ERでケトアシドーシスと聞くと、多くの人はまず糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)を思い浮かべると思います。
しかしご存じのとおり、ケトアシドーシスはDKAだけではありません。
飢餓、アルコール、妊娠、サリチル酸中毒、SGLT2阻害薬、CKRT…と、思いのほか原因は多彩です。
しかも、血糖がほとんど上がっていないケトアシドーシスも存在します。
「血糖が高くないからDKAじゃないな」だけで終わらせると、足元をすくわれることがあります。
(そもそもDKAでも血糖値が低めなことがよくあります)
この記事では、
ケトアシドーシスの疑い方と、見つけたあとの鑑別
を整理していきます。

まず、ケトアシドーシスをどう疑うか
ケトアシドーシスは、ケトン体(アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、アセトン)が過剰に産生・蓄積し、血液が酸性に傾く病態です。
共通するのは、インスリン/グルカゴン比の低下です。
これによって脂肪分解が進み、肝臓での脂肪酸β酸化が亢進してケトン体が産生されます。
カテコラミン、コルチゾール、成長ホルモンといった対抗調節ホルモンの上昇も、ケトン産生と異化を後押しします。
疑うキーワードは、ざっくりこんな感じです。
・アニオンギャップ開大の代謝性アシドーシス(AGMA)
・フルーツ臭のする呼気(教科書的には記載があるが筆者はよくわからない)
・嘔気、嘔吐、腹痛といった非特異的な消化器症状
・深く速い呼吸(Kussmaul呼吸)
・食思不振・絶食・飲酒・妊娠・SGLT2阻害薬などの背景
とくに「深く速い呼吸」は、代謝性アシドーシスの存在を示唆する重要なバイタルサインです。
これを見たらケトアシドーシスを鑑別に挙げて動き出すクセをつけたいところです。
ここで強調しておきたいのは、「血糖が高い=ケトアシドーシス、血糖が正常=除外」ではないということです。
飢餓、アルコール、妊娠、サリチル酸中毒、SGLT2阻害薬、CKRTでは、血糖が正常〜軽度上昇にとどまることがありますので要注意です!
特に遭遇頻度が高いであろうSGLT2阻害薬関連では、血糖が正常であるがゆえに認識が遅れやすいことが指摘されています。
だからこそ、
「深く速い呼吸を見たら、代謝性アシドーシスを疑う」
「AGMAを見たら、ケトアシドーシスを鑑別に入れる」
という反射を必ず持っておくべきです。
|
🚨 ここがPitfall! アニオンギャップはアルブミンで補正する
アルブミン(Alb)が1 g/dL低下するごとに、AGは見かけ上2.5 mmol/L低く出ます。 そのため、重度の低Alb血症があるときは補正が必要です。 補正AG = 実測AG + 2.5 ×(4 - Alb) AG、ないしは補正AGが12を超えていれば、AG開大代謝性アシドーシス(AGMA)ありと判定することになります。
中央検査室のデータがないとわからないので、 特に重症な患者ではAlbの結果がわからずとも、 「AGMAがあるのではないか」と疑いの目を向けています。 |
尿ケトンのPitfall:陰性でも否定できない
ケトアシドーシスを疑ったら尿ケトンをチェックしたくなりますよね?
でも、ここに大きなPitfallがあります。
まず前提として、ケトン体にはアセト酢酸・β-ヒドロキシ酪酸(BHB)・アセトンの3種類があります。
そして、尿ケトン試験(ニトロプルシド反応)は、主にアセト酢酸を検出しています。
そして、β-ヒドロキシ酪酸は検出することができません。
これが問題になるのが、BHB優位のケトアシドーシスです。
たとえば、アルコール性ケトアシドーシスでは、アルコール代謝によりNADH/NAD⁺比が大きく上がり、ケトン体産生がBHBに強く偏ります。
尿ケトンは主にアセト酢酸を検出している
アルコール性ケトアシドーシスでは、アセト酢酸よりBHBが優位に産生される
これらを知らないと、
「尿ケトン陰性だし、AGMAの原因はケトアシドーシスではなさそうだな~」と、
ほかの原因を無駄に探すイタイ診療になりえます。
そのため、診断の確定には血中β-ヒドロキシ酪酸の直接測定が望ましいとされています。
ちなみに、血中BHBはベッドサイドで血糖と同じように迅速測定できる機器があります。
すぐに測定できない施設では、導入を検討すべきと考えています(それほど高いものでもありません)。
逆のパターンもあります。
DKAの治療経過では、レドックス状態が是正されてBHBがアセト酢酸に戻ります。
患者が良くなっているのに尿ケトンが1+→3+と一時的に「悪化」して見えることがあります。
こういったことからも、DKAの改善評価にも血中BHB測定が好ましいと考えています。
※レドックス状態とは?
