りんごの街の救急医

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救急医のEvidenceブックマーク Weekly #22(20260523-20260529)

今回は救急医も知っておかなければならない(ERやICUで遭遇しうる)

CRS:Cytokine Release Syndrome

ICANS:immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome

について。

 

CAR-T細胞療法、二重特異性抗体、T-cell engager、tarlatamabなどの免疫療法後におきる合併症で、Oncologic Emergencyの1つです。

 

 

 

今回の重要ポイント&Pitfallまとめ

・CRSは臨床診断であり、感染精査の結果を待たずに治療を開始する。

・CRSは発熱で発症し、38℃以上の発熱が診断の前提となる。

・解熱薬や抗サイトカイン療法後に発熱が消失した場合は、低血圧と低酸素でグレードを判定する。

 ・ASTCTグレードは、低血圧と低酸素のうち重症な方で決定する。

・CRSは敗血症と類似し、感染症と併存しうるため、両者を同時に疑う。

 ・プロカルシトニンは、CRSと感染症の鑑別補助として有用である。

 ・好中球減少例では、経験的広域抗菌薬をCRS治療と並行して開始する。

・CRSの発症時期は誘因によって異なる。

 ・CAR-T関連CRSは、投与後10〜15日後まで起こりうる。

・ICIによるCRSは約1%とまれである。

 ・BiTE/CAR-T関連CRSは最大89〜90%と高頻度に起こりうる。

・外来でBsAbを投与されているがん患者は、CRS、ICANS、感染症でERを受診しうる。

・低〜中等度CRSでは、トシリズマブを使用する。

 ・CRS治療の第一選択は、トシリズマブ8 mg/kgである。

 ・難治性CRSや高グレードCRSでは、ステロイド併用を検討する。

 ・ステロイドは二次治療として位置づけられ、トシリズマブとの使用順序に注意する。

・ICANSでは、ICEスコア評価が重要である。

 ・ICANSの早期検出には、書字評価が有用である。

 ・ICANS単独に対してトシリズマブは無効であり、悪化させうる。

 ・ICANS治療の主軸はステロイドである。

 ・ICANSに対するトシリズマブは、CRSを併存している場合に限って考慮する。

・CRSとICANSが同時に存在する場合、低グレードCRSの管理よりもICANS管理が優先されうる。

・CRSに類似する病態として、IEC-HSがある。

 ・IEC-HSは旧HLH/MAS様病態に相当する。

 ・IEC-HSは早期に同定しないと高死亡率となりうる。

・tarlatamab関連ICANSは遅発性に起こりうる。

 ・tarlatamab関連ICANSの発症中央値は約29日であり、見逃しに注意する。

 

 

血液

Oncologic Emergenecy

CRS, ICANS

https://www.eviq.org.au/clinical-resources/oncological-emergencies/3500-cytokine-release-syndrome-crs

CAR-T細胞療法や二重特異性抗体(BsAbs)が血液腫瘍領域で急速に普及するなか、その代表的かつ致死的になりうる毒性であるサイトカイン放出症候群(CRS)を、トリガー別に整理したeviQ(Cancer Institute NSW)の臨床リソース。

1. Background / Definition(背景と定義)

CRSは、発熱と多臓器障害を特徴とする急性全身性炎症反応であり、さまざまな治療によって惹起されうる。本文書が挙げるトリガーは、CAR-T細胞療法、二重特異性抗体(BsAbs)、ハプロ移植であり、その他の免疫療法(モノクローナル抗体や抗胸腺細胞グロブリン(ATG)など、頻度は低い)でも生じうる。

定義としては、American Society for Transplantation and Cellular Therapy(ASTCT)の定義を採用している。すなわちCRSとは、内因性または注入されたT細胞および/または他の免疫エフェクター細胞の活性化・engagementをもたらす免疫療法後に生じるsupraphysiologic response(生理学的範囲を超えた反応)である。症状は進行性でありうること、発症時に発熱を必須とすること、低血圧・capillary leak・低酸素・end-organ dysfunction(臓器障害)を伴いうることが述べられている。重症度のグレード分類は、発熱・低血圧・低酸素の有無に基づいて行われる。

2. Risk factors(リスク因子)

リスク因子は治療の種類と病期によって異なり、本文書はトリガー別に整理している。

トリガー リスク因子
二重特異性抗体(BsAbs) BsAbの種類(CD3ベースのBsAbsは普遍的にCRSリスクを持ち、step-up期と初回full doseで最も高い)。腫瘍量(高腫瘍量でリスク増加。ステロイド前投与やstep-up dosing戦略で軽減可能)
CAR-T細胞療法 用いるリンパ球除去レジメンの種類、腫瘍量(高腫瘍量、フェリチン、LDH高値、CRP高値)、注入時の活動性感染の有無、注入CAR-T細胞量、CAR-Tの種類、血小板減少
ハプロ移植 過去の高線量放射線治療歴、移植時年齢60歳超

3. Incidence, prevalence and onset(頻度・発症時期)

CRSの頻度・発症時期・消退までの時間は、受けた治療によって大きく異なる。臨床試験での薬剤承認時の安全性データによれば、T細胞engager BsAbs(全腫瘍適応)における重症CRS(grade≥3)の頻度は2.2%であったのに対し、CAR-Tでは8.8%であった。

BsAbs関連CRSでは、any-grade CRSは一般的かつ予期されるものであるが(特にCD3標的薬)、重症(grade≥3)CRSは稀である。例として、teclistamabではany-grade CRSが72.1%であるのに対し、grade≥3は患者の0.5%にとどまる。発症と重症度は、疾患型・腫瘍量・BsAb製剤・投与経路(IV対皮下)・投与スケジュールに影響される。皮下投与はIV投与に比べ、頻度が低く、より軽症で、発症が遅い傾向がある。CRSは初回のstep-up doseで最も多く生じ、頻度・重症度ともに経時的に低下する傾向がある。発症の中央値は注入後4〜16時間だが、agentにより変動し、tebentafusp(ぶどう膜黒色腫)は数時間以内、glofitamab(DLBCL)は約10時間、皮下teclistamab(多発性骨髄腫)は最大48時間の遅延発症となる。

CAR-T関連CRSでは、CRSの頻度と重症度が製剤間で異なり直接比較は困難である。発症しやすさを左右する一因子は、CAR-T構築物に含まれる共刺激ドメインの種類である。CRSは通常注入後2〜3日で発症し、7〜8日持続するが、発症は数時間から最長10〜15日後まで大きく変動しうる。頻度・重症度は製剤間で異なり、報告される発生率はany-gradeで37〜93%、grade 3/4で1〜23%である。

ハプロ移植関連CRSは、通常注入後1〜3日(Day +3)で発現する。あるコホートでは、軽症CRS(grade 1-2)が75%、grade 3-4のCRSが12%に報告された。

4. Assessment(評価)

CRSは臨床診断であり、presentation(臨床像)に基づく。発熱・低酸素・低血圧を呈する患者では、他原因、特に感染や敗血症を考慮することが必須である。経験的広域抗菌薬を速やかに開始すべきであり、特に好中球減少患者ではCRSに対する治療と並行して投与する。重要な点として、感染精査の結果を待ってCRS治療を遅らせてはならない

症状としては、発熱(≥38℃)を特徴とし、低血圧、capillary leakによる低酸素、end-organ dysfunction、頻脈を伴いうる。免疫療法後、数時間から数日で発症し、緊急の医学的対応を要する。

本文書は、IECHS(Immune Effector Cell-Associated Haemophagocytic Lymphohistiocytosis Like Syndrome、旧HLH/MAS)に注意を促している。IECHSはCRSと臨床・検査所見が類似し、早期に同定されなければ高い死亡率を示しうる、生命を脅かす病態である。疑った場合は施設方針に従って治療し、Hines et al.の治療選択肢を参照するとされる。

5. Grading(ASTCTコンセンサスグレーディング)

CRSの評価・グレード分類は原因によって文献上ばらつきがあるが、eviQ上のCAR-TおよびBsAbs療法では、CAR-T療法向けに開発されたASTCTガイドラインのグレーディングに従う。臨床試験中の患者では試験プロトコルの推奨に従う。

CRSパラメータ Grade 1 Grade 2 Grade 3 Grade 4
発熱 体温≥38℃ 体温≥38℃ 体温≥38℃ 体温≥38℃
低血圧(Withで判定) なし 昇圧薬を要さない 昇圧薬(±バソプレシン)を要する 複数の昇圧薬(バソプレシンを除く)を要する
低酸素(And/orで判定) なし 低流量経鼻カニューラまたはblow-byを要する 高流量経鼻カニューラ、フェイスマスク、非再呼吸マスク、またはベンチュリマスクを要する 陽圧(CPAP、BiPAP、挿管・人工呼吸など)を要する

CRSに伴う臓器毒性はCTCAE v5.0でグレード分類しうるが、CRSグレードには影響しない。発熱は他原因に帰属しない体温≥38℃と定義され、CRSの後にtocilizumabやステロイドなどの解熱・抗サイトカイン療法を受けた患者では、以後のCRS重症度のグレード分類に発熱は不要となり、低血圧および/または低酸素でグレードを決定する。CRSグレードは、低血圧と低酸素のうちより重症な事象で決定する。低流量経鼻カニューラは≤6L/分(blow-byを含む)、高流量は>6L/分と定義される。

6. Management of BsAbs associated CRS(BsAbs関連CRSの管理)

BsAbs関連CRSの管理は、個々のeviQプロトコルを参照することが基本とされ、治療ごとに個別化すべきとされる。臨床医は、CRS毒性管理の詳細な指針について、該当する製品情報および/または臨床試験プロトコルを参照すべきである。CD3ベースのリンパ球engager療法は普遍的なCRSリスクを持つため、重症・難治性CRSへの進行を防ぐべく頻回のモニタリングと早期介入を要する。TGA承認のBsAbsについては、各eviQ薬剤プロトコル内の「Management of Treatment-Related Adverse Events」セクションに詳細な管理指針があるとされる。本文書内には、BsAbs関連CRSに対する具体的な用量・アルゴリズムの表は示されていない。

