"Tell me how you eat, and I'll tell you what you have."
これがキーセンテンスになる疾患です。
この疾患は古典的な疾患というイメージがありますが、現代の先進国でもちゃんと忘れた頃にやってきます。
今回は「単純性紫斑」として初診医に見送られ、しかも3年前にも同様の入院歴があったという、なんとも歯がゆい症例を取り上げます。
病歴/身体所見
- 68歳女性
- 主訴:7日間の両下肢の脱力・疼痛・紫斑
- 1か月前から全身倦怠感が増悪
- 1週間前にプライマリケア医を受診、「単純性紫斑」とされたが原因は特定されず
- 両下肢の疼痛・脱力は持続し増悪
- 既往歴:3年前に同様の症状で当院入院歴あり
- 脱力・両下肢腫脹・皮下出血で入院
- 膠原病スクリーニング施行、亜鉛・銅低値で補充
- 造影CTで両下肢DVTあり、抗凝固療法導入
- 症状軽快して数日後に独歩退院
- 社会歴・食生活
- 貧困状態で生活(離婚後10年間にわたって低い社会経済状態)
- 7年間無歯状態
- 食事は麺類と粥が中心、肉・果物・野菜はほとんど摂取せず(7年間継続)
- バイタル:BP 156/68mmHg, HR 83bpm, RR 18, BT 36.8℃, GCS E4V5M6
- 身体所見
- 眼瞼結膜蒼白
- 両下肢に複数の触知可能で圧痛を伴う紫斑
- 両下肢近位筋優位の筋力低下(MMT 4)、明らかな巣症状なし
- 毛包周囲出血・コルクスクリュー毛は認めず
- 皮膚乾燥(xerosis)、歯肉退縮あり

検査
- 血液検査
- WBC 5.6×103/μL
- RBC 2.16×106/μL
- Hb 6.9g/dL
- Ht 22.3%
- Plt 32.1×104/μL(正常)
- PT 24.4秒(延長)/APTT 31.6秒(正常)
- 血清ビタミンC <0.2μg/mL(基準値5.5-16.8、検出感度以下)
- ビタミンB12 345pg/mL(正常)
- 葉酸 2.4ng/mL(低値、基準3.89-26.8)
- 心エコー:両室の収縮正常
- 下肢two-point compression US:両側総大腿静脈・膝窩静脈とも完全に圧排可能
- 造影CT:骨盤・下肢静脈にDVTの所見なし
診断
壊血病(scurvy)
- 臨床像・著明な食事制限・3年前の類似入院歴から壊血病を疑った
- 血清ビタミンC結果を待たずにED内でビタミンKとビタミンCの投与を開始
- 入院後、凝固障害に対して赤血球濃厚液とFFPを輸血
- 微量栄養素欠乏に対してビタミンCと葉酸を投与
- 出血傾向は数日で改善
- 第14病日に歩行可能で退院
3年前の入院時にビタミンC濃度が測定されていれば、と思わずにはいられません。
当時すでに壊血病だった可能性が高いですね…。
繰り返す紫斑や脱力をみたら一度はビタミンC欠乏も考えたいところです。
壊血病は「もう過去の疾患」ではない
- 壊血病は古代から知られた疾患で、18世紀に新鮮な野菜・果物の摂取が予防に有効と認識されて以降著明に減少した
- 日本のような先進国では稀とされてきたが、現代でも散発的に発生している
(Am J Emerg Med. 2026;106:129-130. / Diseases. 2023;11:78. / Am J Emerg Med. 2003;21:328-332.)
- 米国の地域住民での欠乏率は約5.9%/英国では1.4%との報告
- 入院患者では事情が異なる
- 高所得国の入院成人を対象にしたスコーピングレビューでは、ビタミンC欠乏の累積有病率は27.7%(95%CI 21.3-34.0、n=2494)
- 敗血症性ショック患者では38-48.9%、市中肺炎患者では22-35%、糖尿病性足潰瘍患者では50.8%
(Nutr Rev. 2024;82(11):1605-1621.)
- 21世紀(2000-2025年)に報告された成人壊血病280例のレビューでは、米国(40%)・フランス・オーストラリア・日本・スペインなど先進国からの報告が大半
- 男性68.6%/年齢中央値51歳
- 基礎疾患として精神疾患・薬物依存が39%と最多(うつ病、統合失調症、アルコール乱用、神経性無食欲症など)
- 消化管・肝疾患10%(Crohn病、celiac病、嚥下障害、IBSなど吸収・摂取障害をきたすもの)
(Clin Nutr. 2026;59:106601.)
