りんごの街の救急医

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Real ER Round No.34:ツツガムシ病を見逃さない~診断と治療のpitfall

ツツガムシ病、

なんとなく「春~秋に山に入った高齢者で発熱と皮疹があれば疑う」くらいの認識で止まっていませんか?

 

でも、実は1年間に世界で100万人が感染していると推定される疾患で、未治療ではその死亡率もバカにできません。

 

そして、診断のキモといわれる刺し口(eschar)は、地域や患者背景によって見つかる頻度がかなり違うこともわかっています。

 

「典型的な3徴がそろっていないから違うかな」と切ってしまうと、痛い目を見ることがあるかも!?

 

今回は、ツツガムシ病の診断と治療を現場目線で整理し、見逃しと治療の落とし穴を一緒に確認していきましょう。

 

 

 

まずは敵を知る:ツツガムシ病の基本

ツツガムシ病は、偏性細胞内寄生細菌であるOrientia tsutsugamushi(旧名 Rickettsia tsutsugamushi)が原因の急性熱性疾患です。

 

人獣共通感染症で、ツツガムシ科のダニ(trombiculid mites / chiggers)の幼虫に刺咬されることでヒトに感染します。

幼虫だけが寄生性でヒトを刺咬し、成虫や若虫は草叢や土中に生息しています。

 

ヒトからヒトへの直接感染は起こりません。

節足動物媒介感染症である以上、「同居人もうつる」「病棟で隔離が必要」みたいな話にはなりません。

 

日本国内では、Gilliam、Karp、Kato、Irie/Kawasaki、Hirano/Kuroki、Shimokoshi の6つの主要な血清型に分類されることが知られています。

英語では「Scrub typhus」「Tsutsugamushi disease」と表記され、歴史的には「Flood fever(洪水熱)」「Island insect disease(島虫病)」とも呼ばれていたそうです。

 

疫学:誰がいつかかるのか

世界的には、南アジア、東南アジア、東アジア、太平洋諸島、オーストラリア北部を含む、いわゆる「ツツガムシ・トライアングル」と呼ばれる地域を中心に、20億人が感染リスクにさらされ、年間推定100万人の症例が発生しているとされます。

 

近年は南米やアフリカなど、これまで非流行とされていた地域でも報告が出てきており、過去の疫学マップは現状を正確に反映していない可能性があると指摘されています。

 

これは、地球温暖化に伴って媒介するツツガムシの生息域が拡大していることが背景にあると考えられています。

 

では、日本ではどうか?

 

2007〜2021年の全国データでは、6,576例が報告されており、男性3,707例(56%)、女性2,869例(44%)、うち30例(0.5%)が死亡しています。年齢中央値69歳、発生は春から初夏と秋から初冬に多く、全国的には3〜5月と11〜12月にピークがあります。

 

2007〜2016年のデータでは、年齢中央値は68歳(男性66歳、女性71歳)、発生のピークは5〜6月と11〜12月と報告されています。

 

救急外来的に言い換えると、

「春か秋に、高齢者が発熱で来院」

このパターンに、屋外活動や農作業のエピソードが重なったら、ツツガムシ病は頭の片隅に置いておきたい疾患です。

 

暴露歴の聴取を舐めない

ツツガムシ病を疑うかどうかは、暴露歴の聴取で半分以上決まると思っています。

 

ここで大事なのは、患者さんが暮らしている場所(居住歴)よりも

「どこに行ったか・どこで何をしたか」です。

 

キーワードは、農村地域(rural areas)での野外活動です。

 

具体的には、

・草原、林、山、耕作地、河川敷

といった、ツツガムシ(を保有するダニ)が好む植生がある場所での活動歴を確認します。

農作業はもちろん、家庭菜園、草刈り、ハイキング、釣り、犬の散歩でいつもの河川敷を歩いた、といった場面でも暴露は起こります。

 

そしてもうひとつのポイントは、

感染リスクが高まるのは、数平方メートル程度の局所的な草むら(ホットスポット)への立ち入りであるという点です。

「同じ河川敷を毎日散歩していたのに今回だけ?」という患者さんでも、たまたまホットスポットに足を踏み入れていれば暴露は成立します。

「いつもの場所だから違うはず」というのは根拠になりません。


立ち入った場所と、ダニ刺咬の有無を淡々と確認しておきましょう。

 