7. Management of CAR T-cell associated CRS(CAR-T関連CRSの管理)

tocilizumab、ステロイド、anakinraの早期または予防的使用は、神経毒性アウトカムを損なうことやCAR-T細胞の有効性を損なうことなく、高グレードCRSの発生を減らしうる。しかし、現行のいずれのガイドラインも、CRSやICANS予防のためのこれら薬剤のルーチンの予防的使用を推奨していない。エビデンスは限定的かつ低質であり、正式な推奨はできないとされる。

本文書はNCCNガイドラインおよびEBMT推奨に基づく一般的指針を表として示している(NCCN、EBMT、Reference Committee Consensusから改変)。ただし、CAR-T関連毒性の発症時期・頻度・重症度・最適管理は製剤間で異なり、新規治療の承認とともに変化していくため、臨床医は施設プロトコル・処方情報・臨床試験プロトコルを参照すべきとされる。

CRSグレード 一般的管理 tocilizumab corticosteroids
Grade 1
体温≥38℃、低血圧・低酸素なし
発熱:パラセタモールまたはイブプロフェン(禁忌でなければ)。感染スクリーニング、CXR考慮。経験的広域抗菌薬開始。維持輸液による水分補給。臓器毒性の対症管理 発熱が72時間以上持続、または有意な症状・併存症・65歳超の患者で、IV tocilizumab(8mg/kg、最大800mgを60分かけて)を考慮 一般に適応なし。発熱が72時間以上持続する場合、IVデキサメタゾン10mgを1回考慮
Grade 2
体温≥38℃、昇圧薬を要さない低血圧、低流量経鼻カニューラまたはblow-byを要する低酸素
発熱・全身症状はGrade 1に準じる。低血圧:0.9%生理食塩水のボーラス投与、収縮期血圧≥90mmHg維持のため第2ボーラスや持続投与も考慮。2回のボーラスとtocilizumab後も難治性低血圧が持続すればICU転棟・Grade 3管理への移行を考慮。低酸素:必要に応じ酸素投与、tocilizumab後24時間以内に改善なければGrade 3に準じる。臓器毒性の対症管理 IV tocilizumab 8mg/kg(最大800mgを60分かけて)。必要に応じ8時間ごとに反復(最大4回まで) tocilizumab 1〜2回投与後も低血圧が持続すれば、IVデキサメタゾン10mgを考慮。6時間後に再評価し、必要なら6時間ごとに継続、CRS≤Grade 1となるまで。忍容性に応じ急速漸減
Grade 3
ICU転棟。体温≥38℃、昇圧薬(±バソプレシン)を要する低血圧、高流量経鼻カニューラ・フェイスマスク・非再呼吸マスク・ベンチュリマスクを要する低酸素
発熱・全身症状はGrade 1に準じる。低血圧:輸液はGrade 2に準じ、ICUに準じた昇圧薬サポートと心エコーを含む血行動態モニタリング。低酸素:高流量での酸素投与。臓器毒性の対症管理 IV tocilizumabはGrade 2に準じる。単剤ではなくステロイドを併用 IVデキサメタゾン10mgを6時間ごと、1〜3日間、CRS≤Grade 1となるまで。忍容性に応じ急速漸減。難治性ならGrade 4として管理
Grade 4
ICU転棟。体温≥38℃、複数の昇圧薬(バソプレシンを除く)を要する低血圧、陽圧(CPAP、BiPAP、挿管・人工呼吸など)を要する低酸素
発熱・全身症状はGrade 1に準じる。低血圧:輸液はGrade 2に準じ、ICUに準じた昇圧薬サポートと心エコーを含む血行動態モニタリング。低酸素:非侵襲的陽圧(CPAP、BiPAP)または人工呼吸。臓器毒性の対症管理 IV tocilizumabはGrade 2に準じる。単剤ではなくステロイドを併用 IVデキサメタゾン20mgを6時間ごと、3日間、3〜7日以内に漸減。症状改善なければIVメチルプレドニゾロン1g/日を3日間考慮し、臨床に応じ漸減。他の治療ラインも考慮しうる

tocilizumabの用量は、30kg未満で12mg/kg、30kg以上で8mg/kg(最大800mg)8時間ごとに最大4回まで反復可能である。主なフットノートとして、IL-6阻害薬(tocilizumab)では消化管穿孔リスクが増すため、投与前に臨床的に活動性の憩室疾患の既往を評価し、該当患者では慎重に用いること、ステロイド投与患者では抗真菌予防とbreakthrough感染の厳重なモニタリングを施設指針に従い強く考慮すること、製剤ごとに処方情報を参照すべきこと、などが示されている。

8. Refractory CRS after CAR T-cell therapy(CAR-T後の難治性CRS)

重症または難治性CRSに対する薬物治療の選択肢は限られており、エビデンスの多くは単施設経験・症例報告・前臨床データ・他の過炎症性病態に由来する。最大限の支持療法・tocilizumab・ステロイド(または該当時はIECHS指向治療)に無反応なGrade 4毒性の患者では、感染(細菌性敗血症、日和見病原体)、血栓塞栓、心疾患などの他原因を同定するための再評価が必須である。

Gazeau et al.は、CAR-T後の治療関連死亡率(TRM)とCRS/ICANS消退に関連したanakinra投与を評価した(用量・経路・期間は医師裁量)。anakinraは12mg/kg/日までの用量で安全であり、早期高用量IV anakinra(>200mg/日)は低用量(100〜200mg/日、皮下またはIV)と比べTRMを減らす可能性があった。他の投与推奨として、低用量anakinra 100〜200mgを6〜12時間ごと皮下投与+デキサメタゾン10mgを1日1〜4回、必要に応じ8mg/kg/日まで増量し臨床反応まで継続、というものがある。重症例では血漿濃度を速やかに上げるためIV anakinraが好まれ、安定後に皮下へ切り替える。anakinraはTGA未承認であり適応外使用である。その他、siltuximab、ruxolitinib、cyclophosphamide、IVIG、ATG、髄注化学療法、CRRTによる体外サイトカイン吸着なども考慮しうるが、確立度は低く、感染リスクなど安全性への懸念と天秤にかけるべきとされる。

9. Management of haploidentical BMT associated CRS(ハプロ移植関連CRSの管理)

ハプロ造血幹細胞移植後のCRSは、再発リスクの低下と関連している。post-transplant/pre-engraftment期、特に移植後シクロホスファミド(PTCy)使用時には、graft(生着)を保つためステロイドを一般に回避する。この状況では代替としてtocilizumabが考慮されうるが、データが限られるため有効性は不確実であり、CAR-T療法関連CRSにおける第一選択としての確立した役割とは対照的である。重症CRSは早期の移植後血流感染(BSI)リスク増加と関連づけられているが、tocilizumab使用とBSI率上昇の間に独立した関連はないとした研究がある。一方、tocilizumabで治療された11例の研究では、治療を受けなかった21例のマッチCRS患者と比べ1年時の慢性GVHD発生率が高かったと報告されたが、全生存・無病生存・再発率・非再発死亡に差はなく、CRS関連死亡は両群とも観察されず、急性GVHD・好中球・血小板の生着率も同様であった。

10. Patient education(患者教育)

患者教育は多職種協働で行うべきとされ、療法と合併症の明確な説明、追跡質問用の連絡先を含む書面情報、CRSの徴候・症状(高熱、錯乱など)と発現時期および治療チームへの即時報告の必要性、在宅モニタリングの指針、徴候・症状を呈して受診する場合に救急スタッフへ治療歴を伝える指示、が含まれるべきとされている。

臨床実践のまとめ&Pitfall

この文書を救急の現場に落とし込むときに、まず効くのは「CRSは検査で診断する病気ではなく、臨床診断である」だと思います。CAR-Tや二重特異性抗体を受けた患者が、発熱・低血圧・低酸素を主訴に救急を受診したとき、いちばんやりがちなのは「まず感染を否定してから」と精査の結果待ちで治療を止めてしまうことです。でも本文書がはっきり言っているのは、感染精査の結果を待ってCRS治療を遅らせてはならない、ということです。好中球減少例では経験的広域抗菌薬をすぐ始めつつ、CRS対応を並行で走らせる。この「並行で走らせる」感覚を最初から持っておきたいところです。

もう一つ、救急で見落としやすいのが発症時期の幅広さです。誘因によってタイミングがまるで違います。

  • CAR-T:通常2〜3日で発症するが、数時間から最長10〜15日後まで起こりうる
  • 皮下投与の二重特異性抗体:最大48時間遅れて発症することがある
  • ハプロ移植:通常1〜3日(Day +3前後)

つまり、「治療からだいぶ経っているからCRSではないだろう」という時間的な思い込みが、そのままPitfallになります。免疫療法歴を必ず聞き取り、最近の治療というだけでなく10日以上前の注入歴まで視野に入れておく。これだけで拾える症例が変わってきます。

評価の軸としては、ASTCTグレーディングがそのまま使えます。グレードは発熱の有無だけでなく、低血圧と低酸素のうち重症なほうで決まること、そして一度ステロイドやtocilizumabを入れた後は発熱がグレード判定の要件から外れることは、覚えておくと迷いません。Grade 1なら解熱・感染スクリーニング・経験的抗菌薬・維持輸液、Grade 2以降で生食ボーラスとtocilizumab、Grade 3・4はICUでステロイド併用、という流れが基本線です。tocilizumabの用量(30kg以上で8mg/kg・最大800mg、8時間ごと最大4回)も押さえておくと初手で動けます。

