りんごの街の救急医

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case 159:ただの吐血と思ったら、、、(J Emerg Med . 2026 Apr 8:86:114-115.)

上部消化管出血の患者をみたとき、鑑別の上位に「大動脈腸廔(aortoenteric fistula:AEF)」を据えている先生はどれくらいいるでしょうか。

 

正直、私自身もERで吐血の患者をみたときに真っ先に思い浮かぶのは消化性潰瘍や食道静脈瘤で、大動脈はだいぶ後ろのほうに追いやられがちです。

 

でも、AEFは見逃せば文字通り致命的になる疾患でもあります。

 

今回は若年男性の吐血という、いかにも「ありふれた主訴」から大動脈腸廔にたどり着いた症例を題材に、この疾患の怖さと診断のコツを整理してみます。

 

 

Case

病歴/身体所見

  • 27歳男性、既往なし(previously healthy)
  • 突然発症の吐血(hematemesis)と黒色便(melena)のためER受診
  • 来院時、低血圧・頻脈でショック状態

27歳で既往なし。

この時点で大動脈疾患を思い浮かべるのは、正直なかなか難しいですよね。

若い吐血=Mallory-Weissか潰瘍か、くらいの構えで入ってしまいそうです。

 

検査

  • 血液検査…ヘモグロビン 6 g/dL(即時の蘇生を要した)
  • ベッドサイドPOCUS…大動脈の異常な突出(outpouching)IVCの乱流(turbulent flow)を認め、大動脈病変を疑う契機となった
  • 胸部X線…下行胸部大動脈の紡錘状拡張(fusiform dilatation)

 

  • CT大動脈造影…胸部大動脈瘤(7.2 × 7.7 cm)contained rupture(被包性破裂)食道との瘻孔形成を確認

 

POCUSで「なんか大動脈おかしいぞ」と引っかかれたのが、この症例の流れを決めた一手だと思います。

 

吐血の初期評価で大動脈までプローブを当てるかどうか…すくなくともこのくらいの若年者には狙って当てていないかもしれません。

 

ER医としては、ここで一歩踏み込めるかが分かれ目になりそうです。

これだけハデな所見があったのは、ある意味でラッキーでした…。AEFは見逃されることが多いように感じますし。

 

診断

一次性大動脈腸廔(primary aortoenteric fistula:食道との交通)

  • 緊急TEVAR(胸部血管内大動脈修復術)を施行
  • その後、血行動態は安定化した

27歳の吐血が、まさか胸部大動脈瘤の食道穿破だったとは…。

 

なかなか出会わない症例ですし、出会ったときに最初の30分で正しく舵を切れるか、自信を持って「はい」と言える気がしません。勉強になりました。

 

Discussion

大動脈腸廔とは何か

大動脈腸廔(AEF)とは、大動脈と消化管との間にできる異常な交通(瘻孔)のことである(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71./BMC Gastroenterol. 2026 Dec 12;26:38.)。

大きく2つに分けられる。

  • 一次性(PAEF)…過去の血管手術歴がなく自然発生するもの。
    • 主にアテローム硬化性の腹部大動脈瘤(AAA)が隣接する腸管を浸食して生じる(Int J Surg Case Rep. 2026 Jan;138(3):674-679.)
  • 二次性(SAEF)…大動脈再建術(人工血管やステントグラフト)の遅発性合併症として生じるもの(BMC Gastroenterol. 2026 Dec 12;26:38./Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)

 

今回の症例は手術歴のない若年男性なので一次性(PAEF)ということになります。

なお、以降に出てくる疫学・治療の数値は二次性(SAEF)由来のものが多く混じります。

一次性と二次性で背景がかなり違うので、「これはどっちの数字か」を意識しながら読んでいただければ。

 

どのくらいまれなのか(疫学)