NADHとNAD⁺のバランス、NADH/NAD⁺比のこと。
このバランスが、主要なケトン体であるβヒドロキシ酪酸(BHB)とアセト酢酸の割合を決めています。
DKA発症時には脂肪酸のβ酸化が進み、NADHが大量に産生されます。
その結果、NADH/NAD⁺比が上昇し、アセト酢酸からBHBへの還元反応が進みます。
また、治療によって脂肪酸のβ酸化とケトン産生が抑制されると、NADH/NAD⁺比は低下し、レドックス状態は酸化方向へ戻ります。これに伴い、BHBからアセト酢酸への変換が進みます。
一般的な尿ケトン試験紙はBHBではなく主にアセト酢酸を検出しています。
DKAが改善しているにもかかわらず、尿ケトンが一時的に増強したり、高値が遷延したりすることがあります。
|
🚨 ここがPitfall! ・尿ケトン陰性でケトアシドーシスを否定してはいけない。 ・従来の尿ケトンはβ-ヒドロキシ酪酸を検出しない。 ・BHB優位(特にAKA)では見逃す。 ・疑うなら血中β-ヒドロキシ酪酸を測る。診断にも改善評価にも有用。 |
見つけたあとの鑑別:7つの病態
ケトアシドーシスをつかまえたら、次は「どのケトアシドーシスか」を考えます。
7つの病態を、症例・設問とあわせて整理していきます。
(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42340294/を参考にしました)
①飢餓性ケトアシドーシス(Starvation ketoacidosis)
📋 Case 1
全般性不安障害の既往がある42歳男性。10日間、不安症状が悪化して食欲を失い、水とわずかなジュースしか摂れていなかった。倦怠感・嘔気・びまん性腹痛でER受診。糖尿病の既往なし。
倦怠感を訴えるが覚醒し見当識は保たれている。血圧110/70、脈98、呼吸18、体温37.1℃。腹部は筋性防御・反跳痛なし。呼気にわずかにフルーツ臭。
検査(mEq/L):Na 138、K 3.2、Cl 102、HCO₃⁻ 18、Cr 1.4 mg/dL、BUN 26 mg/dL、血糖 64 mg/dL。尿ケトン2+。
❓ Q1:この代謝異常の病態生理を最もよく説明するのは?
(a) インスリン分泌の障害による脂肪酸酸化亢進とβ-ヒドロキシ酪酸の過剰産生
(b) 低灌流組織での嫌気性代謝による乳酸の過剰産生
(c) 急性腎障害による代謝性酸の排泄障害
(d) 不十分なカロリー摂取に反応したケトン体産生の亢進
答えは(d)です。
飢餓性ケトアシドーシスは、絶食・低炭水化物などで糖が枯渇し、脂肪が主燃料になったときに生じます。
DKAのような「インスリン分泌の障害(impaired release)」ではなく、糖の欠乏に対する生理的反応としてインスリンが下がる点がDKAなどとの違いです。
ポイントは、アシドーシスが軽度にとどまることです。
ケトン体自体がインスリン分泌を促し、脂肪分解を抑える負のフィードバックが働くため、重篤なケトアシドーシスには進みにくい構造になっています。
ただし、妊娠、感染、低栄養、低炭水化物食、腎機能障害などが重なることがあり、
この場合には重症ケトアシドーシスに進展することがあります。
血糖はやや低め〜正常になることが多いです。
②糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)
📋 Case 2
36歳女性。3日間の嘔吐で受診。この1週間は多尿・多飲もあった。熱はなく、血圧は臥位110/70・座位90/65。
検査(mEq/L):Na 124、K 6.2、Cl 84、HCO₃⁻ 10、血糖 758 mg/dL、BUN 46 mg/dL、Cr 2.1 mg/dL、pH 7.16、PCO₂ 20。尿ケトン1+。DKAと診断し、静注インスリンと等張輸液で治療。
36時間後の再検:Na 133、K 3.1、Cl 105、HCO₃⁻ 16、血糖 178 mg/dL、BUN 18、Cr 1.2 mg/dL、尿pH 5.0、尿ケトン3+。
❓ Q2:治療経過中のアニオンギャップの変化を最もよく説明するのは?