最後にもう一つ、本文書が注意を促している鑑別がIECHS(旧HLH/MAS様病態)です。CRSと臨床・検査所見が似ており、早期に気づかないと死亡率が高い。CRSとして対応しているのに様子がおかしいときは、この病態を頭の片隅に置いておくと、対応の遅れを防げます。なお、tocilizumabは消化管穿孔リスクの観点から、活動性の憩室疾患の既往がある患者では慎重投与とされている点も、投与前のひと確認として効いてきます。

 

 

Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Chimeric Antigen Receptor T-Cell Therapy: ASCO Guideline

CAR-T細胞療法に伴う免疫関連有害事象(irAE)の認識・評価・管理を、ASCOが多職種専門家パネルを招集して整理した診療ガイドライン。

1. 本ガイドラインの位置づけと方法

本ガイドラインは、成人がん患者におけるCAR-T細胞療法のirAEをいかに管理するかという単一の包括的臨床課題を扱う。2017〜2021年の文献を対象としたシステマティックレビューで35件が適格と判定されたが、その多くは症例集積・症例報告などの後ろ向き観察データであり、報告バイアス、少数例、後ろ向きという限界からエビデンスの質は低いとされる。このため、パネルは非公式コンセンサスプロセスにより専門家意見に基づく推奨を作成した。本ガイドラインの全推奨はエキスパートコンセンサスに基づき、ベネフィットがハームを上回り、推奨の強さは中等度(moderate)と明記されている。

全般的推奨として、活動性感染がある患者ではその感染が治療・コントロールされるまでCAR-T細胞輸注を延期すること、不活化インフルエンザワクチンおよびCOVID-19ワクチンを患者・家族に推奨すること(免疫調節薬使用下での免疫原性・有効性は不確実だが、多くの患者で接種のベネフィットが不確実性を上回る)が示されている。さらにCAR-T毒性管理の経験がある専門施設での評価・転送を強く考慮すべきとし、外来治療の場合は治療施設から2時間以内に4〜8週間とどまり、毒性出現時は治療施設へ戻ることが望ましいとされる。

2. サイトカイン放出症候群(CRS)

CRSは、傍観者免疫細胞・非免疫細胞からのサイトカイン放出によって生じる病態である。ASTCTコンセンサス基準の基となった定義では、免疫療法後の超生理的反応であり、発症時に発熱を必須とし低血圧、毛細血管漏出(低酸素)、臓器障害を伴いうるとされる。発症は製品・患者集団により変動し、輸注後2〜7日にピークを示すが、最大3週間遅れる例も報告されている。症状は発熱、頻脈、低酸素、悪心、頭痛、皮疹、呼吸困難、軽度〜重度の低血圧(昇圧薬を要する場合を含む)、呼吸不全、凝固障害、多臓器不全など多彩である。

評価(全グレード共通)として、CBC、CMP、マグネシウム、リン、CRP、LDH、尿酸、フィブリノゲン、PT/PTT、フェリチンの測定、発熱時は血液・尿培養と胸部X線による感染評価が推奨される。好中球減少時は施設の発熱性好中球減少ガイドラインに従う。G2以上のCRS(輸液不応の低血圧、酸素投与を要する低酸素など)では持続的心電図テレメトリーとパルスオキシメトリーで監視し、重症例では心機能評価のための心エコーを考慮する。グレーディングはASTCTコンセンサス基準に基づき、発熱に加えて低血圧と低酸素の程度で規定される。解熱薬や抗サイトカイン療法(ステロイドやトシリズマブ)投与後は、発熱はグレード判定に必須ではなくなり、以後は低血圧・低酸素でグレードが決まる

グレード(ASTCT) 主な管理
G1:発熱38℃以上(他原因によらない)、低血圧なし、低酸素なし 解熱薬・輸液・臓器毒性および全身症状の対症療法。好中球減少時は経験的広域抗菌薬を考慮、製品ガイドラインに従いG-CSFを考慮(GM-CSFは非推奨)。3日超の遷延または難治性発熱はG2に準じて管理
G2:発熱+低血圧(昇圧薬不要)および/または低酸素(≤6 L/分の低流量経鼻カニューラまたはblow-by) G1の支持療法に輸液ボーラスと酸素投与を追加。トシリズマブ8 mg/kg IV 1時間(800 mg/回上限)、改善なければ8時間ごと反復、24時間で最大3回・総計最大4回。2回の輸液ボーラスと1〜2回のトシリズマブ後も低血圧が持続すればデキサメタゾン10 mg IV 12時間ごと1〜2回を考慮し再評価。トシリズマブ開始後24時間で改善なければG3に準じる
G3:発熱+低血圧(昇圧薬を要する)および/または低酸素(高流量経鼻カニューラ、フェイスマスク、非再呼吸マスク、ベンチュリマスクを要する) G2の支持療法に昇圧薬を追加し、ICU入室。心エコー未施行なら施行し血行動態モニタリング。24時間内に最大用量未達ならトシリズマブをG2に準じて継続し、デキサメタゾン10 mg IV 6時間ごとを併用、症状改善後は速やかに漸減。難治ならG4に準じる
G4:発熱+低血圧(複数昇圧薬を要する)および/または低酸素(CPAP、BiPAP、挿管・人工呼吸など陽圧を要する) G3の支持療法に必要に応じ人工呼吸。トシリズマブをG2に準じて継続。高用量メチルプレドニゾロン500 mg IV 12時間ごと×3日→250 mg×2日→125 mg×2日→60 mg 12時間ごと(G1改善まで)。改善しなければメチルプレドニゾロン1000 mg 1日2回または代替療法を考慮

低グレードCRSはIL-6拮抗薬であるトシリズマブで、難治・遷延・高グレードはコルチコステロイドで主に管理される。トシリズマブ難治例には、限られた経験ながらsiltuximab、clazakizumabといった代替IL-6拮抗薬が使用されうるが、入手可能なIL-6拮抗薬の有効性を直接比較した試験はない。IL-1受容体拮抗薬であるanakinraは、高グレードCRSの一部で軽減効果が示されている。追加の考慮点として、一部製品(axicabtagene ciloleucel、brexucabtagene autoleucel)では早期のステロイド使用がCRSおよび神経イベントの発生率低下につながると考えられ推奨されること、CRSおよび/またはICANSでステロイドを使用する患者では抗真菌予防を強く考慮することが挙げられている。

3. 免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)

ICANSは、CD19標的CAR-T治療を受けた患者のかなりの割合と、BCMA標的CAR-T治療を受けた一部の患者に生じる。臨床像は、錯乱・行動変化を伴う脳症、表出性失語などの言語障害、書字障害、構音障害、微細運動障害やその他の脱力、振戦、ミオクローヌス、頭痛である。重症例では昏迷に陥り、けいれんを来して気道保護のための挿管を要することがある。ごくまれに致死的となりうる悪性脳浮腫が生じる。発症はCRSと同時、CRS消退直後、または輸注後最大1か月の遅発まで幅があり、通常は自然軽快して症状は多くは5〜17日持続する。発症中央値は輸注後4日である。

グレーディングはCRSと同様にASTCTコンセンサス基準が推奨される。脳症の標準化評価である10点のICE(Immune Effector Cell–Associated Encephalopathy)スコアに加え、意識レベル、重度の運動麻痺、けいれん、頭蓋内圧亢進または脳浮腫の徴候という他の神経領域を評価し、5領域のうち最も重症の症状でグレードを判定する。12歳未満や発達遅滞の患者ではICE評価に代えてCornell Assessment of Pediatric Delirium(CAPD)スコアを用いる。ICE評価はリスク期間中のICANS発症の日々のスクリーニングに利用できる。

ICE評価項目 配点
見当識(年・月・都市・病院) 4点
呼称(3つの物品を呼称:時計・ペン・ボタンを指して命名など) 3点
指示従命(簡単な指示に従う:指を2本見せる、目を閉じて舌を出すなど) 1点
書字(標準的な文章を書く) 1点
注意(100から10ずつ逆算) 1点

評価・支持療法(全グレード共通)として、ICEスコアを含む神経学的評価と運動麻痺評価を1日2回以上実施し、改善・悪化を継続的に再評価して治療・監視を増減する。CRP、フェリチン、CBC、CMP、フィブリノゲン、PT/PTTの経時的測定、ICANSと関連が知られる製品やけいれんリスクの高い患者でのけいれん予防の考慮、神経毒性徴候のある患者への神経内科コンサルト、誤嚥予防とヘッドアップ、G2以上での脳神経画像(造影/非造影MRI、不可ならCT)、G3以上での腰椎穿刺(G2でも考慮可)、原因不明の意識変容やG2以上でのEEG評価、重度低ナトリウム血症の補正が示されている。

ICANS治療の主軸は支持療法とコルチコステロイドである。重要な点として、トシリズマブはICANSを改善せず、むしろ悪化させうる。トシリズマブが神経毒性を悪化させる可能性があるため、CRSとICANSが同時に生じている場合、ICANSの管理が低グレードCRSの管理より優先されうる。低グレード神経毒性は無治療で軽快することもあるが、G2以上のICANSには一般にコルチコステロイドが用いられる。24時間以内に改善しない患者では、神経画像を再検し、可能であれば開放圧測定を含むCSF評価を行う。グレード別には、CRS非合併のG3でデキサメタゾン10 mg IV 6〜12時間ごとまたはメチルプレドニゾロン等価量(1 mg/kg IV 12時間ごと)を投与しICU転送、G4では高用量メチルプレドニゾロン1000 mg IV 1〜2回/日×3日とICU入室が示される。CRS合併時はトシリズマブを併用するが、これは併存するCRSに対する投与であり、神経毒性の軽減を目的とするものではない。なお、ステロイドの急速漸減でICANSのフレア(再燃)が報告されており、漸減中はICANS再燃の綿密な監視が推奨される。

