りんごの街の救急医

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Real ER Round No.31:無症候性高血圧 vs 高血圧緊急症~ERで降圧薬を「入れる/入れない」をどう線引きするか

救急外来でエンカウントすると悩ましい場面のひとつに、

「血圧が高いのでみてください」があります。

 

トリアージで BP 210/120 mmHg、だけど本人はケロッとしている。

「うわ高い…とりあえず何か降圧薬でも入れとく?」とつい思ってしまいますが、ここで一拍おけるかどうかが、その後の患者さんの予後を左右します。

 

「血圧が高い ≠ 降圧薬を入れる」

 

これがこの記事のいちばん伝えたいメッセージです。

 

無症候性の血圧上昇と高血圧緊急症は、見た目の数字は似ていても、対応は全くの別物です。

「入れる/入れない」をどう線引きするか、現場目線で見ていきましょう。

 

 

 

まずは用語整理:「Hypertensive urgency」はもう使わない

最初に用語を整理しておきます。ここがゴチャつくと、その後の判断もブレます。

 

■ 高血圧緊急症(Hypertensive emergency)

・SBP ≧ 180 mmHg および/または DBP ≧ 120 mmHg

かつ、新規または悪化する急性標的臓器障害(Target Organ Damage:TOD)を伴う

 

■ 重症高血圧(Severe hypertension)

・SBP ≧ 180 mmHg および/または DBP ≧ 120 mmHg

急性標的臓器障害の証拠がない

 

■ 無症候性高血圧(Asymptomatic hypertension)

・標的臓器障害の兆候や症状を伴わない血圧上昇

 

そして血圧の数値ベースの分類はこうなっています(2025 AHA/ACC)。

・正常:<120 かつ <80 mmHg

・血圧上昇:120-129 かつ <80 mmHg

・ステージ1高血圧:130-139 または 80-89 mmHg

・ステージ2高血圧:≧140 または ≧90 mmHg

 

血圧の数字だけでは、「緊急症」と「重症高血圧」は区別できません。

両者の違いは"急性標的臓器障害があるかどうか"だけです。

そして、この一点で対応が180度変わります。

 

「Hypertensive urgency」という言葉は、もう使わない

以前、無症状の重症高血圧を指して「Hypertensive urgency(高血圧切迫症)」という用語が使われていました。

 

でも、これは2025年AHA/ACCガイドラインから正式に削除されました。

代わりに使うのは「重症高血圧(Severe hypertension)」です。

 

「Urgency=急いで下げないと」という連想自体が、本来介入が不要な患者にまで点滴で降圧してしまうという弊害につながっていたようです。

 

ER受診者のほぼ半数で血圧上昇、しかも7割は未診断

少し疫学の話を挟みます。これがけっこう大事な背景になります。

 

2026年に AJEM に出た総説によれば、

 

・米国成人の高血圧の有病率は約48%(2024年発表データ)

救急外来受診者の"ほぼ半数"で血圧上昇(2021年発表データ)

・そのうち、約70%が以前に高血圧の診断を受けていない

 

「血圧高いのって、ERで見るような問題じゃないでしょ」って思いがちですが、実際にはER受診者の相当数が"未診断のステージ2高血圧"を抱えてやってきているということです。

 

しかも、ER受診時に高い血圧はその場限りの「痛みや不安のせい」ではない可能性が指摘されています。

 

「救急外来における血圧上昇は、痛み、ストレス、または環境要因に起因するとされてきた。近年のデータでは、これらの要因が持続的な高値を完全に説明するものではないと示唆されている」(AJEM 2026 総説)

 

これを裏付けるのが、Poon et al.(2020年)の研究です。

 

・救急外来でSBP ≧ 140 mmHg を2回以上記録された患者

 → 1年以内の医療機関受診時に再度 SBP ≧ 140 mmHg になる調整オッズ比 10.9

≧ 160 mmHg ともなれば、オッズ比 20.7

 

ER受診時に高かった血圧は、「とりあえずERだから高かったんだろう」ではなく、

"その人の本当の血圧"を反映している可能性が高いと読むのが妥当そうです。

 

「Patients have always presented to EDs for safety net primary care, in part due to social needs.(患者は社会的ニーズもあって、常にセーフティネットとしてのプライマリケアを求めて救急外来を受診してきた)」(AJEM 2026 総説)

 

ER医療の現実として、この視点は持っておきたいところです。

この前提があると、後述する「ERから外来降圧薬を処方するか」の議論がよりリアルに感じられるはずです。

 

高血圧緊急症の見つけ方:標的臓器障害(BARKH)を探せ!