刺し口を絶対に見逃さない

ツツガムシ病の3主徴は、発熱、皮疹、刺し口(eschar)です。

潜伏期間は5〜14日。

「3徴そろえば一発」と教わった人も多いと思いますが、ここに最初のpitfallがあります。

 

刺し口の肉眼所見

刺し口の典型像は、

径10 mm前後の潰瘍の上に黒色痂皮(タバコの火傷跡に似る)を伴う病変で、周囲に発赤と落屑を伴う

とされます。

 

(リケッチア症診療の手引きより)

 

 

多くは掻痒感や疼痛を伴いません。


ただし、アカツツガムシ刺症の場合は特有の疼痛があるとされています。

 

「痛くもかゆくもない」ので、患者さん本人が気づいていないことが普通です。

「刺された記憶がありますか?」と聞いて「ない」と返ってきても、それで除外してはいけないということになります。

 

刺し口の好発部位

刺し口は全身に見られますが、

特に皮膚の柔らかい湿った場所(鼠径、会陰、腋窩、乳房下、臍など下着のあたる部位)に好発します。

 

男女差に関する大規模後ろ向き研究では、

・男性:腋窩・鼠径・性器(55.8%)

・女性:胸部・腹部(42.3%)

に多いと報告されています。

 

つまり、服で隠れている部分こそ、刺し口の好発部位!

疑ったら全身くまなく脱がせて見るに尽きます。

 

刺し口の出現頻度には地域差がある

 

日本のデータ(2007〜2021年)では、報告された患者の84%(5,503例/6,576例)に刺し口が認められたとされています。

つまり、日本では「探せばだいたいある(でもたまにない)」という肌感覚で大きくは外れません。

 

一方、インドの患者を対象としたシステマティックレビューでは、刺し口は約4分の1(約25%)にしか存在しなかったと報告されています。

 

この差については、肌の色が濃いことや非典型的な部位への出現が過小評価の原因と推測されているそうです。

 

日本人高齢者でも、絶対に見つかる保証はありません。
「刺し口がなくても、状況証拠が揃えば疑う」というスタンスが安全だと思います。

 

皮疹の性状と日本紅斑熱との鑑別

3徴のもう一つ、皮疹についても整理しておきましょう。

 

・出現時期:典型的には発熱の5〜8日後に現れる

・分布:体幹(腹部など)から出現し、全身(四肢など)へ広がる体幹優位の分布

・形態:小豆大〜母指頭大の、辺縁が不整形でそう痒感のない紅斑(斑状または斑丘疹状)。点状出血(Petechiae)はまれ

 

「発熱と同時に皮疹」ではなく、発熱が続いた数日後にあとから皮疹が出てくるのが典型像です。

初診時に皮疹がなくても、その後の経過で出てくる可能性は十分あります。

 

日本紅斑熱との鑑別

同じリケッチア症である日本紅斑熱とは以下のように整理されています。

  ツツガムシ病 日本紅斑熱
発生地域 全国的(北海道除く) 西日本中心
発生時期 春〜初夏・秋〜冬 3〜11月(夏から秋)
潜伏期 5〜14日 2〜8日(短い)
皮疹 体幹優位の紅斑 顔面や手掌・足底を含む全身性(四肢優位)の紅斑・紫斑
刺し口 10mm前後 やや小さい(5〜10mm)

 

「手掌・足底まで皮疹があるなら日本紅斑熱寄り」

「体幹優位ならツツガムシ病寄り」くらいの当たりのつけ方でしょうか。

 

もちろん、診断は臨床像と検査の組み合わせで詰めますが、初期評価のとっかかりとして役立つかもしれません。

 

診断のpitfall:検査の選択を間違えない

診断検査の選択肢は大きく2つあります。

・間接蛍光抗体法(IFA)
標準的(ゴールドスタンダード)な検査法とされ、急性期と回復期(約2週間後)のペア血清でIgMまたはIgG抗体価が4倍以上上昇することを確認して診断します。

