最近、こんな症例を経験しました。
「家で転んで、立ち上がれなくなったって言うんですけど…」
「レントゲン撮ったら、恥骨枝に骨折線がありそうです」
「歩けはするみたいなので、帰宅でいいですか?」
さて、どうすればいいんでしょうか。
高齢者が転倒して骨盤付近を痛がって受診する、というシチュエーションはERでは日常茶飯事です。
でも、その対応って実はかなり奥が深い、、、
「恥骨枝骨折ね、はいはい」で済ませてしまうと、
後方骨盤輪の骨折を見逃したり、
入院適応のある患者をうっかり帰宅させてしまったり、
というpitfallにハマりかねません。
今回はそんな脆弱性骨盤骨折(Fragility Fractures of the Pelvis:FFP)について、現場目線で整理してみたいと思います。
- ここで扱う脆弱性骨盤骨折(FFP)の範囲
- FFP分類だけは押さえておこう
- pitfall①:単純X線で「異常なし」と判断してしまう
- pitfall②:FFP Type I=帰宅、と短絡的に判断してしまう
- pitfall③:「歩ける」かどうかを臨床的に評価していない
- pitfall④:保存的治療を選んだら、もう手術はないと思っている
- ブログ管理人の意見
- 参考資料
ここで扱う脆弱性骨盤骨折(FFP)の範囲
ここで扱うのは、
・60歳以上の高齢者
・立った高さ以下の転倒など、低エネルギー外傷による骨盤輪骨折
・あるいは咳・くしゃみといった日常生活ストレスによって生じる骨盤不全骨折
です。
RommensとHofmannの定義に基づくものを扱います(Rommens PM, Hofmann A. Injury 2013)。
いわゆる高エネルギー外傷による骨盤輪損傷(交通外傷など)は扱いません。
そちらは別物として、外傷外科医にすぐにつなぐ判断が必要なものです。
FFPの発生率のピークは80〜90歳と報告されています。
ますます高齢化が進む日本において、ERで遭遇する頻度はこれからも増え続けると考えられます。
FFP分類だけは押さえておこう
FFPの分類として最も一般的に使用されているのが、Rommens & Hofmannが提唱したFFP分類です(Rommens PM, Hofmann A. Injury 2013;Zhang J, et al. Orthop Surg 2023)。
不安定性の程度に基づいて、4つに分類されています。
・Type I:前方骨盤輪のみの骨折で、後方骨盤輪の骨折を伴わない
・Type II:転位のない後方骨盤輪骨折(前方骨盤輪骨折を伴う・伴わないは問わない)
・Type III:転位を伴う後方骨盤輪の片側骨折
・Type IV:転位を伴う後方骨盤輪の両側骨折
ER医がここで覚えておくべきことは、
「後方骨盤輪が折れているかどうか」
の1点のみでまずは十分です!
これが治療方針を分ける最大のポイントになります。
ドイツの65歳以上のFFP患者1242人を対象とした多施設レジストリでは、その分布は
・Type II:50.8%
・Type IV:21.1%
・Type I:20.8%
・Type III:7.3%
であったと報告されています(Osche DB, et al. J Clin Med 2025)。
つまり、FFP患者のおよそ8割は、後方骨盤輪に骨折を伴っているということになります。
「前方しか折れてないだろう」と高をくくっていると、見落とすリスクが結構あるというのが現実です。
pitfall①:単純X線で「異常なし」と判断してしまう
これが一番やってはいけないpitfallです。
「骨盤レントゲンを撮りました、特に骨折線ははっきりしません、帰宅でいいですか?」
というやり取りはよく聞こえて来ますが、ちょっと待ってください。
単純X線は前方骨盤輪骨折のみを特定し、後方骨盤輪骨折の検出感度が低いため、CTが強く推奨されています(Kułakowski M, et al. J Clin Med 2026)。
CTによって後方骨盤輪骨折の60.6%が新たに検出されたという報告があります。
つまり、レントゲンだけでは6割の後方骨盤輪骨折を見逃すということです。
しかも、ガイドラインでも、
「骨盤のX線(前後像、Inlet/Outlet像)および冠状断・矢状断CT再構成が強く推奨される」
と明確に記載されています。
さらに、X線およびCTで病変が発見されず、
しかし持続的な骨盤痛の原因が不明な場合は、MRIを考慮すべきともされています(Zhang J, et al. Orthop Surg 2023)。
つまり、痛みの強さに対して画像所見が乏しいときは、画像のステップアップを諦めないというのが原則です。
「高齢者の転倒後骨盤痛では、骨盤CTもセットでやってとけ!」
これが個人的な立ち位置です。
pitfall②:FFP Type I=帰宅、と短絡的に判断してしまう
「前方骨盤輪のみの骨折なら帰宅でいいんでしょ?」
これも危ない考え方です。
確かに、FFP Type I(前方骨盤輪のみの骨折)には保存的治療が適しているとされています。
ガイドラインでは、
「FFP Type Iは保存的に治療される。患者は早期に退院するか、外来通院のままである」
と記載があります。
しかし、その一方でKleeblad LJ, et al.(OTA International 2024)の国際専門家調査によると、
前方骨盤輪のみの骨折(FFP Type I)の患者であっても、入院する割合は37%
と報告されています。
つまり、Type Iだからといって全例帰宅できるわけではないということです。
実際、Loggers SAI, et al.の後ろ向き研究(65歳以上の恥骨枝骨折患者117名を対象)では、
・恥骨枝骨折で受診した患者のうち、入院67%、外来通院32%
という分布だったと報告されています(Loggers SAI, Joosse P, Jan Ponsen K. Eur J Trauma Emerg Surg)。
逆に、前方および後方骨盤輪の複合骨折(FFP Type II以上)の患者では、入院割合は75%でした(Kleeblad LJ, et al. OTA International 2024)。
ここから読み取れるのは、
「分類だけでは入院・帰宅は決まらない」
ということです。
じゃあ何で決めるのか? 次のpitfallにつながります。