繰り返しますが、緊急症かどうかを決めるのは数字ではなく「急性標的臓器障害(TOD)」の有無です。

ここを取りこぼしてはいけません。

そして、TODを系統的に探すためのゴロが用意されています。

 

BARKH のゴロで臓器障害を探す

AHA 2024 Scientific Statement由来のゴロです。

バーク(BARKH)」と唱えながら、ひとつずつ潰していきましょう。

 

B Brain(脳) 高血圧性脳症、頭蓋内出血、虚血性脳卒中
A Arteries(動脈) 大動脈解離
R Retina(網膜) 高度網膜症
K Kidney(腎臓) 急性腎障害
H Heart(心臓) 急性心筋梗塞、不安定狭心症、肺水腫を伴う左室不全

 

病歴と身体所見が主役

標的臓器障害を見つけるには、病歴聴取と身体診察が主役です。

 

新規または悪化として拾い上げたい所見は以下です。

・神経脱落症状(B)

・胸背部痛(A、H)

・視力障害(R)

・尿量減少(K)

・胸痛・呼吸困難(H)

 

「血圧が高いから何か検査を…」ではなく、「BARKHのどれかが起きていないか?」という視点で診ることになります。

 

無症候性ならルーチン検査は不要

AJEM 2026の総説でも、はっきりこう書かれています。

 

「無症候性高血圧に対する病歴と身体診察以上のルーチンな診断評価は推奨されない」(AJEM 2026 総説)

 

採血、心電図、尿検査をルーチンで全例にとる必要はありません。

患者も自分たちも心配なのはわかりますが、

少なくとも救急外来(特に人手の少ない夜間)ではこれらの検査をやって、無駄に待ち時間を増やしてはいけません。

 

ちなみに、外来で新規高血圧と診断したときの標準評価はこちら(参考までに)。

・血算、血清クレアチニン、血清電解質

・脂質プロファイル

・血糖またはHbA1c

・甲状腺機能

・尿検査、尿中アルブミン/クレアチニン比

・12誘導心電図

 

これは「外来で診断したあと」にやるセットであって、ERでルーチンに行うものではないと理解しておくとよいでしょう。

 

血圧測定そのものにもpitfallがある

ここはあえて強調しておきます。

 

AHA 2024 Scientific Statementには、こんな記載があります。

・集中治療や手術患者等で血圧が > 180/100 mmHg の場合、オシロメトリック式デバイスは動脈ラインに比べ最大 50/30 mmHg 血圧を過小評価する可能性がある

・そのため、高血圧緊急症および静注降圧薬使用時は動脈ラインの留置が推奨される

 

カフでの測定は過小評価にも、痛みや不安や不適切なカフサイズで過大評価にもなりうるということです。

降圧薬を入れる前に、適切なカフサイズで再測定するくらいの一手間はかけたいところです。

 

「白衣高血圧でしょ?」で済ませてよい血圧とダメな血圧

「血圧が高くてもERだからでしょ、白衣高血圧でしょ」という発想にも線引きがあります。

 

持続的に ≧ 160/100 mmHg を示す場合は、白衣高血圧では十分に説明できない

・この水準であれば、外来設定であれば治療開始が正当化される

・それ未満の患者では過去のカルテや家庭血圧測定を用いて診断を確立する

 

「ERだから上がっているだけ」と片付けてよい上限がどのあたりにあるのか、

ひとつの目安として持っておくと判断がブレにくくなります。

 

無症候性なら、静注降圧薬はやってはいけない

BARKHを探して、何もなかった!

これが「重症高血圧(旧 Hypertensive urgency)」、あるいは「無症候性高血圧」です。

 

このときは何をすればいいでしょうか?

 

静注降圧薬は「Harm(害)」レベルで避ける

ここがいちばんのキーポイントです。

 

2025 AHA/ACC ガイドラインでは、

急性期環境における非経口(静注)降圧治療の開始は、急性標的臓器障害がない限り避けるべきとされています。

しかも推奨度は、

COR 3:Harm, LOE B-NR

 

「Harm(害)」がついた推奨です。

「やらないほうがいい」ではなく、「やると害がある」と明記されているレベルなんですね。

 

「急速に作用する経口または静注薬による急性期の降圧は、重度の低血圧や脳血管虚血などの関連する害があるため推奨されない」(AJEM 2026 総説)

と最新の総説にも明記されています。

 

静注だけでなく、「急速に作用する経口薬」もNGとされている点は意外と見落とされがちなので注意です。

 

なぜ「害」になるのか?

