精神科に通院している患者がERにやってくることは少なくありません。
そのなかでも、リチウムを内服している双極性障害の患者は、ちょっと特殊なケアを必要とすることがあります。
「ふらつき」「振戦」「意識障害」「腎機能障害」…。
一見、ありふれた主訴や徴候に見えますが、その背後にリチウム中毒が隠れていることがあります。
そして厄介なことに、
「血中濃度だけ見て透析をする/しない」を決めると、しばしばpitfallにハマります。
今回は、リチウム中毒の診断と治療のpitfallを整理してみました。

- リチウム中毒の3つの顔:急性/acute on chronic/慢性
- 重症度分類(Amdisen)
- 頻度と予後はどんなもん?
- なぜ中毒になる?リスク因子を押さえておこう
- 症状で疑う:急性と慢性で顔が違う
- 診断・評価のpitfall
- 治療の原則と、効かないやーつ
- 透析(ECTR)の適応:EXTRIPの推奨
- 論争その1:EXTRIPの基準は広すぎ?
- 論争その2:強制利尿はアリかナシか
- 一番怖いのはSILENT
- おまけpitfall:服薬推定量を鵜呑みにしない
- まとめ
- 参考資料
リチウム中毒の3つの顔:急性/acute on chronic/慢性
まず、リチウム中毒はひとくくりにできません。
以下の3パターンに分類されています。
✅ 急性 (Acute):リチウムを使用していない人が過量服薬したパターン
✅ 急性増悪(Acute on chronic):慢性的にリチウムを服用している患者が急性過量服薬したパターン
✅ 慢性 (Chronic):維持療法中の患者で、用量増加、腎機能低下、または薬物相互作用などによりリチウムが蓄積したパターン
この分類が大事なのは、血中濃度と症状の重さの関係がパターンによって違うからです。
特に慢性中毒では、血中濃度が思ったほど高くなくても、神経症状がガッツリ出ていることがあります。
「Li 2.0 mEq/Lだから軽症のはずなんだけど…」と判断すると痛い目に遭います。
重症度分類(Amdisen)
古典的な重症度分類として、Amdisenの分類があります。
📌 軽度:1.5–2.5 mEq/L
📌 中等度:2.5–3.5 mEq/L
📌 重度:>3.5 mEq/L
(Kidney Dial. 2026 Jan;6(1):5.)
ちなみに、治療域は0.6〜1.2 mEq/Lで、
1.5 mEq/L以上で毒性のリスクが有意になるとされています。
(BJPsych Advances. Published online 2026 Mar 23;First View:1-17. / Clin J Am Soc Nephrol. 2015 May 7;10(5):875-887.)
ただし、後述するように、この数値だけで重症度を判定するのには限界があります。
頻度と予後はどんなもん?
リチウム中毒ってそんなに多いの?という疑問が出るかと思います。
公開されているデータをいくつか並べておきます。
・米国のポイズンコントロールセンターの記録(2012年)
6815件の毒性曝露が記録され、うち17%が中等度以上の影響を受け、11人が死亡した(Clin J Am Soc Nephrol. 2015 May 7;10(5):875-887.)
・米国のNational Poison Data System(2013年)
6610件の記録があり、そのうち1173件(18%)が意図的な過量服薬だった(J Intensive Care Med. 2017 May;32(4):249-263.)
・スウェーデンの集団ベース研究(17年間)
リチウム治療患者における中毒発生率は年間1/100 (1%)(BJPsych Advances. 2023 Mar;29(2):82-91.)
死亡率は、
・すべてのリチウム中毒症例で 0.16%(Kidney Dial. 2026 Jan;6(1):5.)
・カナダの入院を要したリチウム中毒患者(5年間)で 0.8%(BJPsych Advances. 2023 Mar;29(2):82-91.)
