今回は「首が腫れて息が苦しい」という、ERでは日常的な訴えから始まる症例です。
ところが蓋を開けてみると、なかなかお目にかかれない病態が隠れていました。
まずは症例から見ていきましょう。
Case
病歴/身体所見
- 26歳女性
- 右頸部の急速に進行する腫脹(2時間持続)と呼吸窮迫の増悪を訴えてER受診
- 数か月にわたる間欠的な右頸部の不快感の自覚あり
- 先行する外傷/発熱/抗凝固薬の使用/類似の既往エピソードはいずれも否定
- 来院時、不安・強い呼吸窮迫の状態
- バイタル:HR 128bpm, BP 145/88mmHg, RR 28, SpO2 80%(非再呼吸マスクで酸素投与下)
- 身体所見
- 緊満し急速に増大する右頸部腫脹(下顎角から鎖骨上窩まで及ぶ)
- stridorと気管偏位を伴う
- 増大する頸部腫瘤による切迫した気道(impending airway compromise)が疑われた
ERでいきなり「首が腫れて、息が苦しくて、stridorが聞こえて、気管が偏位している」と来られたら、ER医的にはかなり身構えますよね。
経過もたった2時間で、見るからに緊急度が高いと考えます。
読んでいるだけで手に汗握ります。気道確保をどうしようか…。
初期対応と経過
- threatened airway(切迫した気道)と判断され、front-of-neck access(FONA)の準備を含む高度気道管理の体制を整えた
- 鎮静下に気管挿管を試みたが、低酸素血症と徐脈を来して難航した
- 声門上気道デバイス(SGA)でレスキュー酸素化に成功し、SpO2とHRが安定した
挿管が一筋縄ではいかず、SGAでなんとか酸素化をつないだというくだり。
腫瘤で気道の解剖が歪んでいる状況での挿管トライがいかに危ういか、そして「ダメならいつでも頸を切る」準備が並走していたことの重みを感じます。
検査(画像)
- 頭頸部CT:骨折を伴う延長したstyloid process(約60mm)を認めた
- CT angiography
- 頸部血腫 48×41×86mmで、内頸静脈を含む隣接血管を圧迫
- 外頸動脈の後頭枝(occipital branch)に限局性の瘤状拡張
- 頭部単純CT:急性の右皮質下梗塞(corona radiata・内包に及ぶ)を認めた


診断
血管型Eagle症候群(vascular Eagle syndrome)による、外頸動脈後頭枝の瘤状拡張からの出血(頸部血腫・気道圧迫)と、同時発症の虚血性脳卒中。

頸部がパンパンに腫れて気道が危ない
+
その裏で脳梗塞も同時発症
なんて出血と虚血が同時に発生しているというのは、なんとも激しい症例ですね。
延長したstyloid process(茎状突起)が原因だったというオチですが、後で述べるようにこの「出血」というかたちで発症する血管型Eagleは相当な珍しさのようです。
ここまでの症例には出会ったことがありません。
治療と転帰
- 増大する頸部血腫・血管損傷・気道障害の継続を踏まえ、確実な気道確保のため緊急気管切開を実施
- 続いて血腫の除去と出血血管の結紮を行った
- 術中所見では後頭動脈の瘤状部からの活動性出血を確認
- 術後の神経学的所見は軽度の左半身脱力と右上位運動ニューロン性顔面麻痺が残存
- 神経リハビリと外来フォローのうえ退院となった
挿管失敗からSGAでブリッジし、最終的にFONA(気管切開)で気道を確保できた症例です。
「予測される失敗を想定して、外科的気道に踏み込む準備を常にしておく」という困難気道対応の原則が、そのまま効いた症例ですね。
急速に増大する頸部腫脹を前にしたら、いつでも頸を切れる体制を整えておくのが超重要です。
discussion
血管型Eagle症候群とは何か
Eagle症候群、とくに血管型の病態・診断・治療を整理してみます。
本症例は「気道」が主役のように見えますが、その根っこにあるのは延長した茎状突起が血管を巻き込む血管型Eagle症候群でした。
ER医にとっては「鑑別に入れておかないと一生診断できない」類のものなのでまとめておきます。
Eagle症候群の定義・疫学・病型
- Eagle症候群は、延長した茎状突起またはstylohyoid靱帯の骨化が隣接する血管・神経構造を圧迫することで生じる
- styloid processの正常長は20〜30mmで、30mmを超えると延長とみなす(Front Neurol. 2024;15:1463275. / Neuroradiology. 2025;67(8):1355-1364.)
- styloid processの延長は人口の4〜30%に存在するが、症候性となるのは4〜10%程度にとどまる(Front Neurol. 2024;15:1463275. / Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.)
- 病型は大きく分けて以下(PeerJ. 2024;12:e17423. / BMC Neurol. 2019;19(1):333.)