慢性高血圧に適応した脳血流の自己調節(autoregulation)の曲線が右方にシフトしているためです。

そこに静注降圧薬をズドンと打ち込むと、「数字を下げたら脳梗塞を作った」などという事故が起きます。

 

「急激な血圧低下は、全く変化させないことよりも患者に大きなダメージを与える可能性がある」(BIHS Position Paper, 2023)

 

このフレーズは、現場で「とりあえずちょっとだけ降圧薬を静注しとこうかな…」と言いそうになったときに思い出したい一言です。

 

むしろ、血圧上昇の"誘因"を探す

無症候性で血圧が上がっている患者の寄与因子として以下が挙げられています。

・痛み、不安、急性ストレス、睡眠不足

・降圧薬の服薬不遵守、または退薬症候群(クロニジンやβ遮断薬の急な中止)

・血圧を上昇させる薬剤(NSAIDs、ステロイド、交感神経刺激薬など)や違法薬物(コカイン、覚醒剤)

 

つまり、

痛みは取れているか?

不安に対するケアは?

ふだんの降圧薬を飲み忘れていないか?

直近で降圧薬を急にやめていないか?

NSAIDs等を内服していないか?

 

このあたりを探って、原因に対するアプローチをするのが先です。

降圧薬を入れる前にやるべきことがあるよ、ということですね。

ただし、前述のとおりこれらの誘因だけでは持続的な高値を完全には説明できないというデータもあるので、「ERだから高いだけ」で片付けるのは禁物です。

 

高血圧緊急症と判断したら:静注薬の使い分け

BARKHのいずれかを認めた瞬間、ギアが切り替わります。

 

ICU環境に収容し、非経口(静注)降圧薬を投与し、継続的モニタリングを行います。

(2025 AHA/ACC:COR 1, LOE B-NR)

 

「重症高血圧」の COR 3:Harm から一転、緊急症では COR 1 です。

このスイッチを正確に切り替えられるかどうかが患者の命運を分けます

 

押さえておきたい静注降圧薬の薬剤と用量

2025 AHA/ACCガイドライン Table 26から、押さえておきたい静注降圧薬を抜粋します。

 

■ ニカルジピン (Nicardipine)

・初期 5 mg/h、5分ごとに 2.5 mg/h ずつ増量、最大 15 mg/h

・陰性変力作用・変時作用なし

 

■ ラベタロール (Labetalol)

・初期 0.3〜1.0 mg/kg(最大20mg)を2分ごとに緩徐静注、または 0.4〜1.0 mg/kg/h で持続静注

・1日最大累積投与量 300 mg

気道疾患や心不全、徐脈では禁忌

 

■ ニトログリセリン (Nitroglycerin)

・初期 5 mcg/min、3〜5分ごとに 5 mcg/min ずつ増量、最大 200 mcg/min

急性冠症候群または急性肺水腫にのみ使用

・主として静脈拡張、高用量で動脈拡張を伴う

 

■ ニトロプルシド (Sodium nitroprusside)

・初期 0.3〜0.5 mcg/kg/min、5分ごとに 0.5 mcg/kg/min ずつ増量、最大 10 mcg/kg/min

 

■ エスモロール (Esmolol)

・負荷投与 500〜1000 mcg/kg/min を1分間、その後 50 mcg/kg/min で持続静注

・最大 300 mcg/kg/min

 

■ フェントラミン (Phentolamine)

・IVボーラス 5 mg。必要に応じ10分ごとに追加

・1日最大累積投与量 50 mg

褐色細胞腫クリーゼで使うα遮断薬

 

シナリオ別の降圧目標と薬剤選択

「最初の1時間で25%」のような一般則はありますが、シナリオごとに目標値も使う薬剤も変わります

簡単に整理しておきます。

 

■ 脳出血(Intracerebral Hemorrhage)

・SBP 150〜220 mmHg で来院した場合:直ちに SBP 130〜140 mmHg に降圧(COR 2a, LOE A)。SBP < 130 mmHgになれば降圧薬を中止