(a) 1型尿細管性アシドーシス
(b) 潜在的な下剤乱用
(c) 尿中への間接的なHCO₃⁻喪失
(d) 2型尿細管性アシドーシス
答えは(c)です。
DKAは最も有名なケトアシドーシスです。
絶対的・相対的なインスリン欠乏と対抗調節ホルモン過剰が本質です。
飢餓性ケトーシスとの決定的な違いは、
飢餓では「燃料不足」が引き金なのに対し、
DKAでは燃料は十分にあるのにインスリン欠乏で使えないという点にあります。
飢餓で働くはずの「ケトン→インスリン分泌」という保護的フィードバックが、DKAでは失われているため、ケトン産生に歯止めがかかりません。
さらに、高血糖による浸透圧利尿で脱水・電解質喪失が進みます。
DKAのアシドーシスが経過のなかでAG開大↔AG正常(高Cl性)を行き来する点は知っておくとよいかもしれません。
ケトアシドーシス、特にDKAでは、経過に伴ってアシドーシスの主役が変化します。
脱水が進んだ極期には、β-ヒドロキシ酪酸やアセト酢酸などのケトン体が血中に蓄積し、AG開大性代謝性アシドーシスを呈します。
一方、ごく初期や治療後の回復期には、AGが正常化してもHCO₃⁻が低いままの高Cl性正常AGアシドーシス(NAGMA)がみられることがあります。
その主な理由は、ケトン体がNa⁺やK⁺との塩として尿中に排泄されることにあります。
ケトン体は体内で代謝されればHCO₃⁻を再生しますが、
尿中に失われると本来HCO₃⁻になるはずだった原料を失うことになります。
さらに、生理食塩水などによるCl負荷が加わると、高Cl性アシドーシスが増強し、AGは閉じてもHCO₃⁻の回復が遅れます。
脱水やAKI、低K血症によって腎からのNH₄⁺排泄や新規HCO₃⁻産生が低下している場合には、この傾向がさらに遷延します。
したがって、治療後にAGが閉じ、血中ケトン体が減少し、循環動態も改善しているにもかかわらずHCO₃⁻が低い場合、直ちにケトアシドーシスの遷延や病態悪化と判断する必要はありません。
「ケトン体の尿中喪失」「輸液によるCl負荷」「腎機能低下や低K血症」を確認し、必要に応じてバランス輸液への変更、K補正、腎機能の回復を待ちながら評価します。
なお、DKAでは治療前の血清K値が正常または高値でも、体内の総K量は不足しており、インスリン治療後に低K血症が顕在化しやすい点にも注意が必要です。
DKAだと思ったら…浸透圧も見る(mixed DKA/HHS)
ここで、鑑別の「もう一軸」を足しておきます。
DKAだと思った患者で、やたら血糖が高い(>600 mg/dL)ときは、高浸透圧高血糖症候群(HHS)の要素が混ざった「mixed DKA/HHS」のことがあります。
報告では、高血糖緊急症の患者のうち一定割合(およそ1/4〜1/3)にこのoverlapが含まれ、単独のDKAやHHSより死亡率が高いとされています。
ケトアシドーシスを「どの原因か」で鑑別するのと同時に、
「浸透圧が高くないか」という直交する軸でも評価しておくと、この見落としを拾えます。
浸透圧の計算式は、
浸透圧 (mOsm/kg) = 2×Na⁺ + 血糖(mg/dL)/18 + BUN(mg/dL)/2.8
です。
浸透圧 > 320 mOsm/kgといったHHSの診断基準を満たしつつ、
DKAの特徴が伴うようならmixed DKA/ HHSを疑います。
血糖がやたら高ければ浸透圧も自然と高くなるので、血ガスと電解質が揃ったら有効浸透圧を計算するクセをつけておくと安全です。
有効浸透圧=2×Na+血糖/18
有効浸透圧>300 mOsm/kgであればHHSのmixが疑われます。
診断・治療の詳細はこちらにまとめています👇
③アルコール性ケトアシドーシス(AKA)
📋 Case 3
慢性アルコール使用障害のある43歳男性。階段の下で半昏睡・腕を骨折した状態で発見され、大家が救急要請。
入院時検査(mEq/L):Na 138、K 3.6、Cl 91、HCO₃⁻ 10、エタノール 75 mg/dL、血糖 38 mg/dL、pH 7.36、PCO₂ 17。尿ケトン1+。
❓ Q3:この症例の代謝異常を最もよく説明するのは?
