・意識保持。外傷がなくても否定しない

高齢者の原因不明の転倒・drop attackは、別の原因が明らかでない限り失神として管理する

drop attackの原因は心血管系が最多(53%)。系統的に見れば9割で原因が同定できる

presyncopeの30日重篤転帰は4.4〜26.8%、最多は不整脈。反射的に軽症扱いしない

CSMは「pause 3秒」だけでCSSと決めない。いつもの症状が再現されたかまで確認する

CSMは条件がそろえばERでも検討できる。ただし臥位・心電図のみでは血管抑制型を評価できず、陰性でもCSSを否定できない

 

次の中編では、「失神だ」と判断したあとに死ぬ失神を拾い、検査を選ぶ話をします。

 

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