- 古典型(classic):脳神経・軟部組織の圧迫による。頸部顔面痛・嚥下障害・耳痛・咽頭異物感など
- 血管型(vascular/stylocarotid):内頸/外頸動脈の圧迫・損傷による。TIA・脳卒中・動脈解離など
- 頸静脈型(jugular variant):茎状突起がC1横突起に近接し内頸静脈(IJV)を圧迫する型。頭痛が突出して多い(PeerJ. 2024;12:e17423. / BMC Neurol. 2019;19(1):333.)
古典型が大多数で、血管型は少数派です。
系統的レビューでは古典型74.5%に対し血管型23.5%という比率でした(PeerJ. 2024;12:e17423.)。
頸部の血管トラブルを診たときに「茎状突起も軽く見ておく」ことを思い出せるかどうかが勝負だと思います。
誰に多いのか:血管型のプロフィール
- 血管型は男性優位(系統的レビューで70.1%が男性)(PeerJ. 2024;12:e17423.)
- 発症平均年齢は約50〜51歳(Front Neurol. 2024;15:1463275. / Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.)
- 頸部運動が誘因となりやすい(血管型12/33 vs 古典型7/153、OR 7.95, 95%CI 2.9-21.7; p=0.0001)(PeerJ. 2024;12:e17423.)
- 扁桃摘出の既往は古典型に多く、血管型では少ない(古典型48/153 vs 血管型2/33、OR 5.2, 95%CI 1.2-22.4; p=0.028)(PeerJ. 2024;12:e17423.)
- 診断までの遅延は血管型のほうが短い(血管型 平均22.5か月 vs 古典型 平均38.1か月、差16か月; p=0.027)(PeerJ. 2024;12:e17423.)
こうして並べると、本症例の患者さんは「26歳女性」で、血管型の典型像(中年・男性優位)からはむしろ外れています。
誘因となる頸部運動の記載もなく、外傷も否定されています。
典型から外れた人にこそ起こりうるという点が逆に怖いところですね。
血管型の中身:動脈と静脈、二つの分類
血管型と一口に言っても、巻き込まれる血管によって臨床像はがらりと変わります。
系統的レビューでは動脈圧迫が67.5%、静脈圧迫が32.5%で、動脈圧迫の最多の帰結は脳卒中(46.8%)、静脈圧迫の最多の帰結は慢性頭痛(68%)でした(Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.)。
- 動脈型(ICA中心)
- 機序は反復する機械的微小外傷による解離・動脈瘤・血栓塞栓、あるいはICA圧迫による血流低下(Front Neurol. 2024;15:1463275.)
- 来院時の主症状は神経症状(66.0%)、次いで頭痛・失神・Horner症候群(Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.)
- 動脈合併症の内訳:脳卒中46.8%、TIA 14.1%、頸動脈狭窄16.7%、頸動脈瘤14.1%、ステント破損1.3%、頸動脈出血0.6%(Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.)
- 静脈型(IJV=頸静脈型)
- styloid processとC1横突起の間でIJVが「bone nutcracker」状に挟まれる(BMC Neurol. 2019;19(1):333.)
- 頸静脈型では頭痛が突出して多く(p<.009)、中脳周囲の出血が有意な併存所見であった(p<.0003)(BMC Neurol. 2019;19(1):333.)
- 静脈合併症の内訳:静脈洞血栓症22.7%、頭蓋内圧亢進21.3%、脳出血12%(Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.)
ここで本症例を振り返ると、なかなか異色なことに気づきます。
動脈型の典型は「ICAの解離→脳梗塞」、静脈型の典型は「IJV圧迫→慢性頭痛」です。
ところが本症例は外頸動脈(ECA)の後頭枝の瘤が破裂して出血し、頸部血腫が気道を圧迫しました。
ECAの関与はレビューでもごく少数(動脈病変196本のうちECAはわずか3本)で、頸動脈出血に至っては0.6%という珍しさです(Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.)。
しかも本症例では、その裏でICA系を介した皮質下梗塞まで同時に起きていました。
出血と虚血が一人の患者で同時進行するという、文献的な「型」のどれにもきれいには収まらない、まさに激しい一例ですね。
診断:とにかくCTAで、styloidを測る
- 診断の第一選択はCT angiography(CTA)。ICAの狭窄・解離だけでなく、styloid processの長さ・角度・ICAとの距離(SP-ICA距離)まで評価できる(Neuroradiology. 2025;67(8):1355-1364.)
- MRIは動脈壁や壁内血腫の描出に有用(Neuroradiology. 2025;67(8):1355-1364.)
- 頸静脈型を疑う場合は頸部静脈相を含むCTA+画像再構成が強く推奨され、カラードプラ超音波で補完する(BMC Neurol. 2019;19(1):333.)
- 体位で症状が変わる例には動的血管造影が有用なことがある(Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.)
- SP長と解離の関連:2023年のメタ解析でICA解離はSP平均長およびSP長>30mmと有意に関連。解離例ではSP>50mm超で解離リスクとの関連を示す研究もある(Neuroradiology. 2025;67(8):1355-1364. / Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.)