pitfall③:「歩ける」かどうかを臨床的に評価していない
これがすごく大事なポイントです。
Loggers SAI, et al.(Eur J Trauma Emerg Surg)の研究で示されているのは、
「救急外来において、患者が動けるか(mobilization difficultiesがあるか)どうかが、入院の必要性を判断する最初の臨床的基準となる」
という考え方です。
つまり、画像所見だけでなく、
ERで実際に体重をかけて歩けるか、ベッドから離れられるか
を評価することが、入院適応を決める一番の決め手になります。
入院・帰宅の選択は主にERでの
①患者の歩行・可動能力
②画像診断に基づく骨折の形態(FFP分類)
の2つの要素に基づいて決定されるとされています(Kleeblad LJ, et al. OTA International 2024;Loggers SAI, et al. Eur J Trauma Emerg Surg)。
具体的には、
・帰宅(外来通院)適応
・救急外来で自力で動ける患者
・後方骨折を伴わない前方骨盤輪のみの孤立性骨折(FFP Type I)
・入院適応
・痛みのために救急外来で動くことが困難な患者
・前方および後方骨盤輪の両方に骨折を伴う複合骨折(FFP Type II以上)
という整理になります。
ER医として大事なのは、レントゲンとCT(場合によってはMRI)を撮って画像所見を見て満足してはならないということです。
画像で骨折を確認したら、ベッドサイドに戻って「立てるか・歩けるか」を必ず評価することがFFP診療の肝です。
なお、Loggers SAIらの後ろ向き研究では、後方骨盤輪骨折を伴う患者は前方の孤立性骨折患者に比べて、
・入院率が有意に高い(78% vs 65%、p=0.04)
・平均入院期間が有意に長い(9日 vs 4.5日、p=0.000)
・入院中の合併症発生率が有意に高い(44% vs 18%、p=0.02)
と報告されています(Loggers SAI, et al. Eur J Trauma Emerg Surg)。
このあたりは、初期対応の段階で「ただの恥骨枝骨折」と「後方骨盤輪まで及んでいる骨折」を区別することの重要性を物語っています。
ちなみに、恥ずかしいことに恥骨単独骨折と判断した場合には、
歩行できれば帰宅させることが大半でした。
しかし、信頼できるとある整形外科によれば、
「恥骨の脆弱骨折があれば、どうせほとんどで後方成分も折れてるから入院がいいよ」
とのことでした。
もしかしたら仙骨などの骨折を見逃して不安定性につながっていたこともあったのかもしれません。
なお、入院した患者に対しては、
「外傷病棟へ短期入院し、疼痛管理と理学療法士の監督下で可動性の回復を図る」
とされています(Loggers SAI, et al. Eur J Trauma Emerg Surg)。
ここで一つ注意点があります。
なお、入院後の体重負荷プロトコルについては、資料間で見解が分かれていました。
・Kleeblad LJらの国際専門家調査では、複合骨折で入院した場合、44%の専門家が4〜6週間の「制限付き体重負荷(partial or non-weight-bearing)」を提案している
・Loggers SAIらの後ろ向き研究では、入院患者には理学療法士の監督下で「無制限の体重負荷(unrestricted weightbearing)」による歩行訓練を行わせている
まだ国際的なコンセンサスがない領域なんでしょう。
自施設の整形外科・リハビリのプロトコルに従うのが現実的です。
pitfall④:保存的治療を選んだら、もう手術はないと思っている
「Type I or IIで入院になりました、安静と疼痛コントロールでいいですよね」
これもちょっと気をつけなければなりません。
ガイドラインでは、
「Type IおよびIIには保存的治療が適しているが、動的評価が必要である」(推奨度2B)
と記載されています。
動的評価が必要、というのがミソです。
実際、FFP治療中の骨折進行(fracture progression)の有病率は、メタアナリシスで11%(95% CI、5-19%)と報告されています(Yamamoto N, et al. Injury 2024)。
つまり、10人に1人くらいは経過中に骨折が悪化しているということになります。
そのため、
「入院して保存的治療を試みた後、数日経過しても動けない場合や、痛みが悪化する場合、または画像上で変位の進行が見られる場合は、低侵襲な外科的安定化(手術)が考慮される」
ことがあります。
「保存的治療=放置」ではなく、「保存的治療=動的にフォロー」が正解になります。
繰り返しの小さな日常ストレスで骨構造が徐々に損傷し、より複雑な骨折パターンと不安定性につながっていくのがFFPの本質のようです。
ブログ管理人の意見
ここまでをまとめると、個人的な立ち位置は以下のとおりです。
①高齢者の転倒後の骨盤痛では、骨盤CTやMRIまでやる
(X線だけでは後方骨盤輪骨折の60.6%を見逃す)
②画像で骨折を確認したら、必ずベッドサイドで「歩けるか・動けるか」を評価する
(これが入院・帰宅を決める最大の臨床的指標)
③FFP Type Iでも、痛くて動けないなら入院
(Type Iの37%は入院しているという報告がある)
※本当にType Iかわからない(後方成分の骨折を見逃しているかも?)ので、基本は入院の閾値を低くしておくのがいい
④保存的治療を選んでも、動的にフォローする
(経過中に11%は骨折が進行する)
FFPは「軽い骨折」と見られがちですが、
1年死亡率は15.5%(Tran DNA, et al. EFORT Open Rev 2025)または17%(95% CI、14%–19%)(Yamamoto N, et al. Injury 2025)と報告されており、決して油断できる病態ではありません。
なお、地域による1年死亡率の差として、
・アジア:8%
・欧州:18%
・北米:19%
と報告されていますが(Yamamoto N, et al. Injury 2025)、アジアが低値を示した点についてはサンプルサイズの違いや追跡不能による過小評価の可能性が指摘されており、解釈には注意が必要とされています(Yamamoto N, et al. Injury 2025)。