と、全体としてはそう多くありません。
…が、ここからが本題です。
「死亡率が低い=軽症ばっかり」とは限らないのがリチウム中毒の怖いところで、その理由は後述するSILENTにあります。
なぜ中毒になる?リスク因子を押さえておこう
リチウムは代謝されず、全量が尿中に排泄され、約80%が近位尿細管などで再吸収されます(Clin J Am Soc Nephrol. 2015 May 7;10(5):875-887.)。
つまり、腎臓と水分のバランスが崩れると、容易に体内に溜まるということです。
以下がリスク因子と考えられています。
🚨 リチウムクリアランスの低下
🚨 細胞外液量・循環血液量の減少(嘔吐、下痢、水分摂取不足、発熱、熱傷など)
🚨 併用薬による相互作用(NSAIDs、ACE阻害薬、チアジド系利尿薬)
🚨 腎機能障害(慢性腎臓病、腎性尿崩症)
🚨 患者側の要因(50歳以上の高齢、甲状腺機能異常)
(BJPsych Advances. 2023 Mar;29(2):82-91.)
ERの実臨床的には、
「リチウムを飲んでる患者が、夏場に脱水で来た」
「リチウムを飲んでる患者が、NSAIDsを処方されてから具合悪い」
このパターンを見たら、血中濃度を測ってみる閾値を低くしておくと良さそうです。
なぜこれらの薬で上がるのか?
ここはメカニズムを知っておくと、リスク因子を覚えやすくなります。
基本となるのは、リチウムは腎臓でナトリウムと同様に処理されるということ。
つまり、細胞外液量減少(嘔吐や下痢など)など、腎臓にナトリウムを保持させる(近位尿細管での再吸収を増加させる)状態は、リチウムの再吸収と保持も同時に引き起こします(Clin Pharmacokinet. 2016 Aug;55(8):925-941. / BJPsych Advances. 2023 Mar;29(2):82-91.)。
ここを軸にすると、相互作用のメカニズムも整理できます。
✅ チアジド系利尿薬
薬剤が引き起こすナトリウム利尿に反応して、代償的にナトリウム(およびリチウム)の尿細管再吸収を増加させるため、リチウムの腎クリアランスを低下させる(BJPsych Advances. 2023 Mar;29(2):82-91. / J Intensive Care Med. 2017 May;32(4):249-263.)
✅ NSAIDs
プロスタグランジン産生の阻害により腎血流が減少し、ナトリウム渇望(sodium avidity)を促進し、糸球体濾過量(GFR)を低下させるためと考えられている(BJPsych Advances. 2023 Mar;29(2):82-91. / J Intensive Care Med. 2017 May;32(4):249-263.)
✅ ACE阻害薬
糸球体濾過量(GFR)を低下させることでリチウムのクリアランスを減少させる(J Intensive Care Med. 2017 May;32(4):249-263.)
要するに、「Naを保持する/GFRを下げる」方向に働くものは、Liの濃度を上げると覚えておくのが効率的です。
症状で疑う:急性と慢性で顔が違う
急性と慢性で分けて整理しておきます。
急性中毒の症状
・顕著な消化器症状(悪心、嘔吐、下痢、イレウスなど)が予想され、これによって慢性中毒と区別されることが多い
・胃腸の徴候以外は無症状のことが多い
・神経症状はすぐには現れず、数時間後に遅れて現れることがある
(Clin J Am Soc Nephrol. 2015 May 7;10(5):875-887. / J Intensive Care Med. 2017 May;32(4):249-263.)
ここでハマりやすいのが、「来院時に神経症状がないから帰せそう」という判断です。
急性中毒では、神経症状が時間差で出てくる可能性があるため、経過観察と連続的な血中濃度モニタリングが必要になります。
慢性中毒の症状
慢性中毒は急性と顔つきが違います。
・大量服薬を伴わないため、消化器症状は通常みられない
・神経症状が主体
軽度:眠気、悪心(※中枢性)、嘔吐、振戦、反射亢進、焦燥、筋力低下、運動失調(失調・構音障害など)
重度:昏迷、強剛、筋緊張亢進、低血圧、昏睡、けいれん(非けいれん性てんかん重積状態を含む)、ミオクローヌス、循環不全
(Clin J Am Soc Nephrol. 2015 May 7;10(5):875-887. / J Intensive Care Med. 2017 May;32(4):249-263.)