- ただしSP関連ICA解離には国際的な標準診断基準・治療ガイドラインがまだ存在しない(Neuroradiology. 2025;67(8):1355-1364.)
本症例のstyloid processは約60mmと、解離リスクの目安とされる50mmをゆうに超える長さでした。
頸部の急速増大する腫脹を前に、造影CT(CTA)を早期に回したことが診断の決め手になっています。
「急速に腫れる頸部腫瘤=感染か外傷、血管でしょ、はい終わり〜」ではなくて、血管に影響を及ぼす茎状突起も含めてCTを眺めなければ…。
経験ある先生方も、頸部腫脹の鑑別を一度立ち止まって考え直すきっかけになるのではないでしょうか。
治療:根治はstyloidectomy
- 系統的レビューでは、初期治療としてstyloidectomyを行った群で治癒78.5%・改善19.0%・再発わずか2.5%。一方、非手術(保存的)群では治癒24.5%・改善28.3%・再発47.2%と再発が目立った(Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.)
- 別のレビューでも、初期治療でstyloidectomyを受けた患者に症状再発はなかった(保存的治療は52%で選択されるが再発率33%)(Neuroradiology. 2025;67(8):1355-1364.)
- メタ解析全体でも手術群が内科群を上回る(内科123例中81例=65.9%が改善/消失、手術320例中313例=97.8%が改善/消失)(PeerJ. 2024;12:e17423.)
- 動脈病変は手術での治癒率が高い(86.2%)が、静脈病変の治癒率は相対的に低い(57.1%)(Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.)
- 術式:経頸部(外切開)法が血管制御に優れ、ICA周囲の繊細な操作で安全とされる(Neuroradiology. 2025;67(8):1355-1364. / Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.)
- 61例の大規模研究で一過性の下顎縁枝麻痺2例のみ、他の合併症報告なし(Neuroradiology. 2025;67(8):1355-1364.)
- styloidectomy後の後遺症は系統的レビューで26例(7.6%)に留まり、顔面神経麻痺・出血・耳介知覚異常などで多くは軽微または最終フォローで消失(PeerJ. 2024;12:e17423.)
- 頸動脈ステントは選択肢だが、茎状突起を残したままだと接触によるステント破損のリスクが残る(Neuroradiology. 2025;67(8):1355-1364. / Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.)
急性期に出血・気道・脳虚血を同時に抱えた本症例では、まず気道(気管切開)→血腫除去→出血血管の結紮という救命優先の対応が取られました。
文献的には、根本にあるstyloid processを取り除かないかぎり機械的圧迫は残り続けるため、急性期を乗り切ったあとに待機的なstyloidectomyを検討するのが筋ということになります。
本症例で原因のstyloidをどう扱ったかは原著では触れられていませんが、再発予防の観点からは気になるところでした。
ERでどう動くか:この症例が残す教訓
最後に、救急の現場目線でこの症例の教訓を整理します。
- 急速増大する頸部腫脹を「感染・外傷・血管」だけで片付けない。Eagle症候群も鑑別にあげ、早期にCTAを回す
- 気道は「予測される失敗」を前提に動く。腫瘤で解剖が歪んだ頸部の挿管は危うく、SGAによるブリッジとFONA(外科的気道)の準備を最初から並走させる
- 頸部の血管トラブルを診たら、styloid processの長さを測る癖をつける。30mm超で延長、50mm超で解離リスク上昇の報告。CTAは撮ってあることが多く、見にいくだけ
まとめ
- 延長したstyloid process(30mm超、とくに50mm超)が血管を巻き込むのが血管型Eagle症候群。動脈型は脳卒中、静脈型は慢性頭痛が代表的な帰結
- 急速増大する頸部腫脹では血管性原因(動脈瘤破裂・解離)も鑑別にあげ、早期CTAで診断する。気道はSGAブリッジとFONA準備を並走させる
- 根治は原因である茎状突起の切除(styloidectomy)。残すと圧迫・再発・ステント破損のリスクが残る
参考資料
- Zamboni P, Scerrati A, Menegatti E, et al. The eagle jugular syndrome. BMC Neurol. 2019;19(1):333.
- Klail T, Sachs L, Panos LD, et al. Styloid process-related internal carotid artery dissection: extensive literature review of diagnosis, treatment and outcomes (exemplified with a single-center case series). Neuroradiology. 2025;67(8):1355-1364.
- Hassani M, Grønlund EW, Albrechtsen SS, Kondziella D. Neurological phenotypes and treatment outcomes in Eagle syndrome: systematic review and meta-analysis. PeerJ. 2024;12:e17423.
- Tadjer J, Béjot Y. Vascular variant of Eagle syndrome: a review. Front Neurol. 2024;15:1463275.
- Thielen A, Brizzi V, Majoufre C, Nicot R, Schlund M. Eagle syndrome and vascular complications—a systematic review. Int J Oral Maxillofac Surg. 2025;54(1):31-42.
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