「軽視されがちな疾患ですよね」と思いつつ、
ふたを開けてみると入院患者の3-4人に1人もいると…これは想像以上の頻度です。
診断のpitfall~"great mimicker"としての壊血病
- 壊血病はしばしば「medical great mimicker」と呼ばれ、より頻度の高い疾患に紛れ込みやすい
- 誤診されやすい疾患:血管炎、炎症性リウマチ、自己免疫性血球減少、骨髄異形成症候群、凝固障害、潰瘍性歯肉炎
- 非特異的な初発症状(易疲労感、下肢浮腫、軽度の出血傾向)が他疾患の精査を誘発し、診断遅延・不要な検査の連鎖を招きやすい
(Clin Nutr. 2026;59:106601. / Am J Emerg Med. 2003;21:328-332.)
- 診断遅延の規模:症状発現から受診までは1週間〜1年(紫斑主体の場合は長期化する傾向)
- 本症例も初診医は「単純性紫斑」として原因検索を進めなかった経緯がある
「単純性紫斑」と書かれた瞬間、ER医的にはちょっとざわつきますよね。
何かしらの病的紫斑を否定したうえで、はじめて「単純性」と言えるはず。
本症例のように圧痛を伴う触知可能な紫斑(palpable purpura)が両下肢に多発している時点で、少なくとも血管炎・血液疾患・凝固障害・そして壊血病あたりは鑑別に並べておきたいところです(並べられるかな…)。
炎症反応で迷わされる、というpitfall
- 21世紀の成人壊血病280例レビューでCRP記載のある58例では、CRP中央値5.6mg/dL(Q1:1.8-Q3:9.8)とほとんどが1.0mg/dLを超えていた
- 壊血病であっても軽度〜中等度の炎症状態を伴いうる
- ビタミンC欠乏自体が血管内皮障害や軽度の出血を介して炎症反応を惹起しうるとの仮説あり
(Clin Nutr. 2026;59:106601.)
これは個人的に勉強になった点でした。
「紫斑+下肢痛+CRP高値」とくれば誰しもまず血管炎を考えるわけですが、壊血病でもこの臓器スコアっぽい所見が揃ってしまうのは要注意です。
実際、CRPが高いというだけで自己免疫疾患の精査ばかりに流れ、肝心の食事歴・ビタミン濃度がスルーされるというのが上記レビューが描いている"undiagnosed scurvy cascade"の核心部分でした。
古典的徴候がなくても疑え
- 古典的な皮膚徴候として毛包周囲出血とコルクスクリュー毛が有名
- 成人壊血病280例のレビューでも、紫斑50%・コルクスクリュー毛38%・毛包性過角化14%と高頻度
- ただし、すべての患者で揃うわけではない
- Hodgesらの古典的実験(健常男性5名を対象)では、症状はビタミンC欠乏から29〜90日後に出現
- 歯肉病変は自分の歯がある被験者にのみ出現し、無歯顎者1例には認めなかった
(Am J Clin Nutr. 1971;24:432-443. / Clin Nutr. 2026;59:106601.)

(Postgrad Med J . 2015;91:719-20.)
- 本症例では毛包周囲出血・コルクスクリュー毛は認めなかった
- 典型的徴候がないからといって除外してはいけない
- 本症例ではxerosis(皮膚乾燥)と歯肉退縮、そして両下肢の触知可能紫斑が手がかりとなった
本症例で個人的に唸ったのは、7年来の無歯顎という背景です。
無歯顎だと典型的な歯肉出血所見が出にくいので、教科書的なフルセットが揃わない可能性が高い。
そこで残った頼みの綱は、皮膚の所見と食事歴の聴取になります。
食事歴と社会的決定因子こそが診断の入口
- 21世紀の成人壊血病280例レビューでは、患者の生活背景として以下が頻出
- 果物・野菜を全く食べない:51.7%
- 制限的・偏った食事:14.2%
- アルコール多飲:13.6%
- 加工食品・即席食品中心:8.5%
- ホームレス・経済的困窮:8%
- 歯科問題・咀嚼困難:4.5%
- 社会的孤立:7%、不注意・身の回りの放置:11%
- これら2因子以上が共存している症例が14%に及ぶ
(Clin Nutr. 2026;59:106601.)
- その他、伝統的に知られているリスク因子
- 慢性アルコール多飲
- 乳児への牛乳のみの授乳
- IBDなどの消化管疾患(吸収障害)
- 喫煙
- 低い社会経済状態
- 長期PPI・ステロイド使用
- 肥満外科手術後
- 透析
- 鉄過剰(サラセミア等)
(Diseases. 2023;11:78. / Am J Emerg Med. 2003;21:328-332.)