4. HLH(血球貪食性リンパ組織球症)

HLHは、組織球やリンパ球が皮膚・脾・肝などの臓器に蓄積し他の血球を破壊する病態である。CAR-T関連HLHの提案診断基準は、フェリチン10,000 ng/mL超に加え、骨髄または臓器での血球貪食像、あるいはG3以上のトランスアミナーゼ上昇・腎不全・肺水腫のうち、少なくとも2つの臓器毒性を伴うことである。症状には発熱、脾腫、肝腫大、リンパ節腫脹、皮疹、黄疸、咳・呼吸困難などの肺症状、腹痛・嘔吐・下痢などの消化器症状、頭痛・歩行障害・視覚障害・脱力などの神経症状が含まれる。発症率は約3.5%と比較的稀である。CRSと類似した発現様式のため診断は困難なことがあり、グレーディングシステムは存在するが検証・汎用されたものはなく、管理は必ずしもグレードで規定されない。

管理は支持療法を基本とし、悪化または不安定なときにコルチコステロイドを用いる。輸血閾値を推奨する十分なデータはないが、フィブリノゲン150 mg/dL未満では補充を考慮する。G3以上の臓器毒性はIL-6拮抗薬+コルチコステロイドで管理し、48時間後に反応不十分ならanakinra追加を考慮する。重症・難治例ではエトポシドが考慮されうるが、この領域のデータは不足しリンパ球への影響が懸念される。HLH関連神経毒性には髄注シタラビン(ヒドロコルチゾン併用の有無を問わず)も考慮されうる。

5. 血球減少・B細胞無形成・DIC・感染症

血球減少は、貧血・血小板減少・白血球減少・好中球減少として現れる。輸注後3か月以内の急性血球減少が多いが、少数例で遷延血球減少がみられ、その機序は不明で多因子性と考えられる。骨髄異形成症候群に関連しない場合は成長因子支持やコルチコステロイドが用いられうる。グレード別管理では、G4で高用量メチルプレドニゾロンを用い、好中球回復のための成長因子支持を施設ガイドラインに従い考慮する。

B細胞無形成は、CD19標的CAR-Tのon-target off-tumor効果による。CAR-T後に遷延しうるが、遷延B細胞無形成の頻度には変動がある。主な合併症は感染であり、静注免疫グロブリン(IVIG)の補充で管理できる。全グレードでインフルエンザ・COVIDワクチンの推奨、抗ウイルス・PJP予防(輸注後6〜12か月またはCD4が200 cells/μLを超えるまで)、CRSやICANSでステロイドを受ける患者を含む高リスク患者での抗真菌薬の考慮が示される。IgGが400未満で症状を伴う場合(G2以上)はIVIG補充を考慮する。

DICは、全身性に凝固機構が病的に活性化して全身で凝固塊が形成される病態で、血小板・凝固因子の枯渇により出血リスクが増す。CAR-T後では多くが急性に、輸注後最初の数週以内に生じ、CRS合併の有無を問わず起こりうる。推奨される治療は主に支持療法と、フィブリノゲン値・PTT・出血の有無に基づく因子補充である。CRS合併や重度の出血ではコルチコステロイドとIL-6拮抗薬を用いうる。G4ではIL-6拮抗薬とメチルプレドニゾロン1000 mg/日×3日(その後漸減)を用い、フィブリノゲン150 mg/dL未満で補充を考慮する。

感染症はCAR-T後に高頻度である。多くは輸注早期に生じるが、数週〜数か月後の遅発もあり、遅発感染は遷延B細胞無形成およびCRS/ICANS治療のためのステロイド使用と相関する。治療は感染源に向けて行い、遷延血球減少例では予防的抗菌薬が推奨される。全グレードで抗ウイルス・PJP予防、高リスク患者での抗真菌薬、CRS後に7日超の好中球減少がある患者でのG-CSFが示される。グレード別には、発熱発症時の経験的抗菌薬(レボフロキサシン・シプロフロキサシンなどの抗菌薬、フルコナゾールなどの抗真菌薬、バラシクロビル・アシクロビルなどの抗ウイルス薬)の考慮(G1)、経口抗菌薬(G2)、静注抗菌薬(G3)、集中治療(G4)が示される。

6. 結論

本ガイドラインは、需要の高まるCAR-T細胞療法関連毒性の管理について、臨床医が迅速に認識・診断し、他の医療サブスペシャルティと連携してこれらの特有の毒性群を管理するための戦略とベストプラクティスを提供することを目的としている。短期毒性の管理は多くの患者で支持療法に始まり、十分な反応が得られない患者では薬物的介入を要しうること、遷延・重症のCRSにはトシリズマブ(コルチコステロイド併用の有無を問わず)を、急速な悪化の可能性に鑑み中等度〜重度のICANSにはコルチコステロイドと最善の支持療法を用い、症状がG1に改善したら速やかに漸減すべきことが、中心的なメッセージである。

 

Diagnosis and management of bispecific T cell-engaging antibody toxicity: A primer for emergency physicians

二重特異性T細胞誘導抗体(bispecific T cell–engaging antibodies;BsAbs)の有害事象を、ER診療目線で整理した総説である。本論文の特徴は、救急医(EM physician)と日常的にBsAbを投与する腫瘍内科医が共同で執筆している点にあり、サイトカイン放出症候群(CRS)・免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)・感染という三大毒性の診断と初期管理を、ER目線のグレード別アルゴリズムと薬剤投与量つきで提示している。

1. Introduction

BsAbはT細胞傷害性を増強するよう設計された新しい免疫療法であり、がん治療での使用が増えている。腫瘍内科医はBsAb治療患者を綿密にモニターするが、これらのレジメンが外来で投与されること、患者がベースラインで免疫抑制状態にあることから、救急医がBsAb関連有害事象(adverse events;AEs)の評価・治療のためにがん患者に遭遇する可能性が高まっている免疫療法クラスの抗がん剤には、免疫チェックポイント阻害薬、キメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T)、BsAb療法が含まれる。2022年版American Board of Emergency Medicine Model of Clinical Practiceは免疫療法合併症を含むよう更新され、2025年から施行される。現役EM医師向けのBsAb情報が乏しいことが、本総説執筆の動機である。

2. BsAbのがん治療における位置づけ

がん治療に用いられる現行のBsAbはT細胞を標的とする。これらのBsAbは2つの結合部位を持つ。一方は正常T細胞に普遍的に存在するCD3に結合し、もう一方は腫瘍細胞上の抗原に結合する。両方に結合すると、BsAbはT細胞と腫瘍細胞の間に免疫シナプスを形成する。この相互作用が、T細胞介在性のサイトカイン放出とそれによる細胞傷害を介して腫瘍細胞融解を引き起こす。BsAbは構築物・がん種・他剤との併用の有無によって投与スケジュール・標的細胞・AEプロファイルが異なる。

CRSとICANSの高頻度化・重症化の一般的なリスク因子として、高腫瘍量(骨髄形質細胞増多および髄外病変)、急速進行性疾患、形質細胞白血病、ベースラインの炎症マーカー高値(CRP、フェリチン、LDH)、CNS浸潤が挙げられている。多くのCRS・ICANSは治療のstep-up phase早期に起こるが、遅発例も報告されている。

3. Cytokine release syndrome(CRS)

CRSは免疫療法によって誘発される、制御不能で超生理的な反応であり、内因性あるいは輸注されたT細胞や他の免疫エフェクター細胞の活性化・関与を伴う。T細胞誘導BsAbの結合により、特にIL-6、IL-1、TNF-α、IFN-γといった炎症性サイトカインが放出される。活性化した適応免疫細胞と自然免疫細胞の間の正のフィードバックループが、過剰なサイトカイン放出と過炎症を引き起こす。

臨床像として、発熱(≥38℃)はCRS診断の必須要件であり、重症度は低血圧と低酸素の有無で規定される(CTCAEv5.0)。CRSは典型的にBsAb治療の最初の1〜2日以内に出現し、主に最初の数回(またはstep-up用量)に関連し、概ね1〜3日で消退する。治療開始14日を超えての発症は極めて稀である。腫瘍量の多い患者ほど重症CRSを経験しやすい。

ER評価では、CRSはしばしば除外診断であるため、感染性病因や、低血圧・低酸素をきたしうる他の心肺疾患を除外するための同時精査を行う。低血圧や低酸素があれば、心電図(ECG)、トロポニン、胸部X線、心エコーを含む心臓評価を進める。正式なECGが利用できなければ、point-of-care超音波がベッドサイドでの鑑別に役立つ。プロカルシトニンはCRSと感染の鑑別に有用でありうる。CRP、ESR、フェリチンといった炎症マーカーは患者の炎症レベルの手がかりとなり、外来で測定された値と比較できる。利用可能であればIL-6・IFN-γを含むサイトカインパネルも、腫瘍内科による入院管理を助ける。

ER管理では、デキサメタゾンが初期免疫抑制薬の第一選択である。軽症〜中等症(CTCAE grade 1〜2)の多くは、IV輸液・アセトアミノフェン・デキサメタゾン(最大10mgを6時間ごと、臨床的に適切なら中止または漸減)で管理できる。grade 2症状がデキサメタゾンにもかかわらず持続する場合はトシリズマブ8mg/kg IVを考慮する。中等症〜重症(grade 3〜4)へ進行する場合はトシリズマブ(8mg/kg、最大800mg、8時間ごと、最大3回)が適応となる。grade 4ではステロイドをデキサメタゾン20mg IV 6時間ごと、またはメチルプレドニゾロン2mg/kg(最大1g/日、1〜3日)に増量する。これらに不応であれば、siltuximab、anakinra、etanerceptなどの抗サイトカインモノクローナル抗体や、T細胞を死滅させる古典的化学療法レジメンが用いられる。