リチウム維持療法中の患者が「ふらつき」「振戦」「言葉が出にくい」「ぼんやりしている」で受診したら、消化器症状がなくても慢性中毒を疑うべきです。
「血中濃度が治療域だから違うかな」も、危ない判断になり得ます。
(もっとも、すぐには血中濃度検査の結果はわからないことが多いですが)
心血管症状(共通)
派手ではないが知っておきたいのが心電図変化です。
一般的に顕著な心影響はないものの、
⚠ 一過性のST低下
⚠ 徐脈、洞不全症候群
⚠ QTc延長
⚠ Brugadaフェノコピー
⚠ 偽梗塞パターン
などが生じ得るとされています(Clin J Am Soc Nephrol. 2015 May 7;10(5):875-887. / J Intensive Care Med. 2017 May;32(4):249-263.)。
稀に致死的不整脈が生じることもあり、リチウム中毒を疑った時点で心電図はマストです。
診断・評価のpitfall
ここがリチウム中毒の最大のpitfallかもしれません。
血清リチウム濃度だけを信じないでください。
急性期は治療中2-4時間ごとに血清リチウム濃度を測定し、低下し始めたら6-12時間ごとに測定することを提案する専門家もいます。
(BJPsych Advances. 2023 Mar;29(2):82-91.)
実際の臨床ではできていないのですが、なぜ連続測定が推奨されるのでしょうか?
それは、
「血清リチウム濃度と細胞内(脳内)濃度にはタイムラグがあるため、血清濃度だけでは毒性の重症度を正確に測ることはできない。単一の測定ではなく連続的な測定が必要」
だからです。
(Kidney Dial. 2026 Jan;6(1):5. / BJPsych Advances. 2023 Mar;29(2):82-91.)
これがどういうことかというと、
「血清濃度は下がってきているのに、患者は神経症状が悪化している」
「血清濃度はそんなに高くないのに、意識障害がある」
そんな現象が起こりうるということです。
特に慢性中毒では、すでにリチウムが細胞内(脳内)に貯まっています。
血清濃度というのは、あくまで「血管内にいる」分のスナップショットにすぎません。
ノモグラムも使える
慢性中毒患者については、36時間後の血中濃度が1 mmol/Lを超えるかを予測するため、eGFRと初期血中濃度を用いたノモグラムが利用できると報告されています(Br J Clin Pharmacol. 2020 May;86(5):999-1006.)。
「透析するかどうか」の意思決定をサポートするツールとして、知っておいてもいいかもしれません。
後述するEXTRIPの透析基準には、
最適な治療をしても、血中Li濃度が 1.0 mEq/L未満になるまで36時間以上かかると予想される場合、体外除去をsuggestする
なんて記載があります。
ただ、この「36時間後に1.0未満まで下がるか」を現場で予測するのは面倒です。
血中Liの半減期を計算したり、連続採血で傾きを見たりする必要があります。
そこでBuckleyらは、もっと簡単に、来院時のeGFRと初回血中Li濃度だけで、36時間後にもLi >1.0 mmol/Lで残りそうかを予測するノモグラムを作りました。

(Br J Clin Pharmacol. 2020 May;86(5):999-1006.)
初回Li濃度とeGFRをノモグラムに当ててみて、
・線より上 → 36時間後もLi >1.0 mmol/Lと予測される
・線より下 → 36時間以内にLi <1.0 mmol/Lまで下がる可能性が高い
というように判断します。
実践的には、
・ノモグラム上で「36時間後もLi >1.0 mmol/Lが予測される」側に入っていて、意識障害、confusion、失調、ミオクローヌス、痙攣、強剛、腎機能障害などがある。
→輸液で待つだけでは長引きそうなので、透析を早めに相談する根拠になる
・ノモグラムで36時間以内に1.0未満へ下がりそうで、神経症状も軽い/改善傾向
→透析を急がず、Li中止、補液、腎機能・電解質補正で様子を見るという判断の後押しとなります。
治療の原則と、効かないやーつ
まずはリチウム中止+生食輸液
すべての患者に対してリチウムの投与を直ちに中止し、生理食塩水による静脈内輸液を開始することが一般的な初期診療です。
(Kidney Dial. 2026 Jan;6(1):5.)