  • 一次性(PAEF)の年間発生率は100万人あたり0.007人(Radiographics. 2009 Jan-Feb;29(1):197-209.)
  • 剖検での発生率は0.04%〜0.7%、腹部大動脈瘤(AAA)の最大2%に合併する(Int J Surg Case Rep. 2026 Jan;138(3):674-679./BMC Gastroenterol. 2026 Dec 12;26:38.)
  • 二次性(SAEF)の年間発生率は0.6%〜2%(Radiographics. 2009 Jan-Feb;29(1):197-209.)
  • 大動脈手術後の発生率は0.5%〜2.3%(BMC Gastroenterol. 2026 Dec 12;26:38.)、あるいは0.36%〜1.6%。ただし人工血管感染がある場合は12%〜33%に跳ね上がる(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)
  • 二次性では男女比8:1で男性に多い(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)
  • 発生時期は通常、手術から1年以内(範囲1〜20年)(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)

100万人に0.007人。数字だけ見れば「一生出会わなくても不思議じゃない」レベルのまれさです。

でも、まれだからこそ鑑別から落ちます。落ちれば死にます。

この「低頻度×高致死」の組み合わせがAEFの一番厄介なところだなぁと思います。

 

どこに穴が開くのか(好発部位)

  • 二次性の好発部位は十二指腸の第3〜第4部が最多で74%、次いで小腸19%結腸5%虫垂1%(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)
  • 別の資料では十二指腸(主に第3・第4部)が推定80%を占めるとされる(Radiographics. 2009 Jan-Feb;29(1):197-209.)

十二指腸水平部は大動脈のすぐ前を横切る位置にあるので、「大動脈の真ん前の腸管」が狙われるのは解剖学的にも腑に落ちます。

ちなみに今回の症例は食道との瘻孔で、好発部位とは異なる場所での発症でした。

胸部大動脈瘤からの食道穿破という時点で、教科書的な「十二指腸」のイメージから外れています。

 

なぜ穴が開くのか(機序)

  • アテローム硬化性の腹部大動脈瘤(AAA)が、慢性的な圧力と炎症で隣接する腸管ループを浸食する(Int J Surg Case Rep. 2026 Jan;138(3):674-679.)
  • 二次性では、腸管における大動脈グラフトの段階的な浸食(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)
  • 大動脈の拍動による腸管壁への持続的な物理的刺激(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)
  • 初回手術時のグラフト感染による局所炎症と、それに伴う腸管壁の浸食(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)
  • 手術手技に関連したもの…手術時の腸管損傷、不適切なトンネリング、縫合線の仮性動脈瘤(Eur J Vasc Endovasc Surg. 2020 Mar;59(3):339-384.)
  • 動脈瘤を伴わない極めて稀な原因…放射線治療、悪性腫瘍、感染症、異物、過去の後腹膜手術(Int J Surg Case Rep. 2026 Jan;138(3):674-679.)

「拍動する大動脈が、すぐ隣の腸管をコツコツ叩き続けて穴を開ける」と考えると、機序としてはとても物理的でイメージしやすいですよね。

動脈瘤がなくても起こりうるというのは要注意で、放射線治療歴や悪性腫瘍の既往がある吐血患者でも、頭の片隅には置いておきたいところです。

 

どう疑うか(臨床像とpitfall)

二次性AEFの臨床症状の頻度は以下の通り(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)。

  • 消化管出血…80%
  • 敗血症…44%
  • 腹痛…30%
  • 腰痛…15%
  • 鼠径部腫瘤…12%
  • 腹部拍動性腫瘤…6%

ここで強調しておきたいのが古典的三徴です。

消化管出血・腹痛・腹部拍動性腫瘤」のセットですが、これが揃うのはわずか6〜12%にすぎない(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71./BMC Gastroenterol. 2026 Dec 12;26:38.)。

別の資料では11%未満とされています(Int J Surg Case Rep. 2026 Jan;138(3):674-679.)。

 

三徴が揃うのが1割前後ということは、「三徴が揃わないからAEFは否定的」とやってしまうと、9割を取りこぼすことになります。

これは○ブどころの話ではなく、診断戦略そのものが破綻しますよね。三徴は「揃えば強く疑う」ものであって、「揃わないから除外」に使ってはいけません。

 

もう一つ、覚えておきたいキーワードが前駆出血(Herald bleeding)です。

大量出血の前に、断続的で自己限定的な出血が約60%の患者で先行するとされ、初回出血から大量出血までの期間の中央値は4日(5時間〜5ヶ月)と報告されています(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)。