(a) インスリン分泌の増加
(b) エタノールによる近位尿細管障害に伴う糖尿
(c) 細胞内NADH/NAD⁺比の上昇
(d) グルカゴン分泌の低下
答えは(c)です。
AKAは、大量飲酒+食事摂取不良/嘔吐という背景で、飲酒後しばらくして生じます。
典型像は、「慢性的な大量飲酒者が、嘔吐などで飲酒・食事ができなくなり、消化器症状を訴えて受診する」というパターンです。
嘔気は約7〜8割、嘔吐も同程度、腹痛も4〜7割程度に見られます。
「酒を飲めなくなった」患者で疑うようにしているアルコールと冠のつく2大疾患のうちの1つです。
(ちなみに、もう1つはアルコール離脱症候群)
飢餓と似た機序に加えて、アルコール代謝によるNADH/NAD⁺比の著明な上昇が乗っかるのが特徴です。
これによりケトン体がBHBに強く偏ります。
BHBは飢餓の数倍レベルに達するとされています。
BHB:アセト酢酸比でみると、
DKAが概ね3:1〜6:1であるのに対し、
AKAでは11:1〜19:1にも達すると報告されています。
結果として、AGMAは飢餓より重症になります。
見分け方のカギはいくつかあります。
・低血糖を伴いやすい:NADH過剰で糖新生が抑制される。
→AKA患者の約25%が低血糖を呈する
・尿ケトンがあまり大したことない:BHB優位のため。
→尿ケトンが控えめ
・混合性酸塩基異常になりやすい:嘔吐による代謝性アルカローシス、離脱に伴う呼吸性アルカローシスなどが混在しえる
この混合病態のため、AKAではpHが正常域に見えることが珍しくありません。
アルコール使用障害患者を対象にした報告では、酸塩基異常のうち混合性異常(代謝性アシドーシス+代謝性アルカローシス)が最多で、代謝性アシドーシスがあってもアシデミアを呈するのは約半数、なかには約3割がむしろアルカレミアだったとされています。
症例でもpH 7.36と一見正常に近いですが、これを「AG 37の高AG代謝性アシドーシス+代謝性アルカローシス+呼吸性アルカローシス」の三重の混合病態と見分けられなければなりません。
血液ガスの読み方:いつも5 stepで読みます。
Step ① まずpHをみる:アルカレミアかアシデミアか?
→pH 7.36でアシデミア寄り。
Step ② アルカレミア/アシデミアの原因は代謝性か呼吸性か?
→明らかにHCO₃⁻が低下しており、代謝性。
Step ③ 代償性変化は予測の範囲内か?