CTCAEv5.0によるCRSのグレード分類と治療提案

Grade 定義 治療提案
Grade 1 発熱(全身症状の有無は問わない) 通常の敗血症ケア(IV輸液、経験的抗菌薬/感染精査)、解熱薬・抗ヒスタミン薬。難治性発熱または3日以上続く発熱でトシリズマブ追加を考慮
Grade 2 輸液に反応する低血圧、40%未満のO2で反応する低酸素 grade 1の対応を継続。デキサメタゾン10mg IV BID(症状持続でq6hに増量)。IVFとステロイドにもかかわらず4時間後に症状持続すればトシリズマブ8mg/kg IVを考慮
Grade 3 昇圧薬1剤で管理する低血圧、40%超のO2を要する低酸素 grade 2の対応を継続。全点滴を中止。デキサメタゾン10mg IV q6h、×3日±4日かけて漸減。トシリズマブ8mg/kg IV(最大800mg)q8h、最大3〜4回。不応例でanakinra 2mg/kgを3〜5日追加を考慮
Grade 4 複数または高用量の昇圧薬を要する、機械換気を要する デキサメタゾン20mg IV q6hまたはメチルプレドニゾロン2mg/kg(最大1g/日)×3日。トシリズマブ8mg/kg IV(最大800mg)q8h、最大3〜4回。不応例で補助的サイトカイン阻害薬(siltuximab、anakinra、etanerceptなど)の追加を考慮
Grade 5 死亡

4. Immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome(ICANS)

ICANSはBsAbに関連する神経学的AE群を指す用語である。BsAb治療を受ける患者がICANSを経験する頻度はCRSよりはるかに低い。機序は完全には確立されていないが、サイトカイン介在性の血管内皮活性化により血液脳関門が破綻し、サイトカインが一過性に脳脊髄液・脳へ漏出するために起こると考えられている。

ICANSは典型的に治療開始7日以内に出現する。神経症状の進行性スペクトラムとして現れ、振戦・書字障害(dysgraphia)・喚語困難・軽度錯乱といった微妙な症状から、全失語・痙攣・意識レベル低下・脳浮腫といった重症像までを呈する。頭痛と振戦が最も多い症状である。症状が微妙であるため、病歴聴取と身体診察において高い臨床的疑いが不可欠である。患者がわずかな認知障害を抱えながらもコミュニケーション可能なことがあるため、低グレードのICANSは細心の注意なしには検出が難しい。

ER評価において、ICANSは主に臨床診断であり、ER精査はしばしば他の鑑別を除外するために行われる。意識レベル、痙攣の有無、運動所見の評価と、頭蓋内圧評価・他疾患除外のための神経画像が含まれる。書字評価は微細運動協調の低下を検出する有用な方法であり、micrographia(小字症)やdysgraphiaがICANSの早期徴候となりうる。加えて、受容性失語や発語・見当識・書字・注意の障害を測定するimmune effector cell encephalopathy(ICE)スコアが、ICANS重症度の判定に必須である。標準的な意識障害精査に加えて、LDH・ESR・フェリチン・CRPを評価する。LDH上昇は通常高腫瘍量のマーカーであり、フェリチン・ESR・CRPの上昇は神経毒性発症の高い可能性と相関する。神経画像は通常、頭部単純CTから開始し他疾患を除外する。多くのICANS患者では神経画像は正常だが、重症例では頭蓋内圧上昇を示すびまん性脳浮腫を呈することがある。

ER管理は重症度グレードに基づき、対症療法と高用量ステロイドからなる。トシリズマブは血液脳関門を通過しないため、CRSが併存する場合を除いて使用しない

ICEスコアによるICANSのグレード分類と治療提案

Grade ICEスコア 所見 治療提案
Grade 1 7〜9点 自発的に覚醒している 支持療法、痙攣予防。デキサメタゾン10mg IV 1回の追加を考慮。CRS併存時のみトシリズマブ8mg/kg IV 1回を追加
Grade 2 3〜6点 呼びかけで覚醒 デキサメタゾン10mg IV BID。anakinraを考慮。痙攣・脳浮腫は通常のプロトコルに従い治療
Grade 3 0〜2点 接触で覚醒、神経画像で局所浮腫、痙攣 デキサメタゾン10mg IV q6h。改善なければデキサメタゾン20mg IV q6hまたはメチルプレドニゾロン2mg/kg(最大1〜2g/日)を考慮。anakinraを考慮。痙攣・脳浮腫は通常のプロトコルに従い治療
Grade 4 0点(重度意識障害で評価不能) 覚醒不能、てんかん重積、片麻痺、神経画像でびまん性脳浮腫 メチルプレドニゾロン2mg/kg(最大1〜2g/日)。anakinraその他の抗サイトカイン補助薬を考慮。痙攣・脳浮腫は通常のプロトコルに従い治療

5. Infection(感染)

BsAb治療を受ける患者では、細菌・ウイルス・真菌感染のリスクが増加する。これはT細胞リダイレクション、T細胞疲弊、好中球減少、リンパ球減少、低ガンマグロブリン血症、ならびにがん関連併存症・免疫状態に起因する。ERでの病歴聴取では、既存の予防内服の有無とアドヒアランスの評価を組み込み、正確な鑑別と初期の抗感染療法計画を立てる。細菌性肺炎やウイルス性上気道感染を含む呼吸器感染が、ERで遭遇する最も頻度の高い感染合併症である。ただしBsAb療法の免疫抑制作用のため、サイトメガロウイルス(CMV)や、真菌感染・緑膿菌肺炎などの日和見感染も考慮しなければならない。腫瘍内科チームとの速やかな相談と、複数回の感染歴がある患者での早期感染症コンサルトが推奨される。

6. On-target off-tumor toxicity

On-target off-tumor毒性は、BsAbの標的抗原が非腫瘍細胞にも存在する場合に生じる。多くのBsAb標的はがん細胞に均一に発現し正常組織では必須でないが、正常組織からの発現が完全に欠如しているとは限らないため、ある程度のon-target off-tumor毒性が生じうる。BsAbが腫瘍特異的であるほど、この毒性のリスクは低い。症状は標的の発現プロファイルに依存する。

7. 薬剤別のAEプロファイル

本論文は主要なFDA承認BsAbごとに、適応・投与法・固有のAEを整理している。以下に薬剤クラス別の要点を示す。

FDA承認BsAbの概要

薬剤 標的(CD3|腫瘍抗原) 適応 FDA初回承認
Blinatumomab CD3|CD19 B細胞性ALL 2014年12月
Tebentafusp CD3|gp100 ぶどう膜黒色腫 2022年1月
Teclistamab CD3|BCMA 多発性骨髄腫 2022年10月
Mosunetuzumab CD3|CD20 濾胞性リンパ腫 2022年12月
Epcoritamab CD3|CD20 DLBCL、LBCL、濾胞性リンパ腫 2023年5月
Glofitamab CD3|CD20 DLBCLまたはLBCL(obinutuzumab前投与を要する) 2023年6月
Elranatamab CD3|BCMA 多発性骨髄腫 2023年8月
Talquetamab CD3|GPRC5D 多発性骨髄腫 2023年8月
Tarlatamab-dlle CD3|DLL3 進展型小細胞肺癌(ES-SCLC) 2024年5月

Blinatumomab(白血病)はCD19を標的とし、再発・難治性B-ALLや検出可能なMRDを有する患者に承認されている。2024年6月以降は、MRD陰性で寛解した成人の地固め療法にも承認された。半減期1〜2時間と短いため、24時間持続点滴を安定した専用IVアクセス(PICCまたはトンネル型カテーテル)から行う必要がある。最初の2サイクルは入院投与が推奨される。ERでは、blinatumomabの点滴ラインをフラッシュしてはならない。フラッシュは薬剤のボーラス投与となりうるためである。専用ルーメンは採血や他剤投与に使用しない。ポンプや中心静脈アクセスの問題、AEによる投与中断の懸念は治療担当腫瘍内科医に伝え、腫瘍内科チームの指導なしにERで投与を再開しない。CRSは14〜35%、grade≥3は最大5%で、サイクルを重ねると減少する。発熱は通常点滴開始後12時間以内に起こる。神経毒性は他のBsAbより高頻度で、CD19が神経内皮に存在することに起因する。ICANSは最大2/3に報告され、grade≥3の神経学的AEは14〜25%、サイクル4までに5%まで低下する。あらゆる神経毒性の発症中央値は点滴開始から9日、持続は約5日である。感染は最大25%で、低ガンマグロブリン血症・好中球減少・T細胞疲弊が背景にある。On-target off-tumor毒性として肝酵素上昇があり、致死的膵炎も報告されているため、消化器症状を呈する患者ではリパーゼ測定と膵炎評価を行う。稀に腫瘍崩壊症候群も報告されている。

BCMA・GPRC5D標的BsAb(多発性骨髄腫)では、BCMA標的のteclistamabとelranatamabが、4ライン以上の既治療歴を有する再発・難治性多発性骨髄腫に承認されている。いずれも皮下投与で、目標用量到達後は週1回投与だが、目標用量へのstep-upはしばしば入院で行われる。主要AEはCRS・ICANS・感染である。GPRC5D標的のtalquetamabは、最初の非BCMA BsAbとして承認され、皮下投与で週1回または2回投与される。主要AEはCRS・皮膚/爪関連AE・口腔毒性である。CRSとICANSは典型的にstep-up期に起こり、CRSの発症は直近投与から平均約2日で、CRSがICANSに先行することが多い。BCMA BsAbでは感染と低ガンマグロブリン血症が高頻度のため、HSVおよびPneumocystis jirovecii肺炎(PJP)の予防とIVIG補充が推奨される。CMV・EBV再活性化が知られ、原因不明の血球減少・消化器症状・トランスアミナーゼ上昇を呈する患者ではCMV・EBVウイルス血症を評価する。GPRC5D BsAbはBCMA BsAbより感染が少なく軽症である。On-target off-tumor毒性として、BCMAでは低ガンマグロブリン血症・味覚低下・下痢・血球減少・肝毒性・皮膚AEがあり、遅発性ICANSに類似する進行性多巣性白質脳症(PML)の報告もある。GPRC5Dでは味覚異常・皮膚剥離・爪甲剥離などが固有の毒性として同定されている。