 

・PCR(分子生物学的検査)
痂皮(刺し口の黒いかさぶた)、皮疹部皮膚組織、または全血から Orientia tsutsugamushi のDNAを検出します。
特に、PCR検査には痂皮が有用とされています。

 

刺し口を見つけたらそのかさぶたが診断材料になりえます。

 

治療のpitfall①:第一選択を外さない

軽症・中等症のツツガムシ病に対しては、

成人および8歳以上の小児で、ドキシサイクリン 100 mg 1日2回 7〜10日間投与

が第一選択です。

 

日本国内の手引き(リケッチア症診療の手引き、2019)では、

ミノサイクリン(100mg 1日2回、7〜10日間)も標準治療薬として記載されています。

 

米国CDC(2024)は、45kg未満の小児に対して歯牙着色の懸念はないとして、

ドキシサイクリン(2.2 mg/kg 1日2回)の使用を推奨しています。

 

代替薬としては、

アジスロマイシン、リファンピシン、クロラムフェニコールが挙げられます。

日本の手引きでは、アジスロマイシン 500mg 1日1回 3日間投与が代替薬として記載されています。

 

ここでpitfall!

いつもよくお世話になるβラクタム系薬、アミノ配糖体は無効です。

 

βラクタム系やアミノ配糖体系は、ツツガムシ病の治療薬としては期待できません。

ニューキノロン系もあまり効かないのではないかと考えられており、治療失敗や抵抗性が問題になるため、少なくとも重症例では当てにしない方が安全です。

疑った時点で、テトラサイクリン系、状況によりアジスロマイシンを選択するのが安全です。

 

「発熱だからまずβラクタム系で経験的治療」と始めて解熱しないので困って相談

という流れになると、その間にどんどん重症化していくリスクがあります。

 

暑熱環境ならまず熱中症というのと同じで、

「屋外活動歴+発熱+皮疹/刺し口」の組み合わせを見たら、エンピリックの段階でテトラサイクリン系を入れることを検討したい場面です。

 

適切な抗菌薬治療(テトラサイクリン系など)を開始した後は、

多くの場合3日(48〜72時間)以内に解熱し、自覚・他覚症状も軽快するとされています。

 

裏を返せば、テトラサイクリン系を入れて72時間経っても解熱しないなら、診断や合併症の見直しが必要ということでもあります。

 

治療のpitfall②:重症例で立ち止まる

もう一つ、知っておきたいアップデートがあります。

 

従来のガイドラインではドキシサイクリンの単剤療法が推奨されてきました。

 

しかし、2023年のINTREST trial(N Engl J Med)において、

重症ツツガムシ病においてドキシサイクリンとアジスロマイシンの併用療法が、単独療法と比較して複合的な治療アウトカムの改善を示したと報告されています。

 

具体的なレジメンは、すべて7日間の静脈内投与(IV)で行われています。

・ドキシサイクリン単独群
1日目に200 mgを1日2回投与し、続く6日間は100 mgを1日2回投与

・アジスロマイシン単独群
1日目に500 mgを1日2回投与し、続く6日間は500 mgを投与

・併用療法群
上記のドキシサイクリンとアジスロマイシンの両方を組み合わせて投与

 

ICU管理が必要な重症例では、併用療法を行うのがベストアンサーかもしれません。

 

重症例ではどんな臓器が落ちるか

重症ツツガムシ病ではどこから崩れるのか知っておきましょう。

 

INTREST trial(794名)における臓器別の合併症発生頻度は次の通りです。

・呼吸器合併症:62%
・肝機能障害(総ビリルビン >2 mg/dL):54%
・心血管系合併症(収縮期血圧 <90 mm Hg等の低血圧、心筋炎、不整脈):42%
・腎機能障害(クレアチニン >2 mg/dL):30%
・意識障害:28%
・神経系合併症:20%
・血液系障害(血小板 <20,000/mm3):14%

 

呼吸・肝・循環の3つで半数前後が落ちるという分布です。

 