→代謝性変化では、マジックナンバー15を使う
→PCO₂は25 mmHgの予測だが実測は17 mmHgであり、呼吸性アルカローシスを合併。
Step ④ AGを評価する
→AG=37 > 12 mmol/Lであり、AGMAがある。
Step ⑤ AG増加→補正HCO₃⁻を評価する
→補正HCO₃⁻=35 mmol/Lであり、基準値の24 mmol/Lより高い。
→代謝性アルカローシスを合併。
また、軽度の乳酸アシドーシスの合併もよくあります。
ただし、これが高度(乳酸>4 mmol/L相当)なら敗血症・低灌流・チアミン欠乏など別の原因の合併を疑うことも必要です。
(AKA単独でも乳酸上昇はよくありますが、その原因検索・鑑別は必要です)
さらに、AG開大が高度(HCO₃⁻<10、pH<7、浸透圧ギャップ上昇など)なときは、メタノールやエチレングリコールといったtoxic alcohol中毒も鑑別に加えるべきです。
また、腹部に筋性防御があったり、眼振・眼球運動障害・失調・意識障害があるときは、AKA単独では説明しにくい所見です。
前者は腹腔内病変(膵炎など)、後者はWernicke脳症を積極的に疑ってください。
AKAの病態生理と、しばしば併発する電解質異常(低K・低Mg・低P血症など、治療開始後に顕在化しやすい)については、過去記事で詳しくまとめています👇
④妊娠関連ケトアシドーシス
📋 Case 4
妊娠32週の28歳女性(G2P1)。1日間の嘔気・嘔吐・腹痛で受診。3日前に喘息増悪に対しプレドニゾンとエリスロマイシンで治療されていた。発熱・悪寒・下痢なし。糖尿病の既往なし。
傾眠傾向で呼気にフルーツ臭。体温37℃、脈115、血圧90/60、呼吸22。
検査(mEq/L):Na 135、K 4.1、Cl 100、HCO₃⁻ 12、血糖 105 mg/dL。尿ケトン大量。動脈血ガス pH 7.21、PCO₂ 27。
❓ Q4:最も考えられる診断は?
(a) 糖尿病性ケトアシドーシス
(b) 妊娠関連ケトアシドーシス
(c) 妊娠悪阻
(d) 妊娠糖尿病
(e) 敗血症
答えは(b)です。
妊娠関連ケトアシドーシスは頻度は高くないものの、見逃すと母児に関わる重要病態です。
妊娠中後期は、胎盤性ホルモン(ヒト胎盤性ラクトゲン、プロゲステロン、コルチゾールなど)による生理的なインスリン抵抗性と脂肪酸酸化への傾きがあります。
そのため、短時間の絶食や嘔吐でもケトアシドーシスに傾きやすくなっています。
「加速された飢餓(accelerated starvation)」という表現で説明されることがあります。
ここでの最大のポイントは、血糖が正常〜低値でもケトアシドーシスは起こりうる(euglycemic ketoacidosis)ことです。
症例も血糖105と正常域です。
血糖が正常だからとDKA(血糖高値が前提)を外し、そのままケトアシドーシス自体を見落とす流れが危険です。
誘因として、症例にあったように
ステロイド(プレドニゾン)投与:糖質コルチコイド=インスリン抵抗性↑
β刺激薬投与:脂肪分解↑=遊離脂肪酸↑
がリスクになることも覚えておきたいところです。
妊娠特有の呼吸性アルカローシス(代償性にHCO₃⁻が低下している)により、緩衝能が下がっている分、アシデミアに傾きやすい背景もあります。
⑤サリチル酸中毒
📋 Case 5
変形性関節症の既往がある72歳女性。数日間の混乱・倦怠・自覚的発熱で受診。家族によると、数週間、膝・足首・肩の痛み止めに市販薬の内服+クリーム塗布+ヒーティングパッドを使用していた。
熱はないが不安げで、呼吸数28と頻呼吸。耳鳴りと軽度難聴あり。
検査(mEq/L):Na 138、K 3.2、Cl 100、HCO₃⁻ 18、血糖 66 mg/dL、動脈血ガス pH 7.44、PCO₂ 22、Cr 1.2 mg/dL、BUN 32 mg/dL。尿ケトン3+。
❓ Q5:この患者の酸塩基・代謝異常の最も考えられる原因は?