特殊な薬や処置の前に、まずは輸液です。
輸液はどれくらい、何で入れる?
初期輸液蘇生
患者は経口摂取不良や嘔吐などにより深刻な体液量減少状態にある可能性があり、初期には大量の輸液蘇生(例:4〜6リットルの晶質液)が必要になることがあります。
固定量(例:2リットル)を与えて十分であると仮定してはいけません。
理想的には、ショックでやっているときと同じように血行動態モニタリング(ベッドサイドエコーなど)によってガイドされるべきです。
「リチウム中毒っぽい?じゃあ適当に維持輸液入れときます」で終わらせないようにしなければなりません。
体液量が大きく欠乏していることもありますので、その場合には大量輸液が必要になることもあります。
維持輸液
初期輸液補充後は、
適切な尿量を促し、およそ均等な水分(In/Out)バランスを達成することを目標に、十分な速度での晶質液の持続点滴(例:200〜250 ml/hrの乳酸リンゲル液)を継続することが一般的に有益とされています。
輸液製剤の選択
生理食塩水(0.9% NaCl)は、追加のナトリウム負荷を提供することでリチウムの尿細管再吸収を減らす理論的利点があると考えられています。
(J Intensive Care Med. 2017 May;32(4):249-263.)
おそらく乳酸リンゲルなどの調整晶質液でも問題はないでしょう。
活性炭は効かない
これは知っておきたいpitfallです。
活性炭はリチウムを吸着しないため無効です(Clin J Am Soc Nephrol. 2015 May 7;10(5):875-887.)。
「中毒っぽいから、とりあえず活性炭」を反射的にやらないように。
徐放性製剤の大量服薬には全腸洗浄
徐放性製剤の大量服薬時には、摂取後12時間以内であればポリエチレングリコールを用いた全腸洗浄(Whole-bowel irrigation)が考慮されます(BJPsych Advances. 2023 Mar;29(2):82-91.)。
これも、現場でやるかどうかは患者の状態とリソース次第ですが、選択肢として頭の片隅に入れておいたほうがよいです。
透析(ECTR)の適応:EXTRIPの推奨
リチウム中毒の治療といえばコレ!というのが体外治療(ECTR:主に血液透析)です。
EXTRIPワークグループの2015年の推奨を以下にまとめておきます(Clin J Am Soc Nephrol. 2015 May 7;10(5):875-887.)。
| 状況 | 推奨 | 推奨度 |
| 重度のリチウム中毒患者 | 推奨 | 1D |
| 腎機能障害があり、[Li+] > 4.0 mEq/L | 推奨 | 1D |
| [Li+]に関わらず、意識レベル低下、けいれん、致死的不整脈がある場合 | 推奨 | 1D |
| [Li+] > 5.0 mEq/L | 提案 | 2D |
| 錯乱がある場合 | 提案 | 2D |
| 最適な管理を行っても[Li+]が1.0 mEq/L未満になるまでに36時間以上かかると予想される場合 | 提案 | 2D |
モダリティとしては、
間欠的血液透析(IHD)を第一選択とする(推奨度1D)。
持続的腎代替療法(CRRT)も代替として許容される(推奨度1D)。
ここで気を付けたいのは、推奨度がすべて「D(非常に低い)」にとどまっているという点です。
リチウム中毒に対する透析を支持するランダム化比較試験(RCT)が存在せず、ほぼすべてが症例報告や症例集積に基づくからです(Clin J Am Soc Nephrol. 2015 May 7;10(5):875-887.)。
「ガイドラインで推奨されているから絶対やる」ではなく、「現時点でのbest available evidence」として受け止めておきましょう。
論争その1:EXTRIPの基準は広すぎ?