CD20標的BsAb(リンパ腫)では、mosunetuzumabが再発・難治性濾胞性リンパ腫に、glofitamabとepcoritamabが再発・難治性DLBCLなどに承認されている(epcoritamabは濾胞性リンパ腫とDLBCLの両方)。glofitamabの特徴は、step-up開始の1週間前にobinutuzumabの前投与を要する点で、これはCRSリスク軽減を目的とする。3剤すべてが重篤または生命を脅かすCRSに対するblack-box warningを持ち、epcoritamabは生命を脅かす・致死的なICANSのblack-box warningも持つ。any-grade CRSは37〜71%で、濾胞性リンパ腫はDLBCLより低率である。初回サイクル以降はCRS・ICANSとも頻度が減り、概ねgrade 1または2で、死亡報告はない。神経毒性はCAR-Tより稀で自然消退しやすく、これはBsAbが血液脳関門を通過しないという機序の違いによる。稀に血球貪食性リンパ組織球症(HLH、<1%、EBVやCMV感染に関連)が起こる。On-target off-tumor毒性として、好中球減少・貧血・疲労・下痢・低リン血症が最大1/3に、grade 3の血球減少が10%に生じる。重篤感染が最大40%で、COVID-19・HSV・VZV・EBVなどのウイルス感染、PJPなどの真菌感染、細菌感染を含み、死亡に至った例もある。COVID-19を発症した患者には速やかな抗COVID-19療法を行う。また腫瘍フレア反応(病変増大が疾患進行と紛らわしい)がglofitamabで報告されており、ERで疑った場合は電解質異常の精査とECGを行う。

Tebentafusp(黒色腫)はTCR型BsAbで、メラノサイト由来細胞に発現するgp100ペプチドに高親和性で結合する。転移性ぶどう膜黒色腫に対する唯一のFDA承認全身療法である。第III相試験では、any-gradeの治療関連AEが99%に発生し、最多はCRS(89%)・発疹(83%)・発熱(76%)・悪寒(69%)であった。high-grade(CTCAE grade 3または4)AEは44%で、grade≥3 CRSは1%のみ、AEによる治療中止は2%であった。AEの57%は治療開始から最初の4週間以内に発症し、頻度・重症度は投与を重ねると低下する。皮膚AEは発疹・掻痒・紅斑が主で、浮腫(特に眼窩周囲浮腫)を伴うことがある。稀に表在性水疱反応が報告されている。

Tarlatamab-dlle(小細胞肺癌)は2024年5月にプラチナ製剤後に進行したES-SCLCに迅速承認された。DLL3を標的とし、DLL3はSCLC患者の約85〜94%に異常発現する。半減期は11.2日と長く、28日サイクルのstep-up投与で、CRSリスク軽減のためデキサメタゾンと生理食塩水を同一IVカテーテルから前後に投与できる。入院投与は不要だが、初回は適切な医療施設で22〜24時間の監視が必要で、初回後48時間は介護者と滞在し、医療施設から1時間以内に留まる。後続サイクルでは監視時間が短縮される(cycle 2で6〜8時間、cycle 3〜4で3〜4時間、cycle 5以降で2時間)。CRS以外の最多AEは疲労(51%)・発熱(36%)・味覚異常(36%)・食欲不振(34%)・筋骨格痛(30%)・便秘(30%)・貧血(27%)・悪心(22%)である。CRSは最大55%で、多くはgrade 1(34%)・grade 2(19%)、grade 3(1.1%)・grade 4(0.5%)は稀である。CRSは初回投与時(43%)に2回目(29%)・3回目以降(9%)より多く起こり、all-gradeの発症中央値は13.5時間である。神経毒性は47%(ICANSを含む)で最多は頭痛(14%)、ICANSは9%に生じる。ICANSは初回投与からの発症中央値が29.5日と遅く、消退まで中央値33日を要し、infusion後数週間して出現しうる点が臨床的課題である。感染は41%で、好中球減少(12%)・血小板減少(33%)・貧血(58%)を伴う。肝毒性(ALT上昇42%、AST上昇44%)・高ビリルビン血症(15%)もあり、投与前に肝酵素・ビリルビンを確認する。

8. Conclusion

BsAbはがん治療の新時代を告げる薬剤クラスである。比較的新しい治療であるため、AEプロファイルと管理戦略の理解は急速に進化している。BsAb関連AE、特にCRSとICANSの診断は、提示が微妙でありルーチンの検査・画像の有用性が限定的であるために難しい。これらの患者がERを受診した際にはBsAb関連AEへの高い臨床的疑いが不可欠であり、最適な管理にはチームベースの協働的アプローチが求められる。AEが疑われた時点での腫瘍内科医への速やかな連絡が、適切で効果的なER診療を確保するうえで決定的に重要である、というのが本論文の中心的メッセージである。

臨床実践のまとめ&Pitfall

この論文を救急の現場に落とし込むときに、まず効くのは「BsAbという薬剤クラスを知っているかどうか」という入口の視点だと思います。本論文がそもそも「救急医はこの薬を教わっていない」という問題意識から書かれているとおり、病名や薬剤名を聞いてもピンとこないと、CRSやICANSは見逃されます。外来でBsAbを投与されているがん患者が、発熱や意識変容、息切れでERに来る——この状況設定を頭の引き出しに作っておくのが第一歩です。

診断のうえで一番ハマるのが、CRSの発熱を感染と決めつけてしまうところです。CRSは発熱(≥38℃)が診断の必須要件ですが、本論文も「CRSは除外診断」と位置づけているとおり、感染や心肺疾患を同時に精査する姿勢が要ります。プロカルシトニンが感染との鑑別の手がかりになる、と明記されている点はER的に使い勝手がよいので押さえておきたいところです。低血圧や低酸素があればECG・トロポニン・胸部X線・心エコーで他疾患を潰しにいく、という流れも忘れずに。

ICANSはさらに微妙です。頭痛と振戦が最多で、軽いものだと会話できてしまうので素通りしかねません。本論文が勧めているのが書字評価で、micrographiaやdysgraphiaが早期徴候になります。「なんとなくおかしい」を捉える具体的な手段として覚えておくと便利です。

治療で外せないPitfallが2つあります。1つめはトシリズマブはICANS単独には使わないこと。血液脳関門を通過しないため、CRSが併存しているときだけ意味を持ちます。2つめはblinatumomabのラインを絶対にフラッシュしないこと。半減期が短く24時間持続点滴なので、フラッシュするとボーラス投与になってAEを悪化させかねません。腫瘍内科の指導なしにERで投与を再開しない、というのもセットで覚えておきたいルールです。

最後に時間軸の落とし穴を。多くのCRS・ICANSは治療開始から1〜2週間以内に出ますが、tarlatamabのICANSは発症中央値が約29日と遅く、infusionから数週間して出ることが本論文で強調されています。「最近点滴を受けたか」だけでなく「ここ1か月でBsAbを始めていないか」まで踏み込んで聴くと、遅発性の神経毒性を拾えます。そして全体を貫くメッセージはシンプルで、AEを疑った時点で腫瘍内科医に早く連絡する——これが本論文の一番のpearlです。

 

 

Cytokine release syndrome in solid tumors

固形腫瘍に対する免疫療法(ICI、二重特異性T細胞engager〔BiTE〕、CAR-T細胞療法)に伴うサイトカイン放出症候群(CRS)を、固形腫瘍という文脈に絞って整理した総説。ICIによるCRSが約1%とまれである一方、BiTEやCAR-Tでは発生率が高く(最大89〜90%)、救急の現場で免疫療法歴のある患者を診る機会が増えていくなかで、ASTCTグレーディングと敗血症との鑑別、tocilizumabを第一選択とする初期対応を押さえておく意義は大きい。

1. Introduction:固形腫瘍とCRSの現在地

がん免疫療法は過去10年で大きく進歩し、悪性黒色腫・肺癌・腎細胞癌などで予後を改善してきた。固形腫瘍でライセンスされている免疫療法はICIが中心であるが、BiTEは小細胞肺癌やぶどう膜黒色腫で有効性のエビデンスが出つつあり、CAR-Tは固形腫瘍では未承認ながら第III相試験が進行中である。これらの治療はいずれも免疫活性化に起因する重大な毒性を生じうる。

CRSは生命を脅かしうる合併症で、CAR-T細胞療法やBiTEを受けた患者でより高頻度に生じる。発熱・低血圧・低酸素を伴うスペクトラムとして現れ、T細胞・B細胞・NK細胞・マクロファージが関与する全身性炎症反応である。CAR-T療法でのCRS発生率は57〜93%(主に血液腫瘍データ)、新しいBiTEの第2/3相試験では最大51%・89%と報告される一方、固形腫瘍で広く使われるICIでのCRSは約1%とまれで、しばしば過小報告される。検査異常として血球減少、凝固障害、肝酵素上昇、急性腎障害(AKI)がみられる。

固形腫瘍に承認・開発中の免疫療法とCRS発生率を以下に示す。

クラス 薬剤 適応疾患 CRS発生率(%)
PD-1/PD-L1阻害薬(ICI) ペムブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、セミプリマブ 悪性黒色腫、HCC、NSCLC、食道、大腸、胃、RCC、膀胱、乳、子宮頸 1
LAG-3(ICI) レラトリマブ 悪性黒色腫 不明
CTLA-4阻害薬(ICI) イピリムマブ、トレメリムマブ 悪性黒色腫、HCC、NSCLC、食道、大腸、胃、RCC 1
DLL-3(BiTE) タルラタマブ 進展型小細胞肺癌 51
gp100特異的TCR(BiTE) テベンタフスプ ぶどう膜黒色腫 89
樹状細胞ワクチン シプリューセルT mCRPC 3.5–71.2
CAR-T(第3相試験中) 抗CEA CAR-T 膵癌 不明
IL-15受容体作動薬 N-803 NSCLC、非筋層浸潤性膀胱癌 90