・SBP > 220 mmHg の場合:SBP < 130 mmHg には下げない(COR 3:Harm, LOE B-NR)

・推奨薬剤:クレビジピン、ニカルジピン、エスモロール、ラベタロール

 

■ 急性虚血性脳卒中(Acute Ischemic Stroke)

静注血栓溶解療法(tPA等)を行う場合:治療前に BP < 185/110 mmHg、治療後24時間は BP < 180/105 mmHg を維持(COR 1, LOE A)

再灌流療法の対象外の場合:BP ≧ 220/120 mmHg のときのみ、最初の24時間で15%の降圧を検討(COR 2b, LOE C-LD)。BP < 220/120 mmHg では急性の降圧治療を行わない(COR 3:No Benefit, LOE A)

 

■ 急性肺水腫(Acute Pulmonary Edema)

・直ちに SBP < 140 mmHg に下げる(またはMAPを20-25%低下)

・推奨薬剤:クレビジピン、ニトログリセリン、ニトロプルシド

β遮断薬は禁忌

 

■ 大動脈解離(Acute aortic dissection)

最初の1時間以内(または20分以内)に SBP < 120 mmHg、心拍数 < 60 bpm(COR 1, LOE C-LD)

・推奨薬剤:エスモロールやラベタロールなどのβ遮断薬を「先に使用」し、必要に応じてニカルジピンやニトロプルシドを追加

 

■ 子癇前症・子癇(Severe Preeclampsia / Eclampsia)

・妊娠中の SBP ≧ 160 または DBP ≧ 110 mmHg は15分以内に再確認し、30〜60分以内に BP < 160/110 mmHg(COR 1, LOE B-R)

・推奨薬剤:IVラベタロール、IVヒドララジン、経口即放性ニフェジピン

ACE阻害薬やARBは胎児への害のため禁忌

・けいれん予防・治療として硫酸マグネシウムを投与

 

■ 褐色細胞腫クリーゼ(Pheochromocytoma crisis / Adrenergic crisis)

・最初の1時間で SBP < 140 mmHg

・推奨薬剤:フェントラミンなどのα遮断薬を先に使用(フェノキシベンザミンは周術期用)

・頻脈が持続する場合のみβ遮断薬を使用

α遮断前のβ遮断薬の単独・先行使用は禁忌(逆説的高血圧のリスク)

 

シナリオが変われば、目標も薬剤も変わります。

「最初の1時間で25%」を呪文のように唱えていると、大動脈解離では遅すぎ、脳出血では下げすぎになり得るので注意ですね。

 

「ERから外来用降圧薬を出すか」:ACEPの立場が変わった

ここは現場でも判断が分かれていた領域でしたが、近年の流れが整理できる段階に来ています。

 

ACEPの立場は、2013年から2025年で180度変わった

これがけっこう重要なポイントです。

 

■ ACEP 2013年 臨床ポリシー

・無症候性の血圧上昇に対して定期的に介入しないことを推奨

 

■ ACEP 2025年 臨床ポリシー

・有効性と安全性を示す文献に基づき、治療開始を検討するよう推奨(Level C recommendation)

 

「ERは降圧薬を新規処方する場所ではない」という従来の常識が、

「ERは、未診断のステージ2高血圧を拾い上げて治療開始するチャンスでもある」へとシフトしてきているということです。

 

あまり破傷風感染のリスクが高くなさそうな場合でもワクチンを勧めることがありますが、これも似たような考え方から来ています。

(ERはワクチン接種のトリガーを引けるよい環境:特に外傷がこれからも絶えないであろう趣味や職業歴などがある場合)

 

エビデンスの裏付け:ToddとBrody

この方針転換の裏には、2つの代表的な研究があります。

 

■ Brody et al.(2015)

・救急外来退院時の降圧薬処方は、短期フォローアップで SBP 11 mmHg の低下

・有害事象のリスク増加なし

・ただし217名の小規模パイロット研究である点には注意

 

■ Todd et al.(2024)

・救急外来退院時に降圧薬を処方された患者は、30日以内の有害事象(特に心不全)および救急外来への再受診のオッズが低下

1つの有害事象を防ぐためのNNT:183

30日以内の再受診を防ぐためのNNT:18

・ただし「高血圧切迫症」という古い用語を使用しており、サブカテゴリ分析が不十分という限界あり

 