(a) アルコール性ケトアシドーシス
(b) 糖尿病性ケトアシドーシス
(c) 飢餓性ケトアシドーシス
(d) サリチル酸誘発性ケトアシドーシス
(e) 乳酸アシドーシス
答えは(d)です。
ケトアシドーシスの鑑別として、意外に忘れられがちなのがサリチル酸中毒です。
サリチル酸中毒は慢性中毒の形をとり、慢性中毒は診断が難しいということがポイントです。
急性の大量服薬と違い、高齢者が普段のんでいるアスピリンや、市販薬・サリチル酸含有クリームを痛み止めなどとして使い続け、いつの間にか中毒になっているというパターンがあります。
明確な過量服薬歴がないこともあります。
症例は、まさに市販薬+メチルサリチル酸含有クリーム+ヒーティングパッド(加温で経皮吸収が増える)という典型的な慢性中毒の入り方をしていました。
(筆者は軟膏によるサリチル酸中毒の経験はありません、日本の製剤でもなるんでしょうか???)
疑うべき手がかりは、
耳鳴り・難聴
頻呼吸(頻呼吸を見たらAGMAを疑う!)
原因不明の呼吸性アルカローシスやケトアシドーシス
非局在性の神経症状、高齢者のADL低下
などです。
酸塩基所見が特徴的で、一次性の呼吸性アルカローシス+AG開大代謝性アシドーシスの混合を呈します。
このパターンになる代表疾患は敗血症であり、
「敗血症かな?」と思ったときには多少なりともサリチル酸中毒を鑑別に挙げておくと重大な見落としを防げることがあります。
(症状も発熱、意識障害、頻呼吸、低酸素血症、肺水腫、ショックなんて感じに敗血症と似通っています)
ちなみに、サリチル酸中毒はメイロン(炭酸水素ナトリウム)による尿アルカリ化が治療の柱になる病態でもあります。このあたりは別記事で触れています👇
そして、サリチル酸中毒診断のPitfallとして、、、
AGがマイナスになることもあることが挙げられます。
必ずしもAGMAとはなりません。
血液ガス分析装置の電極がサリチル酸イオンを塩化物イオンとして誤認
→偽性高Cl血症 が生じる
→結果として、AGが開大しない(なんならマイナスになることも!)
ことがあります👇
⑥SGLT2阻害薬関連ケトアシドーシス
📋 Case 6
2型糖尿病・高血圧のある42歳男性。血糖コントロールと心血管リスク低減目的でエンパグリフロジンを開始。やせ型でBMI 20 kg/m²、ベースラインのHbA1c 7.5%。
開始4週間後、2日間の嘔気・嘔吐・倦怠感でER受診。
検査(mEq/L):Na 138、K 4.5、Cl 100、HCO₃⁻ 12、Cr 1.4 mg/dL、BUN 38 mg/dL、血糖 148 mg/dL。尿ケトン中等度。SGLT2阻害薬による正常血糖DKAと診断。
❓ Q6:最も重要な誘因として追加で確認すべきものは?
(a)インスリンの中止・減量
(b)低炭水化物食・絶食
(c)感染・手術
(d)上記すべて
答えは(d)です。
SGLT2阻害薬関連は、近年遭遇する機会が劇的に増えている病態です。
最大の注意点は、
血糖が正常〜軽度上昇にとどまる正常血糖ケトアシドーシス(euglycemic DKA)として現れることです。
症例でも血糖148と、DKAとしては拍子抜けするほど低い値です。
実際、SGLT2阻害薬内服中のDKAでは、1/3以上が高血糖を伴わない(<250 mg/dL)とも報告されています。
症状は、腹痛・嘔吐・倦怠感といった非特異的なものにとどまりがちです。
ここでも「深く速い呼吸」が代謝性アシドーシスの手がかりになります。
機序は、大きく2つに分けると理解しやすいです。
① ケトンが増える
SGLT2阻害薬は尿に糖を捨てさせて血糖を下げる薬です。
血糖が下がるとインスリンが減り、逆にグルカゴンが増えます。
このインスリン/グルカゴン比の低下が、脂肪を分解してケトンを作るスイッチを入れます。ここは他のケトアシドーシスと共通の仕組みです。
② 腎臓での酸の処理が変わり、アシドーシスが進みやすくなる(仮説段階)
SGLT2阻害によって近位尿細管のNa⁺輸送とATP消費が低下します。
すると、ATP産生を伴うグルタミン代謝と(その結果として作られる)アンモニウム産生も抑制される可能性があります。
その結果、ケトン体がNH₄⁺ではなくNa⁺やK⁺とともに尿中へ失われることになり(→上述のとおり、HCO3-の負債になる)、間接的なHCO₃⁻喪失を通じてアシドーシスを助長する、という腎生理学的仮説が提唱されています。
なお、この機序は臨床的に直接証明されたものではありません。
SGLT2阻害薬開始後最初の数か月、インスリン減量後、感染・手術・絶食などのシックデイが、実臨床では特に注意すべき誘因です。
シックデイの説明が不十分だと、ケトアシドーシスを発症したり、最悪の場合には死にます。
ちゃんと指導し、ER診療ではSGLT2阻害薬常用者の入院閾値を低くしておきましょう。
SADMANSを減らそう!SGLT2阻害薬を常用しているひとのsick day、ちゃんと説明してる???