つまり、「ちょっと吐血したけど止まったみたいだし様子見でいいか」が、数日後の致死的大量出血の前触れだった、ということが起こりえます。

少量の消化管出血で帰宅させる前に、「これがHerald bleedingではないか?」と一度立ち止まれるか。経験ある先生方なら、ヒヤッとした記憶が一つや二つあるのではないでしょうか。私は何症例か思い出されます…。

 

どう診断するか(画像)

  • CT血管造影(CTA)が第一選択
    • ただし感度40%〜94%、特異度33%〜100%とばらつきが大きい(Radiographics. 2009 Jan-Feb;29(1):197-209.)
  • CTAの特徴的所見…人工血管周囲の異所性ガス、液体貯留、大動脈と腸管間の脂肪面の消失、造影剤の腸管内への漏出(BMC Gastroenterol. 2026 Dec 12;26:38.)
  • 上部消化管内視鏡(EGD)…血行動態が安定している患者の急性出血時に施行されるが、診断精度は25〜40%と低い(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)
  • 一方で、術中にEGDで瘻孔のオリフィスを特定することが外科的計画に有用な場合がある(BMC Gastroenterol. 2026 Dec 12;26:38.)

CTAが第一選択とはいえ、感度の下限が40%というのは正直心もとない数字です。

「CTで写らなかったから大丈夫」とは到底言えません。

 

EGDも、出血源を探しにいったらたまたま瘻孔が見えた、という形で診断に寄与することはあっても、精度が25〜40%では「EGDで異常なし=除外」にはとても使えませんね。

内視鏡の医師が大丈夫と言っても、特に大動脈瘤がある症例ではAEFの可能性を考慮して、血管外科にも相談が必要です。

 

今回の症例でPOCUSが入口になったように、ベッドサイドの違和感や臨床像との合わせ技で疑い続ける姿勢が要りそうです。

 

どう治療するか

AEFは稀少疾患のためエビデンスが限られますが、ESVS(欧州血管外科学会)ガイドライン(Eur J Vasc Endovasc Surg. 2020 Mar;59(3):339-384.)には推奨度つきの記載があります。

  • すべてのグラフト材料と感染組織の完全切除(確定治療)…クラスI、レベルB(Eur J Vasc Endovasc Surg. 2020 Mar;59(3):339-384.)
  • 大網充填または自家有茎組織の移動による血管再建部の被覆クラスI、レベルB(Eur J Vasc Endovasc Surg. 2020 Mar;59(3):339-384.)
  • In situ(原位置)再建における自家静脈の使用クラスIIa、レベルC(Eur J Vasc Endovasc Surg. 2020 Mar;59(3):339-384.)
  • 代替人工血管(凍結保存アログラフト、銀コーティンググラフト、リファンピシン結合グラフト、ウシ心膜グラフト)の使用…クラスIIa、レベルC(Eur J Vasc Endovasc Surg. 2020 Mar;59(3):339-384.)
  • 活動性出血を伴う緊急状況におけるエンドグラフトを用いた一時的な橋渡し治療クラスIIa、レベルC(Eur J Vasc Endovasc Surg. 2020 Mar;59(3):339-384.)

ここで、資料間で見解が分かれている論点が2つあるので、両方を提示しておきます。

私たちER医が直接決める部分ではありませんが、「どちらの考え方も存在する」と知っておくと、外科とのやり取りの解像度が上がると思います。

 

論点①:腸管修復の手法(単純縫合か、切除・再建か)

  • ESVSガイドライン(2020)の立場…腸管の欠損が小さい場合は単純な直接縫合(duodenorrhaphy)も可能。ただし、腸管切除と複雑な再建により再発リスクを低下させられる(Eur J Vasc Endovasc Surg. 2020 Mar;59(3):339-384.)
  • 後ろ向き研究(10例の解析)の立場…より良好なアウトカムを支持するエビデンスに基づき、単純な修復(duodenorrhaphy)は避け、関与する腸管の切除と吻合(duodenojejunostomy等)を必須とすべき(BMC Gastroenterol. 2026 Dec 12;26:38.)
  •  