ここはぜひ知っておいてほしい論点です。
EXTRIPの推奨を「広すぎる」と批判する立場があります。
Buckleyら(Br J Clin Pharmacol. 2020 May;86(5):999-1006.)では、
「EXTRIPの基準は広すぎ(too broad)であり、無駄な透析を増やしている。基準を修正することで、後遺症のリスクが最も高い患者に透析を絞り込むことができる。急性増悪のほとんどは透析を必要としない」
と主張されています。
一方、EXTRIPワークグループ(Clin J Am Soc Nephrol. 2015 May 7;10(5):875-887.)は、上に示したような血中濃度ベースの基準で透析を推奨・提案しています。
つまり、
👉 EXTRIP側:[Li+] > 5.0 mEq/L、または腎機能障害があり [Li+] > 4.0 mEq/L の場合など、特定の血中濃度を基準に透析を推奨・提案
👉 批判側(Buckleyら):その基準は広すぎる、特に急性増悪のほとんどは透析を必要としない
どちらが正解、というよりも、ガイドラインがあれば思考停止していいわけではない、ということだと理解しています。
患者の症状、慢性/急性の別、腎機能、見込まれる血中濃度の推移をトータルで見て、透析の閾値を判断したいところです。
論争その2:強制利尿はアリかナシか
もう1つ、見解が分かれている論点があります。
ループ利尿薬などを用いた強制利尿の有効性と安全性です。
否定派
BJPsych Advances. 2023 Mar;29(2):82-91. および J Intensive Care Med. 2017 May;32(4):249-263. の立場では、
「強制利尿は、体液や電解質のバランスを悪化させるリスクがあり、有効性を示すエビデンスもないため禁忌(または推奨されない)」
とされています。
条件付き肯定派
一方、EMCrit Project(2024)では、
「循環血液量減少(volume depletion)を避けるためのICUレベルの厳密なモニタリング下であれば、アミロライドとループ利尿薬を用いた強制利尿は透析を回避する選択肢になり得る」
とされています。
ERの現場での実装可能性を考えると、ICUレベルのモニタリングが担保できないなら、わざわざ手を出す積極的な根拠は乏しいかなと思っています。
ただし、「透析が間に合わない/できない」「透析を回避する強い理由がある」など、特殊な状況では選択肢として知っておいて損はないですね。
一番怖いのはSILENT
リチウム中毒の予後について、Clin J Am Soc Nephrol. 2015 May 7;10(5):875-887. にはこんな記載があります。
急性中毒では後遺症のリスクは低いが、慢性中毒では小脳機能障害(失調、眼振、歩行障害など)や認知機能障害を特徴とする「不可逆性リチウム誘発性神経毒性症候群(SILENT)」が永続するリスクがある
SILENTは Syndrome of Irreversible Lithium-Effectuated Neurotoxicity の略です。
名前のとおり、不可逆です。
Kidney Dial. 2026 Jan;6(1):5. に紹介されているSILENT症候群117症例のデータでは、
・小脳機能障害:77%
・認知機能障害:20%
・パーキンソニズム:16%
を占めたとされています。
どんな患者がハイリスクか
SILENTを発症しやすい患者像も整理されつつあります。
🚨 急性中毒よりも慢性中毒でより一般的(EMCrit Project, 2024)
🚨 主要なリスクファクターとして、発熱性の感染症、脱水、腎障害、および抗精神病薬の併用が頻繁に報告されている。特に発熱性の感染症は発症と進行に重要な役割を果たす可能性がある(Kidney Dial. 2026 Jan;6(1):5.)