糖尿病患者が発熱・嘔吐・下痢・食欲不振などで水分や食事がとれず、いつもの血糖管理ができなくなった状態を「sick day」と呼びます。
見逃すと、あっという間に重篤な合併症へ進展しかねません。
なかでもSGLT2阻害薬は要注意です。
処方時に説明されていなかったり、患者さんが理解・記憶していないことも少なくありません。
「大丈夫ですよ」と帰した患者が、DKAを発症して再受診することも十分にありえます。
だからこそ、救急外来の医師にもsick day ruleを説明する責任があります。
SGLT2阻害薬は、sick dayに必ず中止を指示すべき薬剤です。
メトホルミンと並ぶ「ストップ必須薬」で、ガイドラインではSADMANS(sulfonylureas/ACEi/diuretics・direct renin inhibitors/metformin/ARBs/NSAIDs/SGLT2)の一員として、sick dayに中止すべき薬と位置づけられています。
さらに厄介なのは、中止しても2〜3日は尿量増加が続き、脱水リスクが残ることです。
「ただの胃腸炎」と安易に帰宅させず、水分・糖分補給を含むsick day rule(以下)を丁寧に説明しましょう。
糖尿病患者のsick dayは管理が難しいため、入院の閾値は低めに設定すること!
入院時もSGLT2阻害薬・メトホルミンの中止、必要なら糖含有輸液の投与を忘れずに。
sick day rule
| 項目 | 対応 |
| 基本の過ごし方 | 安静と保温に努め、早めに主治医または医療機関に連絡する。 |
| 水分 | 水やお茶などで水分摂取を心がけ、脱水を防ぐ。 |
| 食事(炭水化物) | 食欲がなくても、おかゆ・果物・うどん・ジュースなどで炭水化物を補給する。 |
| インスリン | 自己判断で中止しない。 ・食事摂取ができていなくても、インスリンを中止しない ・血糖自己測定を行いながら、インスリン量を調整する |
| 経口血糖降下薬・ GLP-1受容体作動薬 |
種類や食事摂取量に応じて減量・中止する。 |
| SGLT2阻害薬・ メトホルミン |
sick dayには必ず中止する(ストップ必須薬)。 |
SGLT2阻害薬によるeuglycemic DKAの機序・リスク因子・診断のより詳しい話は、過去記事にまとめています👇
⑦CKRT関連ケトアシドーシス
📋 Case 7
2型糖尿病・末期腎不全・心不全のある62歳男性。敗血症性ショックでICU入室、CKRTを要した。
入院3日目の検査:pH 7.22、HCO₃⁻ 12、AG開大。血糖 115 mg/dL、血中β-ヒドロキシ酪酸 上昇。インスリンも栄養サポートも受けていない状態。
❓ Q7:この患者の正常血糖ケトアシドーシスの発症に最も寄与した因子は?