- 本症例は「離婚後10年間の貧困+7年間の無歯顎+7年間の偏食(麺類と粥のみ)」と、典型的な複数因子共存例
「食事は何を食べていますか」「お一人で生活されていますか」「歯はどうですか」
こういう問診や診察を紫斑をみたときに反射的に取れているかどうか振り返りました。
"Tell me how you eat, and I'll tell you what you have"はちょっと格好つけすぎなフレーズですが、ERでもこの一言を加える価値は十分にあると思います。
診断の進め方
- WHOの推奨:①不十分なビタミンC摂取の病歴聴取/②scurvy徴候の身体診察/③血清アスコルビン酸測定の3本柱
- 診断閾値
- WHO基準:血漿・血清ビタミンC<11.4μmol/Lで欠乏
- <5μmol/L("undetectable")はscurvy相当とされる
- 血漿濃度0.2mg/dL未満(<11.4μmol/L)で症状が出始める
- 21世紀の成人壊血病280例レビューでは、診断契機は
- 臨床診察のみ:16%
- ダーモスコピー(毛包周囲紫斑・コルクスクリュー毛):31%
- 皮膚生検:19%
- 画像検査契機(MRI/CT/X線):14%
- 血中アスコルビン酸測定で"undetectable":21%
- 約1/3の症例で他の栄養素欠乏(特に亜鉛と葉酸)を併発
- 本症例も葉酸欠乏を併発しており、補充の対象になった
(Diseases. 2023;11:78. / Clin Nutr. 2026;59:106601.)
治療
- 治療の基本はビタミンC補充と、欠乏の原因となった状況の是正
- 軽症〜中等症(外来管理)レジメン
- 200mg/日で数日以内に著明な症状改善
- もしくは最初の3〜5日は1g/日、その後少なくとも1週間は300〜500mg/日
(Am J Emerg Med. 2003;21:328-332.)
- 入院・重症(GI出血など合併症あり)レジメン
- 静注アスコルビン酸1000mg/日を3日間、その後250〜500mgを1日2回、退院後1か月(食事から十分摂れないならそれ以上)
(Diseases. 2023;11:78.)
- 反応のスピード
- 易疲労感・脱力などの全身症状:補充後数日以内に改善
- 消化管出血を伴う症例:1回の補充投与で24時間以内に止血・毛細血管安定性が確立することがある
- 皮膚症状の消退:2〜4週間
- 本症例も出血傾向は数日で改善し、第14病日に独歩退院している
- 食事指導
- 柑橘類、緑色野菜(特にブロッコリー)、トマト、ジャガイモなど
- 1日5皿分の果物・野菜で推奨摂取量を超え、併発する他のビタミン欠乏もカバーできる
- 地味な注意点:静注ビタミンCの急な中止は重症欠乏様の状態を引き起こしうる(LOVIT trialの二次解析)
- 退院時の経口移行・継続のオーダーは丁寧にしておきたいところ
※LOVIT二次解析は敗血症ICU患者への高用量投与の解析なので拡大解釈かも
(Am J Emerg Med. 2003;21:328-332. / Diseases. 2023;11:78.)
治療反応が良好な疾患なので、「疑って測って投与する」ところまで持っていければ患者さんは確実に楽になるはずです。
逆にそこまでたどり着けないと、自己免疫疾患の精査をぐるぐる回ったり、輸血依存の貧血として診療されたりしてしまう可能性があります。
診断学的にはとても素直な、しかし日々の臨床では妙にハードルの高い疾患だなと感じます。
3年前の入院に立ち戻る
本症例で最も印象的なのは、やはり3年前にも同様の主訴で入院していたという事実です。
当時は膠原病スクリーニングを行い、亜鉛・銅は測って補充しているにもかかわらずビタミンC濃度は測定されておらず、両下肢DVTの治療として抗凝固薬が導入されていました。
もし当時ビタミンC濃度が測られていれば、おそらくその時点で壊血病と診断され、再発を予防できていた可能性が高いでしょう。
3年前にビタミンCを測っていてくれたら、この3年間の脱力・倦怠感はなかったかもしれません。
類似の病歴があり、栄養関連の異常(亜鉛・銅の低値など)が出ている時点で、"hidden malnutrition"の全体像を取りに行く視点があったらよかったのかもしれません。
栄養素欠乏が1つみつかったときには、ほかにも何か同居していないかを確認するクセをつけたいと思いました。
まとめ
- 原因不明の紫斑と社会的リスク因子(貧困、無歯顎、偏食、社会的孤立、アルコール多飲など)をもつ患者では、壊血病を強く疑い血清ビタミンC濃度を測定すること
- 壊血病は"great mimicker"であり、血管炎・自己免疫疾患・凝固障害として精査が進められることが多い。CRPがそれなりに高くても壊血病は除外できない
- 毛包周囲出血・コルクスクリュー毛などの古典的徴候がなくても、特に無歯顎患者では典型像が揃いにくいことを念頭に、食事歴の聴取を診断の入口にすること
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