論点②:EVAR(血管内治療)の位置づけ

  • ESVSガイドライン(2020)の立場…EVARは一次的な感染材料を除去できないため、あくまで確定的な開腹手術への一時的な橋渡し(ブリッジ治療)として考慮すべき(Eur J Vasc Endovasc Surg. 2020 Mar;59(3):339-384.)
  • 総説の立場…基本的にはブリッジ治療とされるが、最近の多施設研究ではEVARと開腹手術で全死因死亡率に差がないという報告もあり、急性期においては一次治療としても考慮され得る(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)

今回の症例は緊急TEVARで血行動態が安定化しています。

これを「橋渡し」とみるか「一次治療」とみるかは、まさに上の論点が現場で問われる場面ですね。いずれにせよ、最終的な治療方針は症例ごとに異なり、血管外科をはじめとする専門医の判断を仰ぐべき領域です。

 

予後

  • 未治療の場合の死亡率は100%(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)
  • 二次性(SAEF)の死亡率は50〜70%、緊急時の院内死亡率は27%(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)
  • 腹部大動脈人工血管感染症の早期死亡率は16〜22%(Eur J Vasc Endovasc Surg. 2020 Mar;59(3):339-384.)、緊急開腹手術の死亡率は80%を超える(Int J Surg Case Rep. 2026 Jan;138(3):674-679.)
  • 二次性(SAEF)の院内死亡率は血管内治療(EVAR)が7.1%、オープン手術が33.9%。ただし2年後の晩期敗血症発生率はEVARが42%、オープン手術が19%であり、長期的にはEVARの利点が失われる(Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.)
  • 単一施設の10例の後ろ向き分析では、術後合併症が50%に発生(敗血症性ショック30%、出血20%、吻合部漏れ20%)、死亡率は20%(BMC Gastroenterol. 2026 Dec 12;26:38.)

未治療なら死亡率100%。この一行に尽きます。

「疑って・写して・つなぐ」がどれだけ速くできるかで、患者の生死がそのまま決まる疾患です。

EVARが急性期の院内死亡を抑える一方で、長期では晩期敗血症が増えて利点が薄れるというデータは、「助かったあともずっと見ていく必要がある」ことを示していて、考えさせられます。

 

まとめ

・大動脈腸廔(AEF)は大動脈と消化管の異常交通であり、未治療なら死亡率100%。低頻度だが高致死で、上部消化管出血の鑑別から落としてはいけない

・古典的三徴(消化管出血・腹痛・拍動性腫瘤)が揃うのは6〜12%のみ。「揃わないから除外」は禁忌。前駆出血(Herald bleeding)の存在も念頭に置く

・CTAが第一選択だが感度40%〜94%とばらつき、EGDの診断精度も25〜40%と低い。陰性所見で安心せず疑い続ける


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参考資料

  • A Young Man With Hematemesis. J Emerg Med. 2026. doi:10.1016/j.jemermed.2026.04.009.(本症例の原著。Case Report/Figure legends)
  • Secondary aortoenteric fistula: a narrative review of the view of the surgeon. Arch Med Sci Atheroscler Dis. 2024 Mar 30;9:e66-e71.(Introduction/Epidemiology/Pathogenesis/Clinical picture – diagnosis/Treatment)
  • Aortoenteric fistula: clinical features, diagnostic challenges, and surgical outcomes — a retrospective analysis of 10 cases. BMC Gastroenterol. 2026 Dec 12;26:38.(Abstract/Background/Discussion)
  • Primary aortoenteric fistula: a case report and literature review. Int J Surg Case Rep. 2026 Jan;138(3):674-679.(Introduction/Discussion)
  • Aortoenteric fistulas: CT features and potential mimics. Radiographics. 2009 Jan-Feb;29(1):197-209.(Abstract/Introduction/Secondary Aortoenteric Fistula and Perigraft Infection)
  • Editor's Choice – European Society for Vascular Surgery (ESVS) 2020 Clinical Practice Guidelines on the Management of Vascular Graft and Endograft Infections. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2020 Mar;59(3):339-384.(7.3 Graft enteric fistula/7.3.2/7.3.5.1/7.6. Follow up and prognosis/10. UNRESOLVED ISSUES/Recommendation 38, 39, 40, 45, 46)