ツツガムシ病を疑った重症患者では、

呼吸状態、肝酵素・ビリルビン、血圧と心電図(心筋炎・不整)を最初に押さえるのが現実的な落としどころでしょう。

 

ちなみに、多臓器不全を伴う重症患者がICUに入室した場合の死亡率は最大24%と報告されており、決して甘く見てよい疾患ではありません。

 

予後を悪くする因子を意識する

未治療の場合の死亡率中央値は6%(0〜70%)
治療を行った場合は1.4%(0〜33.3%)に低下するとされています。

 

インドの患者を対象としたシステマティックレビュー(2000〜2025年)では、プールされた致死率は4.8%でした。

適切な抗菌薬投与の有無で予後が変わる疾患であることは、数字からも見えてきます。

 

死亡の予測因子として有意なものは以下が報告されています。

・65歳以上(オッズ比 14.5)
・クレアチニン値の正常上限1.5倍超(オッズ比 12.8)
・総ビリルビン値 3 mg/dL超(オッズ比 24.8)

 

日本の患者層は中央値68歳です。
それだけで「65歳以上」というハイリスク群に半数以上がのっかっていることになります。

腎機能、肝機能(特にビリルビン)はルーチンで採れているはずなので、

これらが上がっている高齢者でツツガムシ病を疑う場面では、入院・専門科コンサルトの閾値を低く持っておきたいところです。

 

現場でのまとめ

・「春か秋」「高齢者」「草むら・林・山・耕作地・河川敷での野外活動歴」「発熱」が揃ったら頭の片隅に置く

・刺し口は径10mm前後、黒色痂皮を伴い、痛くもかゆくもないことが多い。患者の自覚なしが普通

・好発部位は鼠径、会陰、腋窩、乳房下、臍など下着のあたる部位。男性は腋窩・鼠径・性器、女性は胸部・腹部に多い

・地域・患者背景によっては刺し口が見つからないこともあると意識する

・皮疹は発熱の5〜8日後、体幹から全身へ。手掌・足底は通常含まれない(含まれるなら日本紅斑熱を疑う)

・確定診断はペア血清やPCR検査でつくが、急性期は臨床診断で治療を始める

・第一選択はドキシサイクリン 100 mg 1日2回 7〜10日間。日本ではミノサイクリンも標準

・βラクタム系・アミノ配糖体(・ニューキノロン系)は無効

・適切な抗菌薬で48〜72時間以内に解熱。72時間経って解熱しないなら見直し

・重症例ではドキシサイクリン+アジスロマイシン併用療法のエビデンスがある(INTREST trial, 2023)

・重症例で落ちやすいのは呼吸・肝・循環。最初にここを押さえる

・高齢、Cr上昇、ビリルビン上昇は予後不良因子

 

もちろん、臨床現場での判断は症例ごとに異なります。
重症度評価や薬剤選択に迷う場面では、感染症内科や集中治療担当の専門医と相談しながら進めるのが基本です。

 

「3徴そろわなくても疑う」「疑ったら治療を始める」「重症なら抗菌薬併用療法も検討する」。


このあたりが押さえられていれば、現場で大きく外すことはなさそうです。

 

春(~夏)と秋の発熱診療で、ぜひ思い出してみてください。

 

参考資料

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7. Prakash JAJ. Scrub typhus: risks, diagnostic issues, and management challenges. Res Rep Trop Med. 2017 Aug 7;8:73-83. doi: 10.2147/RRTM.S105602. PMID: 30050348. PMCID: PMC6038894.

8. Peter JV, Sudarsan TI, Prakash JAJ, Varghese GM. Severe scrub typhus infection: clinical features, diagnostic challenges and management. World J Crit Care Med. 2015 Aug 4;4(3):244-250. doi: 10.5492/wjccm.v4.i3.244. PMID: 26261776. PMCID: PMC4524821.

9. Rahi M, Gupte MD, Bhargava A, Varghese GM, Arora R. DHR-ICMR Guidelines for diagnosis & management of Rickettsial diseases in India. Indian J Med Res. 2015 Apr;141(4):417-422. doi: 10.4103/0971-5916.159279. PMID: 26112842. PMCID: PMC4510721.


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