NNT 18というのは、それなりにインパクトのある数字です。

「ERから降圧薬を出すのなんて意味ないよ」と片付けにくくなってきています。

 

ACEP的に、どのラインから処方を考えるか

AJEM 2026 総説では、ACEPの最新の流れを汲んで以下の閾値が「合理的(reasonable)」とされています。

 

重症高血圧の閾値(≧180/≧120 mmHg)で経口降圧療法を開始することが合理的

持続的な SBP ≧ 160 mmHg の患者に対しても治療開始を検討することが合理的

・外来プライマリケアのフォローアップに大幅な遅れが予想される場合(物流、財政、保険、社会的ニーズ)にも、外来降圧療法の開始は合理的

 

何を処方するか:薬剤クラスの選び方

 

■ 第一選択:長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬

アムロジピン、ニフェジピン(長時間作用型/徐放性)など

ベースラインやフォローアップの臨床検査を必要としないのが利点

・→ 確実な外来フォローが組めない患者に向く

 

■ 慎重に開始すべき:サイアザイド系利尿薬、ACE阻害薬、ARB

ベースラインと2〜4週間以内の血液検査が必要

・フォローアップの仕組みが明確でない患者には慎重に

 

■ ERで開始すべきではない(第一選択ではない)

β遮断薬

ループ利尿薬

ヒドララジン

クロニジン

α遮断薬

 

「どれがいいんだろう?」と悩んだら、

「フォロー先がしっかり組めるならACE阻害薬/ARB/サイアザイド系、組めないならアムロジピン/ニフェジピン(長時間作用型/徐放性)」くらいの整理が現実的です。

 

ここでも静注薬と同じで、

急激な作用のある薬剤(短時間作用型/即放性ニフェジピンとか)は使用しないことが推奨されています。

 

ちなみに、もうひとつ大きな変更点があります。

2025年AHA/ACCガイドラインは、人種に依存しない(race-neutral)方針に変わりました。

2017年版:黒人患者の第一選択としてサイアザイド系利尿薬またはCa拮抗薬を推奨

2025年版:人種に関係なく、すべての患者に対して4つの第一選択薬クラスを同等に承認

 

非薬物療法もちゃんと伝える

薬を出して終わり、ではなく、非薬物療法の指導も全例で行うことが「合理的」とされています。

 

・健康的な体重の維持

・DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension:減塩、ミネラルや食物繊維推奨)

・禁煙

・定期的な運動

・ストレス軽減

・アルコール制限

 

すべて伝えるのは現実的に難しいかもしれませんが、「血圧が高めだったので、減塩と運動と、外来をちゃんと受診してください」くらいのアドバイスは渡せるとよさそうです。

 

そして、未診断の高血圧(ER受診者の約70%)であれば、かかりつけ医への紹介・受診勧奨こそが、たぶんいちばん大事です。

 

合併症のない悪性高血圧は、静注ではなく経口で

「悪性高血圧(Malignant hypertension)」という言葉は、最近あまり耳にしないかもしれません。

でも、ちゃんと定義が残っている病態です。

 

悪性高血圧(BIHS 2023 / BMJ 2024):

・通常 DBP ≧ 120 mmHg

Keith-Wagener-Barker分類 Grade 3(火炎状出血、綿花様白斑、硬性白斑、微小動脈瘤)

 または Grade 4(両側乳頭浮腫)の網膜症

・自己調節能の喪失(破綻)を反映

・病理組織学的には、細動脈におけるフィブリノイド壊死(fibrinoid arteriolar necrosis)玉ねぎの皮様変化(onion skinning)

 

ここで重要なのは、合併症のない(眼底所見のみの)悪性高血圧では、静注ではなく経口で緩徐に下げるという点です。

 

BIHS 2023の推奨(合併症のない悪性高血圧):

静注薬ではなく経口薬を用いる

・アムロジピン 5 mg、アテノロール 25 mg、持続性ニフェジピン 20-30 mg などを使用

数日〜数週間かけて緩徐に降圧する

短時間作用型ニフェジピン(即放型)は使用してはならない

 

「悪性」という名前が強そうなので「すぐに静注で下げなきゃ」と思いがちですが、標的臓器の緊急合併症を伴っていなければ、これは緊急症ではないということです。

名前に引きずられず、BARKHの有無で判断しましょう。

 