2. Pathophysiology:何がCRSを駆動するのか

CRSは1990年代初頭、固形臓器移植の免疫療法として用いられた抗T細胞抗体OKT3(muromonab-CD3)の合併症として初めて記載された。腎移植患者で、発熱・頭痛・消化器症状という自然軽快する臨床症候群が、TNF・IFN-γ・IL-2の一過性上昇と相関すること、そしてこれらがステロイド併用で軽減されることが見いだされた。その後、ニボルマブ、抗胸腺細胞グロブリン、リツキシマブ、オビヌツズマブ、アレムツズマブ、ブレンツキシマブ、ダセツズマブといった抗体療法でも記載され、COVID-19やインフルエンザのような重症ウイルス感染でも「サイトカインストーム」として生じうる。

機序の中心は、BiTE・CAR-T・(まれに)ICIが標的抗原に結合することで標的細胞のみならずバイスタンダーの免疫・非免疫細胞も活性化し、IL-6、IL-1、IL-5、IL-10、IFN-γ、TNF-α、TGFなどの炎症性サイトカインが大量放出される点にある。内皮細胞・単球/マクロファージ・樹状細胞との相互作用がこれを増幅し、症状悪化と臓器障害につながる。本論文は、CRSの主要プレーヤーとしてIFN-γ、IL-6、内皮細胞、TMEを挙げている。

なお、NK細胞を中心としたプラットフォーム(tri-specific killer engager、CAR-NK、NK-cell engager)は、T細胞リダイレクト型のCAR-T・BiTE・ICIと対照的に、臨床的に問題となるCRSをほとんど起こさない。これはNK細胞がGM-CSFやIL-6をほとんど産生せず、マクロファージの増幅が始動しないためと考えられている(ただしこのデータは血液腫瘍に限られる)。

IFN-γ:T細胞engagerの文脈では、活性化T細胞または腫瘍細胞からのIFN-γ放出がCRSの起点となり、発熱・神経症状・倦怠感を惹起する。放出されたIFN-γはマクロファージを刺激し、IL-6・TNF-α・IL-10の産生を促す。なかでもIL-6がCRSで最も重要な役割を担うとされ、CRS患者の血清で一貫して上昇が観察される。

IL-6:多面的なサイトカインで、膜結合型IL-6受容体(mIL-6R)を介するclassical signaling(主に抗炎症的)と、可溶性IL-6受容体(sIL-6R)とgp130を介するtrans-signaling(炎症惹起的)の2経路をもつ。重症CRSにおける血管漏出、補体・凝固系活性化、播種性血管内凝固(DIC)にはtrans-signalingが関与する。IL-6遺伝子多型がCRSの素因となる可能性が示唆されているが、臨床応用には至っていない。

内皮細胞:内皮細胞の活性化は重症CRSの病態の中心と考えられ、毛細血管漏出・凝固障害・低血圧という重症CRSの特徴を説明しうる。血管透過性亢進により血漿蛋白と体液が間質へ漏出し、低血圧と浮腫を生じる。Ang-2やフォン・ヴィレブランド因子が上昇し、IL-6 trans-signalingが内皮細胞を活性化して正のフィードバックループを形成する。抗CD19 CAR-T治療例では、内皮機能障害がCRS・DIC・予後の予測因子と同定されている。

腫瘍微小環境(TME)と腫瘍抗原:固形腫瘍のTMEは不均一で免疫抑制的であり、高い腫瘍内圧と密な構造のためCAR-Tが到達しにくい。骨髄由来抑制細胞やTreg、IL-10・TGF-βがCRS重症度を増強しうる。前臨床データでは抗原密度がサイトカイン放出度に影響し、腫瘍量・抗原発現量が炎症性サイトカイン放出と強く関連する。臨床的には、高密度かつ広範に発現する上皮抗原は腫瘍量が中等度でも強いCRSを惹起しうる一方、高発現でも局在が限定された抗原は重症度を軽減しうる。その例として、胃上皮に高発現するが他の重要組織にほぼ存在しないClaudin-18.2が挙げられ、胃癌・膵癌に対するCLDN18.2-CAR-Tの初回ヒト試験では94%がgrade 1〜2のCRSのみで、grade 3以上は報告されなかった。抗原の負荷量・局在・選択がCRSを調節する重要なレバーとなる。

3. 臨床像と発症時期

CRSの臨床像はインフルエンザ様症状から生命を脅かす多臓器不全まで幅広い。臨床データの大半が血液腫瘍由来である点に限界があるが、発熱が特徴かつ通常は最初の臨床徴候であり、早期に倦怠感・筋肉痛・頭痛・悪寒、下痢・嘔吐などの消化器症状を伴う。重症化すると低血圧・低酸素に進行し、昇圧薬・人工呼吸・腎代替療法といった集中治療と臓器サポートを要する。DIC、毛細血管漏出症候群、肝機能障害、AKIも炎症過程の合併症として知られる。

神経毒性はCRSの他の徴候と併発または後発しうるが、発症時期・治療反応・病態生理が異なるため、現在はICANS(immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome)として別個の病態に定義されている。

発症時期は免疫療法の種類で異なり、抗体療法では数分〜数時間、養子T細胞療法ではT細胞のピーク増殖に一致して数日〜数週、ICIでは通常1週間〜30日とされる。軽症CRSは数日で消退するが、重症型は数週以上持続しうる。

臓器別の臨床所見は次のとおりである。

系統 症状・所見
全身 発熱、低血圧、頻脈
神経 頭痛、錯乱、けいれん
呼吸 呼吸困難、低酸素
循環 不整脈
急性腎障害
肝酵素上昇、肝不全
消化器 下痢
その他 筋肉痛、関節痛、rigor、皮疹

4. ER評価と敗血症との鑑別

救急の現場でCRSを評価する際の最大の論点は、敗血症との鑑別である。本論文は鑑別として、敗血症のほか心不全の増悪、血栓塞栓症、アレルギー反応、腫瘍進行を挙げている。腫瘍崩壊症候群は血液腫瘍では一般的な腫瘍学的緊急症だが、固形腫瘍では極めてまれである一方、高い死亡リスクを伴う。

検査については、リアルタイムのサイトカイン測定は多くの施設で利用困難であり、グレーディングや管理への即時的有用性が限られる。IL-6はCRSの病態に関与するが、その値は重症度や治療反応と必ずしも相関しない。CRPは安価で広く利用可能だが特異度に乏しく、上昇が臨床悪化に遅れるため実用性に限界がある。

重要なのは、CRSと敗血症は併存しうるため、いずれに対しても疑う閾値を低く保つ必要がある点である。鑑別の補助として、CAR-T由来CRSでは敗血症よりIFN-γが高い傾向があり、逆に敗血症ではIL-1β・プロカルシトニンなど内皮障害マーカーが高い傾向がある。感染除外のためのアッセイと血清サイトカイン測定を組み合わせることで massive cytokine release のトリガー同定を補助しうるが、これらはまだ広く臨床使用されていない。なお感染が除外できない場合、とくに好中球減少例では経験的抗菌薬投与が推奨される。

5. ASTCTグレーディング

現行のグレーディングは、2019年に発表されたASTCT(American Society for Transplantation and Cellular Therapy)コンセンサスである。これ以前にはCTCAE v4.0〜5.0、Lee、Penn、MSKCC、CARTOXといった複数の基準が存在し、施設・試験間でのばらつきが製品安全性の比較や管理戦略の確立を妨げていた。ASTCTシステムは血液腫瘍データをもとに開発されたが、現在は多くの臨床医が固形腫瘍にも転用している。発熱・低血圧・低酸素という観察可能な臨床パラメータで判定し、サイトカイン値やCRPは標準化と即時性の問題からグレーディングからは除外される(CRSに関連する臓器毒性はCTCAE v5.0で評価しうるが、CRSのグレーディングには影響しない)。

パラメータ Grade 1 Grade 2 Grade 3 Grade 4 Grade 5
発熱 体温≥38℃ 体温≥38℃ 体温≥38℃ 体温≥38℃ CRSによる死亡
低血圧(および/または) なし 昇圧薬不要 昇圧薬1剤を要する(vasopressinの併用は問わない) 複数の昇圧薬を要する(vasopressinを除く)
低酸素 なし 低流量経鼻カニューラまたはblow-byを要する 高流量経鼻カニューラ、フェイスマスク、非再呼吸マスク、ベンチュリーマスクを要する 陽圧換気(CPAP、BiPAP、挿管・人工呼吸)を要する

CRSの消退は、ASTCTシステムでは診断の根拠となった全症状が消退した時点と定義され、発熱の消退のみでは不十分とされる。tocilizumab投与後は発熱が数時間で消退するが、他の症状は遷延しうる。重症CRSは、発熱が消退し患者が酸素投与も昇圧薬も要さなくなった時点で消退とみなされる。

6. Management:支持療法とエスカレーション

管理の包括的目標は、生命を脅かす合併症を防ぎつつ、良好な抗腫瘍効果の可能性を温存することである。固形腫瘍の免疫細胞療法は現状では治癒的ではなく緩和的設定で行われることが多く、ケアの天井(ceiling of care)を治療開始時に患者参加のもとで設定し、毒性発現時に見直すことが望ましい。治療アルゴリズムの多くは血液腫瘍からの外挿だが、固形腫瘍の免疫エフェクター細胞療法200例超のデータでは、grade 2以上のCRSの約90%がASTCT準拠のtocilizumab(±ステロイド)投与で消退しており、B細胞CAR-Tコホートと近い有効性プロファイルを示している。繰り返しになるが、固形腫瘍に特化したCRSガイドラインは現時点で存在しない。