また、骨折タイプ別の死亡率についても、
・Tran DNAらのメタアナリシスでは、Type IV:7.5%、Type III:17.0%
・別の前向き研究では、Type I:13.5%、Type II:11.9%、Type III:0%
と報告されています(Tran DNA, et al. EFORT Open Rev 2025;Kułakowski M, et al. J Clin Med 2026)。
「不安定型ほど死亡率が高い」とは単純に言い切れず、軽症と思われがちなType I・IIでも侮れないというのが現状の理解です。
「お尻が痛い」高齢者を、丁寧に診ていきましょう。
参考資料
1. Rommens PM, Hofmann A. Comprehensive classification of fragility fractures of the pelvic ring: Recommendations for surgical treatment. Injury. 2013;44(12):1733–1744. Elsevier.
2. Zhang J, Zhang L, Li C, et al. Clinical Guidelines for the Diagnosis and Treatment of Fragility Fractures of the Pelvis. Orthopaedic Surgery. 2023;15(9):2195–2212. Chinese Orthopaedic Association.
3. Yamamoto N, Someko H, Nakashima Y, et al. Mortality following fragility fractures of the pelvis: Systematic review and meta-analysis. Injury. 2025;56(10):112618. Elsevier.
4. Tran DNA, Hsu CY, Rommens PM, et al. One-year mortality rates of fragility fractures of the pelvis: a systematic review and meta-analysis. EFORT Open Reviews. 2025;10:709–717. Bioscientifica Ltd.
5. Osche DB, Liodakis E, Huber S, et al. Fragility Fractures of the Pelvic Ring: Analysis of Epidemiology, Treatment Concepts, and Surgical Strategies from the Registry of the German Pelvic Multicenter Study Group. J Clin Med. 2025;14(9):2935. MDPI.
6. Gordon A, Saracco M, Giannoudis PV, Kanakaris NK. Fragility Fractures of the Pelvis—Current Understanding and Open Questions. J Clin Med. 2025;14(14):5122. MDPI.
7. Kułakowski M, Elster K, Iluk W, et al. The Impact of CT Imaging on the Diagnosis of Fragility Fractures of the Pelvis: An Observational Prospective Multicenter Study. J Clin Med. 2026;15:00531. MDPI.
8. Kleeblad LJ, Loggers SAI, Zuidema WP, et al. Current consensus and clinical approach to fragility fractures of the pelvis: an international survey of expert opinion. OTA International. 2024;7:e293. Orthopaedic Trauma Association.
9. Loggers SAI, Joosse P, Jan Ponsen K. Outcome of pubic rami fractures with or without concomitant involvement of the posterior ring in elderly patients. Eur J Trauma Emerg Surg. Springer.
10. Yamamoto N, Someko H, Tsuge T, et al. Prevalence of fracture progression in fragility fractures of the pelvis: Systematic review and meta-analysis. Injury. 2024;55(10):111727. Elsevier. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39032220/
11. Cook E, Laycock J, Sivapathasuntharam D, et al. Surgical versus non-surgical management of lateral compression type-1 pelvic fracture in adults 60 years and older: the L1FE RCT. Health Technology Assessment. 2024;28(15). NIHR Journals Library.
12. Rommens PM. Fragility fractures of the pelvis (FFP): an emerging clinical entity. AO Trauma Blog. 2025. AO Trauma.