(a) グルコースを含まない透析液の使用
(b) 低血糖予防のための高用量持続グルコース投与
(c) 重炭酸緩衝のCKRT液の使用
(d) 2型糖尿病の既往
答えは(a)です。
ER診療とは関係がありませんが、
ケトアシドーシスをきたしうる病態として知っておいてもよいと思うので紹介します。
CKRT関連ケトアシドーシスは、
持続的腎代替療法(CKRT)中に生じうる、正常血糖ケトアシドーシスです。
ICUで「原因のはっきりしないAGMAが遷延する」場面で疑う病態という位置づけです。
機序はシンプルで、グルコースを含まない透析液・補充液を使うと、体からグルコースが持続的に失われることが土台になります。
報告によれば、グルコースの喪失量は40〜80 g/日とされています。
これに、重症患者の低栄養・異化亢進・対抗調節ホルモンの上昇が加わり、細胞内の炭水化物不足からケトン産生に傾きます。
リスクの中心はグルコースフリーの透析液・補充液の使用で、SGLT2阻害薬併用や重症病態がこれを増悪させます。
2型糖尿病の既往そのものは主因ではありません。
可能なら早めに栄養療法を始めなさいよ、ということと関連がありそうですね。
糖含有透析液への変更は施設で利用可能な製剤と処方に応じて検討します。
「どのケトアシドーシスか」を見極めることが、そのまま初期対応の分かれ道になりえます。
まずは、血糖に惑わされず、AGMAを見たらケトアシドーシスを鑑別に入れ、血中ケトン体(BHB)を測定する!
ここから始めてみましょう。
ER takeaway
|
🩺 ER takeaway ・AG開大代謝性アシドーシスを見たら、ケトアシドーシスを必ず鑑別に入れる。「深く速い呼吸」はそのサイン。 ・血糖でケトアシドーシスを除外しない。飢餓・アルコール・妊娠・サリチル酸・SGLT2阻害薬・CKRTは、血糖が正常〜低でも起こる。 ・尿ケトン陰性で否定しない。尿ケトンはβ-ヒドロキシ酪酸を検出しない。疑ったら血中BHBを測る(診断にもDKAの改善評価にも有用)。 ・アルコール性は「低血糖・尿ケトン控えめ・混合酸塩基でpHが正常に見える」がキーワード。乳酸が高度なら別病態(敗血症・toxic alcohol・チアミン欠乏など)合併も疑う。 ・妊娠中後期+絶食・嘔吐(+ステロイド/β刺激薬)は、正常血糖でもケトアシドーシスを疑う。 ・高齢者の原因不明の呼吸性アルカローシス+ケトアシドーシス+耳鳴り・難聴は、慢性サリチル酸中毒を想起。 ・SGLT2阻害薬はやせ型・開始数か月・インスリン減量・シックデイでeuglycemic DKAを起こす。血糖に惑わされない。 ・ICUで原因不明のAG開大アシドーシスが遷延したら、CKRT関連(グルコースフリー透析液)を疑う。 ・「DKAにしては血糖が高すぎる」ときは浸透圧を計算し、mixed DKA/HHSを拾う。 |
参考文献
・Palmer BF, Clegg DJ. Pathophysiology of Ketoacidosis: Core Curriculum 2026. Am J Kidney Dis.
・Umpierrez G, et al. Hyperglycemic crises in adults with diabetes: a consensus report. Diabetes Care. 2024;47(8):1257-1275.
・Palmer BF, Clegg DJ. Electrolyte Disturbances in Patients with Chronic Alcohol-Use Disorder. N Engl J Med. 2017;377(14):1368-1377.
・Allison MG, et al. Alcoholic metabolic emergencies. Emerg Med Clin North Am. 2014;32(2):293-301.
・Long B, et al. Alcoholic Ketoacidosis: Etiologies, Evaluation, and Management. J Emerg Med. 2021.
・Musso G, et al. Diabetic ketoacidosis with SGLT2 inhibitors. BMJ. 2020;371:m4147.
・Palmer BF, Clegg DJ. Euglycemic ketoacidosis as a complication of SGLT2 inhibitor therapy. Clin J Am Soc Nephrol. 2021;16(8):1284-1291.
・Ting S, et al. Euglycemic ketosis during continuous kidney replacement therapy with glucose-free solution: a report of 8 cases. Am J Kidney Dis. 2021;78:305-308.
・(mixed DKA/HHS)Diabetes Care. 2020;43(2):349-357. / Diabet Med. 2023;40:e15005.