救急外来における高血圧診療のpitfall

最後に、現場で踏みやすい落とし穴を整理しておきます。

 

pitfall①:数字だけ見て静注降圧薬に手が伸びる

これがダントツの第一位です。

「SBP 210です!」と聞いて、つい何か入れたくなってしまうのですが、

・BARKHを系統的に確認する

・痛み・不安・服薬アドヒアランスなどの誘因を探す

・適切なカフサイズで再測定する

 

このステップを踏まずに介入すると、AHA 2025の「COR 3:Harm」をそのまま踏み抜くことになります。

静注だけでなく「急速に作用する経口薬」もNGです(AJEM 2026)。

 

pitfall②:「Hypertensive urgency」という発想で動いてしまう

すでに古い概念で、2025年AHA/ACCガイドラインからは正式に削除された用語です。

新しい言葉は「重症高血圧(Severe hypertension)」。

「Urgency=急いで下げないと」という連想自体が、不要な静注降圧につながりやすい構造です。

頭の中の言葉から書き換えていくのが、たぶん近道です。

 

pitfall③:「ERだから血圧が上がっているだけ」で片付けてしまう

これは、今回の総説でいちばん認識を更新したいポイントかもしれません。

 

・ER受診者のほぼ半数で血圧上昇

・そのうち約70%は未診断

・ERで SBP ≧ 140 mmHg を2回以上 → 1年後も高い調整オッズ比 10.9(SBP ≧ 160 ならオッズ比 20.7

 

「ERだから高いだけでしょ」で全例を流すと、未診断の高血圧をそのまま社会に流してしまうことになります。

持続的に ≧ 160/100 mmHg なら、白衣高血圧では説明できない、という線引きを持っておきましょう。

 

pitfall④:シナリオを問わず「最初の1時間で25%」と唱える

緊急症の降圧の一般則は「最初の1時間で SBP 最大25%」ですが、シナリオごとに目標値はガラッと変わります

 

・大動脈解離:最初の1時間以内に SBP < 120 mmHg、HR < 60

・脳出血(SBP 150-220):直ちに 130-<140 mmHg

・脳出血(SBP > 220):< 130 mmHg には下げない

・急性肺水腫:直ちに SBP < 140 mmHg

・子癇前症:30-60分以内に < 160/110 mmHg

・虚血性脳卒中(再灌流対象外):< 220/120 では下げない

 

シナリオ・目標・薬剤を3点セットで覚えておくと現場でブレなくなります。

 

pitfall⑤:薬剤選択を間違える

静注降圧薬には、シナリオごとに「使ってはいけない薬」があります。

 

急性肺水腫にβ遮断薬 → 禁忌

大動脈解離でβ遮断より先にCa拮抗薬で血管拡張 → 反射性頻脈で増悪リスク(β遮断を「先に」が原則)

褐色細胞腫クリーゼでα遮断より先にβ遮断単独 → 逆説的高血圧のリスクで禁忌

気道疾患・心不全・徐脈にラベタロール → 禁忌

子癇前症にACE阻害薬・ARB → 胎児への害で禁忌

悪性高血圧に短時間作用型ニフェジピン(即放型) → 使用してはならない

 

ニトログリセリンも「ACSまたは急性肺水腫にのみ使用」というしばりがあるので、何にでも使えるわけではない点に注意です。

 

pitfall⑥:外来処方時に「フォロー要否」を考えずに薬を選ぶ

ERから降圧薬を出すなら、「フォロー先が組めるかどうか」で薬を選ぶのが新しい総説のメッセージです。

 

・フォロー先がしっかり組める → サイアザイド系/ACE阻害薬/ARB(要:2〜4週間以内の採血)

・フォロー先がはっきりしない → 長時間作用型ジヒドロピリジン系(アムロジピン、ニフェジピン)が無難

β遮断薬、ループ利尿薬、ヒドララジン、クロニジン、α遮断薬はER処方の第一選択ではない

 

pitfall⑦:ルーチンで採血・尿検査・心電図を全例にとる

AJEM 2026 / ACEPの整理でも、無症候性高血圧でルーチンスクリーニングは推奨されていません

「全例取る」「全例取らない」のどちらかではなく、患者背景に応じて選ぶという設計です。

フォローアップが困難な層では血清クレアチニンくらいは見ておこうか、というのは合理的な落とし所だと思います。

 

pitfall⑧:入院中の血圧上昇に静注薬を使ってしまう

無症状の血圧上昇は、入院患者の50%〜78%でみられるとされています(9つの研究のシステマティックレビュー)。

夜間に「血圧220です」とコールされて、つい指示を出してしまう場面もあるかもしれませんが、

 