Grade 1は支持療法で管理する。臓器機能の綿密なモニタリング、晶質液による蘇生、解熱薬が含まれ、集中治療チームと多職種の早期かつ先制的な関与が推奨される。輸液は血圧を改善しうるが、心・腎機能障害下では浮腫を悪化させうるため、輸液過負荷を避ける目的で昇圧薬サポートを要することも多い。grade 2以上はさらなる介入を要する。

高grade(grade 3〜4)のCRSは、軽症と比べてAKI発症の可能性が約10倍とされる。多くのAKIは腎灌流低下によるもので血行動態補正で改善し、AKIの重症度はCRSのgradeと相関する。電解質異常(低カリウム血症、低ナトリウム血症、低リン血症)も多く、定期的なモニタリングと補充が推奨される。血算でのcytopeniaやDIC徴候の監視も必要である。ASCOガイドライン(ほぼ血液腫瘍のエビデンスに基づく)はCRP・フェリチン・サイトカイン(IL-6、TNF-α、IFN-γ)の定期測定を推奨するが、院内検査でも結果に24時間以上を要しうる。

7. tocilizumab:CRSの第一選択

tocilizumabはIL-6受容体(IL-6R)を標的とするヒト化IgG1κモノクローナル抗体で、IL-6が細胞結合型・可溶性いずれのIL-6Rに結合するのも阻害し、classical/trans-signaling双方を抑制する。2017年、CAR-T療法による重症または生命を脅かすCRSに対しFDA承認された(2歳以上)。CRSの第一選択薬であり、ASTCT grade 2、一部のgrade 1で使用される。tocilizumabはCAR-T細胞の増殖に影響せず、効果減弱のリスクは低いとされる。

用量は、grade 2以上、またはgrade 1が3日を超えて持続する場合に、8 mg/kg(最大800 mg)を8時間ごと、24時間以内に最大3回まで投与する。重症AKI/肝障害、HFrEF、重大な電解質異常といった特定の臓器毒性にも考慮されうる(ただし重症臓器毒性を呈する患者の多くは既にgrade 2以上のCRSを伴う)。効果がある場合、症状は数時間〜2日で改善する(最高血中濃度は2時間以内に到達)。副作用は感染、好中球減少、消化器症状、皮疹、頭痛などで、重症細菌感染のリスクを伴う。なお、tocilizumabはICANS(神経毒性)の予防・治療には有効でない。中枢神経系への移行が限定的であることが理由とされる。

ICI関連の過炎症については、ICIではまずステロイドを投与し、免疫関連血球貪食性リンパ組織球症(irHLH)にtocilizumabを追加するという、CRSガイドライン(tocilizumab第一選択・ステロイド二次)とは逆の順序が用いられる文脈がある。ICI治療中にirHLH・irCRS・敗血症を発症した35例のバイオマーカー研究では、フェリチンとHGFがirCRSとirHLHの鑑別に陽性/陰性的中率100%を示し、CXCL9がステロイド以上のエスカレーションを要する患者を同定した。ステロイド抵抗性のgrade 3 irCRS 12例にtocilizumab 8 mg/kgを投与したところ、全例が24時間以内に寛解したと報告されている。

8. tocilizumab抵抗性CRS:ステロイドと代替薬

ステロイドはCAR-T関連CRSがtocilizumab抵抗性の場合の二次治療として合意されている。ASCOガイドラインは、grade 3以上、またはgrade 2で2回の輸液ボーラスと1〜2回のtocilizumabに臨床的反応がない場合にグルココルチコイド投与を推奨する。用量はgradeに依存する。

CRSグレード ステロイド用量(ASCO)
Grade 2 デキサメタゾン 10 mg を12時間ごと静注
Grade 3 デキサメタゾン 10 mg を6時間ごと静注、改善でテーパー
Grade 4 メチルプレドニゾロン 500 mg を12時間ごと静注、臨床的に適宜テーパー
難治性の重症CRS メチルプレドニゾロン 1000 mg を12時間ごと静注

任意のgradeでステロイド抵抗性の場合は、次の高いgradeのガイドラインに従って治療を進める。ステロイドは免疫抑制による日和見感染(細菌・ウイルス・真菌)のリスクを高め、浮腫の悪化、インスリン抵抗性による高血糖、神経精神症状を生じうる。グルココルチコイドのCAR-T効果・全生存への影響については相反するデータがあり、固形腫瘍でCRSを発症した患者における長期的影響の解析は存在しない。

ステロイド抵抗性、またはステロイド温存が必要な場合の次ラインとして、ASCOガイドラインはsiltuximab、anakinra、ruxolitinibを挙げているが、いずれも主に血液腫瘍のデータに基づき臨床判断を要する。siltuximabはIL-6に対する抗体でtocilizumabより高親和性だがデータが限定的で、固形腫瘍は含まれていない。anakinra(IL-1受容体拮抗薬)は固形腫瘍での使用データがない。ruxolitinib(経口JAK1/2阻害薬)はステロイド抵抗性CRSで少数例にサイトカイン迅速低下を示したが、固形腫瘍でのエビデンスはない。固形腫瘍ではこれらのエビデンスが限られるため、投与前に患者の反応性・ケアの天井・適応を再評価することが不可欠である。

9. 免疫療法の再投与と予防

ICIやBiTEは反復・持続投与を前提とするため、CRS後の再投与は固有のジレンマを生む。緩和的設定で用いられることが多く、腫瘍制御の利益が毒性再発のリスクに見合うかを判断する必要がある。再投与のデータは限られるが、低gradeでは比較的安全との示唆がある。ICI治療2672例のKarolinskaコホートでは、grade 1〜2のCRS後に19例が再投与され、3例が再発したがいずれもgrade 2以下であった。再投与判断には、治療目標(疾患制御志向か緩和的か)、治療反応性、患者因子(PS・併存症・リスク許容度)の3変数を勘案し、多職種チームと患者参加のもとで症例ごとに判断する。予防としては、高腫瘍量患者への低用量投与やbispecific抗体のstep-up dosing・皮下投与が重症化抑制に寄与しうるが、標準化には至っていない。

10. 将来の治療

将来的な治療として、代替炎症経路を標的とする薬剤(JAK1阻害薬itacitinib、TNF-α阻害薬etanercept、TKIのdasatinib、抗GM-CSF抗体lenzilumab)、炎症メディエーターの除去としての治療的血漿交換(TPE)、suicide gene system(iCasp9、HSV-TK)が挙げられている。いずれも前臨床・症例報告・少数例の段階で、固形腫瘍での臨床試験エビデンスは乏しい。

11. Conclusion

結論として、固形腫瘍のCRSは独特かつ進展中の課題であり、炎症抑制と抗腫瘍免疫の温存というバランスを、患者中心の個別化アプローチで取ることが鍵となる。軽症は支持療法で十分だが、高gradeではtocilizumab・ステロイド・代替薬といった標的介入を要することが多い。多職種チームの早期関与と集中治療への先制的なエスカレーションがしばしば必要である。緩和的設定で行われる免疫療法の再開は、個別化された慎重な判断を要する、というのが本論文の中心メッセージである。

臨床実践のまとめ&Pitfall

この総説を救急診療の現場に落とし込むときに、まず効くのは「免疫療法歴のある患者の発熱を、反射的に敗血症だけで処理しない」という視点です。CAR-TやBiTEは発生率が高く(最大89〜90%)、ICIでも約1%とはいえCRSは起こりえます。発熱はCRSの最初のサインであり、しかも敗血症とは併存しうる、というのが本論文が繰り返し強調するところです。だからこそ、どちらか一方に絞り込まず、両方を疑う閾値を低く保つのがERでの基本姿勢になります。感染が否定できなければ、とくに好中球減少例では経験的抗菌薬を先に入れておく、という流れも論文が推奨しています。

とくに気をつけたい場面は次のとおりです。

  • 免疫療法歴+発熱+低血圧/低酸素:敗血症一択で走らず、CRSを並行して疑う
  • IL-6やCRPの数値に頼りすぎない:IL-6は重症度や治療反応と相関せず、CRPは特異度に乏しく上昇が遅れる
  • 神経症状が出てきたとき:CRSとは別個のICANSであり、tocilizumabは効かない

診断の物差しとしては、ASTCTグレーディングを使えるようにしておくのが実践的です。サイトカインやCRPは判定から外され、発熱・低血圧・低酸素という観察可能な所見だけでgradeが決まるので、ERでもそのまま運用できます。低血圧で昇圧薬が1剤要ればgrade 3、複数要ればgrade 4、低酸素も高流量か陽圧かでgradeが上がる、という対応を頭に入れておくと、エスカレーションの判断が速くなります。

治療の入り口で押さえておきたいのが、tocilizumabが第一選択で、ステロイドは二次という順番です。ここは免疫療法の一般的なirAE対応(ステロイド先行)とは異なるので、混同するとPitfallになります。用量は8 mg/kg(最大800 mg)を8時間ごと、24時間で最大3回まで。grade 2以上、あるいはgrade 1が3日を超えて続くときが投与の目安です。効けば数時間〜2日で症状が引いてきます。tocilizumab抵抗性ならステロイドへ、というgrade別の用量も論文に整理されています。

最後に、合併症の先回りも大事です。grade 3〜4ではAKIのリスクが約10倍に跳ね上がりますが、その多くは腎灌流低下によるもので血行動態の補正で改善します。低カリウム・低ナトリウム・低リンといった電解質異常も多いので、定期的なモニタリングと補充を早めに回しておくと、後手に回らずに済みます。固形腫瘍に特化したガイドラインはまだ存在しない、という前提を忘れずに、ASTCTグレーディングとtocilizumab第一選択という骨格を押さえておくのが、現時点での現実的な構えになります。