病態生理としては、
「継続的なリチウム曝露に対する脳の慢性的適応(適応変化)や、リチウム中毒中に経験する浸透圧の変動が寄与する可能性がある」
と推測されています(EMCrit Project, 2024)。
透析すれば防げる、、、わけではない
ここがまた頭が痛いところです。
「早く透析してリチウムを抜けばSILENTは防げそう」
直感的にはそう思いたくなるのですが、現状の知見はそうではありません。
⚠ 早期の血液透析がSILENTを予防するという明確な証拠はない
⚠ MRIで小脳の萎縮やグリオーシスが確認される不可逆性の小脳障害は、迅速なリチウム除去を行ったにもかかわらず報告されている
(Kidney Dial. 2026 Jan;6(1):5. / EMCrit Project, 2024)
それどころか、
「リチウムレベルの急速な低下(透析による浸透圧シフトやリチウムの急激な離脱)が、SILENT症候群のリスクを増加させる可能性がある」
との指摘もあります(EMCrit Project, 2024)。
ここでも先のSwartzらのフレーズが効いてきます。
高リチウム血症は毒性を持つが、その急速な補正はもっと毒性を持ちうる
(“While hyperlithemia can be toxic, its rapid correction can be more toxic.”)
「とにかく早く透析」が常に正解とは限らない、という奥行きがある領域です。
死亡率が低いから油断していいよね、ではなくて、
「死なないかもしれないけれど、神経学的に取り返しがつかない後遺症を残す可能性がある」
これがリチウム中毒の本当の怖さかなと思っています。
Kidney Dial. 2026 Jan;6(1):5. の著者らはこう述べています。
細胞外のリチウム濃度は細胞内の活性分画を代表していないかもしれないことを考えると、意思決定プロセスには毒性の臨床レベルを含めることが非常に重要だと我々は考えている
(“Given that the extracellular lithium level may not be representative of the intracellular active fraction, we believe it is very important to include the clinical level of toxicity in the decision-making process.”)
血中濃度だけを見て、慌てて補正を急ぐと、それはそれで害になりうる、ということです。
おまけpitfall:服薬推定量を鵜呑みにしない
地味ながら、現場で大事なpitfallを置いておきます。
Clin J Am Soc Nephrol. 2015 May 7;10(5):875-887. には、
「患者から報告される服薬推定量は不正確なことが多く、臨床的な意思決定の唯一の根拠としてはならない」
と記載があります。
「○錠飲んだ」という申告で安心しないこと。
血中濃度の経時推移と臨床症状で判断しましょう。
まとめ
リチウム中毒の現場ポイントをざっくりまとめます。
✅ リチウム中毒は 急性 / acute on chronic / 慢性 の3パターン。血中濃度と症状の対応関係はパターンによって違う
✅ 急性中毒は消化器症状中心、神経症状は遅れて出る。慢性中毒は消化器症状を伴わず神経症状主体
✅ 心電図変化(一過性のST低下、QTc延長、Brugadaフェノコピーなど)も起こりうるので、心電図は必ず
✅ 危険因子のメカニズムは「Naを保持する/GFRを下げる」方向に働くもの → Liが上がる
✅ 血清リチウム濃度と細胞内(脳内)濃度にはタイムラグがある。単発測定ではなく連続測定を
✅ 治療の基本はリチウム中止+輸液。活性炭は効かない
✅ 輸液は固定量(例:2L)で十分と仮定しない。体液量欠乏が強ければ4〜6Lレベルが必要なことも。維持は晶質液の持続点滴で、In/Outバランスを目標に
✅ 透析適応は EXTRIP の推奨(推奨度はすべて1Dまたは2D)を参考にしつつ、「広すぎる」という批判もあることを知っておく
✅ 強制利尿は否定派と条件付き肯定派あり。ICUレベルのモニタリングなしでは積極的にやる根拠は乏しい
✅ 一番怖いのは SILENT。慢性中毒、発熱性感染症、脱水、腎障害、抗精神病薬併用がリスク。早期透析が予防できるという明確な証拠はなく、むしろ急速な補正がリスクを上げうるとの指摘もある
✅ 患者の服薬量申告は不正確なことが多い。臨床判断は症状+血中濃度推移で
血中濃度の数字だけ眺めて「透析しよう/しなくていい」を決めない。
これが、リチウム中毒の対応で一番大事なpitfall avoidanceかもしれません。
なお、リチウム中毒の管理は症例ごとに個別性が高く、特に透析の適応判断や輸液量設定は腎臓内科・集中治療医など専門医と相談して進めるのが安全です。
参考資料
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