救急外来および入院において、無症状の高血圧を急性期に治療することが臨床転帰を改善することを示すデータはありません(AHA 2024 Statement)

 

ここも、原因(痛み、せん妄、ノンアドヒアランス、容量負荷など)を探すほうがたぶん筋がよいです。

 

まとめ

長くなりましたが、最後にもう一度。

 

■ 緊急症 vs 重症高血圧の線引きは、数字ではなく「急性標的臓器障害」

 BARKH(Brain / Arteries / Retina / Kidney / Heart)でTODを系統的に探す

 

■ 緊急症(TODあり):ICU、静注薬、継続モニタリング(COR 1)

 シナリオ別に目標値と薬剤が変わる(脳出血 / 虚血性脳卒中 / 肺水腫 / 大動脈解離 / 子癇前症 / 褐色細胞腫クリーゼ)

 「最初の1時間で25%」は一般則。例外を覚えるのが本丸

 

■ 無症候性/重症高血圧(TODなし):急速降圧(静注・速効性経口薬)は避ける(COR 3:Harm)

 誘因(痛み、不安、ノンアドヒアランス、薬物)を探す

 ルーチンのスクリーニング検査は要求されない

 

■ ただし、ERは"未診断のステージ2高血圧"を拾い上げる場でもある

 ER受診者のほぼ半数で血圧上昇、うち約70%が未診断

 持続的に ≧ 160/100 mmHg なら白衣高血圧では説明できない

 ACEPは2013年「介入しない」→ 2025年「治療開始を検討」へ方針転換

 閾値:≧180/120 mmHg、または持続的 SBP ≧ 160 mmHg で経口治療開始を検討

 薬剤:フォロー要否で選ぶ(フォロー組める → サイアザイド/ACE/ARB / 組めない → アムロジピン or 長時間作用型ニフェジピン)

 β遮断薬、ループ、ヒドララジン、クロニジン、α遮断薬はER処方の第一選択ではない

 非薬物療法(減塩、運動、DASH食ほか)の指導も忘れずに

 

■ 合併症のない悪性高血圧:静注ではなく経口で、数日〜数週間で緩徐に

 短時間作用型ニフェジピンは使用しない

 

■ 「Hypertensive urgency」は2025年AHA/ACCで正式に削除。代わりに「重症高血圧(Severe hypertension)」

 

「血圧が高い ≠ 降圧薬を入れる」

 

そして、

 

「でも、ちゃんと拾い上げてフォローにつなぐ」

 

この両方をできるかどうかが、ER診療の質の差につながると考えられます。

 

降圧目標値や静注薬の使用についてはRCTのデータが乏しく、観察研究や専門家のコンセンサスに基づく部分が多いこと、また救急外来環境に焦点を当てた研究自体がまだ少ないことも押さえておきましょう。

 

これからまた時を経て推奨は変わるかもしれません。

 

最終的な臨床判断は症例ごとに異なります。

迷う症例については、循環器内科や脳卒中チーム、産科などの関連する専門医に相談しながら進めるのが安全です。

 

参考資料

・2025 AHA/ACC/AANP/AAPA... Guideline for the Prevention, Detection of High Blood Pressure(Jones et al., 2025)

・AHA Scientific Statement: The Management of Elevated Blood Pressure in the Acute Care Setting(Bress et al., 2024)

・Safety net primary care for emergency physicians: Diagnosis and treatment of asymptomatic hypertension(Am J Emerg Med 107 (2026) 21–25)

・Evaluation and management of hypertensive emergency(BMJ State of the Art Review, 2024)

・BIHS Position Document(2023)

・ACEP Clinical Policy on Outpatient Management of Adults with Asymptomatic Elevated Blood Pressure(2025)

・Critical Issues in the Evaluation and Management of Adult Patients in the Emergency Department With Asymptomatic Elevated Blood Pressure(ACEP, 2013)

・Hypertensive Emergency - StatPearls(2023)

・Brody A, et al. 2015(ED降圧薬処方開始のパイロット研究、217例)

・Todd B, et al. 2024(ED降圧薬処方の30日アウトカム、NNT解析)

・Poon S, et al. 2020(ED血圧高値の